NIKKEI THE PITCH GROWTH
九州・沖縄ブロック
予選大会リポート
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の九州・沖縄ブロック予選が11月26日に岡山市内の岡山コンベンションセンターで開かれた。 九州・沖縄地区の予選には7社が出場した。昨年は沖縄県糸満市で海ぶどうを世界の食材として広げている日本バイオテックの山城由希社長が決勝大会でオーディエンス賞を獲得した。 今年も多くの起業家が熱意あふれるプレゼンを見せた。ブロック大会の登壇順に紹介する。
九州・沖縄ブロック 予選出場7社
えぬじー⇒F.MED⇒トイメディカル⇒ヒサノ⇒MIMSAPORT⇒和布刈神社⇒ZIFISH(登壇順)
九州・沖縄地区予選のピッチ動画は以下のページからご覧になれます。
https://pitch.nikkei.com/contest/NIKKEI%20THE%20PITCH%20GROWTH/pitch-run/kyushu-okinawa/
えぬじー
フェイク画像を排除する
カメラアプリを開発
えぬじー(長崎市)はフェイク画像のように編集されていないことを証明するカメラアプリを開発している。これまで世界では、米国の国防総省で爆発が起きたという偽の画像が拡散され、米国の株価が大幅に下落するという事件が起きたことがある。同社の小池勇琉代表社員は「たった1枚の偽画像が拡散され、それが大きな負のインパクトを社会に与えかねない」と指摘した。
日本でも偽画像は能登半島の大地震でも被災していないのに、フェイク画像を使って寄付を集める投稿をしていた。政府は最近、偽画像対策に力を入れている。小池氏は「私たちのアプリでは解決策としていつどこで撮影しても編集がないことを証明できる」としている。同社が作成したカメラアプリを使えば、 いつどこで撮影され、さらにAI生成編集されていないことを確認できる。
仕組みとしては、画像に固有のIDを発行して送ってもらい、 受け取った人は専用サイトで画像に編集がないことを確認できるようにしている。小池氏は昨年、国内でも登記可能になった合同会社型DAOといったネットワークを使い社内外のエンジニアのネットワークで事業を進めている。
小池氏は「ソニーを含めて競合がかなりある。ただ、撮影した瞬間にNFTとしてスマホなどに撮影した瞬間のデータを残さないことが独自技術となる」と語った。
F.MED
神の手を持つ医師へ
極微細な手術を支援
F.MED(福岡市)は顕微鏡を使用する極微細な手術、つまりマイクロサージャリーを安全にできる支援ロボットを開発している。この極微細な手術は非常に難易度が高く、手術できる医師が限られていた。これをより安全にできるようにし、多くの患者が必要な手術を受けられるようにしている。
同社の下村景太代表取締役CEOは「医療現場でもAIやロボットの導入が進んでいるが、まだ医師の職人技に頼らざるを得ないマイクロサージャリーがある」とし、「最近では手術専用ロボットも導入されているが、カメラの解像度がまだ不十分で、極微細な手術には適していない」と語った。同社のマイクロサージェリーに適したロボットではすでに直径が0.3ミリという細い血管の繋ぎ合わせなどができている。下村氏は「この領域になってくると、熟練の医師でもなかなか難しい」という。ロボットは開発中だが、販売では日本から始めて米国市場も開拓する方針だ。
トイメディカル
日本古来の海藻食文化で
夢の減塩を実現へ
トイメディカル(熊本市)は海藻由来の食物繊維「アルギン酸類」を使い、食事中の塩分に吸着して便とともに体の外に排出する技術を開発している。高血圧で減塩対策に悩む多くの人たちにとっては期待が大きい技術だ。同社の竹下英徳社長は「現在、私たちは塩分を安心して食べられることはない。世界の死因で圧倒的な1位と2位は心疾患と脳卒中だ。1日に塩分を5グラム以上摂ると、心疾患と脳卒中のリスクが大きく上昇する」として、同社は通常の減塩対策とは異なり、日本古来の海藻食文化に解決の鍵を見出した。
具体的には「海藻を食べると、そこに含まれるアルギン酸が塩分のナトリウムを吸着する。消化管内での塩分吸着効率を高める配合を見つけ、幅広い食品に使用できるようにした」(竹下氏)という。これはすでに特許を取得している。これまではサプリメントとかで使ってきたが、今年からは食品添加物として本格的に販売していく計画だ。「減塩が必要な友人でも、熊本ラーメンを気にせずに食べられるようにしたかった」という。
同社は25年10月に米サンフランシスコ市で開かれたスタートアップの世界大会で準決勝に進出した。減塩はまさに世界的な課題であり、同社の独自のアプローチは注目された。
審査員からは原料となる海藻の仕入れなどについての質問があった。竹下氏は「熊本の天草地区で海藻の養殖をして地域経済を復興させることも考えている。地元で安価、安定的に原料を確保でき、世界の健康に寄与していくようなことをしたい」と語った。
ヒサノ
半導体装置など精密機器の輸送
専門人材の育成に強み
ヒサノ(熊本市)は半導体製造装置など精密機械の運送に強く、九州を中心に運送事業を手掛けている。熊本では世界半導体大手である台湾TSMCが進出し、精密装置の輸送需要も拡大している。同社が蓄えてきたノウハウが注目されている。久保誠代表取締役は「私たちは熟練の技術をもった社員たちが専用のトラックや機材を使い、全国各地の半導体工場に精密機器を輸送している。これをワンストップでできるところが強みであり、日本の半導体産業を支えている」と語った。
久保氏はもともと、熊本県庁の職員だったが、妻の実家であるヒサノの経営が悪化して入社し、経営トップとなったアトツギだ。運送業界として人材育成などに注力し、中小企業白書にも取り上げられている。
TSMCの熊本工場建設で物流大手の体制強化が進んでいる、久保氏は「物流大手と共創するというより、私たちの強みを生かして共生することが大切だ」という。同社の強みである半導体工場内での装置の搬入や組み立ての部分に注力して安定した経営を続けている。
MIMSAPORT
障害や難病でも楽しめる
夢のチケットを実現
MIMSAPORT(ミモサポート、福岡市)の上仮屋遥代表取締役は「年齢や障がいでやりたいことを諦めてしまう人を一人でも多く救いたかった」と語った。上仮屋氏はもともと、理学療法士として長い現場経験があり、その後は在宅でのリハビリを担う認定訪問療法士として働いた。左手の指一本だけしか動かせない難病の患者と出会った。この患者にとって幸せとは何かを聞いたら、故郷でなし狩りをしたいという言葉だったという。このため、会社に相談して、なし狩りの旅行を実現して喜んでもらえた。こうした経験から、病気や障害で多くをあきらめている人に生きがいをもってもらえるサービスをしたいと思い、23年にMIMSAPORTを設立した。現在は介護タクシーや旅行の付き添いなどを主力事業としている。
こうした難病の患者の旅行には多額の費用がかかる。旅行だけでなく、コンサートや舞台などエンターテインメントでも体験できるようにするにはサポートが必要だ。「障害があったり、難病だったりしても社会がよりサポートして多くの人たちが幸せを感じられるようにしたい」という。
同社ではアーティストのライブチケットで、難病の人たちの受け入れをサポートする寄付をつけるなど様々なプロジェクトを考えている。1月には音楽ライブで実証実験をする予定だ。
上仮屋氏は「こうした取り組みを全国に広げて、当たり前になるようにしたい」と語った。
和布刈神社
由緒ある日本の神社存続へ
新たな経営モデルを提示
宗教法人の和布刈神社(福岡県北九州市)は国内の多くの神社が直面する経営難に挑み、経営を立て直しただけでなく、そのノウハウを横展開するスタートアップも設立した。和布刈神社は創建が1800年前と由緒があり、関門海峡が広がる場所にある。神社の32代目である高瀬和信・禰宜(ねぎ)は「仏教が伝わる前からあった日本の神社を残したいと思い、様々な取り組みをしてきた。現在は国内で数多くある神社は何もしなければ、多くがなくなってしまう。私の経験を少しでも生かしたい」と語った。
和布刈神社は高瀬禰宜が神社に戻った2009年には年間収入が500万円程度にすぎなかったが、海洋散骨などに取り組み、現在は1億7000万円程度にまで増えた。当初はたくさんの経営書を読み、奈良市の中川政七商店の経営トップだった中川淳氏にも手紙を出してコンサルティングに入ってもらった。神社の由緒を大切にすることを諭され、それが海洋散骨など新たな事業となり、右肩上がりで成長できた。現在は国内で10ヶ所の神社に対してコンサルティングをしており、これは新たに設立したSAISHIKI(北九州市、サイシキ)を通じて手掛けている。
高瀬禰宜は「和布刈神社として収入は2億5000万円、フランチャイズとして他の神社からのロイヤルティでも3億7000万円を見込んでいる。神社の可能性を広げていきたい」と語った。
高瀬禰宜「神社は未来もあり続けて、ご遺族が安心して任せられるということだった。仏教が伝来する前から、神社が亡くなられた方をとむらっており、あるべき姿に戻している」と強調した。神社業界でもイノベーターとして今後の事業展開が注目されている。
ZIFISH
魚市場のDX化で
水産業の未来を拓く
ZIFISH(ジフィッシュ、鹿児島市)は鹿児島大学発スタートアップ。「100年先の食卓にも地魚を」というキャッチフレーズを掲げて、水産業のDX化を推進しようとしている。日本沿岸では約500種類もの水産物が水揚げされているが、漁業の現場は深刻な人手不足があり、経営環境も厳しい。このため、AIやIoTなどの最先端のデジタル技術を活用し、産地で水揚げされた魚の情報をデジタルで一元管理する「水産物情報プラットフォーム」などを構築している。
中村元取締役は「日本の水産業では特にセリなどを担う漁協での人手不足が深刻であり、ここの作業を軽減することに取り組んでいる」と語った。鹿児島のような地方の市場では漁協職員は朝5時には出勤し、漁師が持ってくる魚を計量器にかけて一つ一つ手書きで重さを書いたりしているという。その後にたくさんの魚を並べて、セリをして、その後も様々なデータをパソコンに入力したりして、夕方まで休めない。休みは日曜だけだという。
中村氏は「これでは若い人は絶対に来ない。漁協の仕事をまず楽にするために、スマート計量システムを開発した」という。これは計量器の上に魚を置くだけで、AIで画像を解析し、魚種などの様々なデータを扱えるシステムだ。こうした情報は遠隔地の買い手にも共有され、より高く売れる機会にもなるという。漁師にとっても売れ筋の魚などの情報をスマホで確認でき、その日の漁の参考にできるという。こうしたシステムが普及すれば、水産庁による資源管理にもつなげられる可能性があるという。
中村氏は「私たちのシステムは世界でもニーズがある。漁協の仕事の負担軽減や資源管理は世界で共通する課題だからだ」と語った。
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