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TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2026 創業部門最優秀賞 LOOPARTS

東京都が推進するスタートアップ支援事業「TOKYO SUTEAM」において、協定事業者やスタートアップ・起業家同士のネットワーク構築を目的としたイベント「TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2026」が3月10日に開催された。イベントで注目されたピッチコンテストでは、「創業」「成長」「海外」の3部門にエントリーした有力スタートアップ15社の経営者がプレゼンを披露した。「創業部門」で最優秀賞に輝いたのは、東北大学発スタートアップのLOOPARTS(仙台市、ルーパーツ)だった。世界初とされるアルミをアップグレード(高純度化)リサイクルできる技術の実用化に取り組んでいる。

東北大学の朱教授が発明したシーズを世界で事業展開

ルーパーツの滝本社長は「ピッチでの受賞は初めてで、本当にうれしい」と語った
ルーパーツの滝本社長は「ピッチでの受賞は初めてで、本当にうれしい」と語った

ルーパーツの滝本康平社長は創業部門の最優秀賞の表彰式で「ピッチイベントでの受賞は今回が初めてで、本当にうれしい。東北大学の朱鴻民教授が開発した技術の社会実装というビジネスにおいては私が責任を担っており、世界標準にするために頑張って取り組んでいきたい」と笑顔で語った。

ルーパーツはベンチャーキャピタリストだった滝本康平氏が、東北大マテリアル工学専攻の朱教授とともに25年10月に創業したばかりだ。東北大学のラボレベルではアルミのアップグレードリサイクル技術の実証実験に成功しており、26年1月には京都大学イノベーションキャピタルなどからシードラウンドで資金を調達したと発表している。日本の強みである素材の基礎研究では東北大学が世界でも有名であり、ディープテックのスタートアップとして注目されている。

ルーパーツのアップグレードリサイクルは「夢の技術」とされるが、朱教授の存在抜きには語れない。「溶融塩電解」という技術分野の世界的な権威であり、基礎から実装に至るまで引っ張ってきた。溶融塩電解とは固体塩を高温で融解させ電気分解する。これは金属のリサイクルでは非常に重要で将来性のある技術とされる。朱教授が取り組んでいるテーマの1つにこれまで不可能とされたアルミのアップグレードリサイクルがある。純度が低いアルミスクラップを原料とし、99.9%以上にまで高めることを確認できている。軽量で強度の高いアルミは飲料缶や建材から、自動車や航空機などの輸送機、そして半導体素材などとしても使われており、アップグレードリサイクルが実現すれば、産業界へのインパクトは非常に大きい。

アルミの純度高めて国産化に道
 電力使用量も抑制

滝本氏はルーパーツという社名に込めた思いを語り、循環ビジネスのリーディングカンパニーになりたいとしている
滝本氏はルーパーツという社名に込めた思いを語り、循環ビジネスのリーディングカンパニーになりたいとしている

滝本社長は「産業革命後の大量生産で経済が成り立っていたが、人類は大きな時代の転換点に直面している。これから求められるのは循環経済を支えることであり、私たちがリーディングカンパニーになりたい」と強調した。社名に込めたのは、循環(LOOP)のパーツ(PARTS)を担うという思いだった。

滝本氏は東京工業大学(現東京科学大学)を卒業後、SBIインベストメントに入ってベンチャーキャピタリストとして数多くの技術シーズや技術者を見てきた。その中でも「これはすごい」と直感して夜行バスに飛び乗って会いに行ったのが、東北大の朱教授だった。金属では1万年の歴史がある銅、4000年の鉄と比べて、アルミは精錬法が確立してから140年たらずであり、技術開発での大きな余地があるという。

滝本氏は今後、スクラップが大量に余るクライシスになりかねないと警鐘を鳴らしている
滝本氏は今後、スクラップが大量に余るクライシスになりかねないと警鐘を鳴らしている

アルミの課題は、リサイクルの度に純度が下がる「ダウングレード」であり、需要の旺盛な高純度品の循環が難しいことだった。滝本社長は「今後もし、EV(電気自動車)シフトが進み、低純度用途のニーズが減ることがあれば、アルミニウムクライシスが起きかねない」としている。アルミは飲料缶などのスクラップ回収が整っているが、純度が下がれば、用途が限られて大量に余りかねない。朱教授の特許申請技術「UPLOOP」では純度を高められ、クライシスを避けられる。電力の使用量も従来の精錬の3割以下に抑制でき、リサイクル費用も低減できるという。

滝本社長は「高純度なアルミの新地金の製造には膨大な電力が必要になる。ルーパーツが取り組むアップグレードリサイクルならコスト競争力を確保しながら脱炭素や地政学リスクにも対応できる」と強調した。

アルミ製品の生産は鉱石のボーキサイトから原料となる酸化アルミニウム(アルミナ)が豊富に含まれ、それを電気分解して精錬して新地金にするところから始まる。ただ、この上流部門は膨大な電力が必要になることから、日本は全量を海外から輸入している。インゴットの主要生産国は中国、インドやロシアなどであり、新地金の国内生産がUPLOOPで可能になれば、カーボンニュートラルに寄与するとともに、地政学リスクを大きく軽減できる可能性がある。

2028年にも実用化へ
 都の支援で事業化が前進

滝本氏はアルミのアップサイクルについて自社で手掛けるか、ライセンスアウトするかを1年程度で決めるとしている
滝本氏はアルミのアップサイクルについて自社で手掛けるか、ライセンスアウトするかを1年程度で決めるとしている

ルーパーツでは今後のビジネスモデルとして、自社でアップサイクルの工場設備を建設してスクラップの調達から販売まで一気通貫で手掛けるのか、装置販売およびライセンスアウトするかを今後1年程度で意思決定する方針だ。滝本氏は実用化の時期を2028年半ばとし、そこで売り上げを確保できるようにしたいとしている。

ルーパーツはこれまで東京都が推進するTOKYO SUTEAMの枠組みを活用し、様々な支援を受けてきた。滝本氏は「東京都ではS2で創業時から手厚く支援してもらった。会社の価値の可視化や創業期に必要な幅広いネットワークの提供など、ベンチャーをローンチすることに必要な機会を頂いた」としている。S2とは「Science Tokyo Venture Studio」のことであり、パートナー企業との連携など様々なメリットがあったという。

ルーパーツの技術が注目されるのは、アルミだけでなく、レアアースなど他の希少な金属でもアップグレードリサイクルが実現できる可能性があることだ。すでに展開を見据えており、今後は都の協定事業者の支援なども受けて事業を加速していくとしている。

環境大国とされる日本ではリサイクルという循環技術が強みとされてきた。ルーパーツのような大学発のスタートアップが新たに登場し、金属市場で世界2位の重要素材のアルミでアップサイクルを実現することは極めて重要だ。海外でも有望な事業として展開できる。アルミを皮切りにレアアースを含めて循環ビジネスのリーダーとして存在感を発揮できれば、日本の産業競争力の強化にも貢献できる可能性がありそうだ。

表彰式での集合写真。前列中央右がルーパーツの滝本社長
表彰式での集合写真。前列中央右がルーパーツの滝本社長