NIKKEI THE PITCH GROWTH
東京ブロックB
予選大会リポート㊤
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の東京ブロックBの予選大会が2025年12月10日に都内の九段会館テラスで開かれた。東京は応募者数が最大であり、AとBの2つのブロックに分けて、それぞれ予選が開かれている。東京ブロックBは今年の登壇者が16社だ。昨年の決勝進出企業は3社あり、そこから認知症の高齢者の資産凍結を守ることなどで事業を急拡大させているトリニティ・テクノロジー(東京・港)が決勝で準グランプリを獲得した。まずは予選会の10日午前中に登壇した前半パートの9社について紹介したい。
東京ブロックB(前半) 予選出場9社
あすいく⇒インパクトサークル⇒OLIENTTECH⇒KAMAMESHI⇒K&ESG⇒サイトセンシング⇒Zenmetry⇒トキハナ⇒nokNok(登壇順)
東京ブロックB予選のピッチ動画はこちらから。
あすいく
駅で大好きな電車を見られる 子供がワクワクする体感型保育を提供
あすいく(東京・港)は一時保育のマッチングシステムで成長してきたが、最近では子供たちがワクワクできるような体験を提供している。具体的には鉄道会社と提携し、子供たちが駅で大好きな電車を見たりできる「駅いく」などのプログラムが人気だ。駅を保育の場として様々な体験ができれば、鉄道会社にとっては子育てをしやすい環境をアピールできる。特に重視しているのが子供を預ける母親の意識への配慮だった。子供たちが本当に喜ぶのなら、預けて自分の時間を作ってもいいという思いが強くなるからだ。
同社の幸脇啓子代表取締役は「私も3人の子育てをしており、子供を預けることに罪悪感を抱いたこともある。だからこそ、本当に子供たちが喜ぶようなワクワクするような体験できる機会を提供したかった」と強調する。幸脇氏は文藝春秋の編集者であり、出産して子育ての大変さを感じて、それが起業の理由になっている。「親のウェルビーイングを高めるようなサービスができるようにしたい」という。
あすいくでは母親が一緒にいなくても、子供たちだけでキッザニアのように様々な体験をして笑顔にするようなプログラムを数多く手掛けている。駅などで開催されるプログラムは予約で一杯であり、リピーターすら予約が難しい状況になっているという。
ここで、重要なのは保育士にとってやりがいを感じられることだ。幸脇氏によれば、日本では多くの保育士が資格を持ちながら、働いていない人がたくさんいる。子供たちが喜ぶ保育サービスなら、やりがいをもって仕事に取り組めるので潜在保育士の就業が増えて子育てをしやすい社会になる可能性があるということだ。あすいくの取り組みは国内の保育ビジネスの課題を解決するという点で新しい姿を示しているといえそうだ。
インパクトサークル
ソーシャルインパクトが循環する社会を創造
インパクトサークル(東京・港)は貧困撲滅など社会的に意義のあるインパクト投資をするためのプラットフォームを運営している。インパクト投資は世界的に大きな流れだが、日本では拡大する余地が大きい。このため、投資家が海外向けのインパクト投資を含めて、その社会的な意義や投資の価値を分かりやすく把握できるようにしている。具体的な投資先としてフィリピンに力を入れている。
同社の高橋智志代表取締役CEOは「恵まれない人々にも公平なチャンスを提供することを目的に事業展開をしている」と強調した。高橋氏は長く、フィリピンや日本などで貧困層向けの金融支援などの事業を手掛けてきた。金融サービスが届かない人たちにも融資を提供することが大切だと感じてインパクトサークルを起業した。
高橋氏が目指しているのは、目先の単なる金銭的リターンではなく、それを超えた社会的なリターンを通じてより良い未来を切り開いていきたいということだ。
高橋氏は金融機関を含めた投資家に対しても社会的な価値をより大きく生み出せるようにコンサルティング的な支援など様々な活動をしている。
OLIENT TECH
高専で日本の技術をもっと強く 東大発ベンチャーの挑戦
OLIENT TECH(東京・中央)は国内で理工系人材として評価される高等専門学校(高専生)と社会の架け橋になることを掲げて様々な事業を展開している。高専卒で東京大学に進学した研究者らが中心に設立した。同社ではこうした高専生がより活躍できるように専用塾のような教育で支援し、さらに高専の優れた教育プログラムを外部に提供したり、企業と人材面で連携したりしている。
同社の藤本鼓太郎代表取締役CEOは「高専生は中学卒業後に入学し、5年間は大学の学部卒と同じように専門科目の単位を取得する教育になっている。国内では理工系人材としては高専卒が数多く活躍している。高校段階から実践的に工学を学ぶことには素晴らしいことであり、高専生にもっと活躍できるように後押ししたい」と強調した。藤本氏も高専卒業生であり、東京大学大学院で都市開発の研究室で学んでいた。現在は同社のトップになったこともあり休学中で、この事業に力を注んでいる。
同社が手掛けるのは高専生専門の学習塾のような教育支援だ。高専では授業の難易度が高く、他の科目のような塾で学ぶことは難しい。それゆえ、高専生のOBであり、現役の大学生が高専生を教えて工学的なスキルを高めるようなことをしている。特に5年が終了した後には国立大学の理系学部に編入することが多いが、そこでの指導も受けられるようにし、希望する大学で学びを継続できるようにしている。
藤本氏は「私達の会社には高専卒の人材が100人以上集まっており、理工系人材への教育プログラムを企業などでも利用できるようにしている」と語った。企業側が抱えるビジネスの課題を提供してもらい、高専生が解決したりして、その能力の高さを知ってもらったりしている。これは採用面でもプラスになる。「高専卒の若いテック系の人材が活躍できる場を広げたい」(藤本氏)という。
高専は北海道から沖縄まで各地にあり、卒業後に活躍の場、自分たちのポテンシャルを発揮したいという思いが強いだけに、同社が取り組む様々な取り組みは日本の技術力強化にも貢献しているといえそうだ。
KAMAMESHI
日本製鉄発ベンチャー 老朽設備の部品確保で中小企業のモノづくり支える
KAMAMESHI(東京・大田)は製造業にとって課題である工場の設備の故障を少なくするためのDXサービスを展開している。製造業では大手を頂点とするピラミッド型の垂直構造の弊害が指摘されるが、同社は地域や業界を横断した横のつながりにより共に支え合う仕組みを作ろうとしている。具体的には老朽化した設備の補修部品の融通などを促せるようにしている。同社の小林俊代表取締役は日本製鉄に勤務していた。製造業の様々な課題を解決したいと考えて、日本製鉄の社員のままで同社を起業することにした。ユニークな社名だが、これは同じ釜の飯を食べる仲間たちで日本の製造業を変えていきたいところからつけられたという。
小林氏は「日本製鉄時代には生産管理、営業企画やプロジェクトマネージャー、そして海外駐在などを経験した。製造業を支える中小企業の皆さんの課題である設備の老朽化問題などを解決したいので、起業を決めた」と振り返る。国内では設備の老朽化が進んでおり、補修部品の調達がどんどん難しくなっている。「数万円の部品が手に入らず、数億円の設備をあきらめなければならない事態が起きている」ともいう。
一方で、中小企業でも廃業などで貴重な設備が廃棄されたりしている。「こうしたミスマッチを防ぐメルカリのような仕組みを作りたかった」。登録した会員が不要になった部品を売りに出したり、必要になった部品について検索で探したりする。同社としてはこのシステムの利用料として収入を確保する。補修部品の取引だけでなく、人手不足が深刻で対応が難しい設備保全について技術サポートも展開している。
同社は24年からサービスを開始したが、すでに17万点以上の部品在庫や、会員企業も順調に増えており、今年は1億円以上の売上を見込んでいる。小林氏は「将来的に日本の製造業を支えるインフラとして機能させられるようにしたい」と強調した。
K&ESG
ESG投資経営に悩む企業にコンサルサービス提供
K&ESG(東京・港)は顧客である企業に対して、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営に向けて脱炭素化対応など様々な施策を進める支援をしているコンサルティング会社だ。同社の野底琢代表取締役社長は大手コンサルティングファームでITや業務関係のコンサルとして多くの経験を積み重ね、その後は環境系スタートアップでESG開示業務の構築を支援したり、ESG管理ツールの導入を進めたりしてきた。
多くの企業にとって企業価値向上に向けてESG経営が非常に重要になっている。長期的な成長に加え、会社のブランドイメージにもつながっているからだ。しかも、金融庁は企業へ中長期リスクへの対応戦略の開示を要求している。野底氏は「22世紀に向けて、人類は様々なリスクにさらされている。気候変動のような今まで直面したことないリスクがある。多くの企業にとっては中長期的における事業リスクを可視化して備えることが持続的な成長に欠かせない」と強調した。
同社ではこうした課題を解決するために経営サステナビリティ戦略の策定ツール「SusTorch」を開発した。様々なリスク状況など必要なデータを統合化してデータベースとして提供している。それは投資家にも納得できるように示せることが重要なポイントだ。
世界的には欧州のグリーンディール政策のように厳しい環境規制の動きが出ている。欧州ではこうした状況から自動車などでLCA(ライフサイクル評価)での脱炭素の対応を求めるような動きが出ている。野底氏らはこうしたLCA関連などでもコンサル業務に豊富な経験がある。
サイトセンシング
被災時に高齢者の早期救助も可能に 新たな測位技術を提案
サイトセンシング(東京・中央)は産業技術総合研究所(産総研)発スタートアップとして知られている。地下など普通の得意技術で位置情報を把握できない場所での新たな技術を開発して提案している。
現在、測位技術ではGNSS(全球測位衛星システム)が重要な役割を果たしている。GNSSはGPSなど複数の人工衛星を利用して地球上の現在位置を測るシステム全体のことだ。多くの衛星からの信号を利用するため、より高精度な位置情報が得られる。カーナビや測量のほか、自動運転でも欠かせない技術とされる。もちろん災害時における対応でも位置情報は重要だ。ただ、この仕組みでは測位が難しい場所も多くあり、そこでサイトセンシングが独自技術で課題を解決しようとしている。
同社の平林隆代表取締役社長は「GNSSが届かない環境で測位するには『隠れビーコン』という技術があり、これは効果的に活用できる」と指摘した。隠れビーコンとはブルートゥースの技術を用いて特定の位置情報を発信する小型デバイスのことであり、同社はこれを活用した測位システムを開発している。「隠れビーコンを使ったマップを作ることで、多大な設備投資を避けつつ、効果的な測位が可能になる」(平林氏)という。
同社の隠れビーコンの仕組みを活用し、その技術を採用するスマホを持つことで、人々の位置情報を常に把握できるようになる。特に災害時には高齢者の方々など行方不明になった場合にすぐに救助する必要がある人たちの場所がわかるようになる。平林氏は「こうしたシステムの販売先としては地方自治体や商業施設運営会社などを想定している」という。
Zenmetry
チャット対応で忙殺される業務 AIアシスタントで仕事効率大幅に改善
Zenmetry(東京・港)は「人と仕事をなめらかに進化させ続け、大切なことに集中できる社会の実現へ」をミッションに掲げており、生成AIなどを活用し会社での仕事をより効率化するようなサービスを展開している。長友好江代表取締役はリモートなどの会議に追われて燃え尽きたという体験から同社を起業したという。具体的にはチャットのやり取りなどに追われる仕事での業務プロセスを大きく変革しようとしている。
長友氏によれば、過去15年に1日に受信するメッセージ数は3倍に増加しているという。特にメールは横ばいでも、チャットが急激に増えている。長友氏は「私たちの最新の調査でも2分に1度は通知を確認して業務を中断している」とし、「洪水のような情報の多さを解決することが必要」としている。
長友氏は物流で起きた「コンテナ革命」を通常のホワイトカラーの仕事でも起こそうとしている。船舶輸送などで使われるコンテナは標準規格化されたことから業務が改善され、生産性が飛躍的に高まったという。同社のサービスを利用すれば、依頼など様々なチャットが流れてきたら、AIがその文脈を読み取って的確に対応できるようになる。同社の試作のベータ版では200人が使っているが、1日の残業時間が2時間も減少したという事例も出ているという。長友氏によれば、「100人規模の会社に導入してもらうと、年間で1億円規模の生産性向上が期待できる」としている。
トキハナ
少子高齢化脱却へ結婚しやすい社会に ポイント還元で新婚生活も支援
トキハナ(東京・港)は新婚向けのワンストップ型支援プラットフォーム「トキハナ」を展開している。同社の安藤正樹代表取締役社長は「婚姻数の減少は相手がいないという以外の理由では経済的に十分な生活ができるか不安という声が非常に多い。私たちはトキハナのサービスでこの課題を解決したい」と語った。
国内では1972年には110万人が婚姻したが、これが現在では47万人になっている。婚姻数の減少が少子化をもたらし、企業の競争力を低下させているという。安藤氏によると、新婚カップルはトキハナを使うと、婚約前のサポート、結婚式場紹介、結婚式準備、新生活準備までワンストップで、しかもLINEが中心なために気軽に様々なサポートを得られる。しかも、それぞれAIを使い、最適な提案を受けられる仕組みだ。
新婚カップルが何を重視したいかということをAIで把握して分析し、最適な提案ができるようにしている。特に結婚式では予算もあるが、やはり新婚カップルの思い入れが強く、それを実現するようなコンサルティングができるようにしている。
同社はこうした結婚式場などとのマッチングにより成果報酬を獲得し、そこでの原資として新婚カップルにポイントとして還元するサービスをしている。例えば、結婚式場、結婚指輪の宝石店、旅行会社などともマッチングさせる。このサイト向けに広告を出稿する会社も多い。こうした収入を原資とし、新婚カップルにポイント還元できる。
nokNok
日本のお茶の良さを世界に ノンアル飲料も海外の高級レストランに販売
nokNok(東京・杉並)は、日本のお茶を使ったノンアルコールドリンクの事業展開を進めている。角野健一代表取締役は「勇気を出して未知の世界にノックをすると、生き生きとしたかけがえのない経験に出会える」という意味を社名に込めており、世界の人たちに日本のお茶文化でワクワクしてもらいたいとしている。
同社の創業者らは伊藤園出身であり、角野氏も米国シリコンバレーで、ペットボトルのお茶の販売を大きく伸ばした経験がある。静岡県の茶畑でお茶の体験や商品の販売を組み合わせた企画をしている。現在、お茶を使ったノンアルコール飲料を世界に広げようとしている。今年夏に作ったノンアルコール飲料は1本990円という値段でも、1カ月で2000本全てが売り切れた。角野氏は「柑橘の甘味や酸味に加え、お茶のカテキンの渋みを加えて切れのある味にしていたためだ」としている。
同社はこれまでお茶で様々なビジネスを展開してきたが、今回のノンアルコール飲料では「海外の高級レストランにも売り込み、日本のお茶のブランド価値を高めたい」としている。世界的には抹茶がブームになっているが、煎茶を作っている農家の支援にもつながるとしている。
欧州やアジアでは日本のお茶に対する関心が非常に高くなっている。角野氏は「海外のシェフやバーテンダーなどのコミュニティに入って、お茶を使うノンアルコール飲料を普及させていきたい」と強調した。これにより、海外の観光客が静岡などの茶畑などを訪問する機会が増えて、お茶の市場を盛り上げることができるとみている。
米国でのお茶の営業でも成果が出るまで5年ぐらいかかったとしている。「スモールスタートでも着実に成長させていきたい。ブランディングには時間をかけていくことが重要だ」(角野氏)という。
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