NIKKEI THE PITCH

日ASEANで共に事業をつくる CVC4社が描く連携の次の一手

関西経済連合会は2026年10月7日、「グローバル・スタートアップ・エキスポ(GSE)2026」のサイドイベントを大阪・グラングリーン大阪で開催した。トークセッション「日ASEANの大企業とスタートアップ連携の現在地と未来予想」では、ASEAN地域の有力コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)3社と、ヤンマーベンチャーズの代表が登壇。資金の出し手から共創パートナーへと変わるASEAN大企業と、日本企業・スタートアップの新たな関係性を議論した。

ASEANの大企業、日本の技術に照準

リビング・ラボ・ベンチャーズは、インドネシアの財閥シナルマス・グループの不動産事業会社シナルマス・ランドのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。2025年11月、日本と東南アジアのビジネス協業の強化・拡大を目的に、スパイラル・ベンチャーズと共同で「ジャパン・テーマファンド」を立ち上げた。ロート製薬やカルチュア・コンビニエンス・クラブなどの日系企業が有限責任組合員(LP)として出資している。バユ・セト氏は「インドネシアや東南アジアへの進出を目指す日本企業に、当社グループを市場開拓のエンジンとして使ってほしい」と述べた。すでに日本の健康食品スタートアップやインドネシアのヘルスケア企業に投資を実行しており、今後も日本のスタートアップ数社への投資を計画しているという。

マレーシア国営石油会社ペトロナスは、CVC部門ペトロナス・ベンチャーズのもとで、スタートアップに実証の場を提供するアクセラレーター・プログラム「FutureTech」を実施している。温室効果ガス排出量の算定・可視化サービスを提供するアスエネは、2025年の同プログラムで最高賞を受賞し、2026年にはペトロナス・ベンチャーズ傘下のツイン・タワーズ・ベンチャーズから出資を受けた。 モハド・マズラン・イブラヒム氏は、「日本はディープテックやハードウェアに強い。今後はもっと頻繁に日本に来て、ペトロナスの事業強化が期待できるようなスタートアップを探したい」と意欲を示した。

シンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング(STエンジニアリング)は航空機整備、防衛、スマートシティなどを手がける。同社のCVC、STエンジニアリング・ベンチャーズのヤン・シー・キアット氏は、「日本を高齢化による医療・介護ニーズの増加など、アジアと似た社会課題を抱える国」と位置付ける。最近は、ロボティクスやヘルスケア、量子技術に注目しており、量子開発の領域では、東京大学や京都大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)などの日本の大学発スタートアップとの面談を重ねている。「日本スタートアップには、我々と補完し合えるニーズや機会が多くあると考えている。スタートアップと新事業をつくり、社会課題に一緒に取り組んでいく」と強調した。

ヤンマーベンチャーズは、ヤンマーホールディングスではなく創業家のファミリーオフィスの傘下にあり、独立した無限責任組合員(GP)としてファンドを運用する。投資領域は、持続可能な食料生産、脱炭素、省人化・省力化、経験価値の向上(現場で働く人のテクノロジー活用)の4領域だ。ヤンマーグループはエンジンや農業機械で東南アジアに強い基盤を持つ。ただ共同創業者・代表パートナーの尾田伸之氏によれば、これらの領域では欧米や日本が先行しており、東南アジアへの投資実績はまだない。

それでも尾田氏は、東南アジアに2つの可能性を見る。投資先の製品を展開する市場としての協業と、現地発のソリューションへの投資だ。すでにバイオ技術系の投資先1社がマレーシアに拠点を設けている。「事業の進め方は日本とは違う。現地に根ざしたソリューションを捉えていきたい」と語った。

知財を現地で事業化 変わる日本企業の関わり方

「かつて日本企業は、東南アジアの企業に資金を出すか、現地に自前の子会社を作り、自社事業をするだけだと捉えられていた」。モデレーターの日本経済新聞社編集委員・小柳建彦氏のこうした投げかけに対し、登壇者からは日ASEANの関係の変化を指摘する声が相次いだ。

シナルマス・グループの合弁事業の約9割は日本企業だという。セト氏は、リスクの捉え方やガバナンスの考え方が近いことをその理由として挙げた。以前は商社や製造業の進出が中心だったが、今はスタートアップや中堅企業がイノベーションを持ち込み、現地パートナーと組んで事業化を目指す例が増えた。数千の島々に多様な言語や文化を抱えるインドネシアでは、新しい技術を具体的なユースケースに落とし込む現地化が鍵になるとした。

その具体例が、日東電工との取り組みだ。日東電工はITや半導体、物流、交通などの分野で約25件の知的財産(IP)を持ち込み、リビング・ラボ・ベンチャーズと共にインドネシアでの事業化を探る6カ月間のプログラムを昨年実施した。日本の技術を現地の課題解決と組み合わせる試みで、最終的に5件の知財協力契約につながった。セト氏は「日本企業にとっては、開発に投資してきた知財をどう収益化するかという課題への答えになる。現地企業は新しい技術を素早く取り込める」と双方の利点を述べた。

受け入れ側の環境も変わりつつある。インドネシアには23の経済特区があるが、そのうち17は製造業や観光業向けだった。しかしこの5年で、ヘルスケアや教育、デジタル、クリエイティブ分野向けの特区も新たに設けられている。政府も海外企業を幅広い分野に呼び込もうとしている。

マズラン氏も、直近のアクセラレーター・プログラムには日本のスタートアップの参加が見られるようになったと話し、「日本側がより開かれ、協業を歓迎するようになった」と変化を実感している。一方、ヤン氏は、日本は以前から研究開発や知的財産で世界トップクラスにあるが、課題は技術の事業化だと指摘した。「日本に求めるのは資金だけではない。専門性やビジョンだ」と語った。

日本のスタートアップ側の意識も変わっている。尾田氏は「5年前、投資先からの質問は『ASEANは市場になるのか』だった。今は『どの国がよいか』『どんな規制に対応すべきか』と具体的になった」と話し、東南アジア展開への意欲が高まっているとした。

協業は必須、実装まで見据えよ

セッションの最後には、会場の日本の投資家や企業に向けてメッセージが送られた。セト氏は「東南アジアは人口約7億人、インドネシアだけで約3億人を抱える機会の多い地域だ。私たちにとって協業は必須だ」と呼びかけた。

ヤン氏は「PoCや試験導入ではうまくいっても、実環境で壁に当たり、成長が18カ月ほど遅れる例は多い」と指摘。実証段階から事業化までを見据えてビジネスを設計する必要性を訴えた。

尾田氏が成長の余地として挙げるのが、フィジカルAIによる暗黙知の「輸出」だ。「日本ではこれから10年で多くの熟練技能者が引退する。そのノウハウをAIやフィジカルAIに移し、成長市場に輸出できる」。熟練者の大量引退という日本の課題が、東南アジアでは商機に変わるということだ。

「ASEANは市場になるのか」から「どの国で、どう組むか」へ。日本側の問いが変わる一方、ASEANの大企業も日本の技術に関心を向ける。協業の機運は、双方で高まっている。