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起業家と有力VC 新たな共創の舞台に ~オープンイノベーションフェスティバル WESTリポート

岡山県で2025年11月26日に開催された「オープンイノベーションフェスティバルWEST」。近畿、中国・四国、九州・沖縄から、起業家や投資家、自治体の担当者などが一堂に会した

起業家と有力VC 新たな共創の舞台に
~オープンイノベーションフェスティバル WESTリポート

日本経済新聞社がスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」プロジェクトでは2025年11月26日、岡山市で「オープンイノベーションフェスティバルWEST」が開かれた。新たな試みとして行われた起業家支援セミナー「アクセラレーションプログラム」の内容を紹介する。

過去大会のファイナリストが登壇
起業家と投資家の対話を公開

写真右から、公開メンタリングのメンターを務めた菅野流飛氏(京都大学イノベーションキャピタル 投資部マネージャー)、メンティーの西原麻友子氏(ベホマル 代表取締役社長)、モデレーターのNIKKEI THE PITCH編集長 古山和弘氏
写真右から、公開メンタリングのメンターを務めた菅野流飛氏(京都大学イノベーションキャピタル 投資部マネージャー)、メンティーの西原麻友子氏(ベホマル 代表取締役社長)、モデレーターのNIKKEI THE PITCH編集長 古山和弘氏

アクセラプログラムの最初のセッションは「公開メンタリング」だ。メンタリングとは、実績や経験が豊富な投資家や先輩起業家が、事業の拡大を目指す起業家に対して「1on1」で話を聞き、アドバイスをすることだ。通常はクローズドの場で行われるメンタリングを公開する取り組みは異例だ。ただ、西日本フェスの会場には、日経のピッチ大会で「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の地区ブロック予選に登壇したり、惜しくも書類審査を通過できなかったりした若い起業家も数多く駆け付けていた。起業家の課題とその解決策を提案する現場を、客観的な立場から見られる貴重な機会となった。

メンターとして登場したのは、京都大学100%出資の京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)で投資部マネージャーを務める菅野流飛氏だ。京都iCAPは、京都大学で行われている研究を社会に実装するために創設されたベンチャーキャピタル(VC)だ。特に京大が強みとする基礎研究で、地球規模の課題解決策を示すようなディープテック系のスタートアップを主な投資対象としている。

ベホマルの西原代表は、プラスチックや樹脂に混ぜることでCO₂吸着機能を持たせる材料を開発
ベホマルの西原代表は、プラスチックや樹脂に混ぜることでCO₂吸着機能を持たせる材料を開発

村田製作所を退社
「リケジョ起業家」の道へ

菅野氏のメンタリングを受けるメンティーは、滋賀県草津市に本社を構えるベホマルの西原麻友子代表取締役だった。村田製作所の研究者であったが、自ら脱炭素社会を実現する技術として社会に実装するためにベホマルを設立し、理系出身の「リケジョ起業家」として注目される。

同社が手掛ける事業がバイオマスCO₂吸収材「美環(びのわ)」の開発・製造だ。「美環」を素材に混ぜることで、完成品がCO₂を吸収・固定する機能を持つようになる。同社は「美環」を配合したペレットを販売し、購入した企業はポリプロピレンやポリエチレンに混ぜ込むことで大気中のCO₂を吸着する製品を開発できる。ベホマルは、NIKKEI THE PITCH〈GROWTH〉の前身となる「スタ★アト ピッチJapan」第5回大会の近畿ブロックで優秀賞を獲得し、決勝大会に進出した。

合わぬ大企業との時間軸
「数で攻める」で克服

西原氏が最初に挙げた課題が、事業成長と資金調達の時間軸だ。「気候変動を解決するディープテックの開発と製造を主な事業としているため、どうしても事業の成長に長い期間を必要としてしまう」(西原氏)という。10年を投資の一区切りとするVCとの時間軸が合わず、資金調達が難航しているという。

これに対し、菅野氏は2つの手段を提案した。1つ目は「投資を受けない」ことだ。つまり「スモールビジネスとしてある程度の規模まで成長させ、その後は融資を受けながら着実に成長させる」という提案だった。2つ目が海外展開だ。「法規制が厳しい欧州など、より市場価値が認められる海外市場への挑戦が望ましい」とした。その上で「単なる『環境への貢献』という定性的な価値ではなく、カーボンクレジットの算定など客観的な指標を提示すると、(西原氏の挑む事業で)さらなる価値向上を期待できる」と指摘した。

ベホマルの西原代表にアドバイスを送る、京都大学イノベーションキャピタルの菅野氏。
ベホマルの西原代表にアドバイスを送る、京都大学イノベーションキャピタルの菅野氏。

西原氏が次に打ち明けた悩みは「大企業との無限”続くPoC(概念実証)」にいかに対応するかだ。材料を販売した後、購入先から技術的な問い合わせを何度も受け、実質的に無償での技術検証を長期間求められるという。菅野氏は「数で攻める」ことを提案した。「スタートアップと大企業のスピード感はまったく違う。10社アプローチして1社でも本気になってくれれば良いくらいの割り切ったスタンスで臨む」という考え方を提案した。さらに、人脈の重要性についても言及している。「信頼できる人からの紹介であれば、企業側も迅速かつ誠実に対応してくれる可能性が高まる。そのために起業家仲間や投資家とのネットワークづくりも重要だ」という。

「主人公は起業家本人」と強調する菅野氏は、「大企業やVCも利用するくらいの気持ちを持ってもいい」と最後にエールを送った。これに対して、西原氏は「海外に何とか進出したいと考えている。またアドバイスをいただきたい」と語った。

▼「公開メンタリング」のアーカイブ動画はこちら

認知機能が低下した高齢者の会話をAIで支援

講師を務めたのは、神戸大学大学院 経営学研究科の栗木契教授(写真右)。受講者として登壇したのは、SOCIAL BUSINESS SCHOOL 2期生の松山峻大氏(写真中央)。モデレーターは、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授の横田浩一氏(写真左)
講師を務めたのは、神戸大学大学院 経営学研究科の栗木契教授(写真右)。受講者として登壇したのは、SOCIAL BUSINESS SCHOOL 2期生の松山峻大氏(写真中央)。モデレーターは、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授の横田浩一氏(写真左)

NIKKEI THE PITCHでは次世代の社会起業家を育成する事業「NIKKEI THE PITCH SOCIAL BUSINESS SCHOOL」(SOCIAL BUSINESS SCHOOL)を展開している。当イベントでは公開メンタリングの次に、ビジネススクールの特別公開授業もアクセラプログラムの一環として開かれた。

横田アソシエイツ 代表取締役、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授、一般社団法人アンカー共同代表理事の横田氏
横田アソシエイツ 代表取締役、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授、一般社団法人アンカー共同代表理事の横田氏

まずはビジネススクールの代表メンターである慶応義塾大学大学院の横田浩一特任教授がこの取り組みの意義について説明した。開講は2024年で、現在の受講生は第2期生にあたる。スペシャルアドバイザーとして、投資運用会社のレオス・キャピタルワークスの藤野英人代表取締役や東京大学の鈴木寛教授などが名を連ねている。合宿やゼミなどを通じ、社会課題の解決とビジネスモデル確立の両立を学ぶプログラムだ。2025年11月には北海道東川町で第1回の合宿が行われた。

認知機能の低下により会話が困難な人に向けた「会話記憶サポート支援システム」を手がける松山氏
認知機能の低下により会話が困難な人に向けた「会話記憶サポート支援システム」を手がける松山氏

特別公開授業では第2期生を代表して滋賀医科大学医学部医学科5年生の松山峻大氏が登壇した。「2040年には、65歳以上の3人に1人が認知症もしくはその前段階のMCI(軽度認知障害)になる」として自らが中心となって開発する「会話記憶サポート支援システム」について説明した。認知機能が低下し会話に困難を抱える高齢者の言いたいことをAIが解析するアプリケーションだ。コミュニケーションを促進することで、日常生活におけるウェルビーイングの向上や認知症の進行抑制を図る。

松山氏が思い描くビジネスモデルは、協力施設である有料老人ホームなど介護事業所に向けたBtoBモデルだという。ただ、「最終的に僕自身が目指しているのは、エンドユーザーとなる本人や家族を対象としたBtoCモデルとして普及させたい」(松山氏)としている。

優れたアントレプレナーの思考・行動原則を講義

続けて、同ビジネススクールの講師を務める神戸大学大学院経営学研究科の栗木契教授が、「エフェクチュエーション」について公開講義を行った。エフェクチュエーションとは、優れた起業家が共通して持つ、従来のパターンからは予測できない戦略や行動のことだ。計画を立てて進めるのではなく「『できること』を起点に行動し、その過程で振り返りをしながら次の戦略や道筋を見つける」ことであると栗木教授は説明する。

さらに、エフェクチュエーション思考の5つの原則として、手持ちの手段から始める「手中の鳥の原則」、失っても構わない範囲でリスクを取る「許容可能な損失の原則」、共創を目指す「クレイジーキルトの原則」、失敗を新たな機会とする「レモネードの原則」、未来を自らコントロールしようとする「飛行中のパイロットの原則」を紹介した。

松山氏のビジネスモデルを分析し、今後の事業成長にエールを送る栗木氏。
松山氏のビジネスモデルを分析し、今後の事業成長にエールを送る栗木氏。

栗木氏はエフェクチュエーションに照らし合わせながら、松山氏の事業モデルを分析した。BtoBモデルで事業を進める展開を「クレイジーキルトの原則」に沿ったアプローチとして評価した。また、AIを提供するパッケージとして「ぬいぐるみかタブレットかで迷っている」という松山氏に対し、実際に行動し市場からのフィードバックを得ることが大切だと指摘した。

松山氏は「今回のビジネススクールを通じて様々な社会課題に取り組む人々と交流し、自身の事業を深めていきたい」と語った。栗木氏は「『Asking』と呼ばれる『おねだり力』もエフェクチュエーションの重要な要素だ。周囲に助けてもらいながら、事業を展開してほしい」と激励した。

▼「SOCIAL BUSINESS SCHOOL特別公開授業」のアーカイブ動画はこちら

ピッチコンテンストでPR
経営者は「わがまま」であれ

スタートアップとアトツギベンチャーの経営者と投資家の視点で、ピッチコンテストに出場する理由や現在の課題について語り合った。
スタートアップとアトツギベンチャーの経営者と投資家の視点で、ピッチコンテストに出場する理由や現在の課題について語り合った。

アクセラレーションプログラムの最後のセッションとして行われたのが、過去大会の受賞者がその後の変化や直面している課題をカジュアルに語り合う「After NIKKEI THE PITCH ~私たちのこれから~」だ。「公開メンタリング」に登壇した京都iCAPの菅野流飛氏とベホマルの西原麻友子氏、NIKKEI THE PITCHの古山和弘編集長に加え、「スタ★アトピッチJapan」第5回大会で「アトツギベンチャー部門賞」を受賞した関西巻取箔工業の久保昇平取締役COOが登壇した。

右から、京都大学イノベーションキャピタルの菅野氏、関西巻取箔工業 取締役C.O.Oの久保氏
右から、京都大学イノベーションキャピタルの菅野氏、関西巻取箔工業 取締役C.O.Oの久保氏

まず、関西巻取箔工業について久保氏が説明した。同社は京都で70年以上の歴史を持ち、西陣織の金糸がルーツの顔料箔を製造している。熱と圧力で対象物に貼り付ける顔料箔は、自動車のスピードメーターやエンブレムなどにプリントする用途で使われている。久保氏によると「世界で生産される車の10台に1台、1000万台ぐらいに、関西巻取箔工業の顔料箔が使われている」という。

ピッチコンテストに出場する理由について、西原氏は「ピッチコンテストは無料でできる営業活動」と語った。久保氏も「埋もれがちな中小企業の技術をPRできる貴重な機会。まずは知ってもらうことに重きを置いている」と同調する。ただ、西原氏も久保氏も「ピッチコンテストでの評価と実際の売り上げが直結していない」と口をそろえた。

VCの立場から菅野氏は、ピッチコンテストによる露出効果を評価し、出場を推奨しながらも「スタートアップで限られたリソースを奪わないように、支援者として気を付けている」と語った。

右から、ベホマルの西原氏、モデレーターの古山編集長。
右から、ベホマルの西原氏、モデレーターの古山編集長。

「公開メンタリング」を引き継ぐ形で、環境を中心としたサステナビリティを巡る顧客対応へと話題が移った。西原氏は「顧客自身が環境への課題を理解できていない」とした。久保氏は「日本では依然として環境よりもコストを重視する風潮が残っている」とし、「顔料箔は環境負荷の高い有機溶剤が不要になるだけでなく、乾燥工程がないため生産性が上がる。経済的メリットも合わせて訴求している」と説明した。

菅野氏は「デザインや品質といった本質的価値を前面に出し、『実はSDGsの目標達成に貢献する』というメッセージは後から添えるのが効果的だ」とアドバイスした。

そして、最後の締めくくりのメッセージとして、菅野氏は「経営者は重い責任を負う。だからこそ、わがままにやりたいことを追求し、後進の“かっこいいお手本”になってほしい」と語った。

▼「After NIKKEI THE PITCH ~私たちのこれから~」のアーカイブ動画はこちら