NIKKEI THE PITCH GROWTH
北海道・東北ブロック
予選大会リポート
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の北海道・東北ブロック予選が2025年12月9日に都内の九段会館テラスで開かれた。北海道・東北の予選では9社の起業家が登壇した。北海道・東北ブロックはこれまでディープテック系で注目されたスタートアップも多い。昨年の大会ではカブトムシを使い有機物の処理などを手掛けるトムシ(秋田県大館市)が決勝大会でSMBCベンチャーキャピタル賞を獲得した。予選大会でオーディエンス賞を取ったサリバテック(山形県鶴岡市)は人間の唾液を検査してがんのリスクを診断する技術が評価された。激戦区として注目された予選ブロックをリポートする。
北海道・東北ブロック 予選出場9社
VISTA⇒ウェザーコック⇒航和⇒COCOHARE⇒フォレストデジタル⇒サムライアロハ⇒炎重工⇒三井薬局⇒RESTA(登壇順)
北海道・東北地区予選のピッチ動画はこちらから
VISTA
救命救急の現場は忙殺 民間配送を新たな解決策に
最初に登壇したVISTA(秋田市)の戸井田涼代表取締役は「救急車を呼ばなくていい社会をつくりたい」と語った。
昨年の救急出動件数は770万件を超え、過去最多を更新したという。その半分以上は軽傷であり、タクシーが捕まらないといった理由で救急車が呼ばれるケースもあり、結果として重傷者への対応が遅れたりすることもあり、救急現場は限界を迎えているとされる。
戸井田氏はかつて救急隊員として10年間の勤務経験があり、こうした状況に精通している。地方では高齢者の移動手段の確保が難しく、救急車に頼らざるを得ないこともある。こうした状況を解決するために必要とするのが「民間搬送」だという。通院など非緊急の移動を専門としているが、知名度が低い。日本では民間搬送市場が整備されていないことが課題だという。ただ、米国では民間搬送が巨大市場であり、有力企業も参入している。
戸井田氏はワンストップで民間搬送を担えるようにした。そこでは質の高い民間搬送事業者を育成して強いネットワークを築いていきたい考えだ。技術的にはデジタル対応して、民間搬送をスマホで簡単に予約、依頼できるマッチングプラットフォームを実装した。電話一本で全国の介護タクシーを申し込めるコールセンターも稼働させた。これにより最適な事業者からの配車が可能になるという。
最後の課題は行政との連携だ。公的機関や救急から民間へ依頼を促す。これができれば、民間搬送が広がる契機になる。VISTAの事業は単なる配車サービスではなく、日本初の非緊急搬送インフラを整えたいという。
戸井田氏はビジネスモデルとして民間搬送を手掛ける事業者と、搬送の依頼者から手数料などを受け取ることを考えている。
ウェザーコック
精密模型の職人集団 日本のコンテンツビジネスに新たな世界を
ウェザーコック(札幌市)は博物館などで展示される模型などの製造を受託する会社だ。同社の山崎記敬代表取締役が2024年10月に会社を引き継いだ。山崎氏は「北海道ではこうした精密な大型模型ができる会社がなくなるのは残念だと思って事業を承継した。若手人材の採用なども進めており、文化財のレプリカ模型など多くの仕事をしていきたい」と強調した。
国内では模型製作会社は大きく減少しており、衰退産業とも言われている。ただ、山崎氏は「精密な模型で使われる立体造形の技術は模型以外でも利用でき、その可能性を追求している」としている。重点的に取り組んでいるのが、3D立体造形技術であり、アニメやゲームなどのキャラクターの大型人形などを作れるようにしている。現在ではこうした模型の制作依頼が海外に流れており、それを取り戻したいという。日本が強いコンテンツビジネスで新たな可能性を提示することにもなりそうだ。
事業領域としてはやはり、大型造形物やジオラマ模型など個人の愛好家ではできない領域を狙っている。法人向けのビジネスを想定している。「イベントで使うような大型の造形物とか、光ったり動いたりする制御タイプの模型などは受注できる可能性がある」という。
山崎氏は「当初、社員は7人の職人集団だったが、現在は20代の若手を6名増やして社員を13人にした。こうした投資により、事業拡大に弾みをつけたい」という。
山崎氏は「1年間やってみて、職人の方の技術が圧倒的に早くて、見た目もよくできていることだった」として、「イベント会社などコンテンツ業界を中心に販路開拓に力を入れたい」と語った。
航和
使いやすい介護クラウドサービス 現場で大きな書類の山をなくしたい
介護クラウドサービスの航和(岩手県雫石町)は介護契約に関する手続きなどをオンラインで対応でき、契約も一元管理できるという。介護サービスの利用者と、その家族の負担軽減とともに、介護施設の職員の業務効率化にもつながっており、介護に関する物品の購入やレンタルなどでもサービスを広げていくことを考えている。同社の佐々木航代表取締役は「未来の介護は自分で自分を介護する世界になる」と語った。
航和はもともと、岩手県雫石という小さな町で介護サービスを始めた。現場では職員が書類作成などの作業に忙殺され、離職率は3割近くにまで高まった。介護士からは事務作業の負担の重さという仕組みを変えるためにクラウドサービスの開発や導入をしてきた。特に介護契約に特化したクラウドサービスにより、書類の作業時間が大幅に減少したという。
2024年のサービス開始後、110の事業所で採用されており、介護クラウドでは契約手続きではなく、来年にはAIを使い会話などで記録や報告ができるサービスも実施して現場の作業効率化を進めていく。
審査員の大野氏からは特許について質問があった。佐々木氏は「介護クラウドのみビジネスモデル特許を取得している」と語った。
COCOHARE
旅行の荷物削減で新サービス 旅ランも楽しく
COCOHARE(盛岡市)は旅の荷物の不便を解消するビジネスに取り組んでいる。同社の佐羽根博一代表取締役は「東京駅や羽田空港を見ても分かるように、旅で課題となる荷物の少しでも減らせるようにしたい」と語った。具体的には衣類を減らすことが重要であり、いろいろ調べた結果、旅先でランニングする、つまり「旅ラン」の人たちを顧客として想定している。
同社の佐羽根氏のサービスは「ビットバゲッジネオ」というサービスだ。事前予約をしてもらい、旅先の現地でランニングのための衣類やシューズをシェアリングするサービスだ。走った後はホテルに返却し、そこから郵送してもらうサービスだ。広告などでのマネタイズも検討している。佐羽根氏は旅行業界での営業経験が豊富で、人脈もあり、こうした旅行分野で新たなビジネスを創り上げていきたい考えだ。
審査員からは「衣類の在庫リスク」などについて聞かれた。佐羽根氏はまず自社で在庫を抱えて、サービスが広がった段階で地域ごとに地元の事業者と連携してプラットフォーム化していくと答えた。
サムライアロハ
東北から世界へ着物を再利用したシャツがヒット、被災地の復興にも貢献
サムライアロハ(仙台市)は「東北から世界へ」を掲げて、着物を使ったアロハシャツの販売で注目されている会社だ。同社の創業者である櫻井鉄矢代表取締役は2011年の東日本大震災による津波で資産を失い、被災地の復興のためにサムライアロハで雇用を生み出してきた。
櫻井氏は「もともと長く古物商に関わってきた。そこで感じたのは日本の伝統工芸品として素晴らしい着物がたくさん廃棄されている問題だった」という。この古物商のネットワークを生かして、素晴らしい着物を買い集めて、それをアロハシャツにして国内外の人たちに美しい東北の土産物として販売している。
特にサムライアロハでは同じく被災した同級生の主婦らに働いてもらった。震災で保育園も流されて待機児童が増えたことから、こうした櫻井氏の取り組みは地元でも高く評価された。子育て中でも裁断、洗浄、柄合わせのような仕事はできるので、依頼して、福島や岩手の縫製工場でアロハの開襟シャツに仕上げている。1枚の着物から1枚しか作れない「世界に一つだけの商品」とも言われている。
櫻井氏は「成田空港や東京駅でも立地の良い場所に販売拠点があり、多くのインバウンド顧客に購入していただいている」と語った。成田空港であれば、時間帯ごとに中国や中東などのインバウンド客の国籍が異なるだけに、アロハシャツの店頭展示も変えたりしている。
櫻井氏は「私たちの強みの一つは成田空港の第2ターミナルなどインバウンド顧客にとって最後に購入する場所を抑えていることだ。これまでの長い経験からマーケティングでもしっかりできている」と語った。
フォレストデジタル
北海道・十勝から世界驚かす映像サービス 異次元の没入体験に強み
フォレストデジタル(北海道浦幌町)は十勝に本社があり、独自の仮想没入(イマーシブ)体験ができる技術やサービスを提供している。簡単に言えば、部屋の中で、花火大会を映像や音響で体験できるようなことだ。同社の空間VR(仮想現実)「uralaa(うらら)」というサービスはゴーグルを使わずに森や夕日の海岸を見られたり、大迫力のスポーツの試合を観戦したりするような体験ができる。
同社の辻木勇二代表取締役CEOは「私たちの技術を使えば、部屋の中で正面と左右の壁や天井に夏の風物詩である花火を投影して、ビールを飲みながら楽しむようなことができる。例えば、地元の十勝の花火大会の模様を、遠く離れた東京の部屋でも楽しめる」と語った。これまでにはJリーグのサッカーの試合を遠く離れた大阪・関西の万博会場にライブで届けたりしたこともある。
辻木氏は「距離や空間を超えて、没入でき共感と感動を生み出すインターネットサービスを事業としている」と語った。ここで重要になるのが、いろいろな形や大きさの部屋でも没入できるように映像を調整できる技術などだ。ライブのイベントを配信できるほか、小さなセットトップボックスを使うだけで空間に映像を映し出せるという。同社にはこれらで3つの特許を取得しており、すでにレストランや病院など50カ所以上に導入している。ビジネスモデルはハードとソフトを販売して、サブスクでも課金する。イマーシブな没入空間のビジネスは米国でも成長している。同社の開発チームはヤフー出身であり、ネットビジネスとその技術に精通している。
辻木氏は「四畳半の部屋でも一人で没入できたり、大きい部屋なら15メートル幅で100人が同時に入れたりするようなスペースでも可能だ」としている。サブスクの料金体系では「アーカイブ配信できる映像が現在、1200本あり、それを自由に映し出せる」としている。
また、辻木氏は「私達の一番のコアとなる強みの技術はクラウドからイマーシブな映像を配信できることだ。空間に合わせて映像を合わせるところが特許であり、そこでは簡単に他社が追随できない」と語った。
炎重工業
水上ドローンで橋梁や下水管を点検 老朽インフラ整備で安全な社会を
炎重工業(岩手県滝沢市)は水上ドローンを使って橋梁などのインフラの保全などのサービスを展開しており、ロボットメーカーとしても多くの実績がある。同社の萩野谷征裕取締役は「老朽化するインフラを次の世代に残したいというのが私たちの目指す未来だ」と強調した。下水管や橋梁などの老朽化が進んでおり、完成から50年以上も過ぎているケースが非常に多い。2040年にはこうした老朽インフラが全体の6割程度にまで高まるとの予測もあるという。一方で、インフラ保全を担う建設業界の従事者は大きく減少しており、いつ事故が起きてもおかしくない状況にあるという。
こうした課題に対し、炎重工業はインフラ点検の省力化を推進している。特に橋梁や下水管のような水に関する部門では水上ドローンの活用が重要だとしている。萩野谷氏は「水上ドローンの活用により、遠隔で作業ができ、下水管の点検でもすぐに利用できる」としている。同社の水上ドローンは超小型で扱いやすく様々な受賞をするなど技術的に高く評価されている。
審査員の質問ではインフラ監視の水上ドローンの状況について聞かれた。萩野谷氏は「水上ドローンは海で使われるケースが多い。我々が選ばれているのは、内陸の河川などのインフラ監視に特化したものにしているからだ」としている。また、空を飛ぶ普通のドローンとの違いについて聞かれて、萩野谷氏は「普通のドローンは水には弱く、落水する場合のリスクがある」としている。
三井薬局
オンライン診断促すコンシェルジュサービス 移動可能な医療トレーラーも活用
三井薬局(仙台市)の三井純一代表社員/CEOは祖父と父が経営してきた薬局を、薬剤師でなかったにもかかわらず引き継いだ。オンラインマーケティング企業の役員をしていたが、地方から医療を再設計したいと考えて家業の薬局を引き継いで新たなビジネスに取り組んでいる。
三井氏は「高齢化により医療のニーズが高いが、医療機関の縮小が続いている。この課題を解決するには医療の人材がいなくて、医療とつながることができるオンラインのコンシェルジュというオンライン診断というモデルが必要だ」と語った。オンライン診断は利用率が非常に低い。それは、患者には高齢者が多く、オンライン診療が響かずに広がらないからだという。これを利用してもらうには、オンライン診断をサポートするメディカルコンシェルジュが必要だったという。コンシェルジュの存在により、高齢者の精神的な負担を小さくできて、オンライン診断につなげられるという。
三井氏は医療の経費負担を軽減するために移動可能な医療用トレーラーハウスを開発しており、近く実際に利用できるようにする。ここではメディカルコンシェルジュが常駐して、オンライン診療をサポートする地域の新しい拠点にするという。これは新しい発想のビジネスといえそうだ。
審査員からはトレーラーハウスの運用について質問があった。三井氏は「いつも移動するのではなく、ある地域において、地方でこのサービスをしてみる。そこでニーズが小さければ、他の地域に移ることができるというメリットがある」と説明した。地元の東北なら、駐車場代も安いので、コストも抑制できる。それだけに様々な地域でテストができるのが良さだという。
RESTA
障がい者からできる効果的な就労支援 故郷・福島でゼブラ企業に
RESTA(福島県須賀川市)は障がい者のキャリア支援事業を展開している。同社の創業者である松川力也代表取締役は自らも半身不随の障がい者だ。東京などで障がい者の就労支援に関わり、多くの実績を挙げてきた。故郷である福島県須賀川市に本社を戻した。
松川氏は「RESTAとしては誰もが再挑戦できる社会の実現を目指している」と語った。同社は、障がい者の就労移行支援に特化したIT訓練・キャリア支援サービスを全国で展開している。
2024年には福島県で初めてとなるオンライン型就労移行支援施設「RESTA Campus」を須賀川市に開設した。これまでは都市部と比べて格差があるとされた障がい者の就労支援の格差解消にもつながる試みとして注目された。地方では就労支援の選択肢が限られ、十分な訓練機会を得られないという課題があり、それをRESTAが自立するまでしっかりと寄り添い、地域での雇用を促している。同社は「ローカルゼブラ企業」として注目されている。
松川氏は「障がい者の雇用についてワンストップで解決するような事業を運営している。それは就労支援で教育、そして障がい者の雇用のコンサルティング、人材のマッチング事業も行っている」と語った。
松川氏は14歳の時に脳内出血で半身が動かなくなった。当時は「自分はこれからどう生きていけばいいのかと悩んだ」という。医療職として病院や就労支援の施設で働いていた。そこで自らの課題として同じように悩んでいる障がい者の就労問題の解決に自ら取り組みたいと考えた。ビジネスモデルは、私たちが障害を持っている人に教育を提供し、それを行政に報告し、報酬をいただいている。
現在、日本では障がい者が約1100万人いるという。一方、法律で求められる障がい者雇用率でも未達の会社が多い。この対象でも働けているのはわずかだ。現在は福島県内に2か所の支援拠点がある。最近1年間に立ち上げた拠点では10人の就職に成功した。これは福島県でもトップクラスの実績だという。
松川氏は「福島から、そして福島で震災を経験した自分、そして障害者になった自分だからこそできることを生かしていきたい」と語った。
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