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創薬スタートアップピッチ  最優秀企業に国産がん放射性治療薬のリンクメッド

日本経済新聞社は、2026年7月9日に開催された「第2回NIKKEI創薬エコシステムサミット」で、創薬に特化したピッチイベントを実施した。最優秀賞には国産のがん放射性治療薬の開発を手がけるリンクメッドが選ばれた。登壇した8社のプレゼンを紹介する。

銅64が可能にする「見える」がん治療

リンクメッドは、画像診断と治療を同時に行う「セラノスティクス」領域で、日本初となる放射線がん治療薬の実用化に挑む。同社はこれまでに外部資金を含め累計80億円超の資金調達を実施した。自社で開発した治療薬の臨床試験を日本国内で進めている。

吉井幸恵代表取締役社長は、「1つの薬で治療前に患者への有効性や毒性を予測し、治療中もモニタリングしながら最適化を図る治療薬の開発に取り組んでいる。自社製造する放射性同位元素『銅64』を活用し、これまで治療が難しかったがんに新たな選択肢を提供したい」と力を込めた。

最優秀企業に選ばれたリンクメッド 吉井幸恵代表取締役社長
最優秀企業に選ばれたリンクメッド 吉井幸恵代表取締役社長

銅64はがんの位置や大きさを特定する画像診断と治療を同時に可能にする唯一無二の放射性同位元素だ。がん細胞を攻撃するベータ線に加え、強力なエネルギーを持つ「オージェ電子」を放出することで、治療抵抗性の高いがん細胞のDNAを直接破壊する。同社は独自技術によって低コストでありながら高純度を保った安定製造体制を確立し、治療への適用に成功した。半減期が約12時間という課題に対しても、有効性を24時間まで延伸させる技術を開発し、強固な特許障壁を構築している。

1号品である低分子製剤は、膠芽腫(こうがしゅ)をはじめとする悪性脳腫瘍を対象に臨床試験を実施中だ。再発脳腫瘍の患者18例のうち76%で1年以上の生存が確認され、11%で腫瘍が完全に消失した。最も悪性度の高い脳腫瘍とされる膠芽腫においても、既存の薬と比べて1年生存率が2倍に向上する良好な結果を示している。2027年に試験を完了し、2028年の国内承認申請および海外治験の開始を見据えている。

さらに2号品として、がん細胞に多く発現するEGFRを標的とした「抗EGFR抗体」を結合させた製剤の開発も進めており、こちらは膵(すい)がんを対象とした臨床試験に着手している。

千葉市内には、総工費20億円を投じた自社工場を建設した。日本全体の生産量をカバーできる規模で、製造管理・品質管理基準(GMP)にも適合している。 吉井氏は「原料を輸入に依存する他の放射性同位体と異なり、自社で安定供給できる点が最大の強みだ。ものづくり技術とGMP工場、人材をパッケージにして米国やアジアなど世界へ横展開し、医療と経済、そして安全保障に貢献したい」と語った。

人工関節に頼らない未来へ iPS軟骨が支える治療

アルクタスセラピューティクスは、年齢を重ねても健やかに歩き走れる社会の実現を目指すバイオベンチャーだ。iPS細胞由来の幹細胞を大量培養する技術と、細胞成分のみで組織を立体化する技術を融合し、数センチ単位の軟骨構造体の作製に成功した。

大岩智大代表取締役CEOは、1年半後を目標に変形性膝関節症での臨床試験入りを目指している。今後は膝関節半月板や手関節などの関連領域へも展開を広げ、総合的な健康長寿に貢献したい考えを示した。

アルクタスセラピューティクス 大岩智大代表取締役CEO
アルクタスセラピューティクス 大岩智大代表取締役CEO

現在、変形性膝関節症の治療は人工関節置換術が主流だが、感染症リスクや運動制限に伴う健康寿命の低下といった課題が残る。人工関節に頼らず、一生涯自分の関節で過ごしたいという関節温存の需要は高まる一方で、それに応える治療の選択肢が不足しているのが現状だ。同社が開発する軟骨インプラントは、細胞成分のみで従来不可能だった大きさと強度を実現しており、日常やスポーツ競技への早期復帰が可能となる。

製造工程においては、iPS細胞の培養・保管から3Dプリンターによる立体構造作製までを一貫して担っている。実用化の壁となる再現性や臨床利用可能な最終製品の定義もほぼ完了しており、すでに豚の軟骨損傷モデルで良好な生着データを得ている。

米国では自家培養軟骨市場が拡大している。しかし600万〜750万円と高額な価格設定に加え、使用制限や脱落リスクの課題が残る。アルクタスセラピューティクスは、自社製品の強みを生かしてこれらの課題を解決し、国内で数百億円規模、米国ではその数倍以上の市場獲得を目指している。

今後は製造工程の確定や信頼性基準での非臨床試験を進める方針だ。大岩氏は「軽症から重症まですべての段階で適切な治療法がある『患者中心の治療レイヤー』を膝関節領域にも確立したい」と語る。巨大市場へのアプローチを通じて将来的な自動化や低コスト化を推進し、再生医療の産業化における課題突破を目指す。

ALSに光 独自の神経送達技術で難病に挑む

ジクサクバイオエンジニアリングは、独自のデリバリー技術を活用し、アルツハイマー病やALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性疾患に取り組んでいる。脳内のバリアによって薬剤が脳実質組織へ送達されにくくなるという、中枢神経系創薬の課題解決を目指す。

ジクサクバイオエンジニアリング 川田治良代表取締役
ジクサクバイオエンジニアリング 川田治良代表取締役

従来の治療法や送達技術では、必要な薬剤量をターゲットへ届けることが困難だった。同社は、末梢神経から中枢神経へと送達される抗体を用いた技術「NeuronSSD」を開発した。

川田治良代表取締役は、「静脈投与(点滴)が可能で、高い神経選択性を持つ。統合させる薬の成分を変えることで、さまざまな疾患へ応用できるプラットフォーム技術だ」と語る。マウスを用いた試験でも、ターゲットとする運動神経細胞へのピンポイント送達が確認されており、外部からの評価も高まっている。

がん領域で培われた技術とNeuronSSDを掛け合わせ、孤発性ALSを対象疾患として開発を進めている。アカデミアや製薬企業、海外団体との連携を通じ、家族性ALSやシャルコー・マリー・トゥース病などへも適応を拡大する方針だ。海外大手の医薬品開発製造受託機関(CDMO)との提携により製造管理・品質管理の整備を整え、グローバルでの試験も加速させている。

川田氏は「世界的に見ても運動神経選択的な薬物送達システムは他にない。国内外のあらゆる運動神経創薬に組み込んでいきたい。今後は標的とするタンパク質を変え、アルツハイマー病やパーキンソン病といった脳内のより広範な神経細胞へ送達できる技術開発も目指す」と意欲を見せた。

40年越しの創薬難題を突破した血中脂質低下薬

PRDセラピューティクスは、新しい作用機序を持つ血中脂質低下薬「PRD001」の開発を進める。同社は、既存薬が効きにくく、小児期から大がかりな治療を余儀なくされる指定難病である家族性高コレステロール血症ホモ接合体(HoFH)の患者に向けた経口薬の開発に挑んでいる。

細田莞爾代表取締役社長は、「PRD001は脂質代謝に重要な2つの標的を単一の化合物で阻害し、強力に血中脂質を低下させるFirst-in-Class(画期的新薬)の化合物だ。希少疾患の患者にも有効な治療選択肢を提供したい」と話す。

PRDセラピューティクス 細田莞爾代表取締役社長
PRDセラピューティクス 細田莞爾代表取締役社長

1980年代以降、脂質代謝に関わる酵素「SOAT」を標的とした創薬に世界中の製薬企業が挑むも失敗が続いていた。細田氏は「当時は毒性をもたらすSOAT1と、真の標的であるSOAT2の違いが知られていなかった。北里大学で発見された天然物が世界初のSOAT2選択的阻害剤であり、これを改良して誕生したのがPRD001だ」としている。

PRD001は、SOAT2選択的阻害により、肝臓での脂質合成と小腸からの脂質の吸収を抑えることで、血液中のLDLコレステロールを細胞内に取り込む「LDL受容体」に依存せずに血中脂質を低下させる。そのため、LDL受容体に変異を持つHoFH患者でも低下作用を発揮するという。ウサギを用いた試験では、血中脂質を正常レベルまで改善し、動脈硬化や脂肪肝の進展も抑制することが確認された。

既存の抗体医薬品と比べて低分子化合物の経口薬であるため、利便性や製造コストの面で大きな強みを持つ。まずは希少疾患を最初の適応症とし、将来的にはアテローム動脈硬化性心血管疾患や代謝機能障害関連脂肪性肝疾患など、巨大な市場領域へ順次展開していく考えだ。

現在、AMED(日本医療研究開発機構)の事業を活用したフェーズ1の臨床試験が進行中だ。細田氏は「現時点で高い安全性を確認しており、期待の持てる結果が出ている。製薬企業との連携やエグジットを目指すとともに、欧米や日本を含むグローバルでの治験の準備を進めたい」と意欲を示す。

細田氏は「日本の創薬エコシステムに足りないのは成功事例だと感じている。自らがその成功事例になれるよう開発を加速させ、ともに歩んでくれるパートナー企業を見つけたい」と語った。

世界初の経口抗がん剤 難治性がんを治せる病気に

FerroptoCureは、難治性がんを「治せる病気」にすることを目指す慶應義塾大学医学部発のベンチャーだ。

がん治療は進化を続けているものの、主要な治療法への耐性獲得による再発や増悪が課題として残る。世界初の抗酸化システム標的経口抗がん剤を開発する同社は、がん細胞の生存や薬剤耐性に関与する特有の抗酸化メカニズムを解明。主要分子である「xCT」と「ALDH」を標的とした独自のシーズを確立した。正常細胞を巻き込む毒性を回避し、これまで他社が超えられなかった高い安全性を両立している。治療法が限られるトリプルネガティブ乳がんをはじめとする多様ながん種で高い有効性を確認している。

大槻雄士代表取締役は、「グローバルで年間900万人以上のがん患者が薬剤耐性によって亡くなっている。我々はこの原因である抗酸化システムを破壊することで耐性を解除し、まったく新しい治療法を日本から世界へ届けたい」と意気込む。

FerroptoCure 大槻雄士代表取締役
FerroptoCure 大槻雄士代表取締役

すでに国立がん研究センター東病院を中心とした国内臨床試験を行っている。大槻氏は「本薬剤はグローバルで見ても有効性・安全性が最も高いレベルにある」と自負する。今後はトリプルネガティブ乳がんを皮切りに、多種多様ながん種へと適応を順次拡大し、巨大なグローバル市場へのアクセスを狙う。

2026年より始めるオーストラリアでの海外臨床試験を成功させ、早期のライセンスアウトや大手製薬メーカーとの協働を加速し、より早く他がん種に拡大していく方針だ。大槻氏は「競合薬と正面から戦うのではなく、併用療法などで他社薬の価値も高めながら、1人でも多くの患者の役に立ちたい」と語る。確かなサイエンスと業界経験豊富な経営陣の強みを融合させ、次世代のがん治療薬の実用化に向けて開発を推し進める考えだ。

患者の負担を軽減 次世代BNCT治療

ラジオナノセラピューティクスは、次世代のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に向けた革新的なホウ素薬剤の開発を進めている。同社は京都大学との共同研究のもと、質量数10のホウ素原子(¹⁰B)を1粒子あたり約500万個、高濃度に内包し、平均粒子径を50ナノメートルに制御した新規ホウ素含有ナノ粒子製剤の開発に成功した。

千葉雅俊代表取締役は、「従来のBNCT薬剤に比べて腫瘍への集積性が4倍高く、長く滞留するのが大きな強みだ。長時間にわたる点滴静注ではなく、ワンショットの静脈内注射(静注)投与が可能で、従来比300分の1以下の少量投与で高い効果が期待できる。患者への負担を大幅に軽減する治療法として仕上げていく」と意欲を見せる。

ラジオナノセラピューティクス 千葉雅俊代表取締役
ラジオナノセラピューティクス 千葉雅俊代表取締役

従来の薬剤は適用が限られる点や投与量の多さが課題だった。同社のナノ粒子は、粒子径を50ナノメートルに制御し、親水性ポリマーで表面をコーティングすることで、生体適合性と高い腫瘍集積性・滞留性を実現。動物実験では、がん細胞が消滅するだけでなく、消滅後にがん細胞を再移植しても生着しない「がん免疫賦活・誘導」や、遠隔部位のがんにも抗腫瘍効果が発揮されており、転移・再発がんへの治療効果が期待されるという。BNCTによる腫瘍選択的な殺傷作用と、がんによって抑制された抗腫瘍免疫を活性化する作用を組み合わせ、物理的な腫瘍細胞殺傷と免疫による抗腫瘍作用の双方からがんを攻撃する、「次世代のがん免疫~BNCT」を目指す点が最大のユニークポイントだ。

最初の適応症として、多くの患者が苦しむ胸部悪性腫瘍(特に多発肺転移腫瘍)を狙う。肺は空気を含むため中性子線を透過しやすく、また再発・転移肺がんは従来薬での治療が難しいため、新しいホウ素薬剤の開発は、多発肺転移のような、治療選択肢の少ない難治性がん患者への大きな福音となる。

三井金属社との共同開発により、有機溶媒を使わない機械化学的合成法という無機化学の特殊合成技術を用いたホウ素ナノ粒子の製造体制・方法を確立した。高い技術障壁により他社の追随を許さない独占的なポジションを築いている。

非臨床試験の完了後には、来年度から第一相臨床試験開始を目指す開発方針だ。住友重機械工業社や大阪医科薬科大学・関西BNCT共同医療センターなどの提携先に加え、加速器の病院設置が進む欧米や中国・台湾・韓国等のアジア圏でのグローバル開発も視野に入れる。千葉氏は「製薬とアカデミアの強みを融合したチームで、がん患者に笑顔を取り戻すために全力を尽くしたい」と語った。

光遺伝学で失明患者に視覚を取り戻す

レストアビジョンは、遺伝性網膜疾患による失明患者の視覚再生を目指す遺伝子治療ベンチャーだ。同社は光受容タンパク質(ロドプシン)を用いた「オプトジェネティクス(光遺伝学)」技術を活用し、網膜色素変性症をはじめとする希少疾患に対する画期的な治療薬の開発を進めている。

堅田侑作代表取締役社長CEOは、「五感の8割を占めるとされる視覚の喪失は、患者の生活に甚大な影響を与える。網膜色素変性症は若年層の失明原因の上部を占める一方で、有効な治療法が存在しない。1回きりの簡便な眼内注射で網膜に遺伝子を届け、残存する網膜回路を生かして視覚を再生させる治療薬の実用化を成し遂げたい」と話した。

レストアビジョン 堅田侑作代表取締役社長CEO
レストアビジョン 堅田侑作代表取締役社長CEO

従来の視覚再生遺伝子治療は、光感度の問題で実用化レベルの視覚再生が難しいとされていた。同社は慶應義塾大学と名古屋工業大学の技術を活用して2種類のロドプシンを組み合わせた次世代型ハイブリッドロドプシンを開発。新たな視覚再生の遺伝子治療薬で治験に入った。

同社はAMED(日本医療研究開発機構)の「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に採択されており、累計58億円超の資金を調達した。日本国内での臨床試験を進めており、光覚が出現するといった中間結果を確認している。

網膜色素変性症の年間グローバル市場規模は、4000億円以上と見込まれる。加えてこの技術は、遺伝子に関わらない他の適応症にも拡大可能性があるという。同社は国内での臨床データを足がかりに、世界市場を見据えたグローバル治験の準備を進めている。

医師としてのバックグラウンドを持つ堅田氏は、「文字が読めるレベルの視力回復が最終ゴールだが、光や物の輪郭、家族の位置が識別できるようになるだけでも患者のQOL(生活の質)は劇的に向上する。チームメンバーとともに、日本発の技術で世界の視覚障害者に希望を届けたい」と語った。

課題ある薬を新薬候補に変える独自AI創薬

2019年に設立されたアークメディスンは、独自の創薬合成技術「HiSAP(ハイサップ)」を用いた低分子薬の研究開発に特化した企業だ。AIシステム「HiSAPort(ハイサポート)」を駆使し、課題を抱える化合物から新規かつ高品質な製剤候補を効率的に創出している。

設立以来、一般的なライセンスタイミングである臨床第2相よりもはるかに早い、GLP(非臨床安全性試験)前やリード化合物発見の段階で、すでに3件のライセンスアウト契約を締結した。

「HiSAP」のコンセプトは、既存の化合物の一部を立体パズルのように独自のコア構造に置き換えるアプローチだ。例えば、副作用の原因となる構造を3万5000個にのぼる独自の「HiSAPコア構造」と置換することで、課題を克服した新しい薬へと生まれ変わらせる。

実際の開発では複数のパーツを組み合わせるため膨大な計算が必要となるが、独自AI「HiSAPort」が構造生成から解析、物性や薬効の予測までを担うことで、生成された膨大な候補から数十個程度まで絞り込んで合成試験を行い、そのフィードバックを基に最適化を図る。

アークメディスン CFO兼管理部長 篠原英次氏
アークメディスン CFO兼管理部長 篠原英次氏

同社の事業は単なる技術提供にとどまらない。起点となる化合物の探索・調達から自社で手がけ、新薬候補としての特許取得および製薬会社へのライセンスアウトを基本ビジネスモデルとする。一般的なAI創薬は既存の公開されているデータに依存するため、特許取得や合成の難しさがある。一方、独自の新規構造に基づく同社の技術は特許性が高く、初期段階から合成可能性を考慮して設計される点が大きな差別化となっている。

これまで取り組んだ課題改善の成功率は92%に上り、そのうち特許取得の可能性が高いものは73%を占める。ライセンス済みの2案件を含め、現在7件の外部連携を展開中だ。体内の多様な標的タンパク質に対応できる汎用性の高さも強みとなっている。核となるHiSAP構造は多数の結合部位を持つため、水への溶けやすさや体内への吸収されやすさ(膜透過性)を高める要素を柔軟に付加することができる。

合成技術を開発したベテラン研究員と経営陣のもと、同社は課題を抱える薬から効率的に新薬候補を連続創出し、製薬業界の創薬エコシステムに貢献していく方針だ。

登壇者のプレゼンテーションは以下からご視聴いただけます
https://channel.nikkei.co.jp/ddes2026/ddes2026day207.html