
日本経済新聞社が未来を担うスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」プロジェクトは2年目を迎え、ベンチャーキャピタル(VC)やグローバル企業などが集結する「共創の場」となっている。3月6日から3日間は最大のイベント「オープンイノベーションフェスティバル Final」が都内の九段会館テラスで開かれた。初日の6日は目玉イベント「NIKKEI THE PITCH Challenger(NTPチャレンジャー)」が開催され、最新のAIエージェント技術で急成長する米シリコンバレーのユニコーン、Gensparkのエリック・ジンCEO(最高経営責任者)らが出演するトークセッションが開かれた。本記事ではその模様を紹介する。
一つの指示で業務を完了、すぐ実現できる未来
「ユーザーが指示を出すだけで、AIが全てを代行して、あらゆる業務が完了するのです。これが私たちの描く未来像だ。日本でも法人展開を始めるAIワークスペース3.0により、この未来へ大きく前進する一歩になる」。米国シリコンバレーにあるGensparkの共同創業者であるエリック・ジンCEOはこう強調した。
Gensparkは2023年12月に創業されたばかりのスタートアップながら、AIエージェント分野で使い勝手の良い機能を備えた技術を矢継ぎ早に打ち出し、ユニコーンとして急成長している。同社のAIエージェントはChatGPTなど70以上のAIモデルを統合しており、150以上のツールセットで利用者が入力した指示により自律的にタスクを実行できるのが特徴だ。
Gensparkのジン氏は1月末にも来日し、主力のAIワークスペース2.0について会見した。これは「AIを使ってより速く働く」ことが特徴だが、ワークスペース3.0は「AIが働く」レベルに進化し、この日の講演でもジン氏が新たな機能について解説した。ジン氏は「世界中で多くの人たちと話をして、チャットボットのChatGPTを使っているとしても、その基本機能である質問をし、回答を得てそれをコピー&ペーストしている。従来のソフトウエアだ。私たちはこれとは大きく違い、一つの指示で業務を完了させることができる」と強調した。
AIエージェントなら、NVIDIAの財務状況も漫画で理解
講演ではジン氏自らが数多くのデモを見せた。米国と日本のEV市場での事業戦略についてのリポート作成を依頼したところ、すぐに充実したグラフなどを数多く掲載したリポートを作成できた。息子から頼まれた米NBAで活躍したコービー・ブライアント選手の日本語の紹介資料や米エヌビディア(NVIDIA)の財務状況を説明する漫画のほか、NTPチャレンジャーに登壇するために日本語の歌詞をつけたテーマ曲も作った。
ジン氏はマイクロソフトの検索エンジン「Bing」の創設メンバーだった。当時の上司はマイクロソフトの現在の会長兼CEOであるサティア・ナデラ氏。検索エンジンビジネスに深くコミットしたからこそ、AIの時代が到来してすぐにAIエージェントの可能性を理解して起業を決めた。米Google(グーグル)出身らとともに2023年12月、Gensparkを創業することになった。
急拡大するAIエージェント市場は米メタが25年12月に中国発でシンガポールに本拠を置くManusを買収したこともあり、競争が非常に激しくなっている。Gensparkはその中でも技術開発で先頭を走っていることから、ジン氏の古巣であるマイクロソフトとの競争について聞かれることも多い。
ジン氏は「マイクロソフトはプラットフォーム企業だ。自社の製品があり、優れた流通チャネルもあり、堅牢なクラウドインフラ『Azure』もある。昨年11月に発表した『Agent 365』でも私たちがパートナーとしてマイクロソフトの顧客にユニークな価値を提供できる」と語った。Agent 365は企業内で利用されるAIエージェントを統合的に管理・保護するための新しい基盤であり、これから法人顧客の多くが利用することになる。
企業のAI活用で大切なのは数字 ユーザー数をいかに増やすか
ジン氏はAIの導入が遅れているとされる日本での事業戦略について、楽天グループのティン・ツァイ専務執行役員と対談した。ツァイ氏はマイクロソフトやグーグルで戦略的に重要な部署で活躍し、楽天グループでAIおよびデータ戦略の責任者に就任した。ツァイ専務は「これまで働いた中で楽天グループは最も多角的な企業であり、AIを活用してサービスの充実や業務効率の改善などを急速に進めている」と指摘した。
楽天グループはAI活用では国内でも先駆的な取り組みをしており、ほとんどの社員が様々な業務に活用するなど組織に浸透している。最新AIモデルの「Rakuten 3.0」も構築した。「新しいAIモデルが毎日出てくるので、それを積極的に試している」という。
ツァイ専務は「企業においてCEOがAIを活用せよと命じても、やっているとチェックリストを埋めるだけのケースがある。大切なのは数字であり、実際にサービスを利用するユーザー数をいかに増やすかだ」と指摘する。AIを活用して結果まで見える化する取り組みが必要だとの指摘だ。
少子化の日本ではAIエージェントが必要 現場のボトムアップに期待
Gensparkのジン氏は最重視する市場の一つを日本としてすでに拠点を設立している。もともと、マイクロソフト時代に日本でのBingの導入にも関わり、造詣が深い。日本の少子化で優秀な人材の採用が非常に難しいことから、AIエージェントの需要が非常に大きく、競争力を高める武器になるとみていることもある。
ジン氏が注目しているのは企業で日常業務を担う現場の社員たちからのボトムアップの動きだ。米シリコンバレーでもGensparkのAIエージェントは現場の従業員が優れた製品として使って同僚や友人にも勧めて、利用者が広がっていった。それを受けて、生産性が大幅に高まることが分かったことから、上司に相談して全社的なサービス導入につながる。日本でも広告に力を入れており、ビジネスマンが個人レベルでGensparkに触れてもらう機会を増やそうとしている。
Gensparkの体験会で AIエージェントの性能向上を実感
こうしたジン氏の意向もあり、NTPチャレンジャーでは6日午後、90分間の体験イベントのハッカソンが開催されて60人以上が参加した。ハッカソンとはチームが集まりアイデアを形にする短時間の集中型開発イベントだ。日経AIで業界やビジネステーマを分析し、GensparkのAIツールで製品の要求仕様書やUIモックアップ画像を作成してプレゼン用スライドを仕上げることだった。最後に参加者を代表して3人が発表した。
最初の発表者は「AIを活用したコーチングサービス」だった。具体的な内容は、AIとの対話を通してコーチングセッションを行い、ゴール設定を支援して伴走し、対話ログで成長の記録をダッシュボードやレポートで見える化することだった。既存の人のコーチともプラットフォーム上で連携し、ビジネスモデルはサブスクリプションで月額3,000円をベースに、マッチング手数料は2割に設定。AIを活用することで、スケールしやすく、3年で25億円の売上を目指すという計画だ。
2人目の発表者は薬局業界をテーマとした。ユニークだったのは、Gensparkなど様々なAIツールに精通しており、ChatGPTやClaudeなどと比較しながらプレゼン資料を仕上げたことだ。Gensparkについては「見やすく色の統一感もある実用的なクオリティにある」「モックアップのUIの画像を見やすく配置していてすごい」という評価だった。
3人目の発表者は「医療機関向けAIアバターサービス」だった。コア機能として、AI受付案内、メディカルコンシェルジュ、バーチャル問診、遠隔診療サポートという4つが提示されており、事業に向けた計画のスケジュールまで出てきた。発表者は「参入すべき3つの理由を自動で出力するなど、ビジネス理解が高かった」と語った。
Gensparkの担当者は3人の発表について具体的な良さを解説した。最初に発表したAIコーチング事業については「AIか人かという議論がある中で、AIコーチングというテーマで人の可能性を高めていこうという視点が素晴らしかった。歴史上の人物などをコーチとして再現することにも価値があった」という。二人目の発表者はGensparkなどのツールに詳しく比較や評価のコメントが的確だったとしている。3人目の方が発表した医療機関向け事業では「実際に成立する提案を作っていただいたことは非常に意味がある」と指摘した。
同担当者はGensparkのサービスで新機能となる「カスタムエージェント」では「資料作成という時間を極限まで減らし、新規事業の中身を精査する、考えることに時間を使うことができる」と指摘した。Gensparkではこうした強みを今回のハッカソンのように日本のビジネスパーソンが体験できる機会を増やしていこうとしている。
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