NIKKEI THE PITCHスタートアップ/アトツギベンチャー/
ソーシャルビジネス起業家/学生
支援プロジェクト

NIKKEI THE PITCH GROWTH 中部ブロック予選大会リポート

NIKKEI THE PITCH GROWTH
中部ブロック

予選大会リポート

日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」の中部ブロック予選大会が2025年12月9日に都内で開催された。中部ブロックの予選出場は9社であり、同ブロックからは前年も2社が決勝に進出し、建材として大量に使われる石膏ボードのリサイクル事業に取り組むGYXUS(ジグサス、三重県四日市市)がソーシャルインパクト賞を獲得した。同社の平田富太郎社長は12月10日に地区予選が開かれた九段会館テラスでのアクセラレーションプログラムにも登壇している。「今年の中部ブロックの予選出場企業はレベルが高い」との声が会場でも出ていた。ブロック大会の登壇順に紹介する。

中部ブロック 予選出場9社
うみらぼ⇒クラッソーネ⇒KUROFUNE⇒道設計⇒シシガミカンパニー⇒白銀技研⇒NAGARA⇒丸菱製作所⇒MAKING THE ROAD(登壇順)

中部地区予選のピッチ動画はこちらから

うみらぼ
廃れた真珠養殖場 最新のマリンテック研究拠点で再生

川野氏はアトツギとして真珠養殖場を地域の資源にしたいと強調した
川野氏はアトツギとして真珠養殖場を地域の資源にしたいと強調した

まず、最初の登壇者は、アトツギベンチャー、うみらぼ(三重県志摩市)の川野晃太代表取締役だ。志摩市では歴史的に真珠養殖が主力産業だったが、最近は衰退が続いており、川野氏の実家を含めて養殖場はすでに300カ所以上が放置されている。真珠養殖事業者の高齢化や後継者不足のほか、施設の老朽化などのためだ。

川野氏は「放置された養殖場は見方を変えれば、潜在力ある地域の資産になる」と考えた。真珠の養殖場で宿泊や、マリンテックなどの研究ができる複合施設を建設。海洋の研究者らが地元の漁業関係者と密接な関係を築いて共創できるようにしてきた。

川野氏は「最近では海水温の上昇に伴い海洋生物の生態系が大きく変化しており、(豊かな海洋生態系のある)志摩地区はスマート養殖などの研究に適している」と強調した。三重県など行政の支援も受けている。志摩地区の美しい自然はリゾート地としても魅力であり、新鮮な魚介類を楽しみに訪れる観光客も多い。住みやすいだけに研究者にも好まれる立地としての強みがある。

川野氏は「私たちがモデルケースを作りたい。真珠養殖でもマリンテックの研究でもワンストップで支援し、より多くの人たちが志摩の真珠養殖場で主役になってもらいたい」と語った。

クラッソーネ
900万件の空き家問題解決へDX化で豊かな街づくり

川口氏は深刻な課題である空き家の解体を進めやすくする新たな官民連携モデルを作り出した
川口氏は深刻な課題である空き家の解体を進めやすくする新たな官民連携モデルを作り出した

「国内には900万戸の空き家があり、深刻な問題になっている。自治体などとも連携して、放置された空き家を取り除いて土地を有効に活用すれば、豊かな街づくりにもつながるはず」。クラッソーネ(名古屋市)の川口哲平代表取締役CEO(最高経営責任者)はこう強調する。

クラッソーネは空き家の解体に悩む所有者や自治体が解体業者や不動産事業者とマッチングできるなど様々なサービスをポータルサイトで提供している。空き家は所有者がどうやって処分したらよいのか情報収集すら難しいことがある。自治体にとっても所有者の見当たらない空き家も多く、対策が難しい。

クラッソーネのサイトでは、空き家の解体で優良な業者を見つけられたり、自治体にとっては空き家を処分するためのノウハウを提供したりしている。川口氏は「私たちのサイトを利用すれば、空き家の所有者も自治体も無料でサービスを受けることができる。空き家の解体などの処分が決まった際に、解体業者などから手数料を頂いているので、気軽に相談してもらうことができている」と強調する。すでに全国で170の自治体が同社のサービスを導入している。

川口氏は京都大学農学部卒で、大手ハウスメーカーに就職して営業マンとして活躍した。そこでは新築を建てるための解体より放置されている空き家が多く、それこそが大きなビジネスチャンスになり、社会課題の解決もできると考えて起業した。

川口氏は「国内では解体業者だけで8万社程度あり、その大半が零細業者だ。私たちのサイトでは厳正な審査を通過した2300社が登録されており、過去の違反履歴などもしっかり調査している」という。

審査員からの自治体との関係についての質問には「埼玉県なら人口の半分程度をカバーする自治体で利用いただくことができている。有力な自治体が導入しており、急速に広がっている」(川口氏)という。クラッソーネでは現在、大手ガス会社や金融機関との提携関係の構築に動いており、空き家対策に困っている顧客のさらなる獲得に取り組んでいる。

KUROFUNE
特定技能外国人が生き生きと働いて生活できる社会を支援

倉片氏は人口減少社会の日本で必要な外国人の技能労働者が暮らしやすい環境を整備しようとしている
倉片氏は人口減少社会の日本で必要な外国人の技能労働者が暮らしやすい環境を整備しようとしている

KUROFUNE(名古屋市)は外国人の特定技能労働者の支援に取り組んでいる。同社の倉片稜代表取締役は「15年後の2040年には特定技能の外国人労働者が688万人にまで増えるとの予想もある。私たちのアプリで外国人労働者の皆さんが会社や社会になじめるようにしていきたい」と強調した。

外国人特定技能労働者制度は人手不足の業者を中心に現在、16業種で認められている。最近では毎月、1万人を超えるペースで増えているが、すぐに就職しても辞めてしまうケースも多いという。倉片氏によれば、「私たちのアプリサービスであれば、母国語でチャット相談できたり、銀行口座を開く際に手伝ってくれる人を探したり、様々な困りごとを解決できる」という。

KUROFUNEでは特定技能の外国人について最初の紹介料は無料で定着し、働く期間に応じて料金を取るモデルだ。倉片氏は「通常の人材紹介会社は最初の手数料が高い。私たちは常識を覆すようなモデルにしている」と語る。

審査員からは特定技能以外での外国人の就労支援について聞かれた。倉片氏は「高度人材の分野でも外国人の就労や定着への支援を全部アプリでやってほしいとのニーズがあり、それに対応していきたい」と語った。

道設計
車いすの利用者に笑顔を 安全で気軽に外出できる社会

梅津氏は介護者が楽に押すことのできる電動装置を取り付けた車いすを開発した
梅津氏は介護者が楽に押すことのできる電動装置を取り付けた車いすを開発した

道設計(愛知県岩倉市)は障害者らが自分で操作する電動車いすではなく、普通の車いすに電動装置を取り付けて介護者が坂道でも楽に押して動かせる新しいモビリティを提供している。同社の梅津優代表社員は「自力で移動できない車いす利用者でも安全な外出ができるようになる」と語った。

梅津氏はもともと、総合商社に勤務し、モビリティ関連のビジネスに深く関わってきた。10年以上も自らの母親の在宅介護をしており、その際に車いすを押す大変さを知り、理想とする製品が市場に見当たらなかったため自ら開発することにした。車いす利用者は、介助者が押すのが大変ということを理解し外出を遠慮しがちになる。楽に押すことができる車いすがあれば、一緒に外で散歩できる。

車いすを必要とする要介護の高齢者らは国内で600万人とされる。世界では8000万人とも言われる。それだけに来年から国内市場に投入し、3年後には海外でも展開したい考えだ。

審査員からの販売価格への質問について梅津氏は「電動車いすは30万円程度だが、私たちの製品は車いすに取り付けタイプで、まずは20万円を切る水準とし、一段のコストダウンにより15万円を切るようにしたい」と説明した。

シシガミカンパニー
林業の再生に挑む 森林レンタルで放置林を癒しの場に

林業のアトツギである田口氏はキャンパーへの森林レンタルという新たなFC事業を展開している
林業のアトツギである田口氏はキャンパーへの森林レンタルという新たなFC事業を展開している

シシガミカンパニー(岐阜県白川村)は林業を営んできたが、アトツギベンチャー起業家である現在の田口房国代表取締役CEOが森林をキャンプ愛好者らにレンタルする新しいビジネスを展開している。田口氏は「林業従事者は木材価格の低迷などで廃業が相次ぎ、放置される森林が増えている」とし、「森林に関わる人を増やすためにレンタルサービスを始めた。各地でフランチャイズでも展開できている」と語った。

同社の事業では、1区画当たり200坪前後の森林を年間契約で主にキャンプ愛好者にレンタルしている。利用料は10万円前後だ。テントやハンモックを張って自由に楽しめる。運営側の管理業務としては、月に2回ほど見回りをする程度で良く、初期投資があまりかからないので、副業としてレンタル事業をやりたいという人も出ている。

シシガミカンパニーが集客や情報発信のほか、森林オーナーが事業できるようにノウハウを提供しており、利用料の20%がロイヤルティーとなる。現在は全国34エリアでレンタル森林がオープンしている。

審査員の質問はやはり熊問題への対応だった。田口氏は「即効性のある熊対策は難しいかもしれない。ただ、目撃情報を発信したり、利用者に食べ物を残しておいたりしないように注意してもらっている。猟友会との連携も進めていきたい。森林に人が入って、整備することも熊対策になるのではないか」と説明した。

白銀技研
1人乗り電動エアモビリティで注目 まずレジャー用で市場開拓

西氏は東京湾で超小型エアモビリティの試験飛行をしたいと語った
西氏は東京湾で超小型エアモビリティの試験飛行をしたいと語った

白銀技研(岐阜県飛騨市)は一人乗りで、超小型の電動エアモビリティ「Beedol」を開発している。同社の西洋介代表取締役兼CEOは「私たちは一人乗りに特化し、交通インフラというより、まずはレジャー用途での利用を見据えて開発を急いでいる。2030年に実際に販売できるようにしたい」と強調した。

白銀技研のエアモビリティはガルウイングドアを採用し、固定翼が特徴だ。軽量であることから水に浮いて、水上も滑走でき、翼を折りたたんで車にも積載できるという。ドローンの制御技術を活用し、搭載するリチウムイオン電池の性能向上により、航続時間が開発開始の3年前と比べてほぼ2倍の19分になった。

西氏は「現在は屋内で試験飛行しているが、27年には屋外、具体的には東京湾で試験飛行をしたい。そのために現在の試作2号機をさらに改良していく」としている。

審査員の藤田氏からは今後の開発ロードマップについて聞かれ、「まずは30分の航続距離を実現したい。時速100キロであれば、50キロの移動ができる」(西氏)という。

西氏によれば、こうした小型エアモビリティを開発している会社は国内でも多いが、固定翼で浮上して飛行することと一人乗りに特化している会社は少なく、そこで優位性を出したいという。2035年には目的地を入力することで、自動運転ができるモデルの実用化を最終的な目標としている。

NAGARA
会話記録AIで介護負担を大幅軽減

岡田氏は介護士の腕に取り付けたスマホを使い介護現場の事務作業を大幅に軽減する技術を開発
岡田氏は介護士の腕に取り付けたスマホを使い介護現場の事務作業を大幅に軽減する技術を開発

NAGARA(名古屋市)の岡田一輝代表取締役CEOは「2025年に介護士は35万人も不足しているといわれている。ただ、現場では介護だけでなく、事務作業の負担が重い。私たちはこうした課題を解決し、作業を効率化するためにAIを活用した新たなソリューションを提案している」と語った。

同社のサービスは介護士が同社のアプリを搭載したスマホを腕につけて、高齢者らとやりとりした会話が記録され、整理もされて申請関連の報告書にできる。介護記録を作成するために介護ステーションに戻る必要がなくなり、高齢者のケアに専念しやすくなる。事務作業ではAIがワンタッチで月間の報告書を作成したり、介護士からの様々な質問に対してAIで回答したりする機能もある。

「私たちのアプリでは実証実験をしている老人ホームで現場の事務作業が半減できたとの声も出ている」という。

こうした介護アプリはすでにあるが、年間の利用料が100万円を超えるケースが多いという。岡田氏によれば、同社のサービスは月額3万円からと割安に設定しているから、導入するところが増えている。「世界では先進国の高齢化が進んでおり、私たちの介護士向けのサービスは海外展開も考えている」という。

丸菱製作所
中小企業の技術のフリマサイトを運営 製造業の明日になりたい

戸松氏は町工場の技術や技能をフル活用できるフリマサイトのような事業を展開している
戸松氏は町工場の技術や技能をフル活用できるフリマサイトのような事業を展開している

丸菱製作所(愛知県春日井市)は創業70年で、金属加工に強い中小企業だ。戸松裕登社長は3代目のアトツギとして斬新なサービスを展開している。それは中小の町工場などがそれぞれの技術を公開してフリマのようにネットで仕事を受発注する仕組みだ。このサービスは戸松社長が「製造業の明日になろう」という思いを込めて「アスナロ」と名付けている。

戸松社長によれば、「日本の中小企業では国内で残ったのは多くの仕事が少量多品種や短納期といった利益の出しにくい受注案件だ」という。中小企業の強みである熟練技能を残すことへの危機感があり、アスナロを展開することにした。アスナロの会員企業が専用サイトで必要としている納期や加工技術などを入力すると、それができる中小企業が見つかり、仕事を発注できる。打ち合わせ、帳票発行や決済もこのサイトで完結できるので使い勝手が良い。

戸松社長は「これまでのように取引で協力できる会社を探すために展示会などに行く必要がなくなり、時間がない場合でも発注先を見つけたり、塗装など別工程で強い会社を提携先としてみつけて取引先に付加価値の高い提案ができたりする」と語る。このサービスでは利用料として丸菱製作所側に10%の手数料を支払う。

現在は中部地域で、900社がアスナロに登録しており、もうすぐ1000社を突破しそうだ。これから本格的に全国各地で同様のサービスを展開していく。

戸松氏は「アスナロは昨年、サイトをリニューアルして取引額が上がった。ただ、トランプ関税の影響が出ている。全体として仕事の水準が下がってしまい、取引が生まれにくくなっている」と語った。そのうえで、新たな仕事として「スタートアップのものづくりでも私たちのサイトを通じて支援できるようにしたい」と語った。

MAKING THE ROAD
頼れるクラウド人事部で成長企業に伴走

吉村氏は社会保険労務士としての経験を生かして使いやすいAIシステムを提供
吉村氏は社会保険労務士としての経験を生かして使いやすいAIシステムを提供

MAKING THE ROAD(金沢市)は社会保険・労働保険手続きのクラウドサービス「Schult」を提供する。同社の吉村千春代表取締役は18年間の社会保険労務士としての経験があり、数百社の顧客に対応してきた。吉村氏は「中小スタートアップなど成長企業に寄り添い、頼れる人事部のサービスをクラウドで提供したい」と語った。

これまでの経験から、成長企業であっても、労働時間が長かったり、残業代の計算が間違っていたり、労務管理が正しくできている会社は少ない。社内には専門知識を持つ人材も少なく、法律違反にも気づかないことが多いという。労務管理などのクラウドサービスはあっても、法律が複雑なためにこうしたサービスをうまく利用できないという。

吉村氏はこうした悩みを解決するために、より使いやすく個別の企業に最適な労務管理などのサービスを提供しようとしている。AIの労務診断でリスクを可視化し、実務経験の豊富な専門家が各顧客企業をサポートするようにする。顧問契約がなくても、気軽に業務を依頼できるようにするため柔軟な料金制度を導入するという。

審査員からの質問として今後の顧客拡大策について聞かれ、吉村氏は「まず、全国の税理士さんと提携し、ネットなどの広告も利用して認知度を高めたい」としている。

吉村氏は「HRのクラウドサービスはたくさんあるが、法律や制度が複雑なために宝の持ち腐れのように使いこなせていないことが多い。給与計算や勤怠管理はできても、電子申請などができないという悩みも多く、こうしたニーズに柔軟に対応していきたい」としている。