
日本経済新聞社は8月8日、大阪市のMBSちゃやまちプラザ・ステージにて、起業家や自治体などが集まるセミナー&交流会「NIKKEI THE PITCH Meetups」を開催しました。集まったのは新規事業創出や環境問題に関心のある参加者たち。ユニークなビジネスを手掛ける起業家たちが、事業成功の秘訣やイノベーションの生み方について熱く議論を交わしました。
トークセッション第1部新たなビジネスモデルとマネジメント
- 登壇者
- 京都キャピタルパートナーズ株式会社 ベンチャー投資部 部長代理
村田 義樹氏
- 株式会社Halu 代表取締役
第7回日経ソーシャルビジネスコンテスト優秀賞受賞松本 友理氏
- 株式会社KMユナイテッド 代表取締役社長 Founder&CEO
竹延 幸雄氏
- モデレーター
- 株式会社横田アソシエイツ 代表取締役
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授
一般社団法人アンカー 共同代表理事横田 浩一氏
社会を変えるのは起業家の情熱 課題への洞察力を研ぎ澄ませ
- 横田本セッションでは事業拡大に向けた取り組みについて伺います。どのような社会課題の解決に取り組まれているのでしょうか。
- 松本乳幼児向けのインクルーシブ・ブランド「IKOU(イコウ)」を立ち上げ、障害者も健常者も共に使える製品を開発しています。息子が脳性麻痺の障害を持って生まれたことが起業のきっかけです。IKOUでは簡単に持ち運べて場所を選ばずに設置でき、障害のあるお子さんでも座れる姿勢保持の機能を備えた椅子を販売しています。重視しているのは「障害のある子もない子も使える」製品を作ることです。障害児にとって、その時々に使いやすい製品を作るだけでは不十分です。専用の福祉機器ではなく誰もが使える製品にすることで、既存のベビー用品にもこれまでにない付加価値を加えられるはずです。
- 竹延KMユナイテッドは、建築塗装を手掛ける株式会社竹延の子会社として生まれました。建設業は3K(きつい・汚い・危険)のイメージもあり人手不足が大きな課題です。今後はさらに深刻化していきます。人がいなければ技術の継承もできない。そこで現場の作業環境や育成システムを改善する職人育成会社として設立しました。また、実は現場監督の仕事の55%は書類業務に費やされています。これでは現場を見る時間が確保できません。品質トラブルも起こります。こうした課題を解決するために、現場の書類業務をサポートするBPOサービス「建設アシスト」を2020年に提供開始しました。

- 横田これまでにないビジネスはどのようなきっかけから生み出されるのでしょうか。
- 松本従来の障害児向けの椅子は基本的にオーダーメイドで作成されます。そのため費用も高額になりがちです。ただ、国や自治体の補助金で賄われるため自己負担は大体3万円程度です。椅子のトータルの費用が数十万円でも親の負担が少ないと、業者にコストダウンの意識が働きません。結果的に福祉機器としての機能やデザインは数十年変わっていないのです。障害児専用としているがゆえにオーダーメイドで、補助金のシステムに乗せないと成立しないビジネスになってしまっている。それでは新しい製品は生まれません。既存の福祉機器も多様性を考慮したインクルーシブデザインに変えることで、障害児には選択肢が増えマーケットも広がるのです。
- 竹延職場環境の改善で女性が入社してくるようになりました。ある女性社員は非常に優秀で、太陽の塔を塗り替える大仕事をしたんです。その活躍をマスメディアに取り上げられてさらに人が入るようになった。若者だけでなく、70代のベテランも「若者に仕事を教える立場」として雇用します。人材がいなければ事業はできませんし、品質を高めることもできません。顧客満足にはまず従業員に寄り添って良い環境を提供することが重要なのです。人材の雇用や育成がうまくいき、職人を派遣する現場そのものを変えなくてはという思いも強くなりました。モノづくりに憧れる人がそれだけに没頭できるようにアシストする。顧客からの後押しもありBPOの事業開始に至りました。

- 横田HaluもKMユナイテッドも関西を拠点に事業展開しています。関西のスタートアップやベンチャー企業にはどのような支援が必要だと考えていますか。
- 村田京都キャピタルパートナーズは、京都銀行の投資専門子会社として関西圏を中心に広い事業領域のスタートアップに投資しています。年内をめどに100億円規模のファンドを組成予定です。投資の際には、起業家が捉える課題感を重視しています。解決に挑む課題が深ければ深いほど困難なことは間違いありません。加えて、課題に折れずに挑戦し続けられるかという人柄。今ではスタートアップを「創出」する支援はうまく回りだしているように思います。一方で事業拡大に伴って関西を離れざるを得ない企業も一定数いる。我々としては大きな課題に挑む起業家たちが事業を生むだけでなく、さらに大きくしていくための支援を充実させたいと考えています。


トークセッション第2部共創とイノベーション
- 登壇者
- 株式会社ベホマル 代表取締役社長
第5回スタアト★ピッチjapan ファイナリスト西原 麻友子氏
- 同志社大学政策学部
コノイロpj
Co-Lab EXPO
日経BANPAKUレポーター小池 美咲氏
- 近畿大学発ベンチャー・株式会社POI 代表取締役CEO
日経BANPAKUレポーター清水 和輝氏
- モデレーター
- 一般社団法人アンカー 共同代表理事
次世代ユネスコ国内委員会 委員長
東京工業大学 環境・社会理工学院 社会・人間科学コース 修士課程在学。小林 真緒子氏
元環境大臣とのコラボを実現 人との出会いが事業の推進剤に
- 小林西原さんと清水さんは環境問題解決に貢献するユニークな事業を手掛けられています。どのようなきっかけから取り組みを始めたのでしょうか。
- 清水高校生の頃に食べたイナゴの佃煮に衝撃を受けたことをきっかけに、昆虫食の魅力を普及することに取り組んでいます。YouTubeやSNSでは「昆tuberかずき」として情報発信をする傍ら、昆虫食の商品企画やイベント企画、講演なども行っています。過去には小泉進次郎氏(元環境大臣)と昆虫食を食べるライブ配信を実施したことがあります。昆虫食の魅力を知ってから、自分で山に入っては昆虫を捕まえていました。どう調理をすれば美味しいか研究していたんです。しっかりと調理をすれば昆虫も美味しいんですよ。一方で、海外から輸入された昆虫食はまったく美味しくなかった。長く保存するための調理方法などが原因です。美味しくなければ、ただでさえ敬遠されがちな昆虫食との距離はもっと広がってしまいます。何とか自分が普段食べている昆虫食を商品化するしかないと思い、初めはクラウドファンディングで支援を募りました。

- 西原これまでの材料開発の経験を活かしてバイオマスCO2吸収剤を開発しています。樹脂用添加剤としてプラスチックなどに混ぜることで、大気中からCO2を回収します。近年CO2の回収技術として注目されるDAC(Direct Air Capture)には、大がかりな設備投資が必要です。開発する吸収剤は、普段利用するプラスチックに混ぜるだけで手軽にエコに貢献できるのが特徴です。以前勤めていた電子部品メーカーの新規事業として提案したものの決裁が下りず、それならばと脱サラして2022年に起業しました。
- 小林さらなるイノベーションを生むために重要なことは何でしょうか。
- 小池同志社大学に在籍しながら、色彩の魅力を伝える「コノイロpj」を立ち上げました。カラーコンサルティング会社の色彩舎と共にカラーマーケティングやイベント運営に取り組んでいます。パーソナルカラー診断という言葉を聞いたこともあると思いますが、似合わないと診断されてしまった色の服は着にくいですよね。そこに色彩舎独自の診断理論を組み合わせることで、相性の悪い色でも合わせられるよう個別にアドバイスしています。プロジェクトとしては現在4年目です。これほど長く続くとは思っていませんでした。パーソナルカラーを特段意識していたわけではなく、「何かやりたいことはないのか?」と聞かれてぽろっと口から出たのがプロジェクト開始のきっかけなんです。少しでも興味があれば始めてみることが大事だと思います。

- 清水昆虫食と異なる取り組みとして現在注目しているのがスズメバチです。基本的には駆除対象となる害虫ですが、使い道のたくさんある魅力的な昆虫です。昆虫食が環境にいいことはわかっていても実際に食べるハードルはまだ高い。実は昆虫で解決できる課題はさまざまです。今後は昆虫を活用した別のアプローチで人々の課題を解決するようなプロジェクトも進めていきます。失敗を恐れる必要はありません。人とのつながりで偶然大きなコラボレーションが生まれることもあるんです。
- 西原我々が目指すのは「身の回りのプラスチック製品が当たり前のようにCO2を吸収している状態」。そのためにはさまざまな企業との連携が不可欠です。連携を重ねるほどその過程でイノベーションも生まれる。それが「共創」につながるのではないでしょうか。自分が動かなければ何も始まりません。自分にも「何もせずに後悔するよりは行動して後悔する」と言い聞かせながら取り組んでいきたいと思います。

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