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TOYP2026 グランプリにtttの内田啓太氏  独自の事業モデルで介護業界の課題解決に挑む

日本青年会議所が主催する「JCI JAPAN TOYP(TOYP)2026」でグランプリと内閣総理大臣賞に選ばれたのは、介護施設「たいよう」を運営するttt(福岡市)の内田啓太代表取締役社長だった。本コンテストは国内外のさまざまな分野で社会にインパクトを与える事業を手掛ける「The Outstanding Young Persons(傑出した若者たち)」を表彰するもので、今年で40回目を迎えた。内田氏ら表彰された若者たちの取り組みを取材した。

起業のきっかけは一本の電話

「今回の受賞は、高齢化社会で必要不可欠な介護サービスに取り組む人々へのエールだ。本当にうれしい」。2026年6月、都内で開催された授賞式典で内田氏は笑顔で語った。

長崎県の大学卒業後、介護施設向けソフトの開発会社に入社した。自ら新規事業として立ち上げた介護施設で働いていたある日、「母の介護に疲れました。今夜、母を殺して自分も死にます」という衝撃的な電話がかかってきたという。この出来事が内田氏の人生を変えた。「誰もが経済的な理由であきらめず、必要な介護サービスを受けられる社会にしたい」。これが起業の原点となった。

受賞の喜びを語る ttt 内田啓太代表取締役社長
受賞の喜びを語る ttt 内田啓太代表取締役社長

豪華な玄関はいらない「介護版LCC」で急成長

起業してからの2年間、小さな古民家で介護サービスを行いながら資金を蓄えた。2018年、福岡県糸島市に住宅型有料老人ホーム「たいよう本館」を開業した。豪華な玄関や広い廊下をなくし、各部屋にトイレを設置しないようにするなど施設の設計を見直すことで、20床ある施設の建築費を通常の3分の1に抑えることに成功した。これにより、利用者は年金の範囲内で安心して入居できるようになった。

内田氏は「豪華な玄関はいらない。大切なのは質の高い介護サービスを割安な料金で受けられること。LCC(格安航空会社)のような存在を目指した」と独自の戦略を説明する。2015年の創業以降事業は拡大を続け、現在は21施設、売上高約46億円、従業員約850人を抱える大手介護事業者に成長した。この経営手法は運営施設の名にちなみ「たいようモデル」と呼ばれている。

利益を職員に還元 「三方良し」の経営を

tttは利用料金を地域最安水準に抑える一方で、職員の給料は地域最高水準を掲げている。給料は競合他社より1割程度高く設定しており、会社の利益を職員に還元することで、利用者・職員・地域それぞれにとって望ましい「三方良し」の持続可能な経営を実現している。

同社には職員が企画する「夢活(ゆめかつ)」という名物イベントもある。余命わずかな利用者の「最後に桜を見たい」という願いを叶えるといった取り組みだ。現場発の創意工夫が数多くの「夢活」を生み、職員のやりがいにもなっている。

シフト作成を自動化 AIの現場活用進む

近年は、人件費の増加や介護報酬の引き下げで経営が厳しくなる同業他社からの事業承継の相談が増えている。これを受け、内田氏は昨年から新規施設の開設を一時中断し、全国展開に向けたサービスの質向上と、AIを活用したシステム開発による現場負担の軽減に力を注いでいる。

同社の強みは、内田社長を含む本社の社員たちが自らAIツールを使ってシステムを開発していることだ。代表例はシフト作成の自動化だ。ケアマネジャーが利用者に応じた介護プランを作成し、そこに職員それぞれのスキルや勤務可能時間といったデータを組み合わせることで最適なシフトを自動で組み立てる。完成したシフトは職員全員がスマホでいつでも確認できるため、情報共有がスムースになったという。

内田社長(左)や本社の社員は、AIを活用したシステム開発に取り組んでいる
内田社長(左)や本社の社員は、AIを活用したシステム開発に取り組んでいる

これにより、シフト作成業務は大幅に効率化した。これまでは施設長のシフトを作成に毎月3時間ほどかかっていたが、現在は、最大規模の施設「たいよう六本松館」であっても、40人を超える職員の1か月先までのシフト表を、ワンクリックで瞬時に作成できるようになった。

AIは現場のさまざまな場面に浸透している。離職防止のため、従業員への意識調査データをもとに、上司のケア方法や研修内容をAIが提案する仕組みを導入している。施設利用者を紹介してくれる地域のケアマネジャーへの営業活動にもAIを活用している。

今後事業拡大のカギを握るのが、施設運営のノウハウを蓄積・進化させていく存在である「MOO(マネジメント・アンド・オペレーション・オフィサー)」だ。現在は人材研修会社などで経験を積んだ人材がこの役割をけん引しているが、今後はMOOを各地に配置し、事業承継を受ける介護施設の運営を任せていく考えだ。

「たいよう六本松館」では、内田社長が開発したAIシステムで職員のシフト表を作成している
「たいよう六本松館」では、内田社長が開発したAIシステムで職員のシフト表を作成している

利用者が支え合う 新たな介護モデル構築へ

内田氏が描くのは、施設の利用者同士が助け合う新しい介護のかたち「シン・カイゴ施設」だ。「どんな利用者であっても、掃除や食事の手伝いなど何かしらの役割を持つことができる。『ありがとう』と言われることが生きがいになる」(内田氏)。今年7月から一部施設で試験的に始まっており、65歳以上の高齢者を施設で雇用する案も検討している。「超高齢化社会では、前向きな老々介護が必要だ」というのが同氏の持論だ。

背景には、介護サービスの持続可能性への強い危機感がある。高齢者が増えていく一方、介護の担い手となる労働人口はますます減っていく。現在、介護サービスは利用者3人に対し職員1人で対応することが多い。しかし将来的には、経営を成り立たせるために10人に1人という体制が必要になるかもしれない。内田氏は、介護を「一方的に与えるもの」と捉えるのではなく、「高齢者同士が助け合うもの」へと発想を転換していく必要があると考え、いち早くその実現に取り組んでいる。

内田氏はグローバルでの事業展開も見据えている。「高齢化が進む日本の介護業界は厳しい。しかし、世界には介護サービス自体を受けられない国がたくさんある。日本で培った『たいようモデル』を磨き、海外でも展開したい」と意気込む。

tttという社名は、内田氏が25歳で起業した際に掲げた企業理念「Thanks to trouble(課題に感謝する)」の略だ。大手企業にはないスピード感を持って課題解決に取り組む同社の事業モデルは、超高齢社会に立ち向かう一つの答えとなるかもしれない。

分野を超えて広がる挑戦の数々

「JCI JAPAN TOYP 2026」では、グランプリの内田氏以外にも、斬新な発想で課題解決に取り組む若者たちが表彰された。準グランプリを受賞したのは、地域活性化で成果を出している点点(てんてん)の羽田知弘取締役と、conconの髙橋史好社長の2人。点点(てんてん)の羽田氏は、岡山県西粟倉村で平飼い養鶏事業を手掛ける。西粟倉村は中山間地の限界集落だが、地域の休耕田や米ぬかなどの未利用資源を活用して、地域循環型事業として雇用創出にもつなげている。

conconの髙橋氏は、地元・群馬県高崎市の名産品「高崎ダルマ」のオーダーメイドで販売する「カイシャダルマ」を展開。インバウンド向けライフスタイルブランド「TOKYO LOLLIPOP」も含め、日本の文化を成長ビジネスへと育てる取り組みが評価された。

総務大臣奨励賞の井上誠也代表取締役は、東北大学発スタートアップ・NanoFrontierを設立した。ディープテック分野の起業家として、独自のナノ粒子生成技術をベースに蓄電池の低コスト化などに取り組んでいる。外務大臣賞に選ばれたTAO's NATIVE CORPORATIONの峠慶太郎代表取締役氏は、フィリピンで地鶏料理の飲食店を運営している。貧困に苦しむ農村との直接取引で、農家の収入増に貢献している。

NIKKEI THE PITCH過去参加者の受賞も

2026年の受賞者のうち4名は、NIKKEI THE PITCH SOCIAL2025-26のファイナリストでもある。準グランプリの羽田氏のほか、とらでぃっしゅの片桐萌絵代表取締役(参議院議長奨励賞)、SkinNotesの竹内悠人代表(日本商工会議所会頭奨励賞)、絶活(ぜつかつ)の米田愛子代表(NHK会長奨励賞)だ。

広島大学の学生起業家の片桐氏は、各地で消えつつある日本の伝統文化のお祭りを支援するビジネスを手掛けている。「お祭りは観るだけでなく、参加することが楽しい」をモットーに、運営への参加費などを収入源にするモデルを確立しようとしている。絶活(ぜつかつ)米田氏は自らが機能不全家族で育って苦しんだ経験を生かし、ヤングケアラーやアダルトチルドレンといった家庭内の問題に悩む人たちの支援をしている。竹内氏は神戸大学の学生時代から緑茶のカテキンを使いアトピー性皮膚炎のかゆみを抑える商品を開発しており、すでに肌着などを販売している。

とらでぃっしゅの片桐氏は「お祭りで日本を元気にしたい」と語る学生起業家。NIKKEI THE PITCH SOCIAL2025-26で学生部門賞を獲得した
とらでぃっしゅの片桐氏は「お祭りで日本を元気にしたい」と語る学生起業家。NIKKEI THE PITCH SOCIAL2025-26で学生部門賞を獲得した