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IVS×NIKKEI THE PITCHセッション①レオス・キャピタルワークス藤野氏「クロスオーバー投資で突破する『100億円の壁』」

クロスオーバー投資で突破する『100億円の壁』

2025年7月2日、IVS2025の会場となった京都市勧業館「みやこめっせ」で、「クロスオーバーの時代が来る! ~レオスグループが目指すスタートアップエコシステムの改革~」をテーマとしたセッションが開催されました。スタートアップの資金調達で、IPO前のレイターステージ投資が課題となる中、レオス・キャピタルワークスは未上場株投資を組み込んだ投資信託を通じ、クロスオーバー投資の新たな可能性を切り開いています。藤野英人社長は東京証券取引所のグロース市場改革で懸念される「100億円の壁」について、「クロスオーバー投資で突破する」と語りました。

登壇者 レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長兼最高投資責任者 藤野英人氏
モデレーター 日本経済新聞社 NIKKEI THE PITCH編集長 古山和弘

グロース市場改革、上場企業は増やすべき

古山東証が進めるグロース市場改革について、スタートアップの上場にどのような影響があるとお考えですか

藤野時価総額100億円以下の会社は、5年間でそれが解消されないとグロース市場から退場させられる制度が検討されています。これは市場の規律を高める意味では良いのですが、問題は制度を作る側の認識です。
会社を作ったことがない人たちが「時価総額が低い会社はダメ」と言って、未熟な会社を放り出せと言っているのです。年商1億円を作ることの大変さを知らない人が、そう簡単に言うのは違和感があります。
私自身も会社を作って失敗したこともあるし、レオス・キャピタルワークスも一から作った経験があるので、会社を作ることの素晴らしさと大変さがよく分かります。重要なのは、会社を作る人に対するリスペクトがないことです。
この改革の影響で、証券会社の引受審査も厳しくなり、「上場をもう少し待った方がいい」と主幹事から言われる会社が急増しています。上場のハードルが上がると、結果的に上場企業数が減少し、エンジェル投資家も気軽に投資できなくなる。特に、まだお金も実績もない人たちにお金が流れなくなることを懸念しています。

古山現状でもIPO件数は伸びていません

藤野おかしな話です。政府はスタートアップを3倍にすると言っているのに、なぜ東証の審査官の数を3倍にしないのか。引受証券会社の人員も3倍にしないのか。人を増やさずに数だけ増やそうというのは矛盾しています。スタートアップの数が増えても、それを審査・監査・投資する人が増えなければ、未上場市場は発展しません。
グロース市場の改革について「サバンナの象を増やすために小さい動物を減らす」と例えられますが、コヨーテやネズミを駆除しても象は増えません。むしろ上場企業数をもっと増やすべきで、質の悪い会社があればその時に退場させればいいのです。
スタートアップのレベルが低いという声もありますが、毎年確実にレベルアップしています。レベルが低いのは審査や投資をする側です。起業家だけに責任を押し付けるのではなく、投資家サイドが頑張るべきです。

グロース市場改革、上場企業は増やすべき

日本のスタートアップ投資 未上場と上場が分断

古山スタートアップ投資の課題にどう取り組んでいきますか

藤野日本のスタートアップ投資の根本的な問題は、未上場と上場の世界が分断されていることです。未上場の世界では、VCや起業家がスクラムを組んで上場を目指しますが、いざ上場すると、機関投資家から「規模が小さい」と冷たく言われ、リスペクトのない世界に突き落とされる。
この分断は制度的な背景もあります。ベンチャーキャピタル(VC)の世界は経済産業省が管轄し、上場後は顧客保護の観点から金融庁が管轄している。経産省と金融庁のカルチャーの違いも影響していると思います。
また、上場株のファンドマネージャーやアナリストは、未上場の世界を「決算数字もなく、よく分からない世界」と思っている。逆にベンチャーキャピタリストは、上場株の世界を「ルールが多く、規制されすぎた退屈な世界」と見ている。全然交わらないのです。
米国では未上場から上場まで一貫して投資する投資家が多いのですが、日本では完全に分断されています。これを繋げたいと思っています。人も、投資も、情報も、マインドも繋げたいという思いで、クロスオーバー投資に10年以上取り組んできました。

古山クロスオーバー投資の商品「ひふみクロスオーバーpro」について教えてください

藤野2024年9月に設定した、歴史的な投資信託です。これまで未上場株投資は、VCや経営者など限られた人しかできませんでしたが、投資信託に未上場株を組み入れることで、全ての日本人が未上場株投資に参加できるようになりました。これは「未上場株投資の民主化」と言えます。
流動性の観点やリスクの観点から、政府は投資信託全体の15%まで未上場株投資を認めています。当社のファンドでは10%までに設定しており、ファンド全体の10%が未上場株に投資できます。
純資産総額はスタート時の80億円から現在300億円まで拡大しています。地方銀行での採用も進んでおり、おそらく全国47都道府県の地銀すべてに導入され、将来的には1000億円規模になることを目指しています。100億円から200億円が未上場のレイターステージ企業に投資される計算です。

日本のスタートアップ投資 未上場と上場が分断

VCとは競合しない、新しいパートナーに

古山なぜレイターステージ投資が重要なのでしょうか

藤野日本のレイターステージ投資比率は全体の20%程度ですが、米国では70%です。これが、上場後の成長力の違いを生んでいます。
上場直前の企業は、経営陣も固まり、黒字化も見えてきて、証券会社の審査も通過した優良企業です。本来はこの段階で大きな投資をすれば効率的に成果が出せるのに、日本では「上場前だから投資を控えめに」と言われてしまう。
一方米国では、この段階で大型投資を行い、積極的な事業拡大やM&Aを実行します。だから上場後も大きく成長するのです。

古山VCにとってはどのような存在になりますか

藤野VCからすると、私たちはイグジット先であり、バトンリレーの後走者です。400m走に例えるなら、VCが第1走者から第3走者、私たちが第4走者で、ゴール後の伴走者にもなります。
VCが10年投資してイグジットを考えている案件を引き継ぎ、最後まで面倒を見る役割です。競合というよりも、VCの業界を盛り上げる新しいパートナーという位置付けです。
レイターステージの資金調達は、VCにとっても課題でした。上場まで1〜2年という段階で大型投資をすると、上場時に大量の売りが出てしまう可能性があります。そのため事業会社側も調達をためらうケースが多く、メルカリのような有望企業でも、規制があったために投資できませんでした。
しかし規制緩和により、将来のメルカリのような会社にも投資できるようになりました。私たちの強みは上場後も保有し続けることで、IPOの時に売らず、上場後も寄り添って成長を支える真の仲間になれることです。そういう投資家を求めている会社からの相談が増えています。

VCとは競合しない、新しいパートナーに

上場後も成長続けられる会社に投資

古山どのような観点で投資先を選んでいますか

藤野最も重要なのは「上場後も成長し続けられるか」です。私たちは上場後も保有し続けるため、IPOがゴールではなく、IPO後にさらに成長してプライム市場に早期上場できるような企業を求めています。
上場できることは当たり前で、それだけのガバナンス体制と成長性を持っている企業、そして経営者の人柄や私たちとの相性も重要です。長く伴走していく仲間になるからです。
「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」という言葉がありますが、ディスカッションした内容を消化し、数日後、1週間後、1ヶ月後に自分なりの答えを持って戻ってくる――そういう成長力のある人が成功しやすいと思います。IVSに来ている若い起業家たちも毎年レベルアップしており、そういう成長できる仲間がたくさん出てきています。
これまでに5社に投資しており、五常・アンド・カンパニー、IDOM CaaS Technologyなどが含まれます。

古山クロスオーバー投資の拡大が、日本のスタートアップエコシステムにどのような影響をもたらしますか

藤野クロスオーバー投資には大きなチャンスがあります。今後3年、5年、10年経って我々が成功事例を作ると、他社も参入してくると思います。すでに素晴らしい挑戦者が出てきていますし、大手証券会社も本格的に参入するでしょう。この分野がこれから分厚くなってくると思います。真似されることは悪いことではなく、業界全体が大きくなります。
時価総額30億円〜40億円の段階に大型資金が流れ込んでファンドがつくようになれば、スタートアップ投資はもっと活発になるはずです。今回のグロース市場改革で生まれる「100億円の壁」の問題も解消されるでしょう。クロスオーバー投資が壁を突破する重要な役割を果たすと考えています。