NIKKEI THE PITCH GROWTH
関東ブロック予選大会
午後パート
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の関東ブロックの予選大会で2025年12月9日午後に開かれた後半パート登壇の9社のプレゼンについて紹介する。
関東ブロック(後半・午後パート) 予選出場9社
CoLab⇒Circle⇒Synk⇒セキネシール工業⇒駐妻キャリアnet⇒フィジオロガス・テクノロジーズ⇒メドキュレーション⇒ヤシマ食品⇒Le-caldo(登壇順)
関東ブロック予選のピッチ動画は こちら から。
CoLab
製品の組立工程でAI活用
自律制御ロボで国内生産を後押し
CoLab(神奈川県川崎市)は、自律制御ロボットの開発をしている。製造業でロボットなどの導入による自動化が難しくて遅れているのが最終の組立工程だ。日本企業が長く新興国などに生産を移管してきたのは組立工程で人件費の割安な場所を求めてきたことが大きな理由だ。組立工程での大幅な省力化ができれば、生産を国内回帰させることができる。同社はこれを後押しする技術を実用化している。
同社の川畑晋治代表取締役CEOは「日本企業は国内で生産したくても解決手段がないのが現状だった。その手段がないなら、自分たちで作らなければならないと思い、私たちは他社とのコラボで創業し、AIなどの能力を活用し、部品を見ながら正確に作業したり、力加減をしながら部品を壊さずに組み立てたりすることができるようにした」と強調した。
同社の組立工程での設備を使うと、熟練した技能者でも簡単ではない0.4mmの精度が求められる作業にも対応することができる。「AIの設定にプログラミングは不要で、ユーザーは画面操作だけでロボットを制御できる」(川畑氏)という。現在、自動車の電子機器などの生産ラインで導入され、実証実験を行いながら様々な機能を追加している。同社にはキーエンス出身者など工場の自動化で豊富な経験を持つ人材が多い。組立工程でのこうした設備の市場は世界で年10兆円規模とされ、同社はこうした市場の開拓に向けて動いている。
川畑氏は「日本の製造業にとって海外への生産移管は技術の漏洩、納期遅延、関税などのリスクがあり、競争力が低下しかねない。こうした課題を解決し、国内での生産を増やしながら、世界と戦うことが重要だ」と語った。
Circle
独自のマタニティトレーニングで
心身の両面支援
Circle(長野県佐久市)は、妊娠中や産後の女性に向けてパーソナルトレーニング「マタニティトレーニング」を提供している。同社では理学療法士が妊娠中から安全に行える身体トレーニングと、自分の心と向き合うワークを取り入れたメンタルトレーニングを完全個別かつオンラインで受けられるようにしている。産後うつを含めて産後の心身両面での早期回復に役立つという。メンタルトレーニングにより、子どもへのポジティブな声かけや自己実現を促すようにもできる。
同社の山田美沙代表は理学療法士でもあり、こうした女性向けのサービスが重要だと考えて起業した。というのも、「私のキャリアにおいて2回の大きな転機は出産だった。1人目の妊娠中に運動に関する情報がないことを実感した。2人目の妊娠中にはメンタルのコントロールがいかに重要かを感じた」としている。
山田氏は「妊娠や出産は女性にとって制約ではなく、新たな可能性の転機のはず。日本の母親像は、自己犠牲など苦労しながら子どもを育てるというイメージを持つ人が多い。ただ、私たちはマタニティトレーニングを通して、こうした母親像の固定概念を変え、女性が自分らしく活躍できる未来を作りたい」としている。
山田氏によると妊娠中の女性をターゲットとするトレーニングサービスは少ないが、さらにメンタルトレーニングを組み込んだサービスは効果が高いという。国内外で約50人(平均年齢37.6歳)の女性にトレーニングを提供した実績として、「産後うつ0人、産後の回復も平均より早い」という結果が出ている。サービスはサブスクリプション型で提供し、価格は1年間50回プランが35万円、同回数無制限プランが45万円だ。
山田氏は「医療や自治体の直接的なサポートまでは不要だが、不安を抱える妊産婦(または、妊婦や産後の女性)は様々な課題を抱えており、こうした女性に私たちのマタニティトレーニングを届けたい」と語った。
Synk
子連れ旅でも親の時間を生み出す
保育サービス
Synk(神奈川県鎌倉市)は、富裕層の訪日観光客向け保育サービス「ペアレントタイム」を提供している。同サービスでは保育士がホテルで子どもの面倒をみるだけでなく、日中の外出にも同行することが特徴だ。こうした屋外での保育では、日本文化のエッセンスなどを伝えることで、子どもに学んでもらう。
同社の菅原沙耶代表は長く、高級富裕層向けの旅行業界でキャリアを積んできた。ただ、コロナ禍が起きてこうしたインバウンド需要が激減する中で、保育士の資格を取得した。それは海外からの旅行者では子供連れが多く、そのケアもしながら、日本での旅行を楽しんでもらいたいとの考えからだ。保育士という仕事に魅力を感じていた。菅原氏は「保育士のハッピーが子どもの笑顔に巡る社会。私たちはそんな未来を目指したい」と強調した。
同社では外国語を話せる保育士をそろえている。保育と語学の両スキルを持つ人材は少ないだけに海外の旅行者にとっては魅力的だ。菅原氏は「英語スキルを持たない保育士でも、外国語を話せる人がバディ(相談役)となってもらい対応ができる。今後、外国語の習得をはじめとした保育士でのグローバル人材を育成するアカデミーも開く予定だ」としている。
同社のサービスでは1時間あたりの利用料金が1万8000円と単価が高いが、それでもニーズはあるとみている。ビジネスモデルは、販売パートナーを通じて同社がサービスを提供する「B2B2C」モデル。ターゲットである富裕層は訪日観光客の1%だが、消費規模はインバウンド市場全体の14%を占める。菅原氏は「日本には、その市場に対してまだ適切な託児サービスがない」とし、「子連れ旅のストレスを自由と感動へ変えるサービスをしていきたい」と語った。
セキネシール工業
和紙の老舗が「燃えない紙」
EV電池の火災被害を防ぐ
セキネシール工業(埼玉県小川町)は、創業150年以上の歴史を持つ老舗企業だ。同社が本社を置く小川町は和紙の街として1300年の歴史があり、同社も江戸時代から和紙作りに取り組んできた。現在は自動車のガソリンやエンジンオイルの液漏れからエンジンを守る紙製シートを製造しており、国内外の自動車大手に供給している。アトツギベンチャーとして同社が次に挑むのがこれから世界的に需要のさらなる拡大が見込まれる電気自動車(EV)での火災を防ぐことだ。
同社のアトツギである関根俊直代表取締役は「現在、EVの火災が各地で起きており、問題になっている。そこで顧客から、それを防ぐことができないかと相談されて開発に取り組んでいる」とし、それが「燃えない紙」だという。同社の紙は薄さが1mmで、耐熱温度は約1000度になるという。EVの蓄電池で中枢部品である電池セルの間に同社の独自開発の紙を挟むことで、1つの電池セルが燃焼した際の延焼を防ぐことができるという。
関根氏は「電池は膨張と収縮を繰り返すので、紙ならではの伸縮性が生きる。軽くて薄くできれば、EVの課題である航続距離を伸ばすことにもつながる」と強調する。現在、顧客から性能評価をしてもらっている。関根氏は「量産まであとわずかのフェーズにある」とし、「私たちの燃えない紙はその原料の配合も、それを製造する設備の構造もまったく違う。普通の製紙会社には作れないはず」と独自性を強く訴えた。同社ではEVの電池の断熱用途市場が400億円規模としており、その市場開拓で老舗として培ってきた技術を世界に示したい考えだ。
駐妻キャリアnet
場所問わぬ働き方で
女性活躍を支援
駐妻キャリアnet(栃木県宇都宮市)は海外赴任についていった駐在員の妻、つまり「駐妻」のスキルを活用できるサービスを提供している。海外の駐在員の妻は10万人以上いるとされるが、現地で働いてキャリアを充実させたくても、その機会を確保することが難しい。実際は3万人余りが働いているが、それ以外の7万人でも活躍したい駐妻が多いはずとして、海外で駐妻をしながら様々なプロジェクトを受託するようなビジネスを進めている。
同社の創業者である三浦梓代表取締役は、外資系大手コンサルティング会社で日本における人材採用の責任者を務めていた。ただ、配偶者のブラジル転勤によって、現地に一緒に帯同した。三浦氏は「ブラジルに行くことで新たなキャリアを築けるとの思いもあったが、ポルトガル語ができず、日本からの仕事を受けようとしても時給が非常に悪かった」とし、自らこうした悩みを持つ駐妻の活躍を後押しできる会社を起業することにした。
三浦氏によれば、「現在、ヨーロッパやアジア、北中米、アフリカなど世界53の国・地域に1027人の会員がいる。国内外の優良企業で7年以上働いた即戦力人材がそろっている」という。例えば、グーグルや楽天などでデジタルマーケティングで活躍していたようなプロフェッショナルなキャリアを持っている人もいる。「そうした駐妻に仕事やキャリアの育成プログラムを提供している」とし、優良な人材プールとして日本の企業にも認識してもらいたい考えだ。
三浦氏は「この駐妻でのスキームを、国内転勤や育児介護などでキャリアを中断した女性たちにも展開できる」とし、「女性が働きたいときに場所を問わずに働ける社会を目指したい」と強調した。
フィジオロガス・テクノロジーズ
末期腎不全患者に福音
水不要の透析装置で在宅治療
フィジオロガス・テクノロジーズ(神奈川県相模原市)は、北里大学で行われている末期腎不全患者が受ける人工透析装置研究の社会実装を目的としたスタートアップだ。現在、こうした患者への人工透析装置は大型で、在宅で透析治療を受ける患者は、わずか0.2%にとどまっている。医療機関で透析治療を受けるとすれば、通院や治療で非常に多くの時間が必要とされ、仕事でのキャリア形成や長期間での旅行も難しい。フィジオロガスはこうした課題を解決するために自宅でも利用できる小型・軽量で使い勝手の良い人工透析装置の開発だ。
同社の宮脇一嘉代表取締役は「人工透析が大型化するのは、治療に大量の水が必要になるためだ」と説明する。1回の治療に必要な水の量は120リットルともいわれている。同社が開発する「透析液再循環ユニット」は、人工透析治療に水を必要としない装置だ。配管が不要なため小型で、自宅に設置が可能だ。初期プロトタイプを用いた生体適合性試験では、技術の基本的な安全性と治療効果を確認できたという。末期腎不全の患者は全世界で1000万人以上いるとされる。宮脇氏は「世界の患者さんに自由と尊厳を与える活動をしている」と語った。
同社の技術は今後、さらに幅広い用途が見込める可能性がある。例えば、世界では水のインフラ整備が遅れており、末期腎不全の患者で十分な治療にアクセスできない人も非常に多い。宮脇氏は「私たちの装置なら、水が不要なので治療ができる」とし、新興国などで大きな商機があるとみている。
宮脇氏のチームでは北里大学の准教授らが中核となっており、早期の実用化に向けて取り組んでいる。「将来的にはポータブルな透析装置や、その先には新たな人工腎臓というところに発展できる」という。
メドキュレーション
子宮がんや大腸がんに新たな治療機器を開発
副作用低減など特徴に
メドキュレーション(静岡県長泉町)は、子宮がん、膀胱がんや直腸がんなど骨盤内で起きるがんに対する新たな治療法を研究している。同社の柴垣知広代表取締役によれば、こうしたがんは国内で年間11万人が発症し、3万人以上が死亡しているという。こうした深刻な疾病に対して、同社は「NIPP(閉鎖循環下骨盤内非均衡灌流療法)」という専用医療機器を実用化して、患者の命を少しでも救おうとしている。
柴垣氏は「私たちはまったく新しい骨盤内がん治療の普及と専用の医療機器の開発をしている。患者さんの未来を変えていきたい」と強調した。少し専門的だが、NIPPとはバルーンなどによって骨盤内の血流を独立させ、カテーテルで抗がん剤シスプラチンを高濃度で届ける療法だ。
柴垣氏はNIPPの利点についてまず高濃度で薬剤を送れるようになるほか、「局所に投与して回収を行うことで、全身への副作用を低減できる。4泊5日の入院を通常2回することで治療でき、その期間の短さも特徴だ」としている。NIPPは2000年から臨床で使われており、すでに200名以上の治療実績がある。抗腫瘍効果の一例として、「NIPPを行った子宮頸がん治療後再発患者の生存期間中央値は25カ月だ。これは標準治療薬の中央値12ヶ月の約2倍にあたる」という。
NIPPは2015年に試験的な医療「先進医療B」に認定されている。柴垣氏は専用機器の開発に加え、この治療法の基礎研究をさらに進め、「骨盤内がん治療の新たな選択肢として、31年に保険適用、その後に標準治療として位置づけられるようにしたい」と語った。
ヤシマ食品
老舗豆腐店を“第2の創業”で再興
事業モデルの横展開も視野
ヤシマ食品(横浜市)は、創業100年を誇る豆腐メーカーだ。かつては5万社を超えていた豆腐メーカーは、4万社にまで減少した。豆腐業界は原材料の値上がりや激しい価格競争で逆境にある中小豆腐メーカーとして、ヤシマ食品は生き残りのために新商品を続々と開発して注目されるアトツギベンチャーだ。老舗豆腐店を第三者として事業承継したアトツギ経営者である高橋勲代表取締役が古くて新しい豆腐ビジネスに新風を吹き込んでいる。
高橋氏が立ち上げたのが、製造拠点のある湘南の名を冠したブランド「湘南豆富」だ。その第一弾として開発した「大トロとうふ」が大ヒットした。高橋氏は「高級スーパーの成城石井で、25年の夏にもっとも売れた豆腐となった」と胸を張る。高橋氏はスタートアップの起業経験もあり、顧客の視点を大事にするマーケットインの発想で5つの商品を開発した。
高橋氏は事業承継型のアトツギベンチャーとして大切にしていることがある。それは「あくまで王道の豆腐で勝負する」ことだった。業界ではレンジでチンしてすぐに食べられる豆腐商品のほか、大豆ミートのような商品がトレンドになっている。ただ、高橋氏は「私はあくまで堂々の豆腐で勝負したい。この挑戦こそが老舗の誇りを取り戻す戦いだからだ」とし、「創業家やベテランの職人たちが全力で協力し、新しいアイデアの実現に尽力してくれている」と強調した。
高橋氏はまずヤシマ食品を復活させ、ここでの事業承継をモデル化し、老舗を復活させる「セカンドスタートアップ」事業にも挑戦したいと考えだ。
Le-caldo
働きやすい訪問看護を提供
終末期の患者に選べる社会を
Le-caldo(埼玉県所沢市)は、24時間365日看護サービスを提供する看護ステーション「トータルケア」を運営している。最期の時間を自宅で過ごしたいと望む患者のため、同社は24時間年中無休で訪問できる体制を築いた。そこに携わる看護師も「自分の人生」を選ぶことができる。看護師自身が働きたい時間に働き、いつでも休暇を取得可能な制度を導入している。終末期の在宅医療は超高齢化社会を迎える日本で重大な問題だが、その解決に少しでも貢献したいというのが同社の起業の想いだ。
同社の若松冬美代表取締役は大学病院に勤務していた時代に退院したいと望みながら病院で亡くなる患者を見てきており、「自分の人生を自分で選び取ることができる世界を目指したい」と語った。看護師は様々な理由から働きたくても働けない人も多いし、時間的な制約も厳しく、自分の思うようなキャリアを同時に切り開くことはできない。自宅の近くで、働きたい時間に働ける環境が整備されれば、こうした潜在的な看護師にもっとやりがいをもって働いてもらえるケースが増える可能性がある。若松代表取締役によると、「働きながら、ボクシングでオリンピック出場を目指す看護師もいる」という。
同社のサービスでは、看護師の自由な働き方を実現しており、それは大規模化により仕事の効率を高めていることにある。一般的な訪問看護ステーションが5人以下であるのに対し、同社のステーションは10人から30人体制で運営を行っている。
同社は「トータルケア」のフランチャイズ事業も展開している。訪問看護ステーションの運営ノウハウのほか、カルテや請求を含む管理業務を一元管理できるシステムを提供する。現在、日本全国で24ステーションが稼働中で、今後5年の目標として全国205店舗に広げたいとしている。
若松氏は「人生の中で死ぬことは避けられないが、最後の時まで自分の人生を自分で選べるようにしたい。そのためには全国の看護師たちが働きやすい訪問看護ができるようにすることが必要で、自宅に帰りたいという患者の想いを実現していきたい」と語った。
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