NIKKEI THE PITCH

関西の調達シェアは10年で半減 それでも次の10年は関西から

関西のスタートアップを取り巻く資金調達環境は、東京との差が広がっている。一方で、大学を起点に新たな才能は着実に育ちつつある。大阪で開かれた「スタートアップ関西2026夏」の現場から、関西の現状と次の10年の可能性について、同イベントを主催したシードベンチャーキャピタル「THE SEED」代表の廣澤太紀氏の寄稿を紹介する。

1. スタートアップ関西、当日の風景

2026年6月21日、JR大阪駅北側の複合施設グラングリーン大阪のBlooming Camp(大阪市北区)に、約100名の学生と若手起業家が集まった。ベンチャーキャピタルのTHE SEEDが主催する「スタートアップ関西2026夏」だ。筆者は同社の代表を務める。

参加者は2027〜2029年卒の学生が中心で、起業を検討するU-25の社会人も交じった。開場直後から立ち話の輪ができた。

「周りに、資金調達をしたり、スタートアップを始めたりした人はいますか」。開口一番の質問に挙がった手は数本。同じ質問を渋谷ですると、大半の手が挙がる。

この差は能力差ではなく、起業に触れる機会の差だ。

2. データが示す「資本の空白地帯」

この機会量の差は、資金調達データにも明確に表れている。

2025年の国内スタートアップの資金調達総額は7,613億円(スピーダ『Japan Startup Finance 2025』)。

このうち東京都が5,590億円を占め、関西2府4県(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良・和歌山)は418億円。東京の10%に満たない。

図1 国内スタートアップの資金調達総額の推移(2015〜2025年) 出所:スピーダ『Japan Startup Finance 2025』
図1 国内スタートアップの資金調達総額の推移(2015〜2025年) 出所:スピーダ『Japan Startup Finance 2025』

しかも、差は縮まるどころか開いている。

2015年に10.3%あった関西の金額シェアは、2025年には5.5%へ半減した。関西も伸びたが、東京の伸びがそれを大きく上回った。

図2 資金調達額の地域別シェアの推移(東京・関西・その他、2015〜2025年) 出所:スピーダ『Japan Startup Finance 2025』
図2 資金調達額の地域別シェアの推移(東京・関西・その他、2015〜2025年) 出所:スピーダ『Japan Startup Finance 2025』

金額だけではない。日銀大阪支店のレポートによれば、資金調達を行った関西のスタートアップは2023年時点で年間400社弱。社数でみた全国シェアも8%と、1割に満たない。

しかも全国の調達環境自体が「選別の時代」に入っている。

2025年の調達社数は約2700社と前年から6%減り、調達額の中央値も下がった(スピーダ調べ)。市場全体が絞られる局面では、投資家層が薄い地域ほど影響を受けやすい。関西ではシード・アーリー期の投資家層が薄く、起業家は最初の資金を東京に求めがちだ。

3. 登壇セッションから見えた関西スタートアップの「今」

3. 登壇セッションから見えた関西スタートアップの「今」 写真1

一方、当日のセッションからは、関西スタートアップの前向きな変化も確認できた。

セッション1「起業家のAI活用術」には、cactuz創業者の渡邉至さんと、京都大学在学中に受託開発を手がけるノーコード総合研究所の石井大雅さんが登壇した。

石井さんは70〜80人のインターン生を京大近くのオフィスで束ね、提案資料は「見積もり」から「プロトタイプ」に変わったという。AIを前提に意思決定する起業家が、すでに関西の現場にいる。

印象的だったのは、両氏がAI活用の利点だけでなく失敗リスクも率直に語った点だ。石井さんは失敗を「品質低下」「機密漏えい」「不要なものを作る」の3類型に整理し、渡邉さんは、抽象度の高い依頼では顧客課題から外れた資料が生成される危険性を指摘した。

3. 登壇セッションから見えた関西スタートアップの「今」 写真2

投資相談でも、生成AIによる作成と見られる資料は増えている。AIを活用する起業家ほど、どの判断を人間が担うのかを明確にする必要がある。

学生への最後のメッセージも印象的だった。

石井さんは「AIを使える人と使えない人の知識差アービトラージが生まれている今ほどやりやすい時代はない」と語り、渡邉さんは「作業はAIに任せ、最後のアウトプットを判断する審美眼を鍛えよ」と説いた。

3. 登壇セッションから見えた関西スタートアップの「今」 写真3

「発見も、最後に決めるのも人間。AI時代だからこそ泥臭さに貪欲であってほしい」 SPECIAL SESSION「VCから見たAIの台頭」に登壇したニッセイ・キャピタルの秋山直紀社長のメッセージも強く印象に残った。

同社では月間約100社が投資検討対象に上がり、今年度に投資を決定した会社の約3割がAI関連だという。それでも「人間」や「泥臭さ」の重要性を語る点に、AI時代の投資の本質が表れていた。

東京の同種イベントと比べ、関西は登壇者と参加者の距離が近い。セッション後や懇親会でも質問が続いた。機会が限られる地域だからこそ、一つひとつの接点への関心は高い。

4. それでも才能はここに眠っている

関西に起業人材が不足しているのかといえば、データは異なる姿を示す。経済産業省の2024年度調査では、大学発スタートアップの増加数で全国首位は京都大学(422社、前年比+149社)だった。

大阪大学298社、立命館大学160社と続き、関西は全国の大学発スタートアップの約2割(18%、日銀大阪支店調べ)を生み出している。一方、資本配分は1割に届かない。この需給ギャップは、関西の構造的な成長余地を示している。

実際、才能は結果を出し始めている。

2026年3月、大阪大学1回生で起業した学生が立ち上げたNew Innovationsは、累計約85億円を調達した。京都大学在学中の学生起業から生まれ、ジム「LifeFit」を運営するFiTは、同年5月に融資枠を含めて総額30億円の調達を発表した。

New InnovationsとFiTにはニッセイ・キャピタルも出資しており、関西発の実績は着実に積み上がっている。セッションに登壇した石井さんのように、京大に在学したまま数十人の組織を動かす学生も、もう珍しくない。

もうひとつ、個人的なエピソードを。

7年前、このイベントの初回スタッフだった19歳の学生が、「AIで好みのコーヒーをレコメンドするマシンを作る」と語った。本人はコーヒーを飲まない。当時は事業の将来像を理解しきれなかったが、カフェで30分ほど話し、創業投資を決めた。

昨年、彼の作ったロボットはスターバックスの新幹線ホーム初の店舗に導入された。

新しい才能は、当初は既存の常識では評価しにくい形で現れることがある。

5. 関西から次の10年をつくるために

変化の兆しはある。

秋山さんは昨年の本イベントでの宣言をきっかけに関西でキャピタリストを採用。「地方への投資拡大に向けた次の一手」として、東京に流出しにくい「大学発」「ディープテック」は魅力的な投資対象だと述べた。

日本生命は中之島にライフサイエンス特化のイノベーション拠点『O-Nexus』も開いた(日本生命発表)。資本の側が、ようやく関西に網を張り直し始めている。

THE SEEDが「スタートアップ関西」を続ける目的は、この動きを加速させることにある。関西に不足しているのは才能ではなく、起業に接続する機会だ。

最後に、当日オープニングで紹介した、ネルソン・マンデラのものとして知られる言葉を、ここにも記しておきたい。

「何事も、成し遂げるまでは不可能に見える」。

この会場から、次の10年の関西を代表する起業家が生まれる可能性は十分にある。次回は今秋、京都での開催を予定している。まだ顕在化していない才能と出会うために、私たちは関西での機会づくりを続けていく。

寄稿:廣澤太紀(シードVC「THE SEED」代表)

THE SEEDは2026年11月9日(月)に東京・御成門にて地域金融とスタートアップが交流・発信するイベント「BANK SUMMIT 2026」を開催します。NIKKEI THE PITCH はスペシャルパートナーとして同イベントに参加しています。

「BANK SUMMIT 2026」の詳細・お申込みはこちらから

出典

スピーダ『Japan Startup Finance 2025』(本編) —https://jp.ub-speeda.com/document/260127wp/

日本銀行大阪支店「関西発、世界へ:万博で輝く関西スタートアップの挑戦」(2025年4月24日) —https://www3.boj.or.jp/osaka/assets/data/statistics/report/chosa250424.pdf

経済産業省「令和6年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)」 —https://www.meti.go.jp/press/2025/06/20250606004/20250606004.html

New Innovations プレスリリース(PR TIMES) —https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000046923.html

root C(New Innovations)プレスリリース(PR TIMES、スターバックス JR新横浜駅店導入) —https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000046923.html

FiT プレスリリース(PR TIMES、融資総額30億円) —https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000085.000071368.html

日本生命保険相互会社「Nakanoshima Qrossにおけるライフサイエンス特化型イノベーションキャンパス『O-Nexus』の開業について」(2026年5月26日) —https://www.nissay.co.jp/kaisha/news/20260526.html