NIKKEI THE PITCHスタートアップ/アトツギベンチャー/
ソーシャルビジネス起業家/学生
支援プロジェクト

NIKKEI THE PITCH大同窓会

2024年度に実施された「NIKKEI THE PITCH」のコンテストやスクールプログラムの参加者、過去大会のファイナリストなどが一堂に会し、企業のビジョン実現に向けて議論と交流を深めるイベント「NIKKEI THE PITCH 大同窓会」が開催されました。当日はグランプリ受賞者の近況報告やリニューアルした「NIKKEI THE PITCH」の意義、スタートアップにおけるジェンダーギャップ解消のヒントなど幅広い話題が取り上げられました。その中からトークセッションの一部をレポートでお届けします。

オープニング・セッション「NIKKEI THE PITCHの未来」

登壇者
ジグザグ 代表取締役

仲里 一義

横田アソシエイツ 代表取締役

横田 浩一

モデレーター
日本経済新聞社 メディアビジネス

北村 信行

イベントや支援プログラムで起業家の挑戦を後押し

  • 北村日本経済新聞社では、2019年から起業家によるピッチコンテスト「スタ★アトピッチJapan」を開催してきました。仲里さんは、20年度に開催した第2回大会のグランプリ受賞者です。25年3月には、同コンテスト受賞者のなかで、初となるIPOを果たしました。ジグザグ創業の経緯を改めて紹介いただけますか。
  • 仲里インターネットを飛び交う情報はグローバルです。一方で、Eコマース(電子商取引)には、言語、決済手段、物流などの国境の壁があります。その壁を取り払うために、ジグザグを創業しました。ECサイトにJavaScriptのタグを一行入れることにより、海外からの訪問者に対し国外通販専用カートを表示できます。注文を受けた当社が購入を代行し、海外発送やカスタマーサポートなどを請け負うサービスです。コロナ禍によるEC需要の急増やインバウンドによる日本のファン増加もあり、売上高は21年度のおよそ10倍に成長しました。
仲里 一義 ⽒
仲里 一義 ⽒
  • 北村「スタ★アトピッチJapan」は「NIKKEI THE PITCH」ブランドへと統合されました。現在は2種のピッチコンテストを運営しており、一つはスタートアップ企業とアトツギベンチャー企業が対象の「NIKKEI THE PITCH GROWTH」、もう一つがソーシャルビジネスを対象とした「NIKKEI THE PITCH SOCIAL」です。また、社会起業家を志す人のためのスクールプログラム「NIKKEI THE PITCH SOCIAL BUSINESS SCHOOL」を展開しています。そのうち、「SOCIAL」と「SOCIAL BUSINESS SCHOOL」は、横田さんに事務局を運営していただいています。
  • 横田「SOCIAL」の前身である「日経ソーシャルビジネスコンテスト」は、社会課題の解決によるソーシャルインパクト創出に加え、持続的に事業を行うための収益性を評価基準としたピッチコンテストです。産業界や行政、アカデミックで活躍するメンバーをアドバイザリーボードとして迎え、ビジネスモデル確立の支援も行っています。
    一方、「SOCIAL BUSINESS SCHOOL」は、次世代の社会起業家向けのアクセラレータープログラムです。高校生から20代までの社会人を対象として、北海道東川町と香川県豊島で2回の合宿をメンターとともに実施。定期的にゼミを開催し、ソーシャルビジネスの起業支援を行います。
横田 浩一 ⽒
横田 浩一 ⽒
  • 仲里スタートアップにとって重要なことは、サービスや企業そのものの認知を拡大することです。日本経済新聞社主催のコンテストでグランプリを受賞することで、メディア露出などのプロモーション効果を得られ、世間からの信頼獲得にもつながりました。起業家の皆さんには、こうした機会を活用し事業成長のきっかけをつかんでもらえればと思います。
  • 横田日本の未来は、どれだけ多くのスタートアップが生まれるかにかかっていると考えています。「NIKKEI THE PITCH」を通じて、社会課題の解決に取り組む起業家たちを今後とも支援していきます。
  • 北村NIKKEI THE PITCHでは、人と人とをつなぐイベントをさらに充実させていきたいと考えています。また、今年はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の皆様を支援するための施策も準備中です。将来的には、ピッチコンテストなど成果発表の場の提供にとどまらず、起業家育成やアクセラレータープログラムを含めた、総合的な支援プログラムとして発展させ、挑戦する皆様の背中を押せるようなプロジェクトにしていきたいです。
北村 信行 ⽒
北村 信行 ⽒

トークセッション

登壇者
クラフター 代表取締役社長

小島 舞子

エイトローズ ベンチャーズ ジャパン 代表

デービット・ミルスタイン

モデレーター
羽生プロ 代表取締役社長

羽生 祥子

多様性あるチームづくりが価値創出につながる

  • 羽生各自の取り組みを自己紹介していきましょう。当社では、約100社の企業に対し、女性活躍推進やDEI(多様性・公平性・包摂性)に関する研修・コンサルティングを提供しています。私個人としては、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」(女性版骨太の方針2023)に有識者会議のメンバーとして参加したほか、各種の検討会で有識者委員として政策提言を行っています。
  • 小島私たちはAIやマーケティングの自動化にかかわるサービスを提供しています。AIに関するイベントやセミナーを開催して気がつくのは、女性の少なさです。そこで、AI活用を推進する女性リーダーを育成するコミュニティ「Women AI Initiative」を立ち上げ、女性が気軽にAIについて学べる環境を整えています。
  • ミルスタインベンチャーキャピタル(VC)であるエイトローズ ベンチャーズ ジャパンの代表を務めています。VC業界の多様性を確保するため、ハラスメント防止ルールの整備や意識改革を訴えています。
  • 羽生日本政府は「女性版骨太の方針2023」で、上場企業における女性役員の比率を30%以上にするなどの方針を掲げました。その中で私が評価したいのは、女性起業家の育成・支援を議論の柱とした点です。日本の女性起業家は全体の8.8%ですが、20%以上を目指すとしています。女性活躍に特化したファンドMPower Partnersの調査によると、国内のスタートアップ投資額のうち女性創業者への投資額はわずか2%です。この現状を変えなくてはいけません。
小島 舞子 ⽒
小島 舞子 ⽒
  • ミルスタイン海外では、女性のベンチャーキャピタリストが女性起業家に対して積極的に支援する事例が多くあります。しかし、伸び代はまだまだ大きいでしょう。
  • 羽生宝飾品ブランドのカルティエは、女性起業家に年間3億円を支援するプログラムを18年間継続して行っています。こうした環境の整備が日本でも期待されます。
  • 小島毎年5月、アメリカで開催される世界最大級のSaaSカンファレンス「SaaStr(サースター)」では、登壇者の約6割が女性です。投資家が、投資先のDEIに対する取り組みを重視する風潮を感じます。
  • 羽生女性起業家の活躍を示す統計データもあります。MPower Partnersによると、女性が起業したスタートアップは、男性起業家のスタートアップに比べて30%ほど短い期間で上場を実現しているそうです。同社は、リターンに関する調査結果も公表しています。IPOした企業の調達額1円あたりの時価総額を比較すると、女性起業家の企業が男性起業家の企業の1.5倍であったと報告しています。
  • ミルスタイン納得できる統計です。イノベーションを起こし、新たなマーケットを創出する原点の一つは多様性です。従来の常識とは別の視点でビジネスを展開できる、多様性のあるチームづくりが、価値の創出につながります。
デービット・ミルスタイン ⽒
デービット・ミルスタイン ⽒
  • 羽生多様性のあるチームづくりで大切なことはなんでしょうか。
  • ミルスタインハラスメントの防止です。そのためには、権限を持つ人間が、率先してハラスメントを止めることです。特にスタートアップで多いのがセクシャルハラスメントです。女性起業家を対象とした調査によると、被害を受けたことがあると回答した人が半数以上にのぼったそうです。加害者は、出資をしているVCや顧客、メンターなど、立場的に力を持っている側がほとんどです。そのため、ステークホルダーが互いに監視し、当事者意識をもってハラスメント防止に努めなければいけません。
  • 小島男性は、自分がセクシャルハラスメントを受ける立場になったことがない人が多く、加害者になり得る人の存在に気がつきにくいと感じています。ハラスメント防止の声を上げながら、加害の兆候を察知し、止めさせるというアクションも大事です。
  • 羽生これまで、スタートアップにおける女性起業家支援の課題やハラスメントの問題は、ごく限られたクローズドな場で議論されるにとどまり、問題としてすら認識されないことも少なくありませんでした。しかし近年、こうしたテーマについて公に議論し、発信する動きが徐々に進みつつあります。性別や国籍、事業分野といった発信主の属性にかかわらず、ジェンダーギャップの解消をはじめ、DEIの実現に向けて意見を提示する機会を設けることは非常に重要です。今後も是々非々の姿勢で議論を深め、これらの課題について広く情報を発信していきたいと思います。
羽生 祥子 ⽒
羽生 祥子 ⽒