NIKKEI THE PITCH

越境と共創の仕掛け人たち集結 北海道から世界へ、挑戦の輪広がる

NIKKEI THE PITCHは9月25日、札幌市内のイノベーションフェスティバル「NoMaps2026」でサイドイベントを開催した。三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の井谷充秀氏ら「越境と共創の仕掛け人」が登壇。スタートアップと大企業が共創する新たな産業創出のあり方を議論した。

SMBC 「2200社との接点」で新産業創出

「大企業の課題を解決する鍵は、スタートアップのイノベーション力にある。SMBCグループは現在、2200社以上のスタートアップと付き合いがある。スタートアップと大企業をつなげることが日本の産業競争力の強化になるはずだ」こう強調するのは、SMBCグループのデジタル・イノベーション本部に所属する井谷充秀氏だ。大企業・中堅企業とスタートアップのマッチングを通じて新産業の創出を手掛ける「イノベーション・カタリスト」の1人である。

SMBCグループの井谷充秀氏(左)
SMBCグループの井谷充秀氏(左)

井谷氏は慶應義塾大学時代、体育会ソッカー部で活躍した。北海道コンサドーレ札幌の経営改革で手腕を発揮したJリーグチェアマンの野々村芳和氏はチームメイトだった。現在は、個人・法人の営業や経営企画部での経験を生かして、イノベーション・カタリストとしてスタートアップと大企業をつなぐ役目を担う。「まずは、スタートアップのビジョンをしっかり聞く。そしてどうやったらそれを実現できるのか、強みを発揮できるのかを考えて、大企業とつないでいく。双方としっかり話すことがイノベーション・カタリストの役割だし、それにより共創を確実に実現できる」

子育てから街づくりまで 北海道発イノベーション

トークセッションでは札幌市の2人の若手起業家も登壇した。「ママさん起業家」として注目されるMamaLady(ママレディ)の明石奈々代表取締役と、パーソナルジムのFORH BODY PERFORMANCE本部の森田敦代表取締役だ。

ママレディは、全国250以上の自治体と連携し、出産準備・育児支援情報誌「プレママガイド」を提供している。出産時の美容の悩みから自治体の子育て支援策まで、母親に寄り添う情報を分かりやすく発信しており、コミュニティの輪を広げてきた。2018年の創業当初は、自治体や大企業、投資家からもなかなか理解されず、苦労の連続だったが、粘り強い営業活動で、採用自治体を増やしてきた。

明石氏は、「私は就職せずに結婚して母親となった。社会人経験がなく、最初に働いたのは私が起業した会社で、本当に苦労も多かった。井谷さんのようにスタートアップの思いを大企業につないでくれる方がいれば、私が目指す『ママになってからの人生を思いっきり楽しもう』という世界を早く実現していけるかもしれない」と期待を語った。

札幌市の若手起業家としてママレディの明石氏(中央左)とFORH BODY PERFORMANCE本部の森田氏(中央右)が登壇した
札幌市の若手起業家としてママレディの明石氏(中央左)とFORH BODY PERFORMANCE本部の森田氏(中央右)が登壇した

森田氏も新進気鋭の経営者だ。大手フィットネスジムの全国展開を成功に導き、パーソナルトレーナーとして日本代表アスリートを数多く指導する一方、北海道では「星野リゾート トマム」などで知られる占冠(しむかっぷ)村の街づくりにも参画している。

占冠村では、自治体職員とともに外国人移住者を増やす取り組みを進めている。現在、約1300人の人口を2500人に増やし、そのうちの1500人を外国人にすることが目標だ。森田氏は、国籍の壁を越え、多様な住民が参画する街づくりを通じた共創を目指している。SMBCグループの井谷氏は、街づくりも専門分野の1つであり、森田氏の「外国人の知恵を生かす」取り組みに高い評価を寄せた。

アトツギ×スタートアップ、偶然を必然に

井谷氏と同じく「越境と共創の仕掛け人」として登壇したのが、岐阜県羽島市に本社を構える三星グループ(三星毛糸)の岩田真吾社長だ。岩田氏は1887年創業の老舗繊維会社の5代目だ。大学卒業後、三菱商事やボストン・コンサルティング・グループを経て2010年に社長に就任した。岩田氏は、アトツギ×スタートアップ共創基地「TAKIBI & Co. (タキビコ)」を運営する。タキビコの加盟企業は29社に達し、アトツギ経営者とスタートアップの起業家の交流の場として共創の輪を広げている。

三星グループの岩田氏(左)は、アトツギとスタートアップの起業家が交流するタキビコプロジェクトを進めている
三星グループの岩田氏(左)は、アトツギとスタートアップの起業家が交流するタキビコプロジェクトを進めている

岩田氏は「日本にはアトツギのいる会社が約300万社ある。このうちの1%でもスタートアップの起業家との交流で感化されれば、3万社のアトツギベンチャーが増えるかもしれない。政府が掲げるスタートアップ10万社を実現するためにも交流は重要」としたうえで、「タキビコによる交流の機会で偶然の出会いを生んでいきたい」と話した。

偶然の重要性に関しては、井谷氏も共感を寄せた。「岩田さんが言うように、『たまたま』や『運』で成功することもあるはず。私はイノベーション・カタリストとして、その『たまたま』をより必然に起こしたい。大きなテーマを掲げて広く発信し、関心を持ってくれる人たちをつなぐ。スタートアップや、アトツギ経営者たちのビジョン・強みをしっかり言語化して大企業に伝える。NoMapsでも非常に価値のある話を聞けたし、グローバルを意識し、共創の輪を広げていきたい」と強調した。

北海道のシードスタートアップが集結

9月24日には、北海道シード(創業初期)スタートアップ5社によるピッチコンテスト「NoMaps STARTUP Pitch 2026」が開かれた。最優秀賞に輝いたのは、レアアースの次世代回収技術の事業化に取り組むふよテックの櫻井惠介代表取締役だった。櫻井氏は宇宙関連のスタートアップで勤務し、今年7月にふよテックを創業したばかりだ。深海の泥に眠るレアアースを独自の電気化学的手法と特殊粒子技術により、掘削を伴わず低環境負荷で回収する技術の事業化に取り組んでいる。

最優秀賞を獲得したふよテックの櫻井氏(中央前列右)
最優秀賞を獲得したふよテックの櫻井氏(中央前列右)

タイミー小川氏 「学生時代にこそ挑戦を」

NoMaps会期中は、北海道という地域の枠を超え、世界を舞台に活躍する起業家を増やすための議論が多数展開された。立ち見が数多く出たのが、タイミーの小川嶺代表取締役が登壇した「学生起業、はじめた理由。その先の話」のセッションだ。

小川氏は立教大学の学生時代にスキマバイトサービス「タイミー」を創業し、2024年に27歳の若さで東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。現在はBリーグ・レバンガ北海道のオーナーも務め、札幌市と連携した新アリーナを核とするまちづくりにも取り組んでいる。

タイミーの小川氏(左)は「学生時代だからこそ起業に挑戦してほしい」と強調した
タイミーの小川氏(左)は「学生時代だからこそ起業に挑戦してほしい」と強調した

このセッションの登壇者4人には、ある共通点がある。世界最大級の学生起業家ピッチ「GSEA(Global Student Entrepreneur Awards)」での経験だ。

小川氏は2018年にGSEAの日本大会で優勝し、世界大会に出場した。「GSEAは審査員のレベルが高かったし、売上高1兆円くらいの世界的に有名な経営者に会えるのは普通できない経験だ。この大会で得ることができた仲間や、視座の高さが今でも生きている。学生の皆さんにはぜひ挑戦してほしい。私もメンターとして関わっていく」と学生起業家にメッセージを送った。

小川氏が繰り返し強調したのは、学生起業家として挑戦することの大切さだ。「起業にはリスクも伴うが、学生であれば保険もかけられる。私自身、リクルートとの内定を持ちながらタイミーを立ち上げた。3億円の資金を調達できたことから、この会社の経営に専念することにした」とし、「挑戦する機会を通じてチャンスをつかんでいく。そういう環境に身を置いてほしい」と話した。小川氏は今後、北海道大学で起業家教育の講義を担当する予定だ。「北海道から世界を代表する起業家を育てたい」と抱負を語った。

人口減の街で実証実験 スポーツが結ぶ地域と企業

NoMapsでは地方創生も大きなテーマとなった。メルカリの小泉文明会長らが登壇したセッションでは、スポーツクラブによる地域活性化が議論の中心となった。

メルカリ会長で、鹿島アントラーズ社長の小泉氏(右)はスポーツクラブを中核にした地方創生が重要だと指摘した
メルカリ会長で、鹿島アントラーズ社長の小泉氏(右)はスポーツクラブを中核にした地方創生が重要だと指摘した

小泉氏は、2019年に鹿島アントラーズの社長に就任した。鹿島アントラーズはJリーグの名門チームとして最多のタイトルを獲得している。試合の来場者数は年々増加し、クラブ経営も好調だ。現在は茨城県とともに鹿嶋市に2033年夏にスタジアムを新設する計画を進めている。

小泉氏は、「JVCケンウッドやオムロンなどの企業に協賛してもらい、防災や医療など地域の課題を解決するプロジェクトをいくつも進めている」と話した。ホームタウンの茨城県鹿嶋市は、人口減少という地方共通の課題を抱えており、様々な実証実験の場となっている。スポーツクラブが主導し、課題解決を求める企業と自治体をつなぐ役割を担うことで、クラブの収入増にもつなげている。

起業家らしい小泉氏の取り組みがもう一つある。小泉氏は個人で街づくり会社を立ち上げ、オフィススペースを整備。挑戦する若手起業家を鹿嶋に呼び寄せている。巨大な新スタジアムの完成を見据え、地元から魅力的な商品やサービスを来場者に届ける狙いだ。「街の魅力で重要なのはハードではなくソフトだ。すごく面白い人をたくさん増やして、街に何度も行ってみたくなるようにする」と語った。