
ゴミを「運ばず、燃やさず、資源化する」 小型アップサイクルプラント
多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」は、3月11日に協定事業者やスタートアップ・起業家が集い、ネットワークの構築を目的としたイベント「TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025」を開催した。イベントでは、令和5年度の協定事業者による支援を受けたスタートアップおよび起業家によるスタートアップコンテストを実施し、「成長部門」「海外部門」「創業部門」の最優秀賞が決定した。成長部門で最優秀賞に輝いたJOYCLE(ジョイクル)の小柳裕太郎氏に、事業内容や今後のビジネス展開について聞いた。
――ジョイクルの事業内容の説明をお願いします。 ゴミを「運ばず、燃やさず、資源化する」をコンセプトに、小型プラントでゴミを分散処理するインフラの構築を目指しています。過疎化が進む地域では、大規模なゴミ焼却炉を維持・管理できない問題が発生しており、遠方の焼却炉までの運送を要するため処理コストがかさんでいます。また、運送時には温暖化ガスが排出され、労働力の減少によるドライバー不足などもあり、ゴミ処理を巡る状況はサステナブルではありません。
当社は、小型アップサイクルプラント「JOYCLE BOX(ジョイクルボックス)」と、ゴミの処理にかかわるデータを可視化するダッシュボード「JOYCLE BOARD(ジョイクルボード)」を組み合わせ、ハードとソフトの両面からゴミ処理問題の解決を目指します。
――「JOYCLE BOX」について教えてください。 「JOYCLE BOX」は、自動車でけん引しどこへでも持ち運びができ、ゴミ焼却炉までの運送コスト削減が可能な小型アップサイクルプラントです。大きな特徴の一つは、ゴミを燃やさないこと。仕組みは非常にシンプルで、チャンバーに設置した電熱線によってゴミを熱分解します。
――どのようなゴミをどれくらい処理できるのでしょうか。 液体や金属以外のほとんどのゴミに対応し、1回およそ5時間で45リットルのゴミ袋20袋分の処理ができます。1日フル稼働することで400~500kgほどのゴミを処理できる計算です。これは、200~300床の病院で1日に排出されるゴミの量に相当するものです。
処理後の重量は廃棄物の1~5%になり、資源として活用可能なバイオ炭やセラミック灰にアップサイクルされます。セラミック灰は特殊な硬化材と混ぜることによって、エコタイル建材として使用できます。セラミック灰をアート材料にしたり、バイオ炭を水質浄化剤として利用したりと幅広い活用方法を検討しています。
――「ジョイクル ・ボード」についても教えてください。 「ジョイクル ・ボード」は、「JOYCLE BOX」をはじめとする小型アップサイクルプラントに設置した、IoTセンサーから取り込んだデータを処理するプラットフォームです。データ収集により、「JOYCLE BOX」でゴミを現地処分したことによる温暖化ガスやコストの削減効果を可視化できるものです。二酸化炭素などの排出削減量を取り引きする「カーボンクレジット」を算出します。
また、稼働状況を遠隔からモニタリングすることで安全性の数値化が可能です。経済・環境・安全性への寄与を見える化できることが、当社のソリューションの強みです。

――今後のビジネス展開についてお聞かせください。 2026年夏を目標に、「JOYCLE BOX」の量産を予定しています。提供先は多数考えられますが、たとえば病院などの医療機関から排出されるゴミには感染性廃棄物があり、その処理に多額の経費がかかります。一方で、200度以上の熱で処理を行う「JOYCLE BOX」ではゴミに付着した感染源の滅菌が原理上可能であり、100床以上の病院では、処理にかかるコストを3~5割ほど削減可能です。こうした医療機関を対象としたマーケットは約2000億円を見込んでいます。
その他にも、東京の離島をはじめとするゴミ処理場が不足している地域では、ゴミ処理支援や突発的な需要に応じた「JOYCLE BOX」のデリバリーレンタルを予定しています。また、スポーツ競技場で排出されたゴミの現地リサイクル、海外リゾートへの導入など、多様な展開を視野に入れています。
――東京都主催のピッチコンテストへの参加やスタートアップ支援を受けたことで、事業の成長にどのように役立ちましたか? 起業当初、東京都が主催したエンジェル投資家を募るピッチコンテストをきっかけに、資金を調達できたことは貴重な体験でした。これを契機に、いくつかのアクセラレーションプログラムに採択され、実証実験の機会や協業のパートナーと出会えたことも、その後の事業展開の後押しとなりました。
今後とも、機械メーカーや各地の産廃処理業者などの、あらゆるステークホルダーと共創しながら、社名の通り資源と喜び(JOY)の循環(CYCLE)をつくれる社会を目指していきます。
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