NIKKEI THE PITCH GROWTH
近畿ブロック
予選大会リポート㊦
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」で近畿ブロックの予選大会が11月26日に岡山市内で開かれた。同日午後の後半パートに登壇した近畿ブロックの9社について紹介したい。
近畿ブロック予選大会リポート㊤はこちら
近畿ブロック(後半) 予選出場9社
青楓館⇒セキュアリンク⇒日東社⇒樋口電子⇒マイクロバイオファクトリー⇒森庄銘木産業⇒Link Therapeutics⇒レジリエント⇒ワンダーウォール(登壇順)
近畿ブロック予選の全ピッチ動画は以下のページからご覧になれます。
https://pitch.nikkei.com/contest/NIKKEI%20THE%20PITCH%20GROWTH/pitch-run/kinki/
青楓館
独自の社会体験型教育で高校生の成長促す
青楓館(兵庫県明石市)は2023年春に設立した通信制サポート校「青楓館高等学院」を経営している。高校生が社会体験などを通じて多くを学べる独自の教育で注目されている。同社の岡内大晟代表取締役は「学校は社会に出ていく準備段階だが、それを教わることができないから、自分で高校を立ち上げた。いろいろな社会の人たちを巻き込んだ教育をしている」と強調した。
青楓館では「熊本にある自治体の町長と一緒に公園作りをしたり、企業の商品開発をしたり、高校生として多くの経験ができ、社会について深く知ることができる」という。同校では留学志向の強い生徒も多く、海外の提携校が97大学もある。大学受験もAO入試に注力しており、合格率も高い。何よりもこの学校は毎週1度は教員と生徒の個別面談をして、きめ細かく指導していることで知られている。
青楓館では母子家庭でお金がなかったり、不登校や発達障害だったりする生徒も様々な学びを通して成長している。岡内氏は「一人一人の個性を尊重し、人の可能性を最大化させるための教育が必要だ」としてきた。岡内氏は当初は教員志望であり、学生時代に教育実習もしていた。ただ、「社会のことを何も知らない自分が、何を教えられるのか」と考えて広告会社に就職した。その後に多くの経営者と話す中で教育で人材を育てることの大切さを痛感し、まだ20歳代ながら自分で高校を設立することにした。
岡内氏の持論は「全ての社会課題は、教育さえあれば解決できる」ということだ。独自の教育方針だが、生徒と教師の個別面談にしても、子供たちにありたい姿を気づかせることが工夫され、それで口コミで応募者が増える状況になっている。
セキュアリンク
高齢者の孤独死を防げ、安心で使いやすいセンサー技術を実用化
セキュアリンク(大阪市)は高齢者の孤独死を防ぐ見守りなどのサービスをしている。同社は「Wi-Fiセンシング」という技術を活用、一人暮らしの高齢者が室内でどのように動いているかといった状況だけでなく、どのような睡眠をとっているのかといったことも把握できる。多くのデータを収集して分析することで、孤独死が起きそうな前兆をとらえて、迅速に対応できるようにしている。
同社の藤本典志代表取締役はもともと、警備会社などで幹部として活躍していた。ただ、仕事が忙しすぎて、あまり連絡をとれなくなった時に母親が孤独死したことが契機となり、安心な見守りサービスを提供する会社を起業した。
セキュアリンクの強みは、既存のWi-Fiを利用することができる点だ。家の中で、電波の届く範囲で死角なく監視するが監視用カメラなどで視認しないので、プライバシーと安心を高いレベルで両立できているという。眠りの状況や呼吸のリズムなど詳細なデータを取ることで、高齢者の健康状況も把握できる。収集したデータはクラウドサーバで分析、異常を検知した場合は設定したEメールで通知できるという。
藤本氏は「センシングで見守りができるだけでなく、簡単に導入しやすいのが特徴だ」として、高齢者向けの安心サービスを充実するためにもパートナー企業を拡大していきたいとしている。
日東社
マッチ復活の火をともす 老舗5代目の挑戦
日東社(兵庫県姫路市)は日本でも2社しかないマッチメーカーの1つであり、創業100年を超える老舗企業だ。その5代目となるのが大西潤専務取締役であり、「消えつつあるマッチにもう一度、火をともしたい」として様々な戦略を打ち出し、新たな顧客の開拓につなげている。
日本でマッチの生産が始まったのは150年前とされる。その中でも日東社はマッチの歴史を切り開いてきた。創業者の大西廣松氏が姫路で小さなマッチ工場を立ち上げて1923年に日東社を創業した。2代目の大西貞三氏はマッチ箱に広告をつけるというアイデアで事業を大幅に拡大した。こうした老舗だが、日本ではマッチの需要は100円ライターの登場などで事業が劇的に縮小してしまう。大西氏は「50年前と比べて生産量は100分の1にまで縮小してしまった」という。
ただ、大西氏はアトツギとして新たな戦略を打ち出した。特に癒しブームでキャンドルの需要が拡大しているが、そこではマッチで火をつける人が確実に増えている。「マッチの火は心を安らげてくれる。情緒的価値で選ばれることが多い」としている。
新製品として打ち出したのがデザインを工夫した「ブルーラベル」だ。日常生活に置いておきたいと思わせる洗練されたデザインは評価が高く、特にSNSで若い女性からの反響が大きかった。6月の展示会では100社程度から声がかかり、20社と商談し、すでに5社と新規の取引が始まったという。
大西氏は「ブルーラベルでは小売店とも直接関係を築けている。オリジナルデザインのオーダーも受けている。レトロブームで若い人にもマッチが注目されており、昭和世代にもなつかしいと愛される商品を出していきたい」と語る。最近では海外からの問い合わせも増えている。マッチはすでに過去の商品として忘れられがちだが、能登半島沖地震でも火が付きやすいマッチを仕入れたいとのコンビニ企業からの問い合わせもあった。
大西専務は「私たちはモノを作るだけでなく、文化をつなぐ会社、そして人と人の、心と心に火を起こす。そんな企業でありたい」としている。
樋口電子
製造業支える手作業の受託で成長 モノづくりのコンビニ目指す
樋口電子(大阪府高槻市)は、人の手による加工を強みとするモノヅクリ集団だ。同社は電子部品の加工や組み立てなどで手作業のアウトソーシングサービスを手掛けてきた。電子基板などの設計から検品まであらゆる業務で手での加工や作業が必要な工程を引き受ける。同社が提供するのが「TESHIGOTOでんき+」というサービスだ。小ロット多品種で、手加工が必要な仕事を引き受ける。「コンビニ」のように気軽に手作業のサービスを顧客が利用することができるという。
同社のアトツギである樋口真士専務取締役は「私は町工場で育ち、人の手によって製造される現場をずっと見てきた。日本の製品では少量多品種が多く、絶対に自動化できない工程がある。手を使っての工程は誰もやりたがらない。だから私たちは手での加工に光を当てることにした」とし、「それぞれの会社に手作業は点在しているが、それをまとめれば、大きなボリュームになり、高収益化、効率化も可能だ」と指摘する。
樋口電子では独自設備や3Dプリンターなどの先端的な装置も活用し手作業の部分の効率化も進めている。生成AIも活用して、自社独自の検査ツールも開発している。手作業を引き受けるのは全国的にみてもほとんど見当たらない。樋口電子のような企業がこれからAIなどのツールも活用し、存在感を一段と高めていく可能性がありそうだ。
マイクロバイオファクトリー
デニムブーム支える素材リサイクル技術 世界に先駆けて実用化
マイクロバイオファクトリー(大阪市)はデニム素材の再利用技術を確立した。国内では岡山県や和歌山県がデニムの産地だ。日本のデニム素材は染めという日本の伝統工芸から生まれていることもあり、世界で高く評価されている。しかし最近では製造工程における環境対応も強く求められるようになっており、染めの伝統技術と、サステナビリティを両立させることがデニム産業の大きな課題になっている。
同社の清水雅士代表取締役は「私たちは長年の研究によりデニムの染料であるインディゴのリサイクル技術を確立できた」としている。清水氏は東京理科大学大学院でバイオの研究をしていた。インディゴのリサイクルでは、廃棄されたデニムの糸くずを酵素などで分解し、微生物が分解せず残った染織部分を回収するのがコア技術だ。
デニムブームにより世界的に需要が高まっているが、その染料のリサイクルはなかなか進んでいなかった。ただ、高級ブランドなど環境意識の高いところはリサイクル染料にも関心が高いとされる。すでに大手商社の長瀬産業と連携して事業化に取り組んでいる。実際に「エドウィン」からリサイクルした製品が使われている。
同社は現在、素材開発に注力している。ただ、将来的には自社工場などで、リサイクルのインディゴを製造できるようにしたいという。量販規模を確保できれば、自社で生地を作ったり、最終製品ジーンズを作って販売したりすることも考えている。清水氏は「私たちの技術は合成繊維やウールなどにも使うことができる」と語る。素材リサイクルでもバイオ技術を活用した染料を対象にしたものは先駆的であり、日本らしい新たな環境素材としても注目を集めそうだ。
森庄銘木産業
森と暮らしを未来につなぐ 元商社マンが描く未来の林業の姿
森庄銘木産業(奈良県宇陀市)は創業1927年の林業・木材販売会社だ。宇陀市周辺では吉野杉の産地として有名な吉野北山があり、そこで高品質な吉野杉を生産している。丸太材だけでなく、様々な木工品も作って販売している。この老舗の木材会社のアトツギである森本達郎取締役専務はもともと商社マンだったが、家業に戻り、森の価値を未来に残すために様々なビジネスを展開している。林業のアトツギとして注目されている経営者の一人だ。
森本氏はまず、森を知るための林業ツアーを企画し、多くの参加者を集めている。森では多くの参加者が吉野杉などの森に触れられる。「苗木に触れたり、100年の森に行ったり、放置林と手入れされている森の違いを見てもらったりして、森の生態系について多くを学んでもらっている」という。
もう一つの事業の柱は森林カルテを作ることだ。それぞれの山の個性を調査し、適切な間伐などの管理を施し、より良い山にすることが必要だ。こうした森の診断を請け負ったり、所有者をサポートしたりするサービスのニーズは大きい。「山林を所有している建設会社の方が来られて、間伐材を見つけて、それを実際の建築にも使ったりしている」(森本氏)という。
山林については最近、相続登記が義務化されており、どのように管理していくのかなど、森本氏のところには上場会社などを含めて多くの相談が寄せられている。最近では脱炭素への対応から森林関連のビジネスに参入する会社も増えている。ただ、林業は本当に息の長いビジネスであることを認識しなければ、継続することは難しいという。
森本氏は「私たちの会社は人々の暮らしと森を繋ぐ架け橋として事業に取り組んできた。今と未来をつなぐような仕事をしていきたい」と強調した。
Link Therapeutics
京大発の研究成果で、難病・潰瘍性大腸炎の根治に光明
Link Therapeutics(リンクセラピューティクス、京都市)は、京都大学発のディープテック系スタートアップで、潰瘍性大腸炎の治療に向けた技術の研究開発に取り組んでいる。潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症で下痢などを起こす疾患で、国内に約20万人の患者がいるとされている。根本的な治療法がなく、国指定の難病となっている。京大の医学研究グループが疾患の原因因子の可能性がある「自己抗体」を発見した成果を生かそうとしている。
同社の河村透代表取締役CEOは「医学が素晴らしいスピードで進化しても、今なお原因が分からず、根本的に治せない病気がたくさんある。潰瘍性大腸炎もその一つだ」と指摘した。血液で運ばれた自己抗体が大腸で問題を起こし、血便や下痢などを引き起こす。症状が長期間に渡り継続するため、患者にとって生活の質を大きく低下させてしまう。
河村氏は、「治療法は明確で、この自己抗体を体内から取り除くことだ」という。まずは、人工透析のように医療機器を使い、血液中の自己抗体を取り除くことには成功している。この研究には成功している。さらに自己抗体がつくられないようにする薬を作ることにも研究を進めている。
京大系の医療のディープテック系のスタートアップは数多い。特に根治が難しい潰瘍性大腸炎分野はがん治療と同じく海外でも苦しむ患者を救う技術として注目されている。
レジリエント
中小企業に寄り添い、バックオフィス業務をAIで改善
レジリエント(京都市)は、バックオフィス特化のAIエージェント「オフィス番AI」というサービスを展開している。この会社を創業した小林史弥代表取締役は新卒で京都商工会議所に入り、中小企業の経営を長く支援をしてきた。そこで経験したのは強い中小企業でもバックオフィス業務の負担が重く、そこが弱みになっていることだった。バックオフィスを効率化できるサービスを導入できれば、本業のビジネスの拡大につなげられる。これが小林氏の起業の理由だった。
小林氏は「私たちは現在、業務改善のコンサルティングであったり、業務を代行するBPOなどを一気通貫でご提案したりする形で事業を行っている」と語る。顧客には大手企業だけでなく、スタートアップや中小企業、京都らしい老舗企業も含まれている。バックオフィス業務の効率化はニーズが強く、同社の売り上げも大幅に拡大している。特に主力であるAIエージェントの新規事業が伸びている。
バックオフィス業務は労働集約型になりがちだが、同社のサービスでは省力化が可能になる。例えば、請求書を受け取ってから実際の支払までの工程では、請求書を自動的にダウンロードしグーグルドライブなどのストレージに格納し、会社ごとの規則にそって支払えるようにする。ネット銀行とあらかじめ接続しておくと、AIシステムが支払いの承認もできる。これまで人間が担っていたところが大幅に省力化できるというわけだ。
こうしたバックオフィスのAIを使ったサービスは多いが、同社の場合は顧客の現場に入り込み、BPOや業務改善などを通じて実際に寄り添う形でAIを効率的に使えるように支援する点が強みになっているという。
ワンダーウォール
ゲームとリアルな世界を融合させ、新たなゴルフ体験を提供
ワンダーウォール(京都市)は、ゲームとリアルの融合による新たなエンターテイメントを実現している。同社は実際のゴルフとゲームの世界をブロックチェーン技術で融合させているWeb3ゲーム「GOLFIN(ゴルフィン)」のヒットで知られ、新たなゲームの世界観として注目された。
同社の小松賢代表取締役は「ゴルフ産業は世界で20兆円規模あり、ゴルフ用品など様々な関連ビジネスがあって、エコシステムが作りやすい」と指摘した。ゴルフのゲームが、実際のゴルフの世界とつながっていくような新しい世界を作りだすことができるということだ。
同社は「ゴルフィン」を通じて、プレイヤーだけでなく、ゴルフコースや用具メーカーなどからのスポンサー料を獲得できる。ゴルフィンのユーザーは実際のゴルフやゲームの実績でキャラクターを成長させたりすることができる。これが新しい体験であり、そのコミュニティに所属することで様々な楽しみ方ができる。こうした体験こそがゲームとリアルライフを掛け合わせるという同社の戦略だ。
小松氏はグローバルでの事業展開を見据え、多国籍の開発メンバーをそろえている。正社員が20名。そのほとんどがエンジニアで、出身は13カ国と多岐にわたる。現在は富裕層が多いゴルフに注力している。小松氏は「野球やバスケットボールなどでの展開も考えている」としており、今後も積極的に事業拡大に取り組む考えだ。
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