
日本経済新聞社は8月9日、福岡市で日本経済の未来を担うスタートアップを支援するプロジェクト「NIKKEI THE PITCH」のセミナー&交流会を開催しました。社会課題解決に挑む起業家たちが、ビジネスをスケールさせる秘訣について討論しました。サーキュラーエコノミーの実現や建設現場における人手不足解消のソリューションなど、九州地方における先進的な課題解決の取り組みについても詳しくお話しいただきました。
トークセッション第1部ソーシャルビジネスを広げる
- 登壇者
- COMPASS小倉(北九州テレワークセンター)事務局長 兼
スタートアップ支援責任者
寶結株式会社 取締役 スタートアップ支援事業本部福岡 広兵氏
- Tomoshi Bito株式会社 代表取締役副社長
第7回 日経ソーシャルビジネスコンテスト 大賞受賞者藤田 一輝氏
- 株式会社Emunitas 取締役
第4回日経ソーシャルビジネスコンテスト 学生部門賞受賞
第5回スタ★アトピッチJapan 九州・沖縄ブロック大会出場増渕 颯音氏
- モデレーター
- 日本経済新聞社
北村 信行氏
ぶれない軸で若者を巻き込む 未来を創る社会起業家の矜持
- 北村さまざまな社会問題の解決に取り組むソーシャルビジネスが増えています。皆さんはどのような課題に向き合っているのでしょうか。
- 藤田今では、若い世代の情報収集はSNSが中心になりました。量も年々増えていて情報過多な時代といえます。そんな中で目に留まりやすいのはエンタメ系のコンテンツです。政治などの社会的な情報は面白くないと思われてしまい、若い世代に届きにくいのが現状です。それでは社会的なアクションを起こす人も減ってしまう。私たちは社会的な話題に関心を持ちたくなるような情報発信をするメディアとして「RICEメディア」を運営しています。毎月600万人もの人がRICEメディアを見ていて、その半数がZ世代です。日本のZ世代は約1800万人と言われていることを考えると、多くのZ世代に社会課題の情報を届けられていると思います。

- 増渕外国籍人材向けの就労支援プラットフォーム「Secure Talent」を運営しています。日本には多くの外国人留学生がいる一方、週28時間の労働制約があるためにポテンシャルに見合わない仕事に就くしかできない人もいます。今後日本の労働人口がどんどん減っていく中で、企業はこうした外国人材を積極的に取り入れていかなければいけない。こうした背景から外国籍人材に適切な業務をマッチングするプラットフォームとして立ち上げました。
- 北村福岡さんは北九州を中心にスタートアップ支援のエキスパートとしてご活躍されています。九州エリアならではのスタートアップの特性などはあるのでしょうか。
- 福岡北九州市でスタートアップの創業を支援する「COMPASS小倉」を運営しています。北九州は官営八幡製鐵所が操業開始した歴史的背景もあり、モノづくりをしている人が多い。スタートアップにおいてもハードテック系の企業が多く生まれている印象です。スタートアップ支援の立場として、藤田さんも増渕さんも共同創業という形で会社設立している点が興味深い。私はこれまでに、共同創業したものの残念ながら分かれてしまうケースを少なからず見てきました。共同創業で息を合わせた事業作りの秘訣や今後の取り組みなどもぜひお聞きしたいです。

- 増渕私たちの場合、関係性としては監督とアシスタントコーチに近いかもしれません。代表の言うことには従う。彼の社会的熱意にはかなわないとわかっているんです。彼がやりたいことをどれだけ助けられるか、という考え方をしています。また、私たちはどちらも就職せずに起業しているので、2人で仕事に対する価値観を醸成している形です。だからこそ衝突も少ない。文化祭のように「みんなで創っていく感覚」が好きなんです。それが社会課題の解決に結果的に結びつく。今後も社会の中で「どうすれば面白くなるか」というポイントを見つけて、ある種の「お祭り騒ぎ」をすることが私たちのすべきことなのかもしれません。
- 藤田「手段にこだわりがない」というのは大きいのかなと思っています。RICEメディアは2年前に立ち上げた事業で、これまでに別の事業も立ち上げました。事業が増えても軸は「社会課題にいかに関心を持ってもらえるか」と一貫しています。個人的な事業へのこだわりというより、このビジョンを最速で達成するための議論が中心にあるというのは強みですね。これまでRICEメディアの運営を通じて社会課題との接点を創出してきました。それが実際の行動変容につながれば理想ですが、絶対というわけではありません。いかに継続的に関心を持ってもらえるかが重要です。そのためにもRICEメディアのコンテンツを増やすことに今後注力していきます。


トークセッション第2部イノベーションを具現化するために
- 登壇者
- 第一ピアサービス株式会社 代表取締役社長
佐藤 真琴氏
- オングリットホールディングス株式会社 代表取締役
森川 春菜氏
- 株式会社ナカダイホールディングス 代表取締役
サーキュラーパーク九州株式会社 代表取締役中台 澄之氏
- モデレーター
- 九州大学 ロバート・ファン・アントレプレナーシップ・センター センター長
髙田 仁氏
時代の変わり目に選ばれる企業へ 他と差をつける「打ち手の準備」
- 髙田本セッションのテーマは「イノベーションの具現化」です。まずはどのような事業を手掛けられているのか教えてください。
- 森川トンネルや橋などの構造物は5年に1度の点検が義務付けられている一方、技術者の再雇用が進まずに深刻化しています。目視や音による点検では技術者が経験に基づいて判断する必要があり、この技術を習得するのに約3年かかると言われています。技術者の高齢化や人手不足が深刻化している中、人の力だけで点検するには限界がきているのです。そこで我々は点検のための打音機「ガンダオン」を独自に開発しました。ガンダオンを使うことで壁を叩いた際の音の違いがわかりやすくなり、波形で可視化するため未経験者でも構造物の点検ができるようになるんです。

- 佐藤がん患者が孤独にならないようなソリューションを提供しています。がんになってしまう人は年間約100万人です。日本の人口を考えると、がんになる可能性を誰もが持っていますよね。がんの治療は外来化が進み、入院することは少なくなりました。看護師と患者の接点が減っている中で、看護患者の自立を支援するような事業を立ち上げています。その一つが、がん治療や脱毛で美容室に行きにくい人たち向けの専門美容室「ピア」です。また、がん患者の多くは「似た境遇の人との出会い」と「その人たちとの情報交換」を求めている。匿名で情報交換できるようなSNSコミュニティも運営しています。
- 中台リサイクル率99%を誇る総合リサイクル業や、資源循環のコンサルティング事業を手掛けています。廃棄物処理はゴミが持ち込まれるほど儲かるビジネスです。つまりゴミを減らされると私たちは儲からない。そのため廃棄物処理業界は、サーキュラーエコノミーを推進したい社会と分断されてしまっていたのです。これでは事業成長が社会課題の解決につながらないということで、ゴミに新たな価値を見出す取り組みを20年近く続けています。今年から、九州電力の火力発電所跡地を活用した「サーキュラーエコノミーを体験できる」場づくりの取り組みも開始しました。

- 髙田それぞれのイノベーションを具現化していくうえで、どのような取り組みを重視しているのでしょうか。
- 森川難しいのは、現場では新技術に抵抗を感じる人もいることです。私たちは現場での点検と技術開発の両方に取り組んでいます。現場の困りごとを吸い上げて、それに合わせた開発を推進するのです。現場と開発が意見交換する場を設け、技術に関する議論を通じてイノベーションが起こることを期待しています。
- 中台「未来に向けた準備」をかなり大事にしていて。大量生産・大量廃棄の時代が終わることは2000年代からわかっていたわけです。時代が変わり始めてから準備し始めるのでは遅い。私が考えていることを常に社内共有し、多くの打ち手を持っておく。そうしておくことで、時代が変わるタイミングにこれまでの準備が活きてくるのです。自社の取り組みは積極的に発信すべきです。実績を発信しておくことで後々の問い合わせにつながるかもしれません。こうした準備を積み重ねることで、時代の変わり目に選んでもらえる企業になれるのではないでしょうか。

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