
7月29日、札幌市で起業家や自治体などが集まるセミナー&交流会「NIKKEI THE PITCH Meetups」を開催しました。今回は地域の活性化や観光業に関心のある参加者が集まり、二部構成のトークセッションが行われました。第一部では北海道のニセコ町や俱知安町、東川町を例に魅力を生かしたまちづくりについて議論。第二部では北海道を拠点とする注目企業に、地域と連携した事業展開について語っていただきました。セッション後には、登壇者や参加者同士の熱心な交流が繰り広げられました。
トークセッション第1部北海道における観光・まちづくりとビジネス機会
- 登壇者
- 東川町経済振興課 課長
吉原 敬晴氏
- 株式会社北海道宝島旅行社 代表取締役社長
鈴木 宏一郎氏
- 司法書士法人ミナカムイ 代表社員
一般社団法人俱知安観光協会 元会長吉田 聡氏
- モデレーター
- 株式会社横田アソシエイツ 代表取締役
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授
一般社団法人アンカー 共同代表理事横田 浩一氏
北海道は「宝箱」 地域特性が織りなす価値創造とは
- 横田本日は北海道における観光やビジネス機会について議論します。まずは北海道で旅行会社を経営する鈴木さんから、どのような観光ビジネスを展開されているのかお伺いしたいと思います。
- 鈴木北海道を訪れる外国人観光客を地域農家や商店街にお連れするなど、インバウンド向けに体験交流型の観光サービスを提供しています。当初は日本人向けに提供していたのですが、なかなか売れませんでした。日本人が旅行する際には、美味しいご飯や立派なホテルに目が行って「体験にお金を使う」ことがまだまだ当たり前ではないのです。今ではインバウンドが増え、一歩踏み込んで地域の方の暮らしを知り、交流を楽しみたいという海外の富裕層がたくさん来るようになりました。こうした体験交流型の観光を推進しようと、北海道観光機構の理事にも提案しているところです。

- 横田倶知安観光協会の元会長でもある吉田さん、東川町経済振興課から吉原さんにもお越しいただいています。倶知安や東川町の現状や取り組みについて教えてください。
- 吉田予定では、2030年に新幹線の俱知安駅ができる予定です。それを見越して、日本人や外国人が駅周辺の土地をどんどん買っている。その売買や建物の登記対応などを、私が経営する司法書士事務所で扱っています。倶知安では物価上昇も非常に激しくなっています。正月には、ウニのパックが6万円で売られていて話題になりました。こうした商品を買う人たちがこの町にやってくるのです。物価の高さがネガティブに報道されることもありますが、このビジネス機会を貪欲に狙っていくことも重要ではないでしょうか。
- 吉原東川町は1985年から「写真の町」という取り組みを行っています。これには景観を守るなどの目的もありますが、一番の特徴は「交流・関係人口を増やす」部分に重点を置いていることです。行政からの支援としては、起業支援の補助金も用意しています。最大100万円の補助金を交付するというものですが、毎年15件ほど申請があります。それだけ東川町に移住して起業する人が増え、起業しやすいイメージも醸成されている。役場の職員としては、発想豊かな起業家が東川町のまちづくりに参加をして、町がどんどん元気になっているように感じています。

- 鈴木倶知安と東川のどちらもいい町づくりをしていて、そのベクトルが異なる点が非常に面白いですね。北海道にある179の市町村では、ピカピカと光るような市町村も増えています。そもそも北海道は本州から独立した大きな島として存在していて、観光の目的地としてこんなにもわかりやすい場所はありません。アイヌや縄文の歴史にも非常に価値がある。海外のアドベンチャートラベルの専門家が来て、北海道を何と評したか。「宝箱のような小さな島」です。北海道に暮らしながら、この土地の特性や歴史を活かして外貨を獲得していくことが、スタートアップにとってもチャンスになるのではないでしょうか。
- 吉原東川町ではこの30年で人の入れ替わりが増え、人口の55%ほどが移住者になりました。それだけ人々を受け入れる土壌が東川町の精神として備わっているのです。新しくビジネスを始めた人に町民がアドバイスをしたりするんですね。共に東川町を良くしようという機運が自然とできている。ビジネスも一つの目的ですが、人と人とのネットワークを大事にしたいというたくさんの方々に東川町まで足を運んでいただきたいと思っています。


トークセッション第2部地域とともに起こすイノベーション
- 登壇者
- 株式会社エーデルワイスファーム 代表取締役
野崎 創氏
- 株式会社MASSIVE SAPPORO(マッシブサッポロ) 代表取締役社長
川村 健治氏
- 株式会社MamaLady 代表取締役
明石 奈々氏
- モデレーター
- 北海道大学 スタートアップ創出本部
アントレプレナー教育部門 部門長 特任教授杉村 逸郎氏
北の大地で育む企業と地域の共創事例 カギは「会話と交流」
- 杉村今回登壇の皆さんはそれぞれ違う切り口で興味深い事業を展開されています。事業開始のきっかけや取り組みについて教えてください。
- 野崎私どもは北広島市でハムやベーコンを90年ほど作っていて、現在注力しているのは「世界初のベーコン節」です。海外から来た女性が日本の鰹節に惚れ込んで修行する番組を偶然見て、作り始めたのがきっかけでした。試作の過程でも好評で、直近では「北海道お土産グランプリ」でグランプリを受賞しました。今後はハムづくりをしている中小企業向けにベーコン節のノウハウを公開し、作り手によって個性のある味を楽しんでもらえるような流れを北海道にもたらしたいと考えています。
- 明石子どもが生まれ、初めて母親として責任感を持った際に「お母さんはいろいろなことを犠牲にしなければいけない」という風潮が日本には強いなと思ったんです。育児を楽しむために変えなければいけないことがたくさんあると思って起業しました。現在は北海道在住のママ向けに子育てに役立つアイテムを送ったり、ママが欲しい情報をまとめた育児情報誌を発行したりしています。この育児情報誌を多くのママに配布してもらえるよう、日本全国の自治体にも働きかけています。

- 杉村川村さんは地域のリソースをうまく活用してインバウンド向けにビジネスをされています。どのような現状や課題の解決に取り組んでいるのでしょうか。
- 川村グループ旅行者をターゲットに、民泊や無人ホテルを日本全国で運営しています。コロナが明けてインバウンドが急回復したことはありがたい一方で、現場はどうか。急激な需要増加に対して供給が追い付かず、人材が足りていません。そこでフロント無人型ホテルの運営という解決策を取っています。また、廃業した銭湯を無人ホテルにする事例もあり、今までにない宿泊体験を作っている。私たちの事業は労働人口減少や空き家問題など、実はさまざまな社会問題の解決につながっているのです。

- 杉村事業展開するうえで地域との関係性が重要になってくると思います。どのようにして地域の人々を巻き込んできたのでしょうか。
- 野崎私自身、この町を変えたいという思いから、川村副市長と町の環境づくりを行ってきました。それこそ北海道宝島旅行社の鈴木さんにも講演に来ていただきましたが、なかなか変わらないんですよね。町が変わっていくことに対する怖さがあるのだと思います。町づくりを持ち回りでやっていけるような流れを作っていかなければいけないですし、地域の人を巻き込んでいくことは私もまさに頭を悩ませている部分です。
- 明石育児を応援したくない自治体も地域もないので、私たちの事業は比較的応援していただきやすいかなと思います。一方で、創業当初はなかなか自治体職員の方々とお会いする機会がなくて。一歩間違えればストーカーと思われてしまうほど通い詰めて、「なぜプレママガイドやMamaLady Boxが必要なのか」を何度も伝えました。最終的には人と人との関係が重要だと思いますので、足を使って通い詰めることで関係性を深めてきました。
- 川村私たちもさまざまなエリアで無人ホテルを出店しているため、地域ごとにホテルの清掃に携わる方々との関係構築を目的に、交流の場を作ることに日々取り組んできました。
- 杉村私は奈良出身なのですが、函館に移ってから「いかに地元のコミュニティに入り込み、共に物事を進められるか」が大事だと感じています。お話しいただいたように、人とのつながりが非常に重要ということですね。本日はありがとうございました。


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