NIKKEI THE PITCH

  • ホーム
  • ライブラリー
  • AI時代の企業競争力、問われるチームの創造性――Figmaがゲーム・エンタメ業界向けイベントを開催
AI時代の企業競争力、問われるチームの創造性――Figmaがゲーム・エンタメ業界向けイベントを開催

Figma Japanは2026年7月23日、ゲーム・エンタメ業界向けイベントを東京都内で開いた。AIの普及でデザインと開発の境界が薄れるなか、企業の競争力を左右するのは個人の生産性だけでなく、チームで発想を共有し磨く力だと訴えた。新機能のデモやCVC関係者による討議も行われ、AI時代のものづくりと協業のあり方を探った。

AI時代、デザインはチームで育てる段階へ

Figmaは、ブラウザ上でデザインや開発に関わる複数の職種が共同作業できるツールだ。Figma最高製品責任者(CPO)の山下氏は、現在のFigmaユーザーの約3分の2がデザイナー以外の職種だと説明した。AIの普及により、デザインと開発の役割分担は変わりつつあるという。

Figma最高製品責任者(CPO)山下祐樹氏
Figma最高製品責任者(CPO)山下祐樹氏

山下氏が課題として挙げたのは「新たなサイロ化」だ。AIは一つの案を深掘りするのに適する一方、利用者が個別にAIと作業すると、チーム全体の方向性がそろいにくくなると指摘した。

もう一つの課題は「静かなる明け渡し」だ。AIの出力は既存データに基づくため、平均的な内容に近づきやすい。山下氏は、一定水準の成果物が容易に得られることで、利用者が改善を重ねる意識を失う可能性があると述べた。「ものづくりが容易になるほど、差別化は難しくなる」と説明した。

こうした課題を乗り越える鍵として、山下氏は「ツール」と「カルチャー」を挙げた。ツール面では、メンバーとAIエージェントが同じキャンバス上で作業できる環境が必要だとした。Figmaの「コードレイヤー」は、コードと連携した画面や機能を、デザインの段階からキャンバス上で確認・編集できる機能だという。

カルチャー面では、成果物を「良いかどうか」だけでなく、「予想を超えているか」で評価する姿勢が重要だとした。山下氏は、想定外の案を受け入れるチームづくりが、AI時代の創造性に関わると述べた。

山下氏は、AIの活用が広がっても、企業の競争力を左右するのはチームとしての発想力だとまとめた。

デザインとコードを同じ作業空間で扱う

ソリューションコンサルタントの藪押大地氏は、同社の年次イベント「Figma Config 2026」で発表された新機能を説明した。デザイン、コード、AI支援を同じキャンバス上で扱う方向性を示し、「新しいクリエイティブの素材」と「新しいインテリジェントツール」を進化の軸に挙げた。

Figmaソリューションコンサルタント 藪押大地氏
Figmaソリューションコンサルタント 藪押大地氏

「コードレイヤー」は、コードと連携した画面や機能をキャンバス上で確認・編集できる機能だ。藪押氏は、コードのプレビューを見ながらデザインを調整し、その変更をコードに反映する流れを実演した。デザイン作業とコード編集を同じ場所で扱えるようにする狙いがある。

視覚表現を加える「シェーダー」「モーション」や、画像・動画などを生成・編集し、ワークフローとして構築できる「Figma Weave」も紹介した。デモでは、手作業で動きを設定する方法に加え、AIエージェントに自然言語で指示してモーションを生成する方法を示した。生成後に人が修正を加えられる点も説明した。

インテリジェントツールでは、Figmaエージェントの利用例を示した。キャンバス上では、誰がエージェントとどのような会話をし、どの作業をしたかをチームで確認できる。藪押氏は、制作過程や意思決定を共有しやすくなると説明した。

企画からプロトタイプまでを短時間で実演

藪押氏のデモに続き、アクセンチュア ソングの3人が、新規スマートフォンアプリの企画からプロトタイプ制作までを実演した。架空のIP企業を題材に、サーベイデータをもとに新規ユーザー層の獲得施策を検討し、アプリの試作につなげる設定で進めた。

(左から)アクセンチュア ソング ゆめみ フロントエンドエンジニア 鈴木雄大氏、ゆめみ プロダクトデザイナー 近藤由枝氏、ゆめみ アライアンスリード 工藤元気氏
(左から)アクセンチュア ソング ゆめみ フロントエンドエンジニア 鈴木雄大氏、ゆめみ プロダクトデザイナー 近藤由枝氏、ゆめみ アライアンスリード 工藤元気氏

3人はホワイトボードツール「FigJam」でアイデアを出し、分類や投票、要約機能で議論を整理した。工藤氏は、大人数での同時編集に対応できる点を紹介した。書き込んだアイデアはCSVで出力し、後工程にも活用できるという。

続いて、ブレインストーミングの内容をもとに、Figma Makeでスマホアプリ「ゆらゆら」のプロトタイプを生成した。プロンプト入力から5〜10分ほどで、季節ごとの生き物が画面上を泳ぎ、タップすると音が鳴るアプリができた。生成にあたっては、FigmaのAIクレジットで234クレジットを消費した。

参加者は、生成されたアプリ「ゆらゆら」のプロトタイプを体験した
参加者は、生成されたアプリ「ゆらゆら」のプロトタイプを体験した

近藤氏はデザイナーの視点でプロトタイプを確認し、自然言語で修正指示を出す過程を実演した。動物の見た目や配色、夜のシーンなどについて要望を伝えると、AIエージェントが新しい版を生成した。

工藤氏は、デザインとコードを同じキャンバス上で扱える点に触れ、デザイナーとエンジニアが共同でプロトタイプを修正できると説明した。今回のデモ準備に要した実作業は、3人合わせても1日に満たなかったという。

AIによって試作や表現のハードルは下がりつつある。こうした変化を実際の成果につなげるには、職種や工程をまたいで使えるツールの整備も欠かせない。一方で、成果物の質を左右するのはツールだけではない。発想を共有し、異なる職種が同じ場で検討し、必要に応じて外部とも組む。生成AIの利用が広がるほど、ツールを使いこなすチームとしての編集力や協業力が問われる局面が増えそうだ。

投資・協業を巡る課題を議論

プログラム中盤には、ゲーム・エンタメ業界のCVC関係者が投資や協業について議論するセッションが行われた。セガサミーホールディングス投資マネジメント部の清宮俊久部長、バンダイナムコ021 Fundの池田一樹マネージングディレクター、グリーホールディングスで事業開発を担当する村田卓優ディレクターが登壇した。

セガサミーホールディングスは、国内外で50件以上のLP出資・個別出資を行ってきた。清宮氏は、会社としての収益性を確保しつつ、将来につながる事業や技術に投資する方針を説明した。池田氏は、2022年に立ち上げたグループ初のCVCファンド「Bandai Namco 021 Fund」を紹介し、現在はシードからレイターまで幅広いステージを投資対象にしていると述べた。村田氏は、アニメファンドの組成やVTuberプラットフォーム、アイドル事務所への出資に触れ、自社の少し先を行く企業に投資し、協業可能性を見極める考えを示した。

協業のあり方も論点となった。村田氏は、かつて自社プラットフォームでのゲーム配信と開発資金の出資を組み合わせた取り組みを進めてきたと説明した。アニメ領域でも同様の展開を模索している一方、制作委員会の慣行などもあり、参入には難しさがあると述べた。

清宮氏は、XRやメタバース、Web3などの技術トレンドが繰り返し生まれるなか、既存の開発体制だけで新しい潮流に対応するのは難しいと指摘した。自社IPは自社開発を続けつつ、新しい領域ではスタートアップに出資し、IPを提供して開発を委託する協業例を紹介した。事業会社同士がゼロから協業を始める難しさも挙がった。池田氏は、自社のアセットは一定規模の事業機会でなければ事業部が動きにくいと説明し、相手企業が求めるアセットを十分に提供できず、ミスマッチが起きる場合があると述べた。

業界連携については、清宮氏が「10年前はCVC自体が存在しなかった。今は各社が競合であっても情報交換ができる」と述べた。村田氏も、業界全体を前に進めるために関係者が集まる意義に触れた。登壇者からは、競合関係にありながらも情報交換を進める業界の変化を評価する発言が相次いだ。

(左から)村田氏、池田氏、清宮氏、モデレーターのAdMel 代表取締役社長 高橋氏、CVC vs CVCオーガナイザー 石井氏
(左から)村田氏、池田氏、清宮氏、モデレーターのAdMel 代表取締役社長 高橋氏、CVC vs CVCオーガナイザー 石井氏