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日本青年会議所第9回価値デザインコンテスト NIKKEI THE PITCH賞にHelloWorld すべての子供たちに国際交流の機会を
日本青年会議所の価値デザインコンテストで日経のNIKKEI THE PITCH賞を獲得したハローワールドの冨田共同CEO(右)

日本青年会議所
「第9回価値デザインコンテスト」
NIKKEI THE PITCH賞にHelloWorld
すべての子供たちに国際交流の機会を

日本青年会議所が7月19日に横浜市内で開いた「第9回価値デザインコンテスト」で日本経済新聞社の「NIKKEI THE PITCH賞」を獲得したのは沖縄県沖縄市のHelloWorld(ハローワールド)だった。 国内の中高校生が授業で海外の学生とリモートで交流したり、国内の外国人宅に滞在したりする国際交流サービスが好評で、累計で34万人以上が利用している。 同社は創業から間もない2022年2月、日経新聞の「第5回ソーシャルビジネスコンテスト」で優秀賞を獲得し、事業拡大の弾みになったという。 日本の大きな課題とされるグローバル人材育成で新たな地平線を切り開いている戦略に迫った。

「世界中に友達がいることが当たり前の社会にしたい」

ハローワールドの創業者である冨田氏(左)と野中氏(右)は沖縄のスタートアップの聖地とされ、米軍の嘉手納基地に近いコザの商店街に本社を置いている。
ハローワールドの創業者である冨田氏(左)と野中氏(右)は沖縄のスタートアップの「聖地」とされ、米軍の嘉手納基地に近いコザの商店街に本社を置いている。

 「裕福な家庭に育ったなら、海外に留学ができたりするかもしれない。そうではなくて、すべての子供たちが国際交流でき、世界中に友達がいるようにしたい。2030年には500万人ぐらいの子供たちが私たちのサービスを通じて異文化を理解できる多様なマインドセットを持ってもらえれば、日本はもっとイノベーションを起こせる社会になる」―――。ハローワールドの共同CEO(最高経営責任者)である冨田啓輔氏は米空軍の嘉手納基地に隣接する沖縄市コザの商店街にある本社でこう語った。
 コザの商店街は昼間の人通りがまばらだが、沖縄でも屈指のスタートアップの「聖地」でもある。20年10月に冨田氏とともにハローワールドを創業した野中光共同CEOが16年にここで最初に起業し、日本の外国人宅にホームステイする「まちなか留学」という事業を始めた。19年11月に福岡市内で開かれたピッチで二人は初めて出会った。冨田氏は起業直後であり、海外で同じ趣味の人と友達になれるマッチングアプリ「Paike(パイク)」を手掛けていた。「日本の子供たちが海外の学校とオンラインでつながり、国際交流ができるはずだ」とすぐに意気投合し、新たに中学校・高校の英語の授業に導入する「WorldClassroom(ワールドクラスルーム)」が生まれた。

日本とアジアの中高生がオンライン交流 文部科学省の採択で事業拡大に弾み

ハローワールド本社の壁には、まちなか留学で子供たちを受け入れる外国人家庭の出身国旗や世界で活躍するメンバーホストの写真が張られている。
ハローワールド本社の壁には、まちなか留学で子供たちを受け入れる外国人家庭の出身国旗や世界で活躍するメンバーホストの写真が張られている。

 ハローワールドはこの1年間で急成長を遂げている。特にAI(人工知能)を活用し英語のスピーキング力を高めたり、海外の学校とオンラインでつないで英語で交流できたりするサービス「WorldClassroom(ワールドクラスルーム)」が公立の中学と高校で採用が相次ぐ。24年度では256校で、約8万2000人の生徒が利用した。日本の生徒が授業中につながる海外提携校は台湾やインドネシアなどアジアを中心に1000校を超えた。
 まちなか留学も24年度は国内で81カ国以上の国籍の外国人宅にホームステイでき、日本の子供たちが合計6100人以上も訪れている。午後3時ぐらいに外国人宅を訪れて宿泊して1日を過ごす。インド人の家庭なら、民族衣装のサリーを着たり、カレー作りを教えてもらったりする。子供たちがフランスでもハワイでも興味のある国や場所を選べるところが魅力だ。外国人と一緒に英語で街歩きをしてゲーム感覚でミッションを達成する「まちなかENGLISH QUEST(まちクエ)」も累計で2万2400人以上が利用している。
 同社のサービスは24年、国際交流につながる日本型教育の優良事例として文部科学省から「EDU-Portニッポン応援プロジェクト」に採択され、評価が高い。ワールドクラスルームは生徒1人あたり年間で数千円程度から利用でき、先生にとってもAIを活用してスピーキング指導もでき業務負担軽減につながっているからだ。

年収5000万円の辣腕弁護士を辞めて起業した理由とは

 冨田氏はもともと起業家ではなく、国内で人事・労務分野で有名な第一芙蓉法律事務所(東京・千代田)で活躍する弁護士だった。この事務所には、日経新聞の「企業が選ぶ弁護士ランキング」(労働分野)で第1位に選出されたこともある木下潮音弁護士ら実力者がそろっている。冨田氏は連日連夜、事務所に泊まり込み、クライアントのために必死で働いた。年収5000万円を稼ぐほど活躍していたが、結局は退所して起業することになった。
 人生の大きな転機は18年8月に日本弁護士連合会に選ばれ、米国の名門カリフォルニア大学バークレー校の上席客席研究員として派遣されたことだ。研究テーマは「ギグエコノミー社会の労務問題」だった。世界では米Uber Eats(ウーバーイーツ)の登場によりインターネットを通じ仕事を受注する「ギグワーカー」が急増していた。冨田氏はギグワーカーの権利をどのように法律で保護するか考えていた。ただ、研究だけに飽き足らず、「シリコンバレーの風に吹かれて、スタートアップに夢中になってしまった」という。

多様性ある社会こそ世界を変えるイノベーションの源泉

 冨田氏は「多様な人材が集まる社会こそが、世界を変えるイノベーションを生み出す」ことを肌で感じた。バークレー校内では起業サークルの発表会が頻繁に開かれていた。多くの学生が最先端のブロックチェーンなどの技術を使い、米オラクルのようなITの巨大企業と連携している。バークレー校での人脈を生かし、グーグルなどの本社の中も見学させてもらい、多くの社員から話を聞くことができた。そこで驚いたのは「グーグルやフェースブックではインド人や中国人など多国籍な人々がたくさん活躍している」ことだった。
 冨田氏は「日本人も海外で友人を増やし、多様な文化を経験できるビジネスをやってみたい」と思い、19年6月末に起業を決意する。そのアイデアがパイクであり、日本人が海外を旅したり、仕事で滞在したりした時に、同じような趣味の人とつながるマッチングアプリだった。

「駅前留学」ならぬ「まちなか留学」で異文化を学べる

野中氏(右)はコザの商店街で起業家支援拠点「ラグーン コザ」も運営しており、地元の若手起業家らと常に交流している。
野中氏(右)はコザの商店街で起業家支援拠点「ラグーン コザ」も運営しており、地元の若手起業家らと常に交流している。

 共同CEOの野中氏も高校時代に米カリフォルニア州での留学経験があり、起業家マインドも強かった。沖縄出身者として米軍基地依存の産業構造を転換したいという強い思いもあり、将来の起業に備えて東京のコンサルティング会社に就職していた。現在もコザ商店街で起業家支援拠点「ラグーン・コザ」を運営し、地元の若手起業家らと交流している。琉球大学教育学部出身で、英語教員の免許を持っていた。自ら思いついたアイデアが「駅前留学」ならぬ、「まちなか留学」だった。野中氏は「沖縄には米国人など外国人の家庭がたくさんあり、そこを訪問することで本当に多くを学ぶことができる」という。
 野中氏には沖縄県内で教師の知人が非常に多く豊富な人脈があった。県内でまちなか留学やワールドクラスルームなどのサービスを使ってもらい、そこで成果を出したことで、首都圏などでの展開を加速できた。

日経のソーシャルピッチで優秀賞受賞 ビジネスに弾み

 冨田氏は「ハローワールドは売り上げではなく、ソーシャルインパクトを指標に経営している。目標は2030年に日本の小学3年生から高校生3年生で合計1000万人程度のうち半分の生徒たちにハローワールドのサービス国際交流してもらいたい」と指摘する。500万人が利用すれば、100億円規模の売上高を見込めるという。
 それでも冨田氏は「経営の現状はまだまだ厳しい」と語る。グローバルでの事業拡大に向けて先行投資が必要であり、子供たちに関わる教育ビジネスゆえに気が抜けないからだ。それでも7月に日本青年会議所の価値デザインコンテストで日経のNTP賞のほか、大賞やデザイン大臣賞を獲得できたことは30年の目標に向けて自分たちがやっている仕事が評価され、社内の士気も高まったとしている。
 冨田氏は創業当初を振り返り、一つの転機となったのは日経のソーシャルビジネスコンテストで22年2月に優秀賞を獲得できたことだという。当時は売り上げも少なく、自らの収入もほぼゼロだった。こうした中で、初めて大きなピッチで受賞できたのが日経のコンテストであり、会社を成長させるエンジンになったという。
 冨田氏は審査員を務めたレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長、厚生労働省元事務次官の村木厚子氏や慶応義塾大学大学院の横田浩一特任教授らの高い評価が励みになったとしている。村木氏は公教育である公立学校でワールドクラスルームのようなサービスを展開することが非常に意義のあることだと指摘していた。横田特任教授は昨年に沖縄を訪れて冨田氏と会い、ハローワールドがソーシャルとビジネスをうまく両立させ、さらに成長していることを喜んでくれたという。

冨田氏(右)は22年2月にレオスキャピタルの藤野社長からもらった日経ソーシャルビジネスコンテスト優秀賞の盾を大切にしている。
冨田氏(右)は22年2月にレオスキャピタルの藤野社長からもらった日経ソーシャルビジネスコンテスト優秀賞の盾を大切にしている。

サハラ砂漠の思い出 海外でのリアルな体験こそ必要

 冨田氏は「今の時代は子供たちも情報があふれかえっている。ネットやYouTubeでいろいろなことを知ることができる。だからこそ、海外でリアルな経験が重要だ」と強調する。よく思い出すのは学生時代に自転車で旅した北アフリカのチュニジアでの体験だ。同国南部のサハラ砂漠の街では、猛烈な砂嵐の中でも自転車をこぎ続けた。グーグルマップもホテル予約サイトもなく、途方に暮れることが多くても、現地での人との出会いに助けられた。「サハラ砂漠の旅も本当に楽しい思い出になっている。こうした体験は簡単ではないが、まずは子供たちに海外と触れ合う最初のきっかけを作りたい」という。

冨田氏は学生時代の2004年にチュニジアのサハラ砂漠を自転車で旅したことをよく思い出すという。
冨田氏は学生時代の2004年にチュニジアのサハラ砂漠を自転車で旅したことをよく思い出すという。

「教育カンパニーではなく、多様性を社会に実装するインフラ会社に」

 ハローワールドでは冨田氏と野中氏の理念に共鳴し、多様な仲間が集まっている。製品開発責任者のる鈴木翔太氏は人材紹介会社のエン・ジャパンで、若手ハイキャリアのスカウト転職サービス「AMBI(アンビ)」を累計会員数100万人超のサービスに成長させた立役者の一人だ。ワールドクラスルームの国内外で成長させている小泉泰雅事業開発部長は国際協力機構(JICA)出身で、モンゴルなどアジアでインフラ整備プロジェクトを担った。インドの宗教家・政治指導者であったガンジーを尊敬し、世界平和を実現するには子供たちが交流して理解しあえる教育が必要として入社して活躍している。
 まちなか留学やまちクエで横浜市やJR東日本などとの大型プロジェクトを担当する高橋優氏もJTB出身で、バークレーでの留学経験もある。ハローワールドは一般社団法人を設立し、生活困窮者の家庭の子供たちがまちなか留学できる基金を運営しているが、その活動に参加してやりがいを感じて転職を決めた。
 ハローワールドの取り組みは日本の英語教育のあり方を大きく変える要素があるとされる。ただ、冨田氏は「私たちが目指しているのは教育カンパニーではなくて、多様性を社会に実装するインフラカンパニーだ」とし、「ワールドクラスルームのロゴはドラえもんの『どこでもドア』のようなデザインにしている。海外の子供たちといつでも、どこでもつながる世界にしていきたい」と語る。野中氏との偶然の出会いから始まった子供たちの国際交流の場を提供するというソーシャルサービスは着実に根を張り、世界にビジネスとして急速に広がりつつあるといえそうだ。