
日本経済新聞社は6月21日、広島市で日本経済の未来を担うスタートアップを支援するプロジェクト「NIKKEI THE PITCH」のセミナー&交流会を開催しました。中四国地区において注目されるスタートアップ企業の経営者や支援役の行政の担当者の皆さんにパネル討論会に登壇していただきました。地域交通網の再生や人手不足が深刻な建設現場の業務効率化といった課題の解決につながるビジネスモデルや新技術だけなく、地方における起業を成功させるヒントなどについても詳しく語っていただきました。
中四国で官民一体のスタートアップ育成、支援ネットワークも200機関以上
- スタートアップ支援のセミナー&交流会は「NIKKEI THE PITCH Meetups」です。全国7会場で開催する第1回目として広島市のサッカースタジアム「エディオンピースウイング広島」で開催しました。セミナーの冒頭では中国経済産業局の阿比留彩子・地域経済部次長がスタートアップ支援プログラム「J-Startup WEST」について説明しました。「(J-Startup WESTプログラムは)今まさに盛り上がりを見せている最中です。支援者ネットワークの参加は200機関を超え、スタートアップの支援体制構築も着実に進んでいます」。2023年10月には中国地域の22社、今年5月には四国地域でも11社が選定され、キックオフイベントも開催しています。阿比留次長は「今後も、さまざまな地域のイノベーションの担い手となるスタートアップの大きな飛躍を後押しするため、各所と連携して取り組んでいきます」と強調しました。

阿比留 彩子⽒
Z世代の起業家も台頭 地方経済を救う新たな力に
- 岸田内閣が22年11月にスタートアップ育成強化の方針である「5カ年計画」を打ち出し、地方でもかつてない起業ブームが広がっています。スタートアップへの投資額であるリスクマネーを10兆円規模に引き上げ、スタートアップを10万社創出するという野心的な目標は簡単に達成できるわけではありませんが、官民一体の手厚い支援や、デジタル技術に優れた若いZ世代の台頭は強い追い風です。日本は深刻な人口減少と超高齢化に直面しており、特に地方経済が危機的な状況にあります。ただ、こうした状況を打破するためにもスタートアップが地域創生のけん引役として躍動することが必要です。今回のパネル討論でも起業家の皆さんのこうした熱い思いが伝わってくるのではないでしょうか。
トークセッション第1部ソーシャルビジネス最新潮流
- 登壇者
- 一般社団法人まめな
第3回日経ソーシャルビジネスコンテスト 学生部門受賞福島 大悟氏
- 内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官(総括担当)付
(併)経済産業省大臣官房スタートアップ創出推進室佐々木 萌音氏
- 株式会社マクライフ
牛垣 希彩氏
- モデレーター
- 中国経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課長
高城 幸治氏
地方こそ課題解決型ベンチャーに勝機 優しいコミュニティがゆりかごに
- 高城本セッションのテーマはソーシャルビジネスです。佐々木さんが行政の立場からどのような取り組みをされているのか教えてください。
- 佐々木現在は内閣府に出向していますが、経済産業省の業務として学生向けの社会起業家育成プログラム「ゼロイチ」の運営に携わっています。現在では社会課題の解決と持続可能な成長の両立を目指す「インパクトスタートアップ」への注目が非常に高まる中、学生は社会起業に対する関心が強くリスクも取りやすい傾向にあります。行政の立場で優秀な学生を支援して広げる、社会的起業家の拠点づくりが私のミッションです。

- 高城福島さんと牛垣さんはどのような想いで地域社会の課題解決に向き合われているのでしょうか。
- 福島広島県にある大崎下島という島で「mamena commons」というインキュベーションコミュニティを運営しながら、そこに住む高齢者の暮らしをお手伝いしています。コミュニティで重視しているのは「面白そうだからやってみる」という考えです。アイデアを出して楽しく取り組めば活動が盛り上がり、当初は予想していなかった地域の課題が解決される。遠回りなように見えますが、楽しんで取り組むことでさまざまな社会・地域課題の解決につながるのです。

- 牛垣振り返ると、想いを言葉にし続けることが大事だったように思います。私たちは従来の天井と異なり、吊り金具が不要で自在に設置できる膜天井を提供しています。その裏側にあるのは地震で悲しむ人を少しでも減らしたいという思いです。一方で、岡山は地震が少なく危機意識が持ちにくい。それでも大きな地震がいつ来るかわからない恐怖は感じているはずです。当初はなかなか受け入れてもらえないこともありましたが、声を上げ続けることで「一緒にやってみよう」と言ってくれる企業も増えてきました。共に取り組んでくれる仲間が増えれば増えるほど、社会が動いていく面白みを感じています。
- 佐々木地域×社会課題解決型のビジネスはとても親和性が高いと思っています。とある学生は、高齢者の方々にもっと自分の町に誇りを持ってほしいと、祭りの担い手不足を解決する事業を手掛けていました。自分が住んでいるからこそこうした問題意識が持てるのは素敵なことです。今回のようなイベントを通じて地域コミュニティを形成しながら、行政としても民間と手を取り合って社会課題を解決していきたいと思います。
- 福島今後は学生や企業との共同実証なども進めていく中で、「どうすればその地域に愛着を持ってくれる協力者を集められるか」ということを常に考えています。我々が地域に提案したいのは、その土地ならではの風土を活かした新たな暮らしです。さまざまな地域で町おこしや地域再生の取り組みがなされていますが、地域の外からノウハウを持ち込むことだけに頼るのではなく、土地に根付いた独自の文化を大事にすることが重要だと思います。



トークセッション第2部スタートアップ企業・アトツギ企業最新潮流
- 登壇者
- 株式会社電脳交通 Business Developmentチーム
西本 裕紀氏
- 株式会社オーディオストック 代表取締役社長
西尾 周一郎氏
- ONESTRUCTION株式会社 代表取締役CEO
西岡 大穂氏
- モデレーター
- 四国経済産業局 地域経済部 新事業推進課長
濱田 康次氏
地場企業のネットワークこそ最大の強み 金融機関やメディアの支援で全国区に
- 濱田電脳交通は徳島県を拠点にタクシー会社向けの配車システムを提供しています。事業会社との連携を通じた事業成長のポイントについて教えてください。
- 西本実績の少ないベンチャーがタクシー業界に入り込むのは容易ではありません。我々はジャパンタクシーやJR西日本イノベーションズなど、会社として向き合っている課題に共感いただける多くの事業会社から資金調達を行っています。この「仲間集め」が非常に重要でした。同じ交通業界にいるJRや自治体と共に業界に入りこんでいくことで、サービスの導入だけではなくシステムを活用した地域での実証など、業界にとって新たな取り組みを進めることにつながりました。

- 濱田皆さんは中国・四国地方に本社を構えられています。地方に拠点を持っているからこそできることなどがあれば教えてください。
- 西尾我々は音楽クリエイター達と直接契約し、テレビ局やラジオ局などが音源を使い放題で商用利用できるサービスを提供しています。実は一度岡山から東京に拠点を移したのですが、コロナ禍のタイミングで岡山に戻ってきました。2010年代の東京はITがものすごく盛り上がっていて、ビジネスを次のフェーズに押し上げるための資金は地方に比べて得やすい環境だったと思いますが、岡山に戻って思うのは「地場の金融機関がとても応援してくれる」ことです。地域のつながりを持てるというのは大きな強みだと思います。

- 西岡建設業界では工期の短縮やコスト削減の取り組みが進んでおり、我々は建設会社が3Dデータを活用できるような支援やプロダクト開発を行っています。創業からの3年ほどは融資だけで事業を行っていました。業界の解像度を高めながらスモールビジネス的に展開する中で事業アイデアを得て、エクイティファイナンスを通じた事業拡大に踏み切ったのがここ1年ほどの動きです。資金調達という観点では、建設系のCVCから調達することも検討しましたが、我々はさまざまな顧客を抱えているので、特定の企業から出資を受けてしまうと他社との仕事に影響が出る場合があります。創業初期は地銀との親和性を重視して融資中心に事業を始め、どこかのタイミングでエクイティファイナンスを検討するモデルは地方企業にとって特に良い手段なのではないでしょうか。
- 西本東京などの都市に限らず、地域ならではの課題は多くあるはずです。たとえば、徳島県は一日のタクシー車両の営業収入がかなり低い課題先進県で、そうしたきっかけから電脳交通の事業が立ち上がりました。その土地で感じた課題に愚直に向き合うことで、起業や新規事業が生まれるきっかけが増えると嬉しいです。
- 西尾広報的には、地元メディアと定期的にコミュニケーションをとりながら取り組みについて伝えることは重要だと思います。地方で取りあげられたことがきっかけで全国に情報が届き、テレビ番組出演につながったこともあります。こうしたメディア露出も通じて、地域の偉大な大企業に肩を並べられるような企業となることを目指して取り組んでいきたいと思います。



日本経済新聞社では今後も各地でセミナー&交流会「NIKKEI THE PITCH Meetups」を開催し、起業に向けて役立つ経営のヒントやネットワーキングの機会を提供していきます。
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