NIKKEI THE PITCH GROWTH
東京ブロックA
予選大会リポート㊦
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の東京ブロックAの予選大会で2025年12月10日午後の後半パートに登壇した7社について紹介する。
東京ブロックA(後半・午後パート) 予選出場7社
PacPort⇒FerroptoCure⇒ポケットサイン⇒Ms.Engineer⇒Medispark⇒薬zaiko⇒Unito(登壇順)
東京ブロックA予選のピッチ動画はこちらから。
PacPort
オートロック解除で再配達抑制 荷物認証で安心確保
PacPort(東京・千代田)はマンションなどのオートロックを解除して再配達を減らすサービスを提供している。ネット通販の普及などで配達の荷物が急増する一方、運送業では深刻な人手不足に直面している。コロナ禍を経て、マンションでの共用のロッカーも増えているが、それも不足している状況が続いている。運送業界では一部のマンションでオートロック解除して玄関前に置き配する動きも出ている。ただ、盗難などを懸念する声もでており、オートロックを安心して解除できる技術でPacPortが注目されている。
同社の沈燁代表取締役は「宅配事業者のサーバーとPacPortのシステムを連携し、荷物の伝票番号を照合することでオートロックを解除できる仕組みだ。同社はインターホン最大手のアイホンや鍵大手の美和ロックと資本業務提携をしてサービスの実用化を進めている。
沈氏は「24年から本格的にサービスを導入し、三井不動産や三菱地所など大手不動産会社を含めて30社程度が採用している」と指摘した。オートロックの改良も進んでおり、再配達の削減につながっている。同社のビジネスモデルは宅配事業者などから手数料を得ている。
審査員からの質問では既存のマンションでの取り組みについて聞かれ、沈氏は「これまで改良を手掛けたほとんどが既存の物件だった」としている。というのも、マンションなどでの修繕積立金を活用して改良できるからだ。比較的低価格で改良工事を施し、手数料を安定して確保して収益の安定化を図る方針だ。
FerroptoCure
難治のがん治療に活路 グローバルで研究を推進
FerroptoCure(東京・千代田)は慶應義塾大学発のスタートアップであり、有効な治療薬が見つかっていないがんの治療薬を開発している。具体的には少し専門的になるが、「フェロトーシス」という体内作用、つまり酸化ストレスにより細胞死を引き起こすメカニズムを使い、がん化して増殖していく細胞を死滅させる狙いだ。
同社の大槻雄士代表取締役CEOは「我々は大学発ベンチャーとして20年以上にわたる長年の研究成果を出しており、このがん治療でのメカニズムを解き明かしていきたい」と強調した。大槻氏は慶應大の遺伝子制御研究部門の研究者だった。同社を2022年に起業して、研究開発を加速している。
同社の抗がん剤のメリットは、体に負担をかけず、がん種を問わずに治療ができる点にある。特に乳がんの中でも特に予後が悪く、標準的なホルモン療法などの治療が難しい「トリプルネガティブ乳がん」では高い効果が見込めるとして研究に取り組んでおり、国内外で注目されている。米国でもがん研究で先頭を走る研究機関、MDアンダーソンがんセンターとも連携している。大槻氏は「米国でも同様の研究に取り組んでいるベンチャーがあるが、私たちの研究の方が有効性や進捗度が高い」と強調した。
審査員からの質問では海外の研究機関との連携メリットなどについて聞かれた。大槻氏は「国内での知見だけだと単一の人種しか分からない。早い段階から海外で臨床試験を行うことで、データが偏らず、様々な人種の方に効く抗がん剤を作ることができる」と語った。
ポケットサイン
マイナンバーの認証機能活用 人口減でも質の高い行政サービス提供
ポケットサイン(東京・新宿)はマイナンバーカードを活用し、自治体の職員と住民にとって暮らしやすい社会を実現するサービスを開発、提供している。同社の自治体向けアプリ「ポケットサイン」は防災、地域ポイント、子育てなど様々な住民向けのサービスができ、自治体の職員の作業負担も軽減できる。
同社の梅本滉嗣代表取締役は「深刻な人口減少が地域社会を直撃している。これを解決する切り札がマイナンバーカードだ」と強調した。というのも、マイナンバーカードには本人確認ができる機能が搭載されているからだ。同社は総務省とデジタル庁の認定を受けた事業者としてマイナンバーカードの利活用事業に取り組んでいる。特に自治体の業務の改善が重要であり、頻発する災害時には職員の負担は重い。このため、同社は行政の仕事をアナログからデジタルに転換するサービスを開発した。住民は、マイナンバーカードのICチップを読み取って登録する。災害時に避難所でQRコードを読み取ってもらえれば、行政側は住民がどこにいるのかを把握できる。
子育て支援でもマイナンバーカードをスマートフォンアプリにかざすだけで給付金を容易に受け取れるようになる。現在は、15種類のサービスを開発、提供している。こうした取り組みを通じて、行政と住民がデジタル空間でしっかりとつながる世界を目指している。現在、全国でサービスが広がり、アプリ登録者数が急速に増えているという。
Ms.Engineer
地方の女性を高度デジタル人材に育成 手取りを増やし、地元経済に貢献
Ms.Engineer(東京・千代田)はジェンダーによる賃金格差の是正のために、女性をデジタル分野で高度なスキルを持った人材として育成するサービスを展開している。同社の執行役員である岡千尋氏は「未経験の女性でも高収入を見込める高いスキルを持った女性AI人材に育てることをテーマにしてきた」という。
同社は現在、すべてオンラインで授業を受けられるようにしており、仕事と家庭を両立しながら、スキルを学ぶことができる。女性は結婚や出産などによりキャリア形成において不利な状況に置かれることがあるが、「デジタルスキルを獲得することで、リモートでも働きやすく、高収入を獲得しやすい」(岡氏)という。
同社の受講生では7割を地方出身の女性が占めており、平均年齢が30代で、ほぼ半分は子育てをしている。岡氏によれば、女性の平均年収は300万円台となっているが、同社のプログラムを受講して卒業した後には年収が484万円と高い水準を維持できているという。地方女性の受講者の多くは「仕事があれば、地元にとどまりたい」という声が多いという。このため、新潟県三条市など地方自治体との連携を強化しており、政府からの補助を受けて地方での女性のデジタル人材の育成にも取り組んでいる。岡氏は「地方の女性から日本の社会構造を変えるというところにトライしていきたい」と強調した。
Medispark
「敗血症」患者を救いたい 世界初のリアルタイム診断に活路
Medisparkは敗血症で革新的な診断技術を開発している。敗血症は、血液中に細菌やウイルスが侵入することで引き起こされる感染症で、主に臓器移植など大きな手術を受ける際に免疫が低下した患者に起きやすい疾病だ。敗血症の重症患者の死亡率は高く、国内外の医療機関にとっては対策が迫られている。
同社の名村彩季代表取締役は「敗血症は早期に発見さえできれば、既存の治療法が使える病気でもある」と指摘する。ただ、問題は現在の診断法である血液培養は結果が出るのに2日から4日ほどかかることだという。診断結果を待っている数日の間で敗血症が急激に進行し、重症化して死亡するケースもあるという。
このため、同社では敗血症をリアルタイムで診断する技術を開発した。実際の診断機器としてリストバンド型と指輪型の2種類を開発している。いずれも患者に身に着けてもらい、脈波のセンサーで診断する。「敗血症になると、末梢血管の収縮により特異的な脈波の変化が生じるからだ」(名村氏)という。
同社は東京大学との共同研究により、この微細な変化を捉えるフレキシブルなデバイスを開発した。すでに特許を取得しており、リアルタイムの診断を実現し、敗血症での死亡数の削減を目指している。ビジネスモデルとしてはデバイスの販売のほか、検査回数に応じて収益を確保することも考えており、将来的には保険適用を目指したいという。
名村氏は、「日本の敗血症患者は年間50万人だが、世界では年間5000万人とされる」としており、早期発見へのニーズが非常に大きいという。現在は試作機を完成させており、これから承認申請を経て、2027年の製造販売開始を目指す。
審査員からは技術的な優位性を聞かれた。名村氏は「敗血症の初期症状は発熱と大きな差がないため、なかなか目視の検知が難しい」とするが、「私たちのデバイスをつけて遠隔でのモニタリングも可能で、病院以外の介護施設とかでも利用できる可能性がある」という。
薬zaiko
薬局を物流拠点にして患者に笑顔を、「足立モデル」を全国展開
薬zaiko(東京・足立)は「薬局を物流に変える」を掲げて事業を展開している。同社の海老沼徹代表取締役はもともと薬剤師であり、大手製薬会社勤務を経て薬局を開業し、事業承継により3店舗に増やしてきた。海老沼氏は「薬局は待ち時間が長くて、欲しいタイミングで薬が受け取れなかったり、在庫がなくて薬局をたらい回しにされてしまったりする」と語る。こうした課題を解決するために、同社では患者の待ち時間を解決する医薬品配送管理システムを開発した。
このシステムを使えば、薬局にとって医薬品の配送スケジュールが自動入力され、誰が、いつ、どのくらいの時間で配送するのかという情報を可視化し、共有できる。さらに、患者がいつ、どのぐらいで薬がなくなるかという予測も立てられ、在庫不足も回避しやすくなるという。
海老沼氏は「地域全体で薬の問題を解決するために、現在は(東京都足立区で)ドミナントに出店して、物流費、薬剤原価、人件費などのコストを下げながら事業を進めている」と語る。ユーザーである患者にとってはLINEで薬剤師とつながることができて便利になったと言われている。今年1月からシステムを活用して薬の配送をしているが、先月は240人に届けることができた。ここでは在宅医療において一回の配送単価が高く、技術料を得ることができる。このスキームをうまく活用し、薬局を物流に転換させ、薬での問題を解決しようとしている。
今後の成長戦略では地域に在庫センターを開設し、調剤薬局の無駄な在庫が起きないようにチェックし、最終的には医薬品配送と在庫管理の足立区モデルを確立し、全国展開を目指す。
海老沼氏は「これまで不採算だった調剤薬局を事業承継して黒字化が難しかった。それでも今回の取り組みにより黒字に転換ができた」としている。
審査員から大手の薬局チェーンとの競合について聞かれると、海老沼氏は「大手調剤薬局では薬剤師が非常に忙しく、LINEで患者さんとやり取りするようなことは難しい」としている。海老沼氏がアトツギベンチャーであることも質問された。海老沼氏はもともと、幼稚園の先生が経営していた薬局を事業承継した。患者が困るというので頼まれて、事業を続けてきた。
Unito
留守の日は賃貸部屋をホテルに 新たな暮らしのモデルを提案
Unito(東京・目黒)は不動産ビジネスの新たな形を提示して注目を集めてきた。それは賃貸物件でも、借主が留守の日は宿泊用に貸すことが簡単にできるというサービスだ。同社の近藤佑太朗代表取締役によれば、これはすでにビジネスモデル特許を取得しており、斬新なアイデアとして急速に物件も増やしている。
近藤氏は「固定費だった家賃を変動費に変えることができる」としている。ビジネスモデルはまず、民泊やホテルの機能がある賃貸物件をデベロッパーと共同開発し、留守の多い入居者を募集する。これにより、実際には留守であるタイミングで、宿泊の予約ができるアプリとつながり、ホテルの空き部屋のように貸し出せるという。家に帰る日が決まったら、アプリで申請する。鍵付きの収納ボックスに荷物を預けることができ、家にいない間には部屋の清掃などは同社が請け負う仕組みだ。こうして貸し出すことで、実際には家賃が減額されるモデルになっている。近藤氏によれば「会員数は8万人を超え、稼働率は90パーセントを超えている」という。
近藤氏は「私たちは資産を持つわけではなく、手数料モデルだ。創業から5年で140棟、1200室でサービスが提供できるようになった」としている。
審査員の質問では民泊との違いなどを聞かれた。民泊では住宅宿泊事業法により、年間営業日数が180日に制限されている。残りの185日は賃貸で回す必要がある。賃貸の人が留守になればなるほど、アプリから民泊施設として貸し出せるモデルだ。近藤氏は「清掃で100人以上を雇っており、部屋の清潔さを維持している。掃除の前後の写真を撮影して、経費の申請も一連のプロセスを自動化している。清掃を自社で内製化しているところが特徴であり、強みだ」としている。
同社ではこれまで賃貸物件において家具や家電を最初に用意する必要があり、初期投資が膨らんでいた。ただ、最近は三井不動産や東急不動産など大手との協業により家具や家電も含めて建設費として作ってもらうことができるようになった。初期コストを抑えて、利益率の向上につなげていく考えだ。
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