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NIKKEI THE PITCH GROWTH 中国・四国ブロック予選大会リポート

NIKKEI THE PITCH GROWTH
中国・四国ブロック
予選大会リポート

日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の中国・四国ブロック予選が11月26日に岡山市内の岡山コンベンションセンターで開かれた。 中国・四国地区の予選では9社が出場してプレゼンした。 昨年は激戦の予選地区を勝ち抜いた2社が決勝大会に進出し、震災で崩落リスクのある体育館の天井などを軽量の膜にしたマクライフ(岡山県津山市)の牛垣希彩氏がアトツギベンチャー部門賞に輝いた。 牛垣氏も予選大会の会場に駆けつけて、熱戦を見守っていた。ブロック大会に出場した各社を登壇順に紹介する。

中国・四国ブロック 予選出場9社

ACTA PLUS⇒KGモーターズ⇒建ロボテック⇒セイショク⇒New Space Intelligence⇒Forema⇒ポーザー⇒マテリアルゲート⇒Medlarks(登壇順)

中国・四国地区予選のピッチ動画は以下のページからご覧になれます。
視聴者の投票によってオーディエンス賞も選ばれるので、ぜひピッチの動画をご覧いただき、投票してください。https://pitch.nikkei.com/contest/NIKKEI%20THE%20PITCH%20GROWTH/pitch-run/kyushu-okinawa/

ACTA PLUS
廃棄物をアートに
義務より憧れで持続可能な社会へ

ACTA PLUSの共同創業者である吉本氏は「廃棄物アートを日本の文化にしたい」と強調した。
ACTA PLUSの共同創業者である吉本氏は「廃棄物アートを日本の文化にしたい」と強調した。

最初に登壇したのは昨年開かれた中国・四国ブロックの予選大会でオーディエンス賞を獲得したACTA PLUS(山口県周南市)の共同創業者である吉本龍太郎取締役だった。昨年は決勝に進出できなかったが、この1年間で事業の拡大を進めており、再挑戦した。

吉本氏は「私たちは500人のアーティストに廃棄されたものを芸術品にする活動に取り組んでいる。廃棄物が憧れになるような文化を日本に作っていきたい。多くの方々からも協力、賛同を得られるようになった」と語った。吉本氏の実家は山口県周南市での廃棄物処理業者であり、アトツギベンチャーとして起業した。社名は「取るに足らないもの」を意味する「芥(あくた)」に憧れや価値をプラスしたいという思いでつけられている。

吉本氏は家業の一環として子供たちに環境学習をやってきた。そこで感じたのは「子供たちがお母さんから『環境に良いことをやれ』と言われているからやろうとしている」ことだった。そこで、廃棄物を素晴らしい芸術品に仕上げて、その価値を分かりやすく伝える。それが主力事業であり、すでに絵画やオブジェなど多くのアート作品ができており、ホテルのスイートルームに設置されたり、百貨店の展示会などで販売されたりしている。

吉本氏は「オリックスグループが全国20か所に展開するホテルにたくさん納品させていただいた」とし、「これから一緒に廃棄物のアートとして何を作るとか、そういうプロジェクトの伴走もできるようになった」という。毎年、廃棄物からアートを作るコンテストを開催し、新たな芸術家の発掘をしている。廃棄物アートの展示会ではこれまでに5万人以上が集まっている。

海外展開にも動き出している。9月には吉本氏がタイのバンコク市でのイベントなどの企画を提案した。26年からアジア・太平洋地域、27年からは欧州での事業展開を検討している。三井不動産や良品計画などとも廃棄物アートの展示会を開催している。こうした取り組みは今後も広がりそうだ。

吉本氏は「どこで、どのように廃棄されているかという裏側のストーリーを含めて大切にしている。廃棄物の情報を集めるためのネットワークもあり、そこでアーティストも支援できている」とも語った。日本の廃棄物アートの市場はまだ小さいが、これまでに知られていない新たな市場を切り開いており、廃棄物業者のアトツギとして社会的に意義のある事業を進めているといえそうだ。

KGモーターズ
超小型EVを量産
地方から仕掛けるモビリティ革命

超小型EVで数多くの受注に成功しているKGモーターズの横山取締役
ACTA PLUSの共同創業者である吉本氏は「廃棄物アートを日本の文化にしたい」と強調した。

KGモーターズ(広島県東広島市)は超小型電気自動車(EV)「mibot(ミボット)」を開発し、すでに2400台を受注しているという。同社の横山文洋取締役は「日本での車の移動はほとんどが1人で乗っている。つまりオーバースペックな移動が日常的に起きており、それが大きなムダを生み出してきた。私たちは車を本当に小さくすることで課題を解決していくことに挑んでいる」と強調した。特に1人乗りのEVは地方でもニーズが非常に強く、モビリティ革命を引き起こす可能性がある。

横山氏が指摘するのは小さな車を作ることが非常に難しいということだ。小さくても安全性を担保したり、エアコンをつけたりする必要がある。それでも、「通常の軽自動車と比べても8割以上もコスト削減ができた」(横山氏)としており、地方でのセカンドカーの市場などを狙っている。高齢者が扱いやすいためにニーズは大きいとみている。

KGモーターズが注目されるのはユーチューブを活用した戦略だ。小型EVの開発過程を動画で公開して、協力してくれる部品メーカーが現れたりしている。2400台を超える受注獲得にも効果的だったという。

横山氏は「人口が減少する日本において、大きな車での移動で、その乗車率を高めたり維持したりすることは極めて難しい。小さなモビリティこそが必要で、最適で、持続可能だと考えており、超小型EV事業に取り組んでいきたい」と語った。

建ロボテック
世界一優しい建設現場へ
課題解決ロボを開発

建ロボテックの坂本部長は「建設の現場を世界一優しくしたい」と語った。
建ロボテックの坂本部長は「建設の現場を世界一優しくしたい」と語った。

建ロボテック(香川県三木町)は建設業界向けに様々なロボットを開発しており、実際に製品が高く評価されている。同社の坂本尚紀経営管理部長は「建築や土木、鉄道の工事でも世界一優しい現場を作りたいと思って、挑戦している」と強調した。日本の建設業は特に深刻な人手不足の状況にあり、ロボットの導入が不可欠であり、現場を知り尽くした技術者たちが独創的な製品を次々に送り出している。

例えば、建築の現場では鉄筋工事が非常に負担の重い作業だ。針金を紐で結ぶような工程であり、3万カ所ぐらいを作業員が腰をかがめて結ぶような作業をしたりする。坂本氏は「本当に熟練した職人なら1日で8000カ所ぐらいできるが、普通の人にはできない」と語った。この作業を代替できるロボットを開発し、国内外の約250の現場で使われるようになったとしている。

また、坂本氏は「鉄筋工事は全体でみれば、0.7%ぐらいの比率でしかない」とし、鉄道の保線作業など本当に負担の大きいところでのロボットの開発や普及を進めていきたいとしている。坂本氏は「ロボットは世界的に開発競争が厳しい。ただ、私たちは国内の建設現場をよくみて、その課題をしっかり把握して開発している。それができている会社は国内外にもほとんどないはず」と指摘した。

セイショク
高校生起業家が挑むファッションの未来
廃棄物を魅力ある素材に

高校生の起業家である姫井氏は実家の染織加工技術を生かして魅力的なリサイクルの繊維素材の事業化に取り組んでいる。
高校生の起業家である姫井氏は実家の染織加工技術を生かして魅力的なリサイクルの繊維素材の事業化に取り組んでいる。

セイショク(岡山市)のアトツギとして登壇した姫井美桜氏は若き起業家としてすでに知られた存在だ。24年には中学3年生で中小企業庁が主催する「アトツギ甲子園」の決勝大会にも進出した。ただ、その若さだけでなく、ビジネスモデルは実家の染織加工会社であるセイショクの開発した新素材「NUNOS(ニューノス)」を使い、ファッションにおける持続可能な社会へのビジネスを提案したことが評価されている。

姫井氏は「ファストファッションの流行などで衣料品の大量廃棄が続いてきた。この課題を解決するのが新たな素材のニューノスだと考えている。私たちの技術により廃棄される多くの布をアップサイクル素材とし、魅力的な唯一無二の柄も作れる」と強調した。

姫井氏によれば、ニューノスはまず、数百枚の廃棄される布を積層した後、植物由来の樹脂に浸して圧縮ブロック状とし水平方向にスライスして製造する。デニムなどどんな素材も使うことができ、廃棄される布に困っている多くの企業の悩みを解決できる。すでに製品は国内で星野リゾートなどでも採用され、海外では大手自動車メーカーとの商談も進んでいる。

姫井氏が想い描くのはニューノスを繊維産業が盛んな岡山の特産品にすることだ。すでに同じ学生で仲間を集めてプロジェクトチームを作っている。ECサイトでの販売を拡大し、次にSDGs教育用の教材も作成して教育市場への参入も進めていきたいという。姫井氏は「国内の学校では探求学習が行われており、こうしたサステナブルな素材を使った教材はさらに需要が高まると思っている」とも語った。

姫井氏は「学生起業家としてメディアによく取り上げて頂けるというメリットはある。私が社会人になっても、この素材自体は素晴らしく価値があり、それを生かして事業を広げていきたい」と強調した。

New Space Intelligence
日本の衛星データ分析に強み
世界の防災ニーズに対応

NSIの長井代表取締役は日本の衛星データ分析技術で世界市場を開拓する
NSIの長井代表取締役は日本の衛星データ分析技術で世界市場を開拓する。

New Space Intelligence(山口県宇部市、NSI)は衛星データを分析して様々な社会課題解決につながるサービスを展開している。日本では政府の1兆円規模の宇宙戦略基金があり、衛星技術を活用したデータサービス事業の海外展開を後押ししている。NSIは国内では有望視される宇宙系スタートアップの一つだ。

同社の長井裕美子代表取締役は「宇宙ビジネス市場は2040年に300兆円規模とされ、衛星の打ち上げや衛星データの分析でニーズが急増している。ただ、ユーザーに使いやすいように衛星データを提供できておらず、そこで私たちの技術を生かすことができる」と語った。

具体的にはJR東日本とはインフラの監視などで実証実験している。自治体ではゴミの不法投棄の監視などでも使われている。衛星データを組み合わせて解析すると、わずかな地盤沈下なども把握でき、防災対策にも使うことができるという。長井氏は「山口を本拠にしながらも、世界で事業を拡大していきたい」としている。

日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が最新レーダ衛星「だいち4号」などを運用しており、宇宙系スタートアップが小型衛星を打ち上げて一緒にデータを分析して、海外にはできないサービスを提供している。NSIの長井氏が取り組んでいる戦略も日本の強みを生かしたビジネスといえる。長井氏は「地球観測衛星だけで現在の500機から5年以内で1900機以上に増えるとされ、衛星データの分析ニーズがさらに高まる」と強調した。

Forema
腸内細菌で
ペットの健康長寿を実現

フォレマの小泉代表取締役は犬や猫の腸内細菌を研究してペット用サプリなどを開発
フォレマの小泉代表取締役は犬や猫の腸内細菌を研究してペット用サプリなどを開発

Forema(フォレマ、広島県安芸太田町)はペットの健康長寿の実現に取り組んでいる。同社の小泉靖宜代表取締役は「犬や猫の腸内細菌を解析し、そのデータに基づいたペットフードやサプリの開発から販売までを一気通貫でしている」と語った。

小泉氏によると、人間では過去半世紀で自己免疫疾患は急増し、ペットでも同じことが起きており、その解明には腸内細菌が重要との見方が広がっているという。腸内細菌のデータの解析などにより、疾患のある犬ではどのような腸内細菌が欠落しているかなどを調べている。

小泉氏は「こうした研究を踏まえて、ペットの健康に良い独自の乳酸菌群などを探しており、今後は人間の領域にも広げたい」と語った。審査員からペットの研究の課題などを聞かれ、小泉氏は「人間と違って、ペットの領域であれば、腸内細菌の研究を深堀できることがある。どんな投薬をして、どのような成分をとらせたら、どのように回復したのかといったデータも蓄積できる」と指摘した。

ポーザー
裸足で遊ぶ道の体験
子供たちの笑顔を全国に展開

ポーザーの三由代表取締役はボルダリングなどのプロアスリートとして活躍した。
ポーザーの三由代表取締役はボルダリングなどのプロアスリートとして活躍した。

ポーザー(山口県柳井市)の三由野代表取締役はボルダリングなどプロのアスリートであり、こうした経験を生かして子供たちを含めた多くの人たちに感動体験を提供するサービスを提供している。特に注目されているのが「ハダシランド」という子供向けのイベントだ。この「ハダシランド」では綱渡りのようなスラックラインなどのアウトドアスポーツ、いわゆる「ハダシアソビ(裸足での遊び)」を子供たちが体験できるようにしている。

ハダシランドは山口県周南市の小さな公園で始めたという。それから1年後には3000の顧客を獲得した。ハダシランドのリピート率は74%と高く、平均の滞在率も3時間以上になったという。三好氏によれば、こうした顧客からの支持は「周南市の子育て世帯の2割が既存の教育や公園での遊びに対して不満を持っているという声なき声だった」という。現在は親子連れで1万世帯以上の顧客を山口県で抱え、今後は埼玉県所沢市でも開催していくという。また、広島市内の大型ショッピングモールでも開催した当イベントはほぼ半数がリピーターで占められたという。

三好氏は「全国各地の企業や自治体と連携し、遊休地でハダシランドを開催して、子供たちの笑顔で埋め尽くし、地方でも魅力ある住みやすい街にしていきたい」と強調した。

マテリアルゲート
次世代半導体メモリーで
AI時代の電力不足を解決

伊勢COOはAIの爆発的な普及では低消費の半導体メモリーが必要としている。
伊勢COOはAIの爆発的な普及では低消費の半導体メモリーが必要としている。

マテリアルゲート(広島県東広島市)は消費電力を削減する次世代半導体メモリーを開発している。AIが普及してビッグデータ分析の需要が急拡大し、世界各地で膨大な電力を消費するデータセンターの建設が続いている。そこで大切なのが、データ処理に不可欠なメモリーの省電力化であり、広島大学発のディープテック系スタートアップのマテリアルゲートが解決に挑んでいる。

同社の伊勢賢太郎COO(最高執行責任者)は「(データセンターの建設などで)2050年までに現在の4000倍もの消費電力の増大が予想されている。ただ、半導体では(省エネやデータ容量拡大などにつながる)微細化技術が限界に近付いており、私たちは『単分子誘電体』というメモリーでこの課題を解決したい」と強調した。

同社はまず、単分子誘導体という技術を活用し、メモリーから始めて心臓部のプロセッサーなど他の半導体でも電力の低消費化につなげようとしている。同社は2023年に設立、政府からの支援も受けてシードラウンドでの資金調達もできている。26年以降には試作チップを完成させる方針だという。

伊勢氏は「半導体メモリーメーカーに我々の材料や技術を使っていただくことも可能だ」とした。半導体工場の建設は多額の資金が必要になることから、現時点ではライセンス戦略を軸に据えているという。

Medlarks
トイレに行けない患者に福音、
インド名門大と感染症予防機器を開発

松浦代表取締役はまず、日本とインドで市場を開拓したいと語った。
松浦代表取締役はまず、日本とインドで市場を開拓したいと語った。

Medlarks(メドラークス、広島県東広島市)もマテリアルゲートと同じく広島大学発のスタートアップだ。同社は院内感染症の一つであるカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)を防ぐ医療機器を開発している。この感染症はトイレに行けない患者などに取り付ける尿道カテーテルを使うことで起きる医療関連感染症で、死亡者も多いとされる。この課題を解決するために、紫外線などを使い、細菌の繁殖を防ぐ機器を世界で提供しようとしている。

同社の松浦康之代表取締役は「私たちは日本とインドで院内感染を予防する機器を開発し、提供しようとしている」と語った。感染症を防ぐ機器は小型で、通常のカテーテルと一緒に電源を入れてつないでおくだけで使うことができるという。このため、インドのような新興国でも使えるように低コストで提供することが可能になる。インドでは医学系としては現地で最高峰とされる全インド医科大学と臨床研究などで連携しており、2028年の販売を目指している。

審査員からは今後の事業化に向けての計画などについて質問があった。松浦氏は「インドでの生産も考えている」という。この感染症では世界で患者が非常に多いものの、低コストで感染症を引き起こす菌を殺せるような機器がほとんどなかった。日本とインドの両国の製品化が成功すれば、グローバルで普及する可能性があるといえそうだ。