NIKKEI THE PITCH スペシャルセミナー
@大阪・関西万博
日本経済新聞社は7月22日、大阪・関西万博内のテーマウィークスタジオで、「NIKKEI THE PITCH(NTP)スペシャルセミナー」を開催した。NTPは日本の未来を担うスタートアップやアトツギベンチャーに加え、ソーシャル起業家を支援するプロジェクトで、国内最大級のピッチイベントがメーンイベントとして開催している。起業を担う若い人材の育成も後押ししている。
日本経済新聞社は、「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げる大阪・関西万博のテーマウィークの協賛企業であり、今回のスペシャルセミナーでは、高校生に2055年の日本と地域について考え、より良い未来を切り開くために何が必要なのかアイデアを発表してもらった。まずは、このU-18世代向けアイデアコンテスト「NTPスペシャルセミナー みらい会議」について紹介する。
セミナーのアーカイブ動画は以下のリンクから
https://channel.nikkei.co.jp/expo_pitch/
NTPスペシャルセミナーのみらい会議では、6人の高校生ファイナリストが選ばれた。2055年のあるべき日本と地域の未来というテーマについて約3週間プレゼンテーションを考えてもらい、審査員も驚くようなアイデアが発表された。
探求学習で地域課題解決 空き家を起業の拠点に
伊藤さんは学校の探求学習でのアイデアを活用して過疎地の課題解決を提案した。
最初にプレゼンで登壇したのは、東京の江戸川女子高校の伊藤弘妃さんだ。プレゼンのタイトルは「地域課題×若者=社会を変える方程式」だった。「全国の小中高の探求学習の時間に地域の課題解決に取り組んでもらう。こうした活動に参加した実感を持つことで、若者たちが都会に流出せず、地域の未来を担ってもらえる」と指摘した。
特に全国では約900の自治体が「消滅可能性都市」とされ、そこには空き家がたくさんあることに着目した。探求学習のアイデアを実装する『公共起業ラボ』として活用する。伊藤さんは「若者が地域に残り自分の手で社会を変えていこうと挑戦する。その挑戦が地域を変え、国を変えていく。そのような未来が2025年にあるべき日本の姿だ」と強調した。
身近なフェアトレードカフェで、地球規模の課題も学ぶ
起業家志望の藤原さんは空き家を「フェアトレードカフェ」にするアイデアを発表した。
東京の東洋英和女学院の藤原理紗さんのプレゼンテーマは「空き家と世界をつなげる」だった。伊藤さんも着目した空き家を、「フェアトレードカフェ」にする。フェアトレードとは途上国で作られる農作物などが正当な対価で取引されることを目指す取り組みであり、世界でも広がっている。
藤原さんは「フェアトレードカフェでは、世界各地のフェアトレード農園に作られたコーヒーのほか、チョコレートなどのスイーツも提供したい」と語った。フェアトレードカフェに通うことで、世界の農園の子どもたちの教育や生活に貢献していることが分かるという。「子供たちの学びの場になれば 次の世代が社会問題を自分ごととして考え、行動する力を育んでいくきっかけにもなる」という。
藤原さんは高校でもエルサルバドルなどの子供たちの教育支援を目的に、オリジナルなフェアトレードのコーヒーを作るプロジェクトの会長を務めている。将来的にはフェアトレード素材でエシカルブランドを立ち上げたいと考えており、若きソーシャル起業家として注目されそうだ。
高齢者の孤独を防ぐ まず今日からの行動が大切
関川さんは高齢者が孤独を感じない社会への行動の大切さを訴えた。
新潟県の直江津中等教育学校の関川れもんさんのプレゼンは「自立を失わない地域社会にしていくために」だ。超高齢社会であるはずの2055年の日本では全世代の人々が自立して生きていくことが非常に難しいとされる。関川さんは「地域の中でつながれる仕組みを作り、高齢者の孤独を防ぐこと」としている。
関川さんは自ら地域行事や子ども食堂のボランティアなどに積極的に参加している。「社会を元気にするには今日から活動することが大切だ」とし、「2055年の未来は私たちの今日の小さな行動の積み重ねが作っていくものだ」と強調した。
在留外国人の孤独を解消 優しい日本語と多文化理解の授業で
青松さんは在留外国人の孤独を解消するための具体策を提案した。
東京都の関東国際高等学校の青松莉子さんのプレゼンテーマは「“わからない”をわかろうとする社会へ」だった。関川さんのように社会の孤独を防ぐことは同じだが、青松さんは在留外国人にフォーカスした。在留外国人は令和6年度では約358万人にまで増えている。最近の調査では、半分以上が孤独を感じているという。
青松さんは具体的も2つの提案をしている。まずは「優しい日本語」の普及だ。街の掲示板や学校からの連絡など様々なところで優しい日本語を取り入れるようにする。もう一つは多文化理解の授業だ。在留外国人の文化を知る機会が増えれば、文化の違いによるすれ違いをなくすことができるという。
青松さんは「30年後の2055年のあるべき日本と地域の未来は言葉の壁があっても、誰もが安心して住める地域社会、つまり誰もが安心して地域にいられると感じられるようにすべきだ」と語った。
ワクワクする進路決断 将来をもっと自由に選ぶ
福田さんは若者が「当たり前に」とらわれずに進路を決定する大切さを訴えた。
大阪府の水都国際中学校の福田咲さんのプレゼンは「社会のふつうを塗り替える」だった。福田さんは「高校を出たら大学に行くのが普通で、高校1年生の段階で文系か理系かを決めたりするようなことが当たり前になっている」とし、「本来ならワクワクするはずの進路選びができるようにしたい」と語った。
福田さんは具体的な解決策として「自分が何に夢中になれるかといった問いから出発することが大切」とし、「私たちが描く2055年は、自分の将来をもっと自由に選べる未来にしたい」と指摘した。
外国人の命を守る防災対策 静岡から壁を崩したい
阿部さんは外国人が災害時に命を守れるように様々な行動をしている。
最後にファイナリストで唯一の男子学生だったのが、静岡県の静岡聖光学院の阿部泰仁さんだ。プレゼンテーマは「在日外国人の防災」であり、「2055年の日本の未来としては災害時に在日外国人が一人でも命を守れるようにしたい」と語った。
静岡県は自動車など製造業の工場が集積し、外国人労働者が非常に多い。一方で、南海トラフ大地震が起きる可能性が大きい。阿部さんは日本語教育のボランティアをしていて、外国人とも交流機会も多い。自分で作った防災カルタを用いたり、静岡県庁と協力して 英語で防災センターツアーも行ったりしている。阿部さんは「医療、就職、子育、教育などあらゆる場面に言語や文化の壁は存在している。だからこそ、この静岡という土地から様々な壁を防災の輪を通して崩していきたい」と強調した。
外国人の命を守る防災対策 静岡から壁を崩したい
NTPスペシャルセミナー未来会議は6人の審査員により、優勝者は在留外国人との共生について提案した関東国際高校の青松さんだった。青松さんは「まさか自分が選ばれるとは思わなかった」という。「孤独を感じている外国人の方々の存在を知ってほしい。次に身の回りのそういった方たちを見た時に少しでも意識が変わってもらえたら、私がプレゼンをした意味がある」とも語っている。
関西から日本を元気にできるアイデア
みらい会議の審査員からもファイナリストたちの発表のレベルの高さを指摘する声が多かった。
MTGベンチャーズの伊藤仁成代表パートナーは「みなさんのような若い世代の地域の課題に対して、真摯に向き合って、未来を考えている姿、その熱量を感じて、日本のこれからが楽しみだ。私も課題を解決する起業家に投資している。皆さんの発表ではっとさせられ、考えさせられるような課題もあり、学びにあったし、我々の世代もこれから頑張らないといけないなと思わされた」と語った。
三井住友銀行の前川卓郎関西成長戦略室担当部長は「私は関西成長戦略室ということで、関西を元気にするという課題に取り組んでいる。全国から集まったファイナリストの方の話は関西にも非常に役立つ。みなさんの提言を実現するところで、お話をしたい」と指摘した。
羽生プロの羽生祥子社長は「ファイナリストの皆さんは言葉の強さがあった。起業ではビジネスメイキングや、ロジカルで、数字も大事だが、それを前提に人々の心に届けるのは言葉だ。本当に胸に刺さる言葉がたくさんあった。言葉の力を増やして一歩一歩進んでほしい」とエールを送った。
Yokogushist(ヨコグシスト)の伊能美和子代表取締役は「皆さんの30年後は40歳代半ばで社会を背負っている。未来からバックキャストして、具体化して社会実装を考えてもらいたい。私は事業開発の伴走型の支援をしており、皆さんを見守っていきたい」と語った。
下垣徳尊JFR&KOMEHYOパートナーズ社長は「2055年には深刻な人口減少社会を迎える。皆さんが持続可能な世界にフォーカスして考えて頂けたのはすごくよかった。これからも自分の考えをブラッシュアップし、アップデートしていってほしい」とアドバイスした。
「遊びと学び」で活躍できるグローバル人材の育成を
この日のスペシャルセミナーでは「遊びと学び」が大きなテーマとなっている。起業家として必要とされる語学力を効果的に身につけるかについて第一線の専門家が集まって議論した。
米国などで高く評価され革新的な言語習得法「Zoo-phonics(ズー・フォニックス)」の開発者であるシャーリーン・ライトン博士(通称:シャー博士)が基調講演した。シャー博士は「ズー・フォニックスの教え方は運動を促し、学びながら動くことを奨励している」とし、その理由として「体が動くことで酸素と血液が重要な栄養素を体全体から脳まで運ぶ。筋肉の動き、繰り返しの動きが物事を記憶するのに役立つからだ」と指摘した。
シャー博士の基調講演を受けて、国内の教育専門家によるトークセッションが開かれ、モデレーターはインターナショナルスクールの専門メディア編集長の村田学氏が務めた。
早稲田大学理工学術院の尾島司郎教授は早期英語教育や言語脳科学の専門家として「ズー・フォニックスの特徴は遊びながらだから体が動き、心も動くということであり、脳の成長も促す。高校や大学の授業では静かに座っているから楽しさも感じにくい。今の時代では遊びや動くことの良さを教育に取り戻すべきだ」と語った。
城南進学研究社の田部井淳児童英語事業部部長はシャー博士が開発したズー・フォニックスの教室を運営する事業統括者だ。「ズー・フォニックスでは2歳で初めてスクールに来る子供たちが最初は泣いたりしても、絵を見たり、体を動かしたりすることをきっかけにして 自信を持って英語を話すようになる。その姿を見ると、本当に驚くほどだ」としている。
言語教育専門家の羽織愛氏は独自に編み出したバイリンガル育成メソッドを使い15の教室を運営している。「日本の英語教育の課題は、英語を話せる子が育っていないこと」だとして、具体的に3つの提案をしている。親が子どもを深く理解して安心・安全な環境を与えること、読み書きよりも音を先に学ぶこと、親自身も遊ぶように英語教育を楽しむことだった。
不登校オルタナティブスクールを運営するNIJIN(東京・江東)の星野達郎代表取締役は「不登校の子供たちが私たちの学校では将棋でも、英語でも好きなことを熱中して遊ぶように学び、自信や希望とか本来持っている力を取り戻している。遊びから学びへというのはすごい力がある」と指摘した。
星野代表のスクール「NIJINアカデミー」では全国で35万人とされる不登校生の学びの場として子供たちの個性を伸ばす教育で注目されている。日本経済新聞社が社会起業家を支援する「NIKKEI THE PITCH SOCIAL(NTPソーシャル)」の全国ピッチ大会で今年2月にグランプリにも選ばれた。
日本経済新聞社が大阪・関西万博のテーマウィークスタジオからスペシャルセミナーを開催したのは、高校生のアイデアコンテストやグローバル人材として必要な新たな教育のあり方の議論により閉塞感が漂う日本の未来を輝かす起業家マインドを醸成することが必要だと考えたからだ。日経新聞はNTPプロジェクトにおいて、こうした視点から若い学生らも対象に起業家の育成プログラムも充実させている。
セミナーのアーカイブ動画は以下のリンクから
https://channel.nikkei.co.jp/expo_pitch/
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