NIKKEI THE PITCH GROWTH
近畿ブロック
予選大会リポート㊤
日本経済新聞社が主催するスタートアップやアトツギベンチャーを支援する「NIKKEI THE PITCH」で近畿ブロックの予選大会が11月26日に岡山市内で開かれた。近畿ブロックは激戦区の一つで書類審査を経て18社が登壇した。前回大会は近畿ブロックから3社が決勝に進出したが、決勝での受賞はならなかった。今年は有力なスタートアップやアトツギベンチャーがそろい、予選段階から見ごたえのあるピッチが繰り広げられた。まずは11月26日の午前中に登壇した9社について紹介したい。
近畿ブロック(前半) 予選出場9社
あかり保証⇒IDEABLE WORKS⇒AOI Biosciences⇒ANAX Optics⇒カケルタンバ⇒香山塗装工業⇒コクリエ⇒サキノ精機⇒シマノ(登壇順)
近畿ブロック予選のピッチ動画は以下のページからご覧になれます。
https://pitch.nikkei.com/contest/NIKKEI%20THE%20PITCH%20GROWTH/pitch-run/kinki/
あかり保証
おひとりさまをワンストップで支援、弁護士と医療介護者らで安心を提供
あかり保証は「すべての高齢者の未来にあかりを」というミッションを掲げている。同社の清水勇希代表取締役は弁護士として高齢者から身元保証の相談を受けてきた経験から、「すべての高齢者が安心して老後を過ごせる社会を実現したい」としている。
単身で独居している高齢者は今後急速に増え、1000万人を大きく超える時代が迫っている。認知症に伴う資産凍結のリスクや、突然の入院で保証人がいないといった様々な問題を抱えており、その子供世代の負担も重い。同社では突然の入院などの際に保証などの手続きや、財産の管理などのサービスを提供している。「家族がいなかったり、家族はいても頼れなかったりするという高齢者の方々が安心できるようにしたい」という。
同社の強みは高齢者の支援体制だ。弁護士、司法書士、看護師、ケアマネージャーという法律と医療介護の専門家で構成されている。弁護士が手掛けており、わかりやすい料金体系に設定できているほか、金融機関との提携もしている。
あかり保証は独居高齢者、つまり「おひとりさま」をサポートする事業者コミュニティも設立している。医療・介護事業者、金融機関、司法書士など士業から葬祭業者まで定期的にセミナーや交流会を開催し、高齢者の間での交流もできるようにしている。清水氏は「私たちが基本的にワンストップで支援ができる。こうした体制で安心を感じてもらえるようにしたい」と強調している。
IDEABLE WORKS
アート作品の「ネットフリックス」に ホテルの壁面をギャラリーに
IDEABLE WORKS(京都市)はアート活動をする人たちが作品を発表しやすいギャラリープラットフォーム「HACKK TAG(ハックタグ)」を提供している。アート作品をスマホの画面で見るだけでなく、多くの人たちが集まるデジタルギャラリーを作るという新発想のビジネスだ。社会全体としてアート活動を支援する環境整備が狙いだ。具体的にはホテルなどで、アート作品を投影する壁面ギャラリーを全国展開しており、そこで収入を確保している。
寺本大修代表取締役社長は「アート版のネットフリックスのような世界を実現したい」としている。アーティスト作品をスマートフォンに登録し、展示会にエントリーすることで全国の拠点で見てもらうことが可能になる。作品を見た人が購入したり、興味のあるアーティストに連絡できたりする。配信する場所にとってもメリットがある。これまで活用できなかった壁面をギャラリーとして活用して、その場に集まる人たちに素晴らしいアート体験を提供できる。現在は全国16か所でデジタルギャラリーを展開する計画を進めているという。
寺本氏は「Spotify が生まれたことで、プレイリストという音楽の体験が生まれた。私たちは同じような革命をアートの分野で起こしたい」とし、「人生100年時代においてアートを日常として体験できることは重要だ。そんなライフスタイルのインフラとなりたい」とも語った。
AOI Biosciences
医師として救えない命を救いたい 不妊症検査で革新技術
AOI Biosciences(大阪府茨木市)は「人々の当たり前の健康が脅かされない世界を目指す」ことをミッションに掲げて、腎臓内科医が起業した医療系スタートアップとして注目されている。同社の末田伸一代表取締役は医学卒業後に腎臓内科医として6年間、臨床医として勤務した。そこで「診療の中で、自己免疫疾患や感染症といった、当たり前の健康を突然失う病気にかかり、それで多くの患者さんを救えないことに無力感を感じた」と、起業の理由をについて語った。
同社が技術開発の基盤としているのが、自己免疫疾患の新規メカニズム「ネオセルフ理論」だ。この大阪大学で発明されたシーズを活用して検査や創薬などの事業を展開している。特に不妊症・不育症の検査事業に注力し、すでに全国で200以上の医療機関に導入している。これまで発見できなかった患者を検出し、早期に治療に結び付けることができる。もう一つは東芝グループと連携して「アロステリック創薬」という事業も展開している。創薬で標的とされていなかったたんぱく質を対象として、副作用の少ない創薬が可能となるという。
末田氏は不妊症などの検査事業のグローバル展開について「海外では韓国、台湾、マレーシアやインドネシアでも事業を始めている。欧州のほか、北米などでも検査を実施している」と語った。ディープテック系スタートアップとして医療分野では注目企業の一つとされている。
ANAX Optics
世界最先端の光学設計技術 製品の自動検査でも活用
ANAX Optics(大津市)は京都大学発ベンチャーであり、高性能の光学設計ソフトなどの開発を進めている。光学設計は精密部品など多くの製品の設計に欠かせない基盤技術だ。ANAX(エーナックス)とうのはギリシャ語でトンボという意味であり、レンズのような眼がたくさんあることから社名とした。
同社の桐野宙治代表取締役CEOは超精密加工で博士号を取得し、この分野では世界的に知られる専門家だ。特許出願件数は40件であり、超精密部品を手掛ける中小企業の経営などにも関わってきた。
同社の桐野氏は「私たちの強みは2次元を3次元に転換できる技術だ」と強調した。同社は少し専門的になるが、「逆光線追跡」「トポロジー最適化」「AIによる光学系の自動選定」という光学設計技術分野に特化しているディープテック系のスタートアップだ。世界でも最先端の光学素子である自由曲面に焦点を当て、他社との差別化をしている。パートナー企業との協業により、自由曲面の光学設計と製造に関する包括的なソフトウェアを提供している。
同社のソフトでは光学に関する優れた知識や経験を持たない人でも、光学システムの設計やシミュレーションを簡単に行うことができる。多関節ロボットなど顧客の既存の設備を使い、超精密な研磨を可能にする部品製造用CAMソフトなども提供している。
同社が注目されるのは「(光学設計ソフトの技術を生かし)製品の自動検査ソフトの開発に取り組んでいることだ」(桐野氏)だという。日本のお家芸の一つである光学分野の強みを生かし、幅広いアプリケーションとして市場を開拓できる技術として注目されており、政府系機関による支援プロジェクトとなっている。
カケルタンバ
コスプレで神社を元気に
カケルタンバ(兵庫県丹波市)は、地方で少子化が進み、若者が流出している課題を解決する様々なビジネスに取り組んでいる。神社、森林そして古民家といった地方の資産を生かし、人々のネットワークの輪を作りだし、地域の活性化につなげようとしている。目玉として打ち出したのがコスプレイヤーと神社をつなげるビジネスだった。
同社の土田翔大代表取締役は大学卒業後に農薬メーカーに就職したが、家業のある丹波市の化学会社に戻り、4代目のアトツギとして多角的な事業に取り組んでいる。
土田氏は「日本には約8万の神社があるが、少子高齢化や人口減少で維持が難しくなっている。コスプレイヤーは神社で撮影したいという強いニーズがある。このマッチングの部分を私が生まれ育った丹波地方で実装し、成功させたかった」と語る。「以前は小さくて誰も来ないような神社ながら、この1年間で1000人が訪れるようになった」(土田氏)という。こうした神社でのコスプレ撮影の場は広島県や埼玉県でも取り組まれるようになった。
土田氏によると、コスプレイヤーは国内で多く、20歳代から30歳代のメインユーザーに対してサブスクモデルで収入を確保することを考えている。具体的には月額 1000円でサービスを利用できるようにする。スタジオとなる神社側からも手数料を頂く。さらに、海外からも日本でのコスプレ撮影のニーズが非常に大きいとしており、こうした顧客の取り込みも狙っている。
土田氏は「世界ではコスプレが好きな人が1100万人はいるとされる。専門のカメラマンにも仕事をしてもらうことを考えているので、波及効果は大きい」としている。それにより、日本の地方をより深く知ってもらうことができるわけだ。新たなインバウンドビジネスとしては成長の可能性がありそうだ。
香山塗装工業
日本の漆文化復活 アトツギの決断で地域活性化の新モデルに
香山塗装工業(京都府与謝野町)は京都北部にある地元密着の塗装業者だ。特に耐火塗装を強みにしてきた。アトツギである香山祐樹専務取締役は日本の文化の象徴の一つとされながら、消滅の危機に瀕している漆の塗装を復活させるビジネスに挑んでいる。
香山氏は経営者である父親の病により家業に戻ったが、経営環境は厳しく、将来的に成長できるビジネスを模索した。そこで目を付けたのが、父親が手掛けていた漆塗装だった。同社は耐火塗装などでは専門的な職人も多く評価されており、そこで高付加価値な漆塗装もできるようになれば、商機を拡大できると考えたからだ。
香山氏は「漆は日本が誇る文化そのものだが、現在は消滅の危機にある。職人が急速に減少しており、産業として衰退している。仏閣などの建築物にも使われてきたが、化学塗料が進化して漆の代替ともなり、最近40年で国産の漆市場は9割も減少した。漆を持続可能な産業として再構築したかった」と強調した。
同社による漆文化再生への取り組みはまず、漆の木の植樹から始まっているが、その管理ではDX化を進めている。2027年には自社での漆塗装工場を建設する。漆塗装は職人の経験に頼ることが多かったが、新工場ではここでもDX化して温度や湿度などの数値管理を徹底し、生産を安定させる方針だ。
香山氏は「私たちは建築塗装での豊富な実績やノウハウがあり、そこに優れた漆の塗装ができるようになれば、社会性も経済性も同時に成立させられる」という。漆塗装は建築物だけでなく、自動車の高級な内装など幅広い用途が見込めるとみて、新たな市場の開拓に取り組んでいる。
香山氏は「地方の小さな塗装会社が自分たちの手で漆素材を育て文化を守り、地域経済を動かすエコシステムが実現すれば、地方から持続可能な産業を再構築できる」と強調した。
コクリエ
阪大発技術で橋梁の点検を簡単に 地域のインフラは地域で守る
コクリエ(大阪府豊中市)は土木インフラの維持管理に関わる新技術を提案する大阪大学発スタートアップだ。特に国内では非常に数が多く、点検や維持管理が難しい小さな橋梁に焦点を当てた、同社の点検システム「土木せんせい」は注目を集めている。同社の髙﨑陽子代表取締役は「地域のインフラは地域で守るという社会を実現しなければ、少子高齢、人口減少の時代に安心して暮らせなくなる」と強調した。
日本では高度成長期に橋梁やトンネルなど土木インフラが建設されて、その老朽化が国内のいたるところで起きている。ただ、瀬戸大橋のような巨大なインフラばかりでなく、本当に小さい橋梁は数えきれないほどあり、それが地方の小さな自治体の財政を圧迫している。自治体で点検などの管理をすることも人手不足でどんどん難しくなっている。こうした課題を解決するのがコクリエのサービスだ。
高﨑氏によれば、全国の市町村が管理する約50万という橋梁では8割程度が長さ15メートル未満の小さな橋だ。「現在は大きな橋でも、小さな橋でも同じように技術者が現場に行って、点検しており、これではコストも膨れ上がるし、作業が効率的に進められない」という。このため、阪大などとの研究成果を生かした小規模橋梁に特化した点検システムを開発した。便利なチェックリストなどもついており、点検作業が確実に進めやすい。一部の自治体では5割程度の点検コストの削減にもつながっている。
現在はこうしたシステムを効率的に活用できるようにするため、地域で点検を担える事業者への育成プログラムも進めようとしている。
高﨑氏は「小さな橋梁の点検市場だけでも1000億円規模になる。これが地域の仕事として取り組めるようになれば、地元にもメリットが大きい」という。すでに同社のサービスには多くの自治体が興味を持っており、サービスの導入への動きが広がっているという。
サキノ精機
鉄工所の連携でメルカリ型ビジネスを展開
サキノ精機(兵庫県明石市)は「鉄ログ」という鉄工所のネットワークビジネスを展開している。同社の﨑野雄生代表取締役は4代目のアトツギだ。「メルカリのように家に眠るものを簡単に売り出したりできる。私たちは鉄工所として、鉄の相談に気軽にのれて、ものづくりをできるようにしたい。メルカリのように便利な仕組みを作っていきたい」という。それが「鉄ログ」というサービスを立ち上げた理由だ。
同社では鉄ログで受けた建築デザイナーからの要望で、建物のメインホールでの特別な階段を作ったりしている。サイトは試験的に運用を始めてから1年程度が過ぎた。すでに63件を受注し、4500万円を超える売り上げを達成できたという。﨑野氏は「このサービスの展開により、保育園から漁業や畜産業など幅広い事業者から受注できるようになった」という。今後は鉄ログに登録する鉄工所を10 社にまで増やし、獲得受注案件で 300 件を目指している。
同社は取引に応じた手数料を得るビジネスモデルを採用している。﨑野氏は「鉄工所は全国各地にあり、ネットワークを築くことで経営を強くできる」と指摘する。例えば、今回の鉄ログで登録する鉄工所が増えれば、北海道で受注してもこちらから出向く必要はなく、現地で信頼できる登録のパートナーに任せることができる。
サキノ精機は創業100年を超える老舗であり、そのアトツギとして日本での鉄工所の連携を作ろうとしているところは高く評価できるといえそうだ。
シマノ
AIロボットを実用化 原発廃炉に安全な現場を
シマノ(福井県鯖江市)は創業から60年余り、産業用ロボットの開発に強みを持つ日本らしい地方のものづくり会社だ。現場に熟練した技術者集団を抱え、顧客の様々な悩みを解決するロボットを実用化してきた。最近、注目されているのが、福井県敦賀市にあり廃炉作業が進む原子力発電所「ふげん」で放射線分布の可視化に成功したクモのような形の自律型6脚ロボットだ。このロボットはAIを活用し、階段や凸凹のある場所でも自在に移動できる特徴を持っており、日本原子力研究開発機構と共同開発した。
同社の嶋野寛之代表取締役社長は「危険ながら単純な作業はロボットに任せていく必要がある」と強調した。特に万が一の放射線被ばくが起きかねない原子力発電所ではロボットへのニーズが非常に高く、シマノが長く蓄えてきた技術が生きているという。
嶋野氏によると、自律型のロボットによる遠隔での観測が重要で、特に自発的に異常を検知するとすぐにそこに移動して計測ができることが大切だという。「シマノのロボットは仕事を待つのではなく、仕事を自ら見つけることができる」という。
原子力発電所は現在、再稼働に向けた動きが相次いでおり、点検ロボットの需要が拡大しているが、現場を支える技能者が不足している。シマノのロボットであれば、放射線の分布を3D化して状況を詳しく把握できるようになる。同社のビジネスモデルはリースまたは運用費を支払ってもらうサブスクリプションだ。これにより、ロボットのメンテナンスなどの作業も任せることができ、初期投入費用も抑えることができる。同社は株式公開を検討しており、そこでは原発などのインフラロボットを成長戦略のけん引役としている。
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