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「成功の好循環」でスタートアップ大国に飛躍  グローバルスタートアップエキスポ2025リポート(下)

「成功の好循環」で
スタートアップ大国に飛躍
グローバルスタートアップエキスポ
2025リポート(下)

大阪・関西万博で9月17日、18日に開かれた「グローバルスタートアップエキスポ2025(GSE2025)」では海外の有力ベンチャーキャピタル(VC)の日本での投資拡大などの計画が相次ぎ発表された。ただ、日本の多くのスタートアップが世界で存在感を発揮することは簡単ではない。GSE2025のトークセッションなどに登壇した国内外の論客たちの提言を踏まえ、スタートアップ大国に飛躍する条件について紹介する

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経団連の南場副会長(中央左)は世界ではベンチャーキャピタルに支えられたスタートアップが主役になっていると強調した。

「5つの成功例で日本の風景が変わる」

 GSE2025で二日目の18日午後に登壇し、異彩を放ったのは、経済団体連合会(経団連)副会長(スタートアップ委員長)であり、ディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長だった。石破首相(当時)が退陣を決断して総裁選が注目の的になっていたが、「日本は政治、国際情勢、経済状態に左右されることなくスタートアップの強化策を継続して進めていくことが重要だ」と強調した。
 南場会長は自らのプレゼンで世界と日本の時価総額トップ10のリストを示した。世界ではトップ10社のうち8社がVCに支えられたスタートアップで、このうち6社は1990年以降に設立されている一方、日本にはそんな企業が一つもないことを示した。南場会長は「古い会社に頑張るなと言っているわけでなく、新しい企業が生まれて古い会社を凌駕(りょうが)して、経済のフロンティアを広げていく。そのダイナミズムが日本にはまだまだ不十分」と指摘した。
 スタートアップ5カ年計画はすでに3年目となり、折り返し地点を迎えているが、今後も長期的な視野でのより積極的な支援の継続を、一緒に登壇した経産省の加藤明良政務官(当時)に訴えた。

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経産省の加藤政務官(中央右)は「日本の大学の基礎研究力を社会実装することが重要だ」と指摘している。

 経産省の加藤政務官は「人材育成、資金繰り調達の容易さ、オープンイノベーションを3つの柱に取り組んできた。5カ年計画の目標達成には遠いが、下地は作っている」と指摘した。最近では文部科学省による大学の博士号取得者らとの交流会にも参加し、世界でも優れた日本の基礎研究力を生かして社会実装を積極的に進めていくべきだと働きかけていることを明らかにした。
 南場会長も加藤政務官の指摘を踏まえて、「日本が多くのディープテック分野の研究で先頭を走っても、米国など海外のスタートアップが桁違いの資金を集めて追い抜いてしまう」と指摘した。それゆえ、日本でも米国のように大学の研究者らと互角に話して数兆円規模の起業につなげられる仕組みをまず官民で構築することが必要だとの考えを示した。
 ただ、南場会長は「最近3、4か月に米国のベイエリアの投資家が日本のディープテックのスタートアップに興味を持ち始めた。これは大きな変化だ」とし、「日本でも5つの大きなスタートアップの成功例が出れば、間違いなく風景が変わる」とも強調した。

「ゼロイチではなく、1を100にすることが大切」

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KPMGジャパンの山田共同チェアマンは、スタートアップのスケール拡大への具体策を語った。

 KPMGジャパンの共同チェアマンである山田裕行氏(あずさ監査法人理事長)も2日目の18日午前中に開かれたトークセッション「大学を中心とした世界のエコシステムと日本のエコシステム」に登壇し、「日本のスタートアップにとって重要な課題は0(ゼロ)から1(イチ)ではなく、1を100にするというスケールの拡大だ」と強調した。
 日本ではスタートアップの数が急速に増えているが、ユニコーンは目標の100社からは程遠くて8社にとどまっている。山田氏によれば、米国では690もあり、その時価総額は米国のGDP比で14.11%に達するという。日本の1.7%とは大きな差があることは明らかだ。
 山田氏はスケールを拡大するに「技術的なスキルだけでなく、マネジメントスキルをもった人材をスタートアップに数多く取り込むことが重要だ」とし、「大企業からの技術と資金のループ(循環)を進めていくことが欠かせない」と指摘した。現状では大企業が技術も資金も人材も抱え込んでおり、人材流動は起きつつあるが、まだまだ加速する必要があるとの指摘だ。

欧州でスタートアップブームを起こしたスカイプの好循環

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英ロンドンを本拠にするアトミコのアイゼンステッケン氏

 GSE2025に登壇した投資家で日本が目指すべきモデルとしてはシリコンバレーモデルに必ずしも固執する必要がないとの声も出ていた。英ロンドンを本拠とするアトミコでパートナーを務めるルカ・アイゼンステッケン氏は「大切なのは日本でも大きな成功例を出して、フライホイール(好循環)を生み出すことだ」と指摘している。
 その代表例とするのは、ネットオークション世界最大手イーベイが2005年に30億ドル規模で買収したネット通話大手のスカイプ・テクノロジーズだ。この会社は開発の主力がロンドンであり、欧州発のネット企業の成功例だった。その後に09年には米マイクロソフトに85億ドルで買収された。
 ルカ氏は「スカイプの創業メンバーや社員のほか、最初に投資してきた多くの人たちはここで大きな資産を築いてエンジェル投資家にもなった」という。この結果として、欧州を中心に900社以上の新しい会社が生まれ、ユニコーンがいくつも出ている。
 こうした好循環は日本でも可能だというのがルカ氏の指摘だ。そのためには「スタートアップがある程度成功し、例えば、8億ドルとか人生を変えるような金額を提示されても断り、大きな成功を狙えるように支援を受けられる仕組みが必要だ」と指摘している。

イーロン・マスク氏ら「ペイパルマフィア」の教訓

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アルムナイ・ベンチャーズのコリンズCEO

 日本での大型投資を決断したアルムナイ・ベンチャーズのマイケル・コリンズ氏も「ペイパルマフィア」について触れ、日本でのベンチャーキャピタリストの役割の大きさを指摘する。米ネット決済大手のペイパルも02年にスカイプと同じくイーベイに15億ドルで買収された。ペイパルの創業に関わった多くの経営者が「ペイパルマフィア」と呼ばれ、ペイパルの持ち株売却で築いた資産で、その後に世界をリードする新たな企業を生み出した。最も有名なのが、米国のテスラやスペースXなどを率いることになったイーロン・マスク氏だ。ここでもシリコンバレーなどのベンチャーキャピタリストの存在が大きかった。
 コリンズCEOは「ベンチャーキャピタルが重要なのは、新しいセクター(産業分野)を作るからだ。雇用を創出し、経済的な強靭さをもたらし、 富も生むからだ。 イノベーションが新しい会社を次々に作っていく」と強調した。日本でも国内外のVCが精力的に動いており、同様に成功の循環をもたらす可能性があるとみている。

日本の成功例としてサカナAIなど期待大きく

南場会長も指摘したように、日本でも大きな成功例が出れば、大きく変わる可能性がある。日本において「大きな成功例」として期待されるのが国内最速でユニコーンになった生成AI開発のサカナAI(東京・港)だ。GSE2025でも初日17日午後に、同社の共同創業者であるデイビッド・ハCEOが登壇した。

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サカナAIを創業したハ共同CEOは日本での起業に大きなメリットがあると指摘した。

 サカナAIは23年創業であり、国内最速でユニコーンになった。同社のハCEOは香港生まれで、カナダに移住し、トロント大学でAIを専攻して卒業した。米ゴールドマン・サックスに入社して2008年に日本法人に派遣された。その後に東大で博士号を取得し、グーグルを経てサカナAIを起業した。世界的に米国と中国が生成AI分野で激しい主導権争いを繰り広げる中、日本は両国と連係できる地政学的な優位性も生かしてオリジナルなAI技術を開発している。
 ハCEOは日本で起業した理由について「岸田元首相がいたからだ」と笑顔で語った。スタートアップ育成5か年計画による充実した支援策が大きかったという。「日本では最初に資金を得ることができたし、多くの大手企業からもサポートを得ることができている」。AI業界では優秀な人材の確保が課題だが、ハCEOは「東京ベースでもトップの人材を米国など他の地域からでも集められることができている」という。同社のAI技術では国内のメガバンクなど顧客ごとの課題解決に対応しやすいことが最大の強みとなっている。

GSE2025では核融合発電ベンチャーなどで、日本の底力を発信

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核融合発電スタートアップとして注目されるEX-Fusionの松尾一輝社長もプレゼンした。

 GSE2025では国内外の100以上の有力ディープテックのスタートアップがプレゼンした。その中でも特に有望とされた一部のスタートアップは海外の有力投資家の前で直接、事業計画について詳しく語ることができた。例えば、大阪大学発で核融合発電技術を開発するEX-Fusion(大阪府吹田市氏)や京都大学発の次世代太陽電池開発のエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)などはだ。いずれもサカナAIのように大きな成功が期待されるスタートアップだ。
 日本経済新聞社のスタートアップ支援プログラム「NIKKEI THE PITCH」の近畿ブロック大会で今年1月にT&D保険グループ賞を獲得したAC Biode(エーシーバイオード、京都市)もGSE会場内のピッチに登壇した企業の一つだ。同社は混合廃プラスチックを水素などに転換する触媒技術が強みであり、独ボッシュなど海外の有力企業と実証実験をしている。同社の久保直嗣社長は英ケンブリッジ大学出身であり、海外ピッチにも数多く登壇して出資を受けてきた。
 久保社長は「GSE2025はフランスで開かれている世界的なスタートアップイベントであるハロー・トゥモローのように素晴らしい舞台であり、すぐに国内外の5社とも商談などで関係を築くことができた」とし、日本でもディープテック分野で大型のスタートアップイベントの開催が重要だと指摘した。

日本のスタートアップが世界で飛躍 「機は熟したのではないか」

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経産省出身の郷治UTEC社長(右)は官僚時代からベンチャー育成に深く関わってきた。

 経産省出身で、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)の郷治友孝社長は「GSE2025というイベント(の盛り上がり)がすべてを物語っている。5年前に開催されたら、これほどたくさんの人たちは来てくれなかった。ただ、日本のスタートアップにとって機は熟しているのではないか。海外からの投資家と一緒に協力する土台ができた」と指摘した。
 郷治社長は経産省時代にはベンチャー投資を容易にする法制の整備に深く関わってきた。その後はベンチャーキャピタリストに転じて、日本の科学技術を世界の資本と組み合わせることで、日本からグローバルレベルのスタートアップを育成してきた。GSE2025のような日本と世界をつなぐイベントの開催により、こうした流れをさらに加速させることができそうだ。
 日本では10月21日に高市早苗首相が誕生し、同日開かれた記者会見でも「強い経済の実現」を掲げた。高市首相は就任前から成長戦略として核融合発電など日本の強みのイノベーション力を活用する方針を打ち出してきた。
 GSE2025では岸田元首相、石破前首相が会場に足を運んだことが話題となった。後任となった高市首相が強い日本を取り戻すためにスタートアップ育成でどのような戦略を打ち出すのかどうか。GSE2025に参加した多くの海外の有力投資家が注目しているといえそうだ。