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NIKKEI THE PITCH Day in TechGALAリポート 東海地方から世界をリードするスタートアップを育成

日本経済新聞社がスタートアップやアトツギベンチャーを支援するプロジェクト「NIKKEI THE PITCH」の大型セミナーが1月27日から2日間、名古屋市内で開かれた。中部財界などが主催する国際的なスタートアップイベントと連携した「NIKKEI THE PITCH Day in TechGALA」だ。国内外の経営者、投資家、起業家らが多数集まった。イノベーションを担うスタートアップを生み出せる東海地域の潜在力と、そのための具体的な施策などについて議論が繰り広げられた。

各セッションの最後にアーカイブ動画を設置しております。ぜひご覧ください。
東海地域発のスタートアップ育成について議論する東海東京証券の特別セッションが注目された
東海地域発のスタートアップ育成について議論する東海東京証券の特別セッションが注目された

東海東京証券の「ネクストファンド」はスタートアップ育成の原動力に

名古屋市内で27日に開かれた当イベントで注目度が高かったのが、「次世代の東海地域のスタートアップ支援に向けて」という東海東京証券による特別セッションだった。開催日の前日に、東海東京証券はベンチャーキャピタルのプライムパートナーズ(東京・港)とゆうちょ銀行との提携を発表していたからだ。東海地域に特化してスタートアップを育成する新たな大型投資ファンド「Next Tokai Innovation Fund(通称ネクストファンド)」の設立だ。当初の運用額は50億円程度を予定しており、東海地域でのスタートアップ育成が加速する原動力になりそうだ。

今回の戦略提携のまとめ役である東海東京証券の武井孝夫常務執行役員(投資銀行カンパニー長)は特別セッションに登壇し、「東海地域の主要大学と連携したり、若い起業家を東京の投資家らに紹介したりするなどきめ細かく支援してきた。2年前にはスタートアップ支援室も設立している。これまで培ってきた知見や顧客基盤を生かし、新たなファンドを活用し、東海地方に数多くのスタートアップを育てていきたい」と強調した。

東海東京証券の武井常務執行役員(左)は東海地域でのスタートアップ支援のために新たなファンドが重要な役割を果たすと語った
東海東京証券の武井常務執行役員(左)は東海地域でのスタートアップ支援のために新たなファンドが重要な役割を果たすと語った

東海東京証券は中部地域では中小企業を含めて強い顧客基盤を維持し、スタートアップ支援も2016年から本格的に強化してきた。2016年から中部オープンイノベーションカレッジを開催し、地元の企業経営者や大学の幹部らを招いて、ピッチや座談会などを累計59回開催している。名古屋大学など東海地域の国立5大学の起業家育成プロジェクト「Tongali」にも協賛し、大学発スタートアップの経営を支援している。こうした取り組みがあるからこそ、ネクストファンドが重要な役割を担えるようになる。

「海外の有力スタートアップとの連携も後押ししたい」

東海東京証券とともに東海地域のスタートアップ支援に取り組むプライムパートナーズの堀部氏(中央)とゆうちょ銀行の野田氏(右)
東海東京証券とともに東海地域のスタートアップ支援に取り組むプライムパートナーズの堀部氏(中央)とゆうちょ銀行の野田氏(右)

今回のファンドが注目されるのは、プライムパートナーズとゆうちょ銀行との提携で設立されるからだ。まず、プライムパートナーズは創業から12年で140社に投資し、このうち半分が海外のスタートアップだ。投資先の経営に深く関わり、成長戦略の立案などきめ細かく支援してきた。同ファンドの創業者である堀部大司氏は「中部は自動車や航空宇宙など日本屈指の産業集積地でありながら、スタートアップの資金調達などは日本全体で3%程度と非常に少なかった。ただ、当地には有力な大学も数多く、潜在力が非常に大きい。東海東京証券とゆうちょ銀行と連携することで、グローバルで成功できるスタートアップを数多く育てられるはず」と語った。

堀部氏は海外のスタートアップにも数多く投資してきただけに、「東海地域の有力企業と連携してもらい、自動車や航空・宇宙など主要産業のさらなる競争力向上につなげたい」としている。

ゆうちょ銀行の資金力も強み、ネクストファンドで地域活性化に寄与

日本の金融機関でも屈指の資金力があるゆうちょ銀行の参画も非常に大きな意味がある。ゆうちょ銀行の野田駿投資事業推進部グループリーダーは「ゆうちょ銀行は地方を元気にする投資に力を入れている。今回のネクストファンドが地域活性化につながるモデルケースとなることを期待している」と語った。

ゆうちょ銀行は全国各地でスタートアップ発掘や事業再生に関わる投資事業「Σ(シグマ)ビジネス」を新たな収益源に位置づけており、東海地区でも取り組みを本格化する。ゆうちょ銀行は全国隅々にある郵便局を窓口として多くの預金者に支えられており、地方創生に貢献できる投資を重要視している。

特別セッション終了後には多くの参加者が交流会に参加した
特別セッション終了後には多くの参加者が交流会に参加した

東海東京証券の武井氏は「ネクストファンドとしては地域の金融機関などにも参画してもらい、より多くのスタートアップが支援できるようにしたい」と語った。27日の登壇後に開かれた交流会でも、武井氏は地元の金融関係者らに囲まれ、新ファンドについて詳しく説明したり、若い起業家らを激励したりしていた。

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東南アジアの大学と連携し、若い学生起業家を育てる

多くの優秀な学生を地元の製造業大手に送り込む名工大で起業家育成を進める矢野氏(右から2人目)
多くの優秀な学生を地元の製造業大手に送り込む名工大で起業家育成を進める矢野氏(右から2人目)

28日午後には、大学や金融などによるスタートアップ育成基盤のあり方について議論するトークセッションが開かれた。名古屋工業大学教授の矢野卓真・産学官金連携機構長、東海東京証券の進藤達スタートアップ支援室長が登壇した。日経からは小柳編集委員がモデレーターを務め、NIKKEI THE PITCHの古山和弘編集長も議論に加わった。

名工大の矢野氏は2016年から同大学で始まったアントレプレナーシップ教育で学生起業家が増えている状況を説明し、「従来、名工大の卒業生の多くが地元の有力企業へ就職していたが、現在は起業も有力な選択肢になりつつある」と語った。名工大が注目されるのは、マレーシアやベトナムなどの有力大学と巧みに連携して、大学の技術を生かしたスタートアップの海外展開などを後押ししていることだ。「東南アジアは若い世代が成長を担っており、私たちの学生を連れて交流することで大きな刺激になる」(矢野氏)という。

東海東京証券の進藤氏(右端)は、東海地域の大学発ベンチャーの支援に力を入れていると語る
東海東京証券の進藤氏(右端)は、東海地域の大学発ベンチャーの支援に力を入れていると語る

東海東京証券の進藤氏は東海地域の国立5大学が連携して起業家を育てる「Tongali」プログラムに協賛するなど地域の大学発ベンチャーへの支援策などについて説明した。「創業の早い段階から起業家の皆さんに寄り添い、地域の金融機関としてできる限りのサポートをすることが大切だ」という。東海東京証券は地元の若い起業家を東京や名古屋の富裕層の顧客に紹介する場を提供している。ネクストファンドの設立もあり、地元に深く根を張る金融機関の強みを一段と発揮できる可能性が大きい。

町工場のDX化こそアトツギベンチャーの使命

精密金型などに強い高瀬金型ではアトツギの高瀬氏(右)がDX化で競争力を高めている。DX化を支援したのがセールスフォース・ジャパン。同社の秋津氏(左)も登壇した
精密金型などに強い高瀬金型ではアトツギの高瀬氏(右)がDX化で競争力を高めている。DX化を支援したのがセールスフォース・ジャパン。同社の秋津氏(左)も登壇した

NIKKEI THE PITCHプロジェクトでは、アトツギベンチャーの発掘や支援にも力を入れている。27日に開かれたトークセッション「町工場DXのリアル」では、セールスフォース・ジャパンの支援を受けている高瀬金型(愛知県稲沢市)のアトツギである高瀬直幸氏が登壇した。高瀬金型はプラスチックの射出成型部品と精密金型を主力とし、多品種少量受注に対応できるモノづくり力が強みだ。

高瀬氏は「社内にデジタルの専門家はいなかったから、自分でいろいろ学んだり、セールスフォースの方に助けてもらったりして、何とかこの2年間でDX化を社内に浸透させることで、業務を大きく効率化できた」と語った。以前は社内の多くの情報は熟練技能者の勘などを含めてアナログで管理され、情報の共有化が難しかった。「今回のDX化で受注や在庫、製造条件など様々なデータを見える化できた。それが企業競争力の源泉になることが分かった」(高瀬氏)という。現在はAIも活用して、より優れたシステムに進化させようとしており、蓄えたノウハウを他社にも展開していく考えだ。

企業のDX化を支援するセールスフォース・ジャパンのマーケティング統括本部の秋津望歩ディレクターは高瀬氏のDX化への取り組みについて「事業承継や人材不足、さらに将来の成長を見据え、現場の力を組織全体の再現性ある仕組みに変えていく姿勢が素晴らしく、非常に先進的な事例だ」と指摘した。さらに「社内の改善で得たノウハウを将来的には外部にも提供し、町工場全体を強くしていこうとするビジョンは、アトツギならではの挑戦ではないか」と語った。高瀬金型は多くの町工場のアトツギにとって参考になるモデルケースといえそうだ。

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「アトツギと起業家の焚火を囲むような交流が革新を生み出す」

新たなイノベーションを生み出す共創について議論する登壇者たち。右からMTGベンチャーズの藤田氏、三星グループの岩田氏、シンシアリーの國本氏、モデレーターの榎戸氏
新たなイノベーションを生み出す共創について議論する登壇者たち。右からMTGベンチャーズの藤田氏、三星グループの岩田氏、シンシアリーの國本氏、モデレーターの榎戸氏

「伝統×革新~新しいイノベーションのかたち」をテーマにしたセッションではアトツギ起業家や投資家らが登壇し、異なる立場のプレイヤーによる共創のあり方について議論した。

創業138年目の老舗繊維会社、三星グループの岩田真吾代表は2010年からアトツギ起業家として注目されてきた。大学卒業後、三菱商事やボストンコンサルティンググループなどで経験を積み、欧州での事業展開や自社ブランドの立ち上げなどで手腕を発揮している。さらに、アトツギとスタートアップの経営者が交流して共創を目指す「TAKIBI & Co.(タキビコ)」プロジェクトを進めて多くの参加者を集めているのだ。

岩田氏は「日本には330万ある会社の9割以上が中小企業であり、そこではアトツギたちが家業を引き継ぐことになる。大切なのはアトツギたちが、起業家と焚火を囲むようにフラットに付き合える場を提供し、刺激し合うことだ。そこから経営革新やイノベーションが生まれ、日本を一緒に変えていこうという意識も出てくる」と強調した。

名古屋市に本社を置くVC、MTGベンチャーズの藤田豪社長はイノベーションを育む仕組みとして地域課題解決型ファンド「Central Japan Seed Fund(CJS)」を立ち上げた。「スタートアップこそ深刻な地域課題の解決に取り組むべきであり、そこで成果を出せば、事業拡大に弾みがつく。地方で様々な人たちと触れ合うことがイノベーションを生み出す原動力になる」と指摘した。

藤田氏は現在、東海地域のスタートアップなどを秋田県に連れていき、人材育成や空き家の再生など様々な課題解決に取り組んでいる。「秋田県では1955年から人口が減少しており、最近ではクマがたくさん出没している。秋田だからこそ課題解決に真っ先に取り組むことができ、自治体から手厚い支援も得られる。スタートアップとしては大きなチャンスになる」という。

Cynthialy(シンシアリー、東京・渋谷)は、国内の大手企業に対して生成AIの導入支援や専門的人材の育成をしている。同社の國本知里代表取締役CEOは「イノベーションは既存のものの掛け合わせでもあり、そこで新しいものを生み出すには、自分とは違う人たちとの対話が重要だ」と指摘した。東京都と連携して女性起業家の発掘や育成をしているが、コミュニケーションのツールとしてAIの効果的な活用が強みになるという。

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「デカコーンを目指さなければ、ユニコーンにもなれない」

ユニコーン候補企業の経営者として注目されるアスエネの西和田氏(右から2人目)と、カケハシの三浦氏(右端)。日経の小柳編集委員(左端)がモデレーターを務め、日経の鈴木次長(左から2人目)も議論に加わった
ユニコーン候補企業の経営者として注目されるアスエネの西和田氏(右から2人目)と、カケハシの三浦氏(右端)。日経の小柳編集委員(左端)がモデレーターを務め、日経の鈴木次長(左から2人目)も議論に加わった

今回のセミナーではこれからユニコーンに成長するために何が必要なのかについて議論するセッションも開かれた。日経では2017年から「NEXTユニコーン調査」を実施している。企業価値10億ドル(約1,500億円)以上の未上場企業「ユニコーン」候補を多角的に分析している。未来のユニコーンとして期待される2社から登壇した。アスエネ(東京・港)の西和田浩平代表取締役とカケハシ(東京・港)の三浦徹上級執行役員だ。日経の小柳建彦編集委員がモデレーターとなり、この調査を長く担当した鈴木健二朗次長も議論に加わった。

アスエネは西和田氏が2019年に三井物産を退職して創業し、二酸化炭素(CO2)排出量の見える化や報告などのクラウドサービスを主力事業としている。データセンターの建設ラッシュに伴う電力不足や熱問題に対応したサービスも需要が大きく、急成長している。米国やシンガポールなど海外拠点を矢継ぎ早に展開し、事業領域を広げるために国内外で積極的なM&Aを仕掛けている。

西和田氏は若い起業家へのアドバイスを聞かれて、「視座をより高く持つことが大切だ」とし、「私たちはユニコーンではなく、時価総額が10倍の100億ドルというデカコーンを目指している。それぐらいの目標を掲げなければ、ユニコーンにもなれない」と語った。

ミッションの達成こそスタートアップの羅針盤

カケハシの三浦氏はアマゾン・ジャパンなどで豊富な経験がある
カケハシの三浦氏はアマゾン・ジャパンなどで豊富な経験がある

カケハシは薬剤師の事務作業の負担を軽減する薬局向けソフトが強みで、創業から10年で国内シェアを急拡大中だ。同社で最高財務責任者(CFO)を務める三浦氏は外資系証券大手を経て、アマゾン・ジャパンで経営管理を担当するなど経験が豊富だ。「世界一の高齢化社会の日本では医療は数少ない成長分野であり、まだ成長の余地が大きい」という。薬局向けソフトが強いが、薬剤師のコミュニティづくりや医療・健康情報の提供など事業領域を広げている。

三浦氏も若い起業家へのアドバイスを聞かれ、「スタートアップにとって大切なのは創業時からのミッションやビジョンを達成するために経営チームが話し合い、取り組み続けることが重要だ」と語った。ミッションやビジョンを羅針盤としてこそ、社員が結束し、目的地を目指せるとの指摘だ。カケハシのミッションは「日本の医療体験を、しなやかに。」であり、医療の受け手と担い手がともに持続可能になることを目指している。

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NIKKEI THE PITCHでは3月に大型イベントを実施予定

ミッションの達成こそスタートアップの羅針盤

2年目を迎えたNIKKEI THE PITCHは各地で様々なイベントを開催し、スタートアップやアトツギベンチャーを支援している。名古屋開催の当イベントには多くの参加者があり、交流会も盛況だった。3月6日から3日間、東京の九段会館テラスで「NIKKEI THE PITCHオープンイノベーションフェスティバル Final」が開催される。ピッチの全国大会、社会課題の解決に取り組む起業家アイデアコンテスト、起業家の卵の育成プログラムの最終プレゼンテーションが行われるほか、大企業の新規事業担当者、CVC、投資家や起業家を対象としたプログラムや交流会も実施する。

「NIKKEI THE PITCHオープンイノベーションフェスティバルFinal」の参加申し込みはこちらから