スタートアップが描く未来
大阪・関西万博で世界に発信
グローバルスタートアップエキスポ
2025リポート(上)
10月13日に閉幕した大阪・関西万博において、日本経済の復活へのレガシー(遺産)になると期待されるのが、 9月17日、18日に会場内で開催された大型イベント「グローバルスタートアップエキスポ2025(GSE2025)」だ。 世界でもディープテック分野のスタートアップイベントとしては最大規模となった。 海外の有力ベンチャーキャピタル(VC)の経営トップらが数多く参加し、日本での今後の投資拡大策などを相次ぎ発表した。 米国や中国に対して出遅れてきた日本のスタートアップが世界で強い存在感を発信するための舞台になった。 GSE2025の現場から報告する。
「万博でスタートアップのイベントを開いても人が集まるのか」
GSE2025は万博会場西ゲートに近い見本市会場「WASSE(ワッセ)」で2日間開かれた。猛暑の中でも、各国のパビリオンは長蛇の列ができていた。ワッセも初日だけで3000人を超える来場者があり、国内外で150社近い各社のブースには人だかりが絶えなかった。GSE2025を主催した経済産業省の菊川人吾イノベーション・環境局長は「当初、『万博でスタートアップのイベントを開催しても人が集まるのか』との声もあっただけに本当に良かった」とし、「何よりも日本で開かれた万博で日本政府として今後もスタートアップ強化に強くコミットすることを示せたのはできた」と語った。
スタートアップの見方が一変 「優秀な人材にとってキャリアの選択肢に」
GSE2025では初日の17日、最初のセッションで基調講演したのが2022年11月に「スタートアップ育成5カ年計画スタートアップ5カ年計画」を策定した岸田文雄元首相だった。大盛況の会場内を見渡し、「私が(21年9月の)総裁選に出たときにテレビ番組で、スタートアップ育成策の重要性を語ってもキャスターの方はピンと来ていなかった。今では(スタートアップへの見方が)大きく様変わりした」と笑顔で語った。
岸田氏の5カ年計画ではスタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模に引き上げ、スタートアップを10万社創出してユニコーン企業(未上場で時価総額1000億円)を100社生み出すことを目標に掲げた。岸田氏は「計画策定から3年となり、成果も着実に出ている」と強調した。実際にスタートアップ数は約2万5000社に5割程度増え、ディープテックを軸に大学発スタートアップも5000社を超えた。「優秀な人材が年齢を問わずにスタートアップに集まり始めている」(岸田氏)。スタートアップや起業が新たなキャリアの選択肢として日本で定着しつつあることが重要だとの指摘だ。
もちろん、日本でユニコーンはまだ8社程度と少なく100社創出の目標には程遠い。岸田氏も「まだ道半ば」としながらも、今後も政府としてスタートアップの支援策を継続的に強化する方針を強く打ち出した。
現職首相もサプライズで登壇 「地方に賑わいをもたらす存在」
17日夕方には石破茂首相(当時)もサプライズで登壇した。岸田氏から引き継いだスタートアップの育成策に注力し、自らの成長戦略の柱である地方創生にとっても重要な取り組みとしてきた。石破氏はスタートアップの多くが東京以外で事業を始めて成長していることに触れ、「東京の一極集中ではなく、地方に賑わいや幸せをもたらしてくれる存在としてスタートアップの皆さんに期待している」と語った。海外の有力VCらのトップらに対して、日本との関係強化を促す強いメッセージを出した。
優秀な若い大学生に新しい文化 日本のモノづくりの強さで投資拡大
GSE2025では、世界の有力VCで日本への投資拡大を表明する動きが相次いだ。例えば、個人投資家向けVC世界大手のアルムナイ・ベンチャーズのマイケル・コリンズ最高経営責任者(CEO)は17日、日米スタートアップへの総額1億ドル(約150億円)規模の新しいブリッジファンドの開設を発表した。アルムナイというのは「卒業生」という意味であり、同社は米国の有力大学の卒業生ネットワークを生かして資金を調達し、スタートアップの発掘や育成で大きな成果を出している。
コリンズCEOが日本での投資拡大を決めた最大の理由は「日本の大学では次世代を変革する新しい企業が確実に出てくる」と指摘した。「グーグルはスタンフォードの同級生により設立され、フェイスブック(現メタ)はハーバード大学の学生寮の一室で生まれた」とし、「現在の日本の若者たちの中には(起業に強い関心を持つ)新しい文化が生まれている」と強調した。年内にも東京で事務所を開設し、ボストンに近い本社から日本に常駐する幹部を送り込む方針だ。
コリンズCEOは、経産省の菊川局長との座談会で日本のモノづくりの優位性もスタートアップ投資拡大の理由として挙げた。菊川局長は「AIや量子コンピューターなどディープテックの先端分野で最終的に製品化するには日本の産業の層の厚さが強みになる」との指摘に同意した。
「日本のスタートアップはまだまだ資金が足りない」
フランスのプライベート・エクイティ(PE=未公開株)ファンド、ジョルトキャピタルのジャン・シュミット最高経営責任者(CEO)も25年から運用を開始する予定の10億ユーロ(約1700億円)で日本企業への投資を本格的に始める。同社は欧州でディープテック分野を強みとする有力ファンドであり、東京で新たな拠点を開設し、日本での投資拡大を進めていく。
シュミットCEOが強調するのは「日本には優れた技術がありながら、スタートアップに供給される資金がまだまだ不足している」ということだった。「半導体では欧州では8割のスタートアップが資金提供を受けているが、日本では資金提供を受けていない企業の数は受けている企業の2.6倍もある」という。ロボティクスやAIも含めて日本には多くの特許があり、日本のスタートアップへの投資には大きなチャンスがあるとしている。
世界最大規模のVCも日本に注目 成長段階で豊富な資金を提供
世界最大級のVCである米ニュー・エンタープライズ・アソシエイツ(NEA)も日本での投資拡大について言及した。同社は創設から50年近い米シリコンバレーを代表する老舗VCであり、運用総額は3兆円規模の巨大ファンドだ。しかも、シェーン氏が指摘したのは驚くほどの投資成功率の高さだ。これまで投資した1000社のうち、株式上場とM&A%で7割以上のイグジットに成功している。スタートアップの企業風土を重視した長期的な視野に立った巧みな投資で驚異的な成功率を実現している。
NEAのパートナーであるアンドリュー・シェーン氏は日本経済新聞などの取材に応じ、日本関連の投資について「4社目の投資が近く完了する予定だ」とした。これまでは、国内最速でユニコーンとなったサカナAIのほか、テイラーテクノロジーズとトークンズに出資している。
シェーン氏は日本での投資拡大の理由について「日本では10年前にトップの大学卒業生がスタートアップに就職するのはあまり考えられなかった。トップ人材がスタートアップに積極的に入っていく傾向を(投資の)先行指標としている」と説明した。
NEAは巨大ファンドであり、日本のスタートアップ市場で「足りないピース」を埋められる存在といえそうだ。シェーン氏によれば、日本ではアーリーステージでは資金調達しやすいが、多額の資金が必要になる成長の後期段階の投資に特化したVCがそれほど多くないとしている。シェーン氏は「日本では早期の上場の道を選びがちになるが、NEAの資金力を生かして有望なスタートアップに大きく成長してもらいたい」とし、「巨大な成果を上げられると確信できる企業に投資したい」と強調した。
UCバークレーなど世界屈指のアクセラレーターと連携を強化
GSE2025で海外の有力VCによる投資拡大とともに注目されたのが、有力アクセラレーターとの連携だ。特に注目されたのは米カリフォルニア大学バークレー校のアクセラレーターであるバークレー・スカイデッキとの連携強化だ。17日夕方には経産省の大串経済産業副大臣、日本貿易振興機構(ジェトロ)の石黒憲彦理事長と、バークレー・スカイデックでエグゼクティブ・ディレクターであるキャロライン・ウィネット氏がディープテック領域において日米間の連携を強化しスタートアップの成長を促進させる共同声明に署名した。
ジェトロはこれまで2000社以上の日本のスタートアップの海外展開を支援してきた。JETROの石黒理事長は「日本から世界へ、世界から日本へと流れるイノベーション、人材、資本の潮流こそが真のグローバルなスタートアップエコシステムの創出につながる」と強調した。それを実現させるためにも、バークレー・スカイデッキなど数多くの有力アクセラレーターとの関係構築が重要になっていた。
UCバークレーのアクセラレーターであるバークレー・スカイデックのウィネット氏は日本のスタートアップの育成で重要な役割を担ってきた。
バークレー・スカイデックのウィネット氏は「スタートアップは小さな植物の芽のようなものであり、栄養たっぷりな土に埋めて育てる必要がある。UCバークレーには60万人以上の卒業生がいる。このネットワークを生かして、日本の起業家をさらに強く支援してきたい」と語った。
ウィネット氏によれば、バークレー・スカイデックは世界のスタートアップに門戸が開かれているが、支援先として選ばれるのは応募者の1%に過ぎないほど狭き関門だという。世界でも屈指のアクセラレーターと提携強化で合意したことは日本のスタートアップにとっても大きなチャンスになるといえそうだ。
米シリコンバレーの有力アクセラレーターであるアルケミスト・アクセラレーターのラビ・ベラニCEOもJETROのプログラムを通じて日本の起業家の支援により深く関わっていく方針を打ち出した。シードステージから起業を成功させるために豊富な知見と、ユニコーンを数多く育ててきた実績がある。
ベラニCEOも「シリコンバレーにあるコミュニティに所属して、多くを学べるようなプログラムを提供していく。日本の良さも生かしてグローバルで成長できるように支援したい」と強調した。
29年に東京で世界屈指のイノベーション拠点を開設
日本のスタートアップ強化策の目玉としては早ければ29年にも東京・渋谷を中心に「グローバルスタートアップキャンパス(GSC)」の開設が検討されている。岸田元首相も世界最高水準のイノベーション・ハブ拠点としており、「世界から優れた人材や投資を呼び込み、グローバルな社会課題の解決と経済成長の実現を目指す」と指摘した。
ジェトロはこれまで2000社以上の日本のスタートアップの海外展開を支援してきた。JETROの石黒理事長は「日本から世界へ、世界から日本へと流れるイノベーション、人材、資本の潮流こそが真のグローバルなスタートアップエコシステムの創出につながる」と強調した。それを実現させるためにも、バークレー・スカイデッキなど数多くの有力アクセラレーターとの関係構築が重要になっていた。
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