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関西で目利き力を発揮、スタートアップ大国へ起業家を発掘 ザシード・廣澤代表に聞く

関西で目利き力を発揮、スタートアップ大国へ起業家を発掘
ザシード・廣澤代表に聞く

6月28日に大阪・梅田のグラングリーン大阪で開かれた「スタートアップ関西」で学生起業家らと懇談するザシードの廣澤代表(右)
6月28日に大阪・梅田のグラングリーン大阪で開かれた「スタートアップ関西」で学生起業家らと懇談するザシードの廣澤代表(右)

日本経済の成長のけん引役として期待されるスタートアップの育成では長く、「東京一極集中の是正」が大きな課題とされてきた。 関西は京都大学や大阪大学など世界屈指の研究機関が集積しディープテック分野に強みがある。 それでも、大阪は東京と比べてスタートアップの資金調達額が10分の1以下と大きく見劣りしてきた。 こうした状況を変えようと、関西で大学生ら若い起業家を数多く発掘し、育てているのが有力ベンチャーキャピタル(VC)、ザシード(東京・渋谷)の廣澤太紀代表だ。 創業初期(シード期)の投資案件を数多く手掛けてきた廣澤代表に、自らの故郷でもあり、思い入れの大きい関西での起業家育成のあり方などについて語ってもらった。

関西の大学生に起業を学べる機会を提供

廣澤 関西の大学生ら若者を集めた起業イベント「スタートアップ関西」は6月28日の開催で10回目になりました。 起業をしたいとか、興味がある学生はすごく増えていると実感します。関西ではディープテック分野の起業が多いし、支援体制も手厚いですが、それ以外のネットサービスなどの分野でも可能性があります。 スタートアップ関西に来るような学生と話しても、素晴らしいアイデアがあり、情熱もありますよ。僕のところによく相談に来てくれます。 関西の大学生が東京に行かなくても起業しやすいエコシステムを創っていきたいし、以前に比べれば、かなり改善されています。 僕も地元の関西ではできず、大学を卒業した後の15年に東京のベンチャーキャピタルに入りました。 スタートアップ関西のようなイベントも18年に独立してザシードを立ち上げる前から関わってきました。 23年からは大阪大学共創機構の招へい研究員として、学生に起業について定期的に話しています。 関西では日本のスタートアップをけん引する潜在力があります。まずは大学生らを啓蒙し、関西の経営者の皆さんとも協力し、起業の裾野を広げていきたいのです。 関西でも魅力あるスタートアップを数多く育てていきたいです。

廣澤代表
廣澤代表が長く力を入れてきたスタートアップ関西は地元の起業に熱心な大学生が集まる名物イベントとなっている。

廣澤代表は1992年生まれで、大阪府堺市出身だ。 祖父母が飲食店を経営したことから幼少期よりビジネスに興味を持ち、関西学院大学商学部に入学する。 若い起業家を支援するシリコンバレーのエンジェル投資家に憧れ、自ら創業支援のVCを設立したいと思ったが、 関西ではインターンなどで経験を積める機会も限られ、東京の有力VCのイーストベンチャーズに入社する。 そこで3年半の経験を経て、2018年にザシードを創業し、第一号ファンドを立ち上げた。 イーストベンチャーズ時代から、関西の大学生たちの起業への思いに応えるイベントの運営に関わり、それが「スタートアップ関西」として今も続いている。 起業意識の強い大学生の啓蒙に熱心に取り組んできたのはやはり、東京に行かざるをえなかった学生時代の苦い経験からであり、関西に根を張る起業家を育てたいとの強い思いからだ。

東京の起業家のUターンを後押し 関西は成長の機会大きく

廣澤 6月28日のスタートアップ関西では冒頭のセッションで3人の魅力的な学生起業家に登壇してもらいました。 このうち、二人は東京で起業して活躍しています。国内で初めてNFTチケット販売プラットフォーム「TicketMe」を提供するチケミーの宮下大佑代表取締役と、 セールスの業務を自動化する日本初のSaaSを提供するダイアルシフトの吉次優太代表取締役です。東京のスタートアップの経営者にできる限り、関西にも足を運んで、 学生たちと交流してもらいたいのです。
関西出身で東京に出ていった起業家も非常に多いですが、Uターンをしてもらえるようにしたい。本社を移すとかは難しいにしても、関西は事業を拡大するための支援を受けやすく、 優秀な人材の採用もしやすいです。関西財界では関西経済同友会も若い起業家の支援にすごく熱心です。私は関西経済同友会に入りました。 京都大学出身で、メタバース分野で成長するクラスター(東京・品川)の加藤直人代表取締役CEOも同友会に誘って入ってもらいました。
金融機関系VCも関西での起業家支援にすごく力を入れています。例えば、スタートアップ関西の協賛をしてくれているニッセイ・キャピタルでは経営トップも参加してくれています。 学生たちも交流でき、すごく喜んでくれています。金融機関系などのVCの方には学生にインターンの機会なども提供してもらえれば、お互いにとってすごく良いことではないでしょうか。

スタートアップ関西では、日本生命グループのニッセイ・キャピタルが特別協賛企業として参加し、今年のイベントには秋山直紀社長もクロージングトークで登壇した。 秋山社長はスタートアップ関西について、「学生の皆さんの意識が非常に高く、私たちにとっても大きな刺激になった 」と語る。 ニッセイ・キャピタルは日本生命グループに属し、豊富な資金力を背景に、安定的かつ長期的な視点で投資を行えることが強みである。 秋山社長は今年春に就任したばかりで、同じく関西 の起業支援で存在感の大きいSMBCベンチャーキャピタルの佐伯友史社長ら金融機関など大手VCの経営者たちとも意見交換を重ねてきた。 その中で共通認識として挙がったのは、「VC同士の競争もあるが、協調が重要である」という点だった。同社はTHE SEEDと連携し、 関西エコシステムの強化に貢献していきたいと考えていて、「大学生のインターンシップの機会創出についても今後検討していきたい」としている。

廣澤代表とニッセイ・キャピタルの秋山社長
スタートアップ関西で登壇し、学生とも交流したニッセイ・キャピタルの秋山社長(右)

ロートの山田会長が旗振り役 若い起業家支援で財界人が協力

廣澤 関西では若い起業家の支援に熱心な経営者が本当にたくさんいます。 ザシードは24年3月に最大で30億円規模となる3号ファンドを立ち上げました。 関西での投資額を大幅に増やすのですが、関西の有力企業が事業面での支援にも関わってくれています。 3号ファンドは製品やサービスのローンチ前後のプレシード期のスタートアップに出資します。 このファンドに最初に出資を決め、「私が旗振り役になるよ」と言ってくれたのがロート製薬の山田邦雄会長でした。 関西では、さくらインターネットの田中邦裕社長、監視カメラ大手であるセーフィーの佐渡島隆平社長兼CEO(最高経営責任者)もそうですが、 若い起業家の面倒見の良いところが関西の強みなのです。

ロート製薬では、ザシードの投資先であるArchTech(アーキテック、京都市)の「VR内覧サービス」を工場に採用した。 高精細な3Dスキャンにより、鮮明な3D映像で見ることができことが特徴で、スマホなどの端末でいつでもチェックできる。 生産拠点において衛生面で人の出入りを減らせる映像監視システムとして効果的だからだ。 さくらインターネットの田中社長も関西経済同友会の常任幹事として財界における起業家支援の旗振り役だ。

「起業家への最初の投資家になりたい」

廣澤 ザシードは18年に創業してから、創業初期つまりシード期のスタートアップへの投資に力を入れてきました。 「起業家への最初の投資家になりたい」というのが僕の思いです。 18年の1号ファンドを立ち上げて投資した企業ではAI(人工知能)を活用したロボットを開発のNew Innovations(ニューイノベーションズ、東京・江東)や、 農作物の成長を促すバイオスティミュラントなどを開発するAGRI SMILE(アグリスマイル、東京・千代田)などが事業を拡大し、世界でも注目される企業になっています。 ニューイノベーションズは阪大工学部出身の中尾渓人さん、アグリスマイルは京大大学院農学研究科出身の中道貴也さんが創業者で、いずれも関西出身です。
テック系だけでなく、最近では激戦のフィットネスジム業界でも20年創業のFiT(フィット、京都市)が急成長しています。 創業者の加藤恵多さんが京大2年生の時にザシードの京都オフィスにぶらりとやってきてくれ、話を聞いて出資を決めました。 スマホアプリで入退会ができ、割安な料金で充実した施設でトレーニングできる強みを生かし、全国で140ヶ所以上に拠点が広がっています。 こうしたスタートアップを支援するうえで、重要だったのは21年に立ち上げた2号ファンドでした。 1号ファンドから3年ぐらいで、まだ大きな実績もなかったですが、10億円規模の資金を集められたからです。

廣澤代表とアグリスマイルの中道代表取締役
創業して間もない19年に廣澤代表はアグリスマイルの中道代表取締役(右)への出資を決めた。

廣澤代表がスタートアップ業界でも注目されているのはシード期の起業家を発掘する「目利き力」だ。 ザシードを創業する前から、イーストベンチャーズなどで若い起業家たちに付き合い、目利きの力を鍛えてきた。 ザシードが18年に立ち上げた1号ファンドでは翌年に多くの会社に投資し、その後に大きく成長した。 ニューイノベーションズは今年5月末には新たに資金調達が決まり、すでに総額で60億円を大幅にこえる資金を集めた。 カフェロボットのほか、かき氷やハンバーガーの全調理ロボットが注目されている。 アグリスマイルも農業DXで様々なサービスを実用化し、各地の農協などから信頼されて事業を拡大している。 ザシードにとって大きな転機だったのは21年に立ち上げた最大10億円規模を目指した2号ファンドだ。 これにより、最初に出資した会社への継続的な追加投資が可能になり、新たな起業家の発掘にもつながった。

目利きの投資家を見抜いたメガバンク系の眼力

廣澤 何の実績もなく、夢を語る起業家へのシード投資はやりがいのある仕事ですが、リスクが大きく難しいです。 それは私のファンドの投資家も同じだったはずです。18年に1号ファンドを立ち上げて、今でこそニューイノベーションズなど最初の投資先が成長してくれています。 ただ、2号ファンドを立ち上げた21年には実績などなかった。そこで大切な出会いがありました。SMBC-VCの太田さん(前常務取締役)です。 現執行役員の松下さんと一緒に「大丈夫、大丈夫」と言ってくれて稟議を通してくれました。簡単なことではなかったはずです。 メガバンク系VCとして初めて出資してくれたことで、より多くの出資者を集められるようになりました。 7月11日には日本政策金融公庫など金融機関15行を集めたイベントも初めて大阪で開催しました。関西でこれまで以上に多くの起業家を発掘し、育てる後押しをしていきたい。 それが日本の経済成長にもつながると思っています。

ザシードの飛躍の契機となった2号ファンドではSMBC-VCが出資を決めたことでザシードの成長に弾みがついた。 SMBC-VCは当時、廣澤代表について「何ごとにも泥臭くかつ真摯に向き合う姿勢や、行動力に裏打ちされた若い起業家へのリーチ力は本当に素晴らしいと感じた」と指摘している。 日本の金融機関系VCにとって目利きを見抜く眼力の重要性を改めて物語っている。廣澤代表は関西で有力金融機関と若い起業家の橋渡し役として精力的に動いており、今後に大きな期待ができそうだ。