
日本経済新聞社が主催する「NIKKEI THE PITCH GROWTH(グロース)」の決勝大会では児童虐待や認知症高齢者など様々な社会課題を解決するスタートアップが多かった。ただ、ブロック大会での表彰企業も劣ることないほど斬新なビジネスモデルで注目された。
斬新なビジネスモデルで社会課題を解決
廃棄物アートや自然葬 見逃された価値を発掘

500人のアーティストと連携、廃棄物を芸術品に
「廃棄物のアート作品は、子供たちも含めて憧れてもらえるような存在にしたい」。2024年11月に開催された中国・四国ブロック大会に出場して「オーディエンス賞」を獲得したACTA PLUS(アクタプラス、山口県周南市)の吉本龍太郎共同代表はこう強調する。
1966年に創業した廃棄物処理・リサイクルの中特ホールディングスの一つの事業部だったが、24年10月には大型プロジェクトも本格化したために法人化した。経営を担うのは吉本氏と、同じく共同代表を務める橋本季和子代表取締役で、中特ホールディングスの創業者一族だ。橋本氏は韓国の大学で学び現地で就職した照明・空間デザイン会社でスキルを磨いた。国内外で500人というアーティストと手を組み、廃棄物の価値を高めるビジネスを展開している。
三井不動産とアートの祭典を開催、才能ある若手を発掘
同社が話題になったのは三井不動産と共同で24年11月下旬から東京・日本橋で開催した廃棄物アートの公募展「ACTA+ ART AWARD2024」だ。国内外の有力なアーティスト107人が応募したうち、11人の入選作を展示した。いずれも廃棄物の背景にある問題から強いメッセージを導き出し、巧みに表現している。例えば、準グランプリに輝いた木村晃子氏の作品「GOLDEN SUNFLOWER」は不法投棄された尿入りペットボトルの中身(人尿)で育てたひまわりと、その育成を助ける保温カバーのペットボトルを組み合わせている。

吉本共同代表らは21年から毎年、廃棄物アートのコンテストや展示会を地元の山口県周南市で開催し、国内外のアーティストとネットワークを築いた。イタリアでワインのためのブドウの栽培で使う針金を使った畠田充康氏や、ペットボトルを溶かして色あざやかな絵画などを制作する菅野湧己氏ら人気作家とも連携してきた。こうした作品を展示会や、同社のサイトで販売するとともに、SDGsを意識する個人や法人向けに様々な提案をしている。
例えば、マツダが2月6日に東京・南青山で開設したブランド体感「MAZDA TRANS AOYAMA」では4人の若手アーティストによる企画展を開催した。マニュキュアやレシートなどの廃棄物を魅力的な現代アートにしている。「こうした企画展を開催してもらうことで、私たちが目指す『憧れに』という世界観をアーティストとともに実現できる」(吉本共同代表)という。
SDGSにおけるアートでは障害者を作家として契約し、世界で活躍できるようにしているヘラルボニー(盛岡市)が有名であり、アクタプラスとしても多くを学んでいるという。吉本共同代表は「ラグジュアリーとサステナビリティが近い価値を持ったものとして社会で認識されつつある。廃棄物アートは日本人の感性を生かせる。有力コンテンツとして世界で認められるようにしたい」と強調する。
映画館ビジネスの常識を転換 地域再生にも貢献

博報堂出身の五十嵐壮太郎氏が2018年に創業したシアターギルド(東京・渋谷)は映画館ビジネスの常識を転換するビジネスで注目されており、「西武信用金庫賞」を獲得した。同社の「サイレントシアター」は高性能のヘッドフォンを使って没入感を得られ、どこでも映画館を作れることが特徴だ。例えば、東京の下北沢駅前の広場など屋外でも上映会を試験的に実施している。「国内の映画館ではシネコンが中心だが、防音など初期の設備投資があまりにも大きく、どこにでも作れない。サイレントシアターであれば、映画ビジネスを大きく広げられる」と強調する。
大型小売店の空きスペースも活用、集客の目玉に
同社で有力顧客となるイオンには国内で400カ所程度のショッピングセンター(SC)がある。このうち、320カ所程度では空いた店舗スペースにサイレントシアターの設置が可能としており、まずは50カ所の導入を検討している。千葉県館山市にあるイオンのSCでも実験的に設置し、多くの入場者を集めた。同市周辺には映画館がなかった。玉川高島屋(東京・世田谷)でも屋内のロビースペースで子供向けCGアニメなどの上映会を1月に開いて盛況だった。五十嵐CEOは「SCでも、百貨店でも映画は来店を促す大きな誘因になる。100平方㍍ぐらいのスペースがあれば、十分に100人ぐらいが楽しめる映画館になる」という。

アニメの聖地にも映画館、インバウンド需要を取り込む
シアターギルドは三井不動産とも提携し、タワーマンションの屋上や大型駐車場でのトレーラーにサイレントシアターを設置している。今後、注力するのは地方再生にも貢献できる映画館だ。例えば、地方にある人気アニメなどの聖地は人気スポットだが、こうした場所で関連コンテンツを上映すれば、インバウンド客でも大きな集客を見込めて地方経済に恩恵を出せる可能性がある。
五十嵐CEOは2011年にユーザーが映画館で観たい映画に投票を行い、ランキング上位の作品を上映するサービス「ドリパス」を立ち上げて成功させた経営者として知られる。「シネコンを一つ作る費用で数えきれないほどのサイレントシアターを展開できる。映画制作の新たな才能にもチャンスを与えることができる」としている。
お墓参りを森林浴に、「自然に還りたい」を実現

国内の寺院所有の放置林に埋葬する「循環葬」を展開するのが神戸市のat FORESTだ。近畿ブロックで「SMBCベンチャーキャピタル賞」を獲得するなどスタートアップとして注目されている。同社の小池友紀CEOは、「心から自然に還りたいという多くの人たちが望む弔いを実践しており、多くの方々に生前に申し込んでもらえている」と語る。
現在は大阪府北摂にある日蓮宗の霊場である能勢妙見山で23年7月から循環葬を開始した。約50人の申し込みがあり、実際に10人が埋葬された。埋葬場所は森林の中でも駐車場に近く、遊歩道や森林浴スペースも整備されている。料金は25年2月時点で50万円程度だ。循環葬では神戸大学・土壌学の鈴木武志助教、同大学・森林資源学の石井弘明教授がアドバイザーとして指導している。土壌にやさしい埋葬法や、自然林に戻すための森林整備・保全を行っており、これが申込者の信頼につながっているという。
同社は年内にも関東の寺院でも循環葬ができるように準備をしている。法律的に宗教法人が経営主体であり、at FORESTが循環葬サービスを請け負う。小池CEOは「循環葬では埋葬する森林を知ったり、整備したりするイベントや活動に参加できる。こうした体験を通じて、埋葬葬場所への愛着を深めたり、お墓参りを森林浴として楽しんだりすることができる」としている。
産後鬱の直後に起業を決意、ママ友コミュニティで悩みを解決

自らが初出産時に苦しんだ経験を糧に、産後ケアを提供するCocokara(札幌市)を起業したのが高橋奈美代表だ。北海道ブロック大会でも自死寸前に追い込まれるほどの鬱のつらさと産後ケアの大切さを強く訴え、「レオスキャピタルワークス賞」を獲得した。同社は京王プラザホテル札幌と連携し、北海道で唯一となる産後ケアのホテルサービスを開始しており、すでに88組が利用している。助産師に育児相談ができたり、定期的に開催する交流イベントに参加できたりするコミュニティサイトも運営。の産後ケアホテルプランに満足したママらを中心に20人程度が利用している。
高橋代表は21年11月に初出産し、その3か月後から重い産後鬱に苦しんだ。「札幌で自分が利用したいと思う産後ケアサービスが見当たらなかった」ことが起業の理由だ。子供が1歳にもなっていない22年10月にイベントを初開催して産後ケアホテルづくりの仲間を集め始めた。「小さな赤ちゃんを抱えて大変なママと同じ目線でいられるうちに事業を立ち上げたかった」という。
同社は日経のピッチに参加して認知度を高めたことで産後ケアホテルを福利厚生で契約する顧客も見つけることができた。北海道だけでなく、九州などからも産後ケアホテルなどを立ち上げたいという相談も7件も舞い込んでおり、コンサルティングサービスも展開中だ。高橋代表は「日本は海外と比べても遅れている産後ケアを、この苦しみを経験した女性たちと一緒に充実させていきたい」と強調する。
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