NIKKEI THE PITCH挑戦者と支援者をつなぐ
イノベーション推進プロジェクト

受賞だけでない ファイナリストのその後

受賞だけでない ファイナリストのその後

NIKKEI THE PITCH SOCIAL 2025-26

日本経済新聞社が主催する若手の社会起業家育成コンテスト「NIKKEI THE PITCH SOCIAL」。2026年3月の最終審査会では、ファイナリストから「受賞の有無にかかわらず、大きく成長できた」との声が聞かれた。本プログラムの特徴の一つが、事業のブラッシュアップに伴走するメンター(アドバイザー)の存在だ。受賞を逃した6人のファイナリストは、メンターとの対話を通じて事業の課題と向き合い、自らのビジョンを磨いてきた。ファイナリストたちは何を学び、それをどのように次の挑戦へとつなげているのか。最終審査会後も歩みを止めない6人の「その後」を追った。

アフリカで挑むソーシャルビジネス メンターとの出会いが転機に
Pamoja Future 結城美桜氏

結城氏は西アフリカのガーナにある国連組織で現地の起業家を支援活動に取り組んだ
結城氏は西アフリカのガーナにある国連組織で現地の起業家を支援活動に取り組んだ

「NIKKEI THE PITCH SOCIALの特徴は、厳しい指摘を受けながらも、審査員やメンターの方々が温かく伴走し、事業の実現を後押ししてくれる点にある。これは他のピッチ大会と違う点だ。自らのやるべきことの解像度が高まり、人生を変える転機にもなった」アフリカのタンザニアで、バナナの茎を活用した生理用品を女性に届けるビジネスを提案した「Pamoja Future」の結城美桜氏はこう振り返る。

結城氏は明治大学国際日本学部の4年生。23年春の入学以来、ウガンダでの子どもたちへの学習支援をはじめ、アフリカ各国で社会貢献活動に関わってきた。25年2月にタンザニア・キリマンジャロ山麓のテマ村に滞在した。現地のNGO代表から廃棄されるバナナの茎の活用について相談を受け、吸収性などが優れる繊維素材に注目し、生理用ナプキンに活用して販売するビジネスを考えた。しかし帰国後、スタートアップ関係者らが集まるカンファレンスでこの事業アイデアを発表したところ、酷評されて意気消沈したという。

結城氏はこの批判をバネに奮起した。25年9月から約半年間、西アフリカ・ガーナの国連組織で国連ユースボランティアとして、ビジネスや社会課題解決に取り組む起業家の育成・支援プログラムに携わった。25年10月にはNIKKEI THE PITCH SOCIALのファイナリストに選ばれた。メンターは国際協力機構(JICA)の天池麻由美氏だった。ガーナに滞在中、天池氏から何度もリモートでアドバイスを受けた。

「天池さんはアフリカでの生理用ナプキンの市場性や現地の農家の経営など、事業に関わるすべてのことを詳しく見てくれた。NIKKEI THE PITCH SOCIALに応募した理由は、天池さんのような素晴らしいメンターと出会いたかったから。本当に良かった」

26年3月の最終審査会後の交流会では、審査員を務めたサラヤの更家一徳副社長とも意見を交わした。審査員との交流もNIKKEI THE PITCH SOCIALプロジェクトならではの魅力だろう。更家氏からは、「大切なのは事業の持続可能性だ。理想を実現するにはバナナの茎の回収費など細部に目を配り、地元の人たちに協力してもらうことが欠かせない」という助言を受けたという。

結城氏は、審査会後に再びタンザニアを訪れて事業化について打ち合わせを行った。現在は、国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所のTICADインターンとして働いている。今年10月からは半年間アフリカに滞在し、現地のソーシャル企業でインターンや調査を行う予定だ。その中の一社がケニアにある「Wildlife Ventures」。ゾウと人間の軋轢(あつれき)が生じるケニアで、養蜂箱フェンスを活用した共存策に取り組む企業だ。

一方、サラヤもマレーシア・ボルネオ島で絶滅危惧種のボルネオゾウの保全活動を進めるなど、社会課題の解決と事業の両立を実現してきた企業として知られる。結城氏は「アフリカのビジネスの現場に深く入り込み、持続可能な事業を実現できるよう、もっと学んでいきたい」と意欲を語った。

最終審査会では、アフリカのソーシャルビジネスに詳しいサラヤの更家副社長からもアドバイスを受けた
最終審査会では、アフリカのソーシャルビジネスに詳しいサラヤの更家副社長からもアドバイスを受けた

ミャンマー、そして世界へ お茶で健康と雇用を育む
Re:leaf 御田麻友氏

御田氏(左)はミャンマーで地域の農家の雇用拡大につながる事業を手掛けている
御田氏(左)はミャンマーで地域の農家の雇用拡大につながる事業を手掛けている

Re:leafの御田麻友氏は、ミャンマーで健康に良い桑の葉ブレンドティーの販売事業を手掛ける。NIKKEI THE PITCHのプラチナパートナーでもあるレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長(当時)は、御田氏のプレゼンテーションを「事業計画は一部が実現しただけでも素晴らしい。(売り上げという)数字をつくれば、大きな支援が得られる」と評価した。

御田氏は22年3月に大学を卒業後、ボーダレス・ジャパンに入社した。先輩に誘われて23年4月にミャンマーのシャン州南部の小さな村に移住した。目を付けたのは、ミャンマーの国民病である糖尿病や高血圧に効果的な桑の葉のブレンドティーの販売だ。現在、同社の製茶工場では既に8人の女性を雇用しており、今年中には内戦地域を含めて全土での販売体制を整える予定だ。年間売り上げは1500万円程度を見込んでおり、社員数も15人に増やす方針だ。31年には周辺国でも健康茶の販売を拡大させ、現地で300人の雇用を生むことを目標としている。

幼少時に父親が工場を運営するフィリピンを訪れた時、物乞いをする多くのストリートチルドレンの姿を目の当たりにし、大きな衝撃を受けた。この経験をきっかけに、国際的な社会貢献に興味を持ったという。大学生時代にはマレーシアの名門、マラヤ大学に留学した。難民や貧困家庭の子どもたちの教育支援活動に関わる中で、心に深い傷を負った子どもたちのための仕事をしたいと強く感じた。

NIKKEI THE PITCHでのメンターは、アジア女性社会起業家ネットワークの渡邉さやか代表理事だった。2週間に1度というペースで対話を重ねる中で、自らのビジョンを具体的な事業として落とし込めたという。渡邉氏のアドバイスで最も心に残ったのは「ミャンマーだけでなく、世界をもっと健康にという大きなビジョンを掲げた方が良い」ということだった。

御田氏は「より多くの女性が働けて子どもたちも挑戦できるようにしたい。プレゼンではこうした思いを説明できた」と最終審査会を振り返る。異国の地で事業づくりに挑む若き社会起業家。その挑戦を支え、志を事業へと育てていくこともまた、本コンテストが大切にしている役割の一つといえる。

審査会後に事業を転換 歯の予防教育を伴走型で
I&Company 多和実月氏

多和氏(中央奥)は子どもたちが楽しみながら歯の予防を学べるプログラムを開発している
多和氏(中央奥)は子どもたちが楽しみながら歯の予防を学べるプログラムを開発している

「最終審査会後、プレゼンで発表したビジネスプランを大きく見直した。自治体や医療系の大学、地域の歯科医と連携し、すべての子どもたちが予防歯科教育を受けられるようにしたい」。 こう語るのは、体験型予防歯科教育プログラムを手掛けるI&Companyの多和実月代表だ。

多和氏は23年3月に広島大学歯学部を卒業後、「幼少期からの予防習慣を普及させたい」と思いで起業家の道を選んだ。大学時代には多くの歯学部の学生が参加する日本歯科学生連盟の代表を務め、親子で予防歯科を学べるボランティアイベントを企画した。「日本では大切な歯の予防について学べる機会が少ない。虫歯など歯の予防のほか、健康長寿につながる『噛む力』などの口腔機能を含めて体系的に学べるようにしたかった」という。24年4月には京都大学大学院医学研究科(社会健康医学系専攻)に入学した。

当初は、自ら開発したプログラムを保育園に直接提供する計画を立てていた。しかし、最終審査会で「保育園の費用負担が重くて難しいのではないか」と指摘を受けた。その後、保育士や自治体関係者などのヒアリングを重ねた。メンターの山形市の井上貴至副市長や慶應義塾大学の横田浩一特任教授からのアドバイスもあり、自治体連携など事業計画を見直した。

打ち出したのは、自治体や医療系大学などが関わる新たな伴走支援型のビジネスモデルだった。その中核となる「お口のテーマパーク アンバサダー養成講座」には、すでに各地から問い合わせが寄せられている。

4月中旬には、「お口のこうさく」ワークショップを高知県安田町で開催した。子どもたちが正しい歯磨きやフロスなどのセルフケア習慣を学ぶことができる内容で、同町が放課後に子どもたちの健康に役立つプログラムを探していたことが開催のきっかけとなった。自治体との連携モデルの可能性を示す取り組みとして、今後の展開にも弾みをつけた。

大学との連携も進んでいる。現在、医療系学部を持つ大学とのプロジェクトが複数動き始めており、医学部や看護学部などの学生が教育プログラムの一環として多和氏の子ども向けプログラムに参加する予定だという。「歯学部以外の学生も健康に重要な口腔ケアについても学ぶことができるし、学生が地域保健に携わる経験を積めることは、大学側にとってもメリットになる」

最終審査会でレオスの藤野英人社長(当時)から受けた「まず富裕層から予防歯科教育を事業化してはどうか」というアドバイスも事業展開のヒントになった。今後、自由診療の矯正を手掛ける専門的な小児歯科医と一緒に予防歯科教育プログラムを進めていく。小児歯科医が子どもの口腔教育に関わることは、患者指導力向上につながるほか、地域と継続的な接点を生み出せるメリットもあるという。

多和氏は「NIKKEI THE PITCH SOCIALでは、子どもへの予防歯科教育の大切さを社会に伝えるためのマーケティングの視点も学ぶことができた。『お口のテーマパーク』を、もっと多くの子どもたちや家族に届けていきたい」と意気込んだ。

多和氏(左)は審査員の東京大学の鈴木寛教授(右)やメンターの横田氏(中央)らから様々なアドバイスを受けた
多和氏(左)は審査員の東京大学の鈴木寛教授(右)やメンターの横田氏(中央)らから様々なアドバイスを受けた

人脈を生かし事業拡大 かゆくない肌着を展開
SkinNotes 竹内悠人氏

竹内氏(左)と北野氏(右)は様々なイベントに参加し、緑茶染めのインナーの認知度向上に取り組んでいる
竹内氏(左)と北野氏(右)は様々なイベントに参加し、緑茶染めのインナーの認知度向上に取り組んでいる

「学生時代からたくさんのピッチに参加し、賞をいただいたこともあった。NIKKEI THE PITCH SOCIALでは残念ながら受賞できなかったが、多くのアドバイスを受けられ、大きな価値があった」。アトピー性皮膚炎のかゆみを抑える緑茶染めの肌着などの開発や販売を手掛けるSkinNotes(スキンノーツ)の竹内悠人CEO(最高経営責任者)はこう振り返る。

竹内氏は25年3月に神戸大学農学部を卒業し、現在は神戸市のインキュベーション施設「アンカー神戸」でスタートアップや企業間の協業・共創支援の活動に取り組みながらスキンノーツの事業拡大に取り組んでいる。

竹内氏や、神戸大学の起業部でともに活動した北野まどか氏ら立ち上げメンバーは、幼少期からアトピー性皮膚炎に苦しんでいた。25年7月にカテキンを含んだ緑茶で染めたインナーなどを商品化。事業拡大にあたっては、メンターである横田氏から、「アマゾンなどで販路を拡大したり、アトピーに悩む子どもの両親らが交流できるコミュニティを立ち上げて顧客の満足度を高めてはどうかと」アドバイスを受けた。同氏からは、今後の資本調達策などについても助言があったという。

今後は、緑茶染めがかゆみを抑えるという科学的なエビデンスを集めていく。この分野で優れた研究実績がある、奈良県立医科大学の新熊悟教授が共同研究をして論文作成で協力してくれることになった。新熊教授はアンカー神戸の活動で知り合った奈良の地銀大手、南都銀行のベンチャー支援担当者から紹介された。竹内氏の地道な人脈づくりが事業の成長につながった。

5月には、日本青年会議所が主催する「JCI JAPAN TOYP 2026」のピッチで入賞した。同イベントは、挑戦する若者たちを発掘して飛躍を後押しする全国規模の大会であり、NIKKEI THE PITCH SOCIALの審査員であるサラヤの更家副社長からの紹介で参加を決めた。今回の入賞により新たな人脈が広がったと言う。竹内氏は「これらの学びを生かして、より手ごろな価格で満足してもらえるような製品を世界の人たちに届けていきたい」と語った。

元教師×ITで久米島の潜在力引き出す
沖縄島嶼機構 後藤裕磨氏

愛知県で教諭をしていた後藤氏は、久米島で離島の経済活性化に取り組んでいる
愛知県で教諭をしていた後藤氏は、久米島で離島の経済活性化に取り組んでいる

「元々は、久米島でデジタル人材の育成に貢献したいと考えていた。しかし大切なのは、離島の外とつながりを持って循環型ビジネスができるようにすることだった。離島の潜在力を生かすモデルとして頑張っていきたい」。25年に沖縄県の久米島で一般社団法人「沖縄島嶼(とうしょ)機構」を設立した後藤裕磨代表はそう強調する。メンターの横田氏から様々なアドバイスをしてもらい、ビジネスをブラッシュアップできたという。

後藤氏は愛知県で8年間、小中学校の教諭として勤務していたが、適応障害を患い23年3月に退職。以前から憧れていたIT企業で働くためにプログラミングなどを学び、都内のスタートアップ勤務を経て、24年1月にWeb制作などの会社を起業して独立した。その後、25年3月に久米島で地元高校生の教育や進路指導を担う「地域おこし協力隊」の募集に応募。採用が決まり、移住を決めた。

後藤氏は「元教師であること、ITを扱えるという自分の強みを生かして離島の課題解決に役立ちたかった」と振り返る。現在は、久米島高校近くにある町営塾「久米島学習センター」で生徒を指導している。さらに、離島の課題である雇用拡大に向け、古民家でITスキルを教えながら島外からの業務を受託する事業も開始した。

2月下旬、メンターだった横田氏は久米島を訪問。後藤氏に直接アドバイスを送ったほか、生徒向けにキャリアに関する特別講義も実施した。横田氏が強調したのは、自然と人材に恵まれた久米島という離島の力や価値を島外に認めてもらい、ITビジネスの受注やワーケーション拠点としての魅力を事業につなげることだった。

後藤氏は現在、横田氏のアドバイスを受けて新しいクラウドファンディングの開発に取り組んでいる。少額の寄付をしてゲームのようにマス目を埋めていく「推し活的なクラファンサイト」だ。後藤氏は「最終審査会が終わった後も、横田さんには引き続き応援してもらっている。離島にいても、目の前の一人ひとりを幸せにする取り組みをしていきたい」と語った。

「男子バレエ人口を増やしたい」起業目指す高校生
ダンバレ 新川良羽氏

新川氏(右)は幼少期から藤田香織先生(左)からバレエの楽しさを学んだ
新川氏(右)は幼少期から藤田香織先生(左)からバレエの楽しさを学んだ

ファイナリストで唯一の高校生である新川良羽(よはね)氏は、「男子のバレエ普及」を通して、ジェンダーギャップ問題に取り組んでいる。4月に高校3年生となり、現在は大学受験の準備中だ。新川氏は「高校生として全国規模のピッチ大会のファイナリストに選ばれた。素晴らしい経験だった」と語った。

4歳から、大阪府高槻市にある藤田香織バレエ教室でバレエを始めた。バレリーナとして活躍する教室の主宰者の藤田香織氏は、全国バレエコンクールの入賞者を育ててきた実績を持つ。藤田氏は「バレエは女の子の習い事と言われることが多く、男の子は友達からからかわれて辞めてしまうことも多い。新川君はバレエに対する情熱がある。踊り手としてだけでなく、男子バレエの普及というビジネスにも取り組んでくれてうれしい」と話した。

3月に開かれた最終プレゼンで、新川氏は「女子と比べて30分の1と言われる日本の男子バレエ人口を増やしたい」と強調した。「欧州など海外ではバレエは芸術として高く評価され、国立の学校がある。日本ではそれがない分、藤田先生のような地域の熱心な指導者が支えているのが現状だ。男の子にもっとバレエの良さを知ってもらえるようにしたい」と訴えた。

大会期間中は、メンターの法政大学大学院の池本修悟教授(社会創発塾代表理事)から多くを学んだ。最終審査会に向けてリモートだけでなく、対面の機会も設けてもらい、収支計画を含めてスライドの文言など細かく指導してもらった。池本教授との出会いもあり、現在は起業を学べる大学を志望している。「大学入学後に起業の勉強をする上でも、NIKKEI THE PITCH SOCIALは大きな財産になった」という。同大会は高校生起業家にも成長の舞台として門戸を開いており、次代を担う若い起業家も応援していく。

NIKKEI THE PITCH SOCIAL2026-27 参加者募集中。概要はこちらから