NIKKEI THE PITCH

東北発「共同戦線」を ATERUI2026、参加者倍増で協業の輪広がる

2026年9月3日~4日、東北から世界に挑戦する起業家らを支援するビジネスカンファレンス「ATERUI2026」が仙台市内で開催された。起業家やアトツギ経営者をはじめ、投資家や自治体関係者らが数多く参加し、参加者は2日間で1157人と昨年の2倍以上に増えた。ピッチやトークセッション、32件に上るブース出展など多彩な企画が繰り広げられ、東北発の新たな協業の動きが相次いだ。

ATERUIは、奈良時代末期から平安時代初期にかけて、朝廷軍と勇猛に戦い東北を守った英雄、阿弖流爲(あてるい)に由来する。今年のテーマは「共同戦線」。同胞を守るために立ち上がった阿弖流爲の精神を継承し、東北の抱える課題に対して、企業、行政、金融機関などの関係者が当事者として前線に立つ、という決意表明だ。

主催したスパークルの福留秀基代表取締役
主催したスパークルの福留秀基代表取締役

地域の価値を未来へつなぐ「跡継ぎ」と、革新的なアイデアで新たな時代を切り拓く「起業家」。両者にはそれぞれ異なる強みがある。初日に行われた「東北跡継ぎ×起業家ピッチ」では、社会課題に挑む起業家と跡継ぎ計7人が登壇し、熱気あふれるピッチを繰り広げた。企画には、阿弖流爲(アテルイ)の武勇を象徴する「矢」と「弓」のように、まっすぐに未来を射抜いてほしいという思いが込められている。審査員から登壇者へ協業や支援を申し出る場面もあり、イベントが掲げる「共同戦線」のとおり、共創の輪が広がった。

起業家部門を対象にした「矢賞」を受賞したのは、東北大学発スタートアップ・エムスクエアの三井純一代表取締役だ。同氏は、オンライン服薬指導をはじめとする薬局業務のDXを手がける三井薬局合同会社の代表でもある。医療機関の撤退が相次ぐ地方の課題に対して、メディカルコンシェルジュが同乗する可動式のオンライン診療拠点の展開に取り組んでいる。エムスクエアの「トレーラー型医療診断施設」があれば、過疎の地域でも医療施設として機能させることが可能だ。三井氏の「撤退して困っている地域から攻める」という逆転の戦略と、医療アクセスを地域に取り戻したいというビジョンが評価された。

エムスクエアの三井氏は、2026年3月に開かれた「NIKKEI THE PITCH GROWTH」の決勝大会にも北海道・東北ブロックの代表として出場した
エムスクエアの三井氏は、2026年3月に開かれた「NIKKEI THE PITCH GROWTH」の決勝大会にも北海道・東北ブロックの代表として出場した

跡継ぎ部門対象の「弓賞」には、エレクトロニクス領域に強みをもつミッドホールディングス(岩手県盛岡市)の水野剛代表取締役が選ばれた。水野氏は、東北でいくつものスタートアップを起業してきた連続起業家だ。「岩手・東北はつまらないと諦めている人を変えたい」「東北から本気で100億円企業を目指したい」という情熱が評価を得た。

ミッドホールディングスの水野氏はエレクトロニクス分野で事業承継を進め、100億円企業を目指している
ミッドホールディングスの水野氏はエレクトロニクス分野で事業承継を進め、100億円企業を目指している

水野氏は筑波大学大学院修了後、AGCやユニクロなどでの勤務を経て、実父の会社に入った。同社の強みであるBluetooth技術を活用し、製造現場などの効率化につながるIoT事業で多くの実績がある。エレクトロニクス産業分野の地方企業の事業承継やM&Aを通じてグループを拡大し、専門的な技術者集団として顧客ニーズに対応していく考えだ。

ATERUI2026では、数多くのトークセッションも行われた。オープニングセッションは「東北の現在地 in 2026」。スパークルの福留氏のほか、地方創生の起業家として注目されるSHONAI(山形県鶴岡市)の山中大介代表取締役や、仙台市経済局産業政策部の白川裕也氏らが登壇した。山中氏は、都市部に集中する優れた経営人材を紹介したり、100億円を目指す企業の経営者のネットワーク組織を立ち上げている。

オープニングセッションに登壇したSHONAIの山中氏は、東北を本拠に、地方創生のカギとなる100億円企業を増やすための取り組みを行う
オープニングセッションに登壇したSHONAIの山中氏は、東北を本拠に、地方創生のカギとなる100億円企業を増やすための取り組みを行う

アトツギ支援や学生起業家をテーマとしたトークセッションも多かった。一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事らが登壇し、従来の一方的な支援の枠組みを超え、より深く寄り添う伴走のあり方が提案された。若者に「帰ってきて」と願うのではなく、大人側が「ここで一緒に挑戦しよう」と声をかけよう、というメッセージが数多く発信された。

起業家や学生をつなぐ企画も実施された。その目玉が今年新設された「壁打ち道場」だ。「起業家の卵」である学生たちが、自らの事業アイデアや悩みを経験豊富なメンターたちに相談できる。メンターにはTOMUSHI(トムシ、秋田県大館市)を創業した石田陽佑代表取締役ら注目の起業家が務めた。

カブトムシベンチャーであるトムシの石田氏は、NIKKEI THE PITCH GROWTH2024-25でSMBCベンチャーキャピタル賞を受賞した
カブトムシベンチャーであるトムシの石田氏は、NIKKEI THE PITCH GROWTH2024-25でSMBCベンチャーキャピタル賞を受賞した

2日目には、仙台市の共創拠点・コミュニケーション・デザイン・ラボ「MEDIUM」を舞台に、研究開発型スタートアップによるプレゼンや、「ウェットラボ」と呼ばれる実験空間を巡りながら研究者・起業家と交流できるツアーなどが行われた。

現場の雰囲気を五感で感じることができるツアー「仙台市東部エリアフィールドワーク」も実施された。参加者が訪れたのは、東日本大震災で最も深刻な津波被害を受けた地域の1つ、仙台市若林区東部だ。震災の記憶を継承する交流館や震災遺構、再生した海岸などを歩き、ATERUI2026が掲げる「共同戦線」を身体感覚として持ち帰る場となった。

ATERUI2026の実行委員会を代表して、スパークルの福留氏は「カンファレンスが開催でき、盛況だったことが本当にうれしい」と振り返った。さらに「東北が抱える課題は一人の力で変えられない現実がある。あらゆる壁を越えて未来に向け手を組む必要がある。ATERUIは仲間を増やすためだけではなく、覚悟を持って、ともに背負う相手を見つけるための場として続けていきたい」と今後の意気込みを話した。

ATERUI2027は、山形市で開催される。過去2年間は仙台市での開催だったが、東北全域への展開を見据え、東北6県を持ち回るキャラバン形式にすることも検討されている。

ATERUI2027