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NIKKEI THE PITCH SOCIALBUSINESS SCHOOL 沖縄合宿 スペシャルアドバイザー レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長インタビュー

若い起業家たちへ
損得より好き嫌いで生きてほしい

日本経済新聞社が主催する若手の社会起業家育成プログラム「NIKKEI THE PITCH SOCIALBUSINESS SCHOOL」の沖縄合宿が2025年12月下旬に開かれた。同スクールの発案者としてスペシャルアドバイザーを務めるレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長が参加し、11人のスクール生たちに起業家に必要な心構えなどを伝え、ビジネスプランなどについても詳細にアドバイスした。
藤野氏は「すごく楽しみなメンバーばかりで、短い期間でもすごく成長してくれた。最終プレゼンがすごく楽しみだ」と語った。沖縄合宿での単独インタビューを含めて4日間の発言をまとめてみれば、それは「スクール生が何を大切にして、どのように生きてほしいか」という藤野流の人生論であり、「日本全国すべての若者たちに伝えていきたい」ことだった。

藤野氏(右端)はスクール生一人ひとりに起業家として大切なことを語りかけた
藤野氏(右端)はスクール生一人ひとりに起業家として大切なことを語りかけた

投資家に必要なのは「美点凝視」

――――――まず、沖縄合宿の4日間で、スクール生たちについてどう思われましたか。

藤野 スクール生のプレゼンを楽しく聞かせてもらいましたし、私の考え方も理解してくれたと思いますね。まずは、やってみないと始まらないのです。挑戦することで現場から答えを見出し、発想を柔軟に転換して切り口や事業をずらしていくことが大切です。スクール生一人ひとりのプレゼンについて私は講評ではポジティブにフィードバックします。他の人のプレゼンを聞いて、「ここができない」「あそこがだめだ」とか、粗探しをしてもまったく意味がないのです。私が投資家として最も重要な能力とするのは「美点凝視」です。良いところを、かっと目を見開いて見る力です。他のスクール生の強さはなにか、学ぶべきことはどこだろうかということをしっかり見つける。この沖縄合宿ではこうした学び合いができたのではないでしょうか。

藤野氏は投資家としての豊富な経験を踏まえて、起業家に何が必要なのか具体的なエピソードで伝えた
藤野氏は投資家としての豊富な経験を踏まえて、起業家に何が必要なのか具体的なエピソードで伝えた

東大的な人材の限界とは

―――――― スクール生のプレゼンを終わった後、最近通われていた東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)のことについて詳しく話されていましたね。東大EMPは「課題解決」より「課題設定」の能力を高めることが特徴ですね。

藤野 大切なことを考えさせられたので、スクール生にも共有しました。私が通った東大EMPでは半年間、毎週2日間、朝から夜までプログラムがあります。多くの先生が登壇し、課題の本を読んで講義と質疑を50分ずつやります。真の問いを必死に考えて、そこから前進していける能力を身につけることを目的にしています。東大のこれまでの人材育成のあり方を反省するようなプログラムだと思っています。東大の卒業生は官僚や巨大企業で活躍しています。世の中や周囲に求められていることを察知し、効率的にやりとげることにすごく長けているからでしょう。東大EMPに参加して、東大が真のリーダーは大きくて深い問いができる能力が必要だと考えていることが分かりました。

日本では親から勉強して、いい大学、いい会社に入りなさいと言われて、その通りにする。自分が何のために働くのか。仕事とは何なのかという大事なことに向き合っている人は少ない。だから、結果的に損か得かで判断してキャリアを積み重ねていく。「自分はこういうことが好きだから、こんなことをやってみたい」という子供たちがいても、「好き嫌いで決めてはいけません」と言われます。

スクール生にも話しましたが、これは日本社会全体の風潮です。ビジネスマンでも周囲の期待にうまく応えられる人が賢い人であり、出世したりする。有名な会社に就職し上司の言うことを聞いて、月給という「1か月の我慢料」をもらうのもいいでしょう。ただ、損得ばかりで生きている人が多すぎるから、日本社会に閉塞感がこれほど広がっているのではないでしょうか。僕は好きか嫌いで生きることの方が大切だと思っています。

沖縄合宿では藤野氏がスクール生たちからの多くの質問について具体的なエピソードを交えて答えた
沖縄合宿では藤野氏がスクール生たちからの多くの質問について具体的なエピソードを交えて答えた

大切なのは、名詞ではなく、動詞で語ること

―――――― スクール生にも好き嫌いで生きてほしいと言われていましたね。

藤野 スクール生たちはみんな周囲に期待に応えてうまく生きられるし、それは得意なことでしょう。ただ、こうした若者たちがソーシャルの起業家を目指そうと心に決めています。僕は起業家が大好きで、応援したくなる。その理由は明白です。起業は世の中にある様々な事業機会の中から自分が好きで、やりたいと思って選択し、自らの仮説に基づいて商品やサービスを投入して事業で回していくことだからです。有名な会社に入って所属や肩書、つまり名詞で自分を語るのではなく、自分が何をするのかと動詞で語るのが起業であり、この二つの仕事には大きな違いがあります。

起業家は「本当に自分がやりたいのはこれなのか」とか「もっと違うことができるのではないか」などと自らの思考をいじめ抜かなければならない。だから、東大EMPで教えようとしていることですが、問いを深めることが大切です。最終的には自らの問いに対して解決策として打ち出していく。その解決策をもっと高いレイヤーから見つめ直して変え続けていくことも重要です。起業での仕事は自由であり、何でもできるし、好きなこともできるし、無限の可能性があります。自分主体で自分の物語で生きてほしい。

準グランプリ企業から学んだ深く問うことの大切さ

社会起業家のピッチでは藤野氏(左端)がファイナリストたちを高く評価した。準グランプリのキャリアブレイク研究所の北野代表理事(中央左)はキャリアで立ち止まることの大切さを語った
社会起業家のピッチでは藤野氏(左端)がファイナリストたちを高く評価した。準グランプリのキャリアブレイク研究所の北野代表理事(中央左)はキャリアで立ち止まることの大切さを語った

――――――「NIKKEI THE PITCH」プロジェクトでもソーシャル分野の起業家の支援や指導に深く関わられていますね

藤野 ソーシャル分野のスタートアップは社会課題の解決に挑戦しています。ただ、短期間に収益確保が難しいことも多い。将来に期待できる社会起業家を拾い上げていくために日経のプロジェクトは重要ですし、日本の社会や経済を良くすることにもなります。

例えば、前回のソーシャルのピッチではキャリアブレイク研究所(神戸市)が準グランプリを受賞しています。この研究所の代表理事である北野貴大さんの話を聞いて、すごくいいなと思ったのは、会社人生では立ち止まることが重要との大きな問いかけをして、世の中を変えようとしていることでした。日本の会社は終身雇用であり、精神的に疲れたりして休職すると、キャリアが傷ついてしまう。北野さんはこれをキャリアのブランク(空白)ではなく、再びやる気を持って働くために立ち止まる「キャリアブレイク」として取り組んでいる。ソーシャルビジネスは巨大企業に育つ可能性もあるし、どのようなスタートアップでもソーシャル性が求められています。

「メダカの子を愛せなければ、クジラは見つからない」

――――――レオスでは2003年の創業以来、数多くの成長企業を発掘されてきました。投資家として何を大切にされていますか

藤野 投資する会社には大きく分けて「クジラの子」「イルカの子」「メダカの子」がいます。重要なのは、大きくなっても小さいメダカの子にも愛情を注げるかということです。小さな市場で小さな企業でも、メダカの瞳がつぶらでかわいいように魅力はあります。たまに突然変異してクジラになったりする。

大きくなりそうなクジラの子ばかりを狙っている投資家もたくさんいます。そういう人たちは表情があまり良くないなあなんて見えてしまう。投資家としては成果を出すにはクジラも必要です。ただ、メダカの子を愛せない人はクジラの子を見つけることができないというのが僕の考え方です。

だから、東京証券取引所による上場維持基準の見直しは考え方として嫌いですね。グロース市場の上場維持基準を上場5年後の時価総額について現在の40億円以上から、100億円以上にします。ずっとIPO(新規公開株式)をやってきた人間として、上から目線でこの問題をやってほしくない。どんなIPOだって尊いことが分かっていない。時価総額が小さな会社を軽く扱う大学の識者や証券会社の幹部の方とかもいますが、「あなたは自分で会社を作って、年間1億円の売り上げを作ることができますか」と問いたい。時価総額が小さな会社でもそれぞれ役割があり、社会で求められる居場所があります。

藤野氏は長年の投資家、起業家としての経験から高市内閣の成長戦略会議のメンバーに任命された
藤野氏は長年の投資家、起業家としての経験から高市内閣の成長戦略会議のメンバーに任命された

「失敗してもすべてを失うことはない」

――――――政府はスタートアップ大国を目指して5か年計画など強化策を打ち出してきました。ただ、課題もたくさんありますね

藤野氏は若手には失敗を恐れずに挑戦してほしいと語り掛けた
藤野氏は若手には失敗を恐れずに挑戦してほしいと語り掛けた

藤野 私はこれまで30年以上、ファンドマネージャーとして投資してきました。起業家として投資を受けたり、自ら起業した企業を上場させたりした経験もあります。だから、何度も言いますが、日本が持続的に成長するにはスタートアップの育成が欠かせません。日本には沖縄合宿に集まったスクール生たちのような将来を期待できる若者たちがたくさんいますよ。

僕はスクール生たちに自らのやりたいことを動詞で語ってくれと言いました。僕は投資信託会社の創業者であり、投資責任者であり、大学でも教えており、本も40冊以上も出しています。「マルチな人ですね」なんて言われますが、私が好きでやっていることを動詞で表現すると、すべてが「育てる」ことなのです。特に起業を志すような若い人たちを育てて、育っていくのを見ることが大好きです。

僕は大学時代に検事を志望していました。当時、高校の大先輩が検事総長を務めていて、有名なリクルート事件で創業者の逮捕を指揮しました。1990年に大学を卒業し、検事になるには金融のことが分かった方がいいと思い、当時の野村投資顧問(野村アセットマネジメント)に入りました。いつか逮捕してやると思っていた「うさん臭そうな起業家」も担当しました。ただ、魅力的な起業家と数多く出会い、自分でも「理想の投資信託を作りたい」と思ってレオスを創業しました。

最初はレオスも順風満帆でした。「金儲けなんて簡単だな」なんて言っていましたがそうは問屋が卸さなかった。2008年9月のリーマンショックですべてを失って株式を譲り渡し、会社に残って電話番の仕事をしていて、もう辞めようかなあと落ち込んだものです。そんな時に他の有力会社からヘッドハントした同僚が「藤野さん、簡単にあきらめていいのですか。理想の投資信託をつくるんじゃなかったんですか」と言われて目が覚めて、42歳で再出発しました。失敗してもすべてを失うことなんてない。失敗だって経験だし、助けてくれる仲間たちがいるから、今までやってくることができたのです。

沖縄合宿に集まったスクール生はこれから長く付き合える仲間を得ることができたでしょう。みんな20歳代で若いし、この世代の失敗なんてまったく気にする必要なんてない。思い切ってやってほしいですね。

沖縄合宿ではスクール生11人が寝食を共にし、藤野さんが大切だと語る長く付き合える仲間を見つけた
沖縄合宿ではスクール生11人が寝食を共にし、藤野さんが大切だと語る長く付き合える仲間を見つけた