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第10回価値デザインコンテスト 最優秀賞・内閣総理大臣賞に三陸とれたて市場

日本青年会議所(日本JC)が主催する「第10回価値デザインコンテスト」で最優秀賞と内閣総理大臣賞に輝いたのは、三陸地域で水産業の復興に取り組む三陸とれたて市場(岩手県大船渡市)だった。本コンテストは、経済面だけでなく社会や文化といった多様な価値を生み出し、地域からの共感を得られるビジネスアイデアを表彰するもので、今年は348件のエントリーが集まった。NIKKEI THE PITCH賞には、現実の物体をリアルな3Dデータに変換するサービスを手がけるKOO(クウ、北海道小樽市)が選ばれた。

獲れたての一瞬を閉じ込める 三陸から世界へ

最優秀賞と内閣総理大臣賞を獲得した、三陸とれたて市場の八木代表取締役(前列左から3人目)
最優秀賞と内閣総理大臣賞を獲得した、三陸とれたて市場の八木代表取締役(前列左から3人目)

「斜陽産業とも言われる水産業で地域の漁業に役立ちたいと頑張ってきた。産地と料理人や消費者とのつながり方を時代に合わせて見直し、地道に積み重ねてきたことが評価していただけて本当にうれしかった」。三陸とれたて市場の八木健一郎代表取締役は、受賞の喜びをこう語った。

静岡県富士市出身の八木氏は、幼少時より海の生物に興味を持っていた。1997年、北里大学水産学部(現海洋生命科学部)の専門課程に進むために大船渡に移住した。世界三大漁場とも呼ばれる三陸の豊かさに触れる一方、高品質な魚を大量に水揚げしながらも疲弊していく漁村の状況を憂い、卒業後は起業家の道を選んだ。2001年からは、漁船にカメラを搭載して水揚げや競りのネット中継を行うなど産地の認知度向上や鮮魚販売に取り組み、事業を拡大していった。

ところが、東日本大震災により自社の水産加工施設が全壊してしまう。八木氏はこれを機に、事業モデルを抜本的に転換した。「今後100年続く持続可能な産地構造を確立したい」との思いから、鮮魚をそのまま産地直送する従来のやり方をやめ、以前から興味のあった鮮魚の凍結加工にかじを切った。

八木氏が目を付けたのは、千葉県の機械メーカー・アビーが開発した「CAS(セルアライブシステム)」を使った「精密凍結」という技術だ。従来の冷凍とは一線を画すこの技術は、磁場を発生させて水分が氷になる際の膨張を極限まで抑えることで細胞の破壊を防ぎ、解凍時にうまみ成分が流れ出ることを防ぐ。

「冷凍の刺身なんて売れるわけがない」。そんな冷ややかな声にもめげず、8年間研究を続けた。精密凍結させる前には魚種に応じて、神経締めや脱血など細かい下処理なども必要となる。試行錯誤の末、三陸で水揚げされる主要な魚種150種類以上について、流水解凍した後に割烹料理店で刺身として出せるレベルのノウハウを確立。2020年から本格的に冷凍刺身パックの販売に乗り出した。コロナ禍で巣ごもり需要が高まったことも追い風となり、ふるさと納税では過去4年間で4億円を超えるヒット商品に育っている。

同社が生み出す価値創造の象徴といえるのが、同社のヒット商品である「エイの肝」だ。エイは定置網漁で大量に水揚げされるが、値段がつかないために廃棄されることが多かった。すぐに生臭くなってしまうエイの肝臓に独自の下処理を施すことで品質を安定させたところ、「日本料理界の重鎮」として知られる野崎洋光氏から高い評価を受け、東京・南麻布の名店「分とく山」のメニューにも採用された。

八木氏(右端)が採用した若手社員が中心となり、エイの肝を処理して世界に出荷している
八木氏(右端)が採用した若手社員が中心となり、エイの肝を処理して世界に出荷している

大船渡港は沿岸漁業にも強く、魚種の豊富さが持ち味だ。サンマやサバはもちろん、アオリイカ、ウマヅラハギ、ホウボウ、毛ガニなども水揚げされる。八木氏の技術を使えば、各地の小さな漁港ならではの地魚を、世界に向けて販売できる可能性が広がる。

旬の新鮮な魚を傷めず、いつでもどこにでも届けられることは、日本の水産業にとっても画期的な取り組みだ。5月に水揚げされるシラスは、夜中に港へ戻った漁船から受け取り、すぐに下処理して精密凍結する。八木氏は「中東のドバイでも美味しい生シラス丼が味わえるほか、脂ののったイワシの刺身も、国内の有力産地の漁港と変わらない味わいだ」と自信をのぞかせる。

冷凍パックの刺身はヒラメや生シラスが人気だ
冷凍パックの刺身はヒラメや生シラスが人気だ

現在は、香港やシンガポールをはじめ、ドバイや米国の高級和食店との取引も増やしている。ドバイにある五つ星ホテルの日本料理店では、日本の冷凍ヤリイカが「とても新鮮で、冷凍とは全く気づかなかった」と客から好評を得た。結果、1人前3万円のコースメニューの目玉として採用された。

一方で、八木氏は「国内外で和食店は経営環境が一段と厳しくなっている。魚価の高騰や廃棄ロスに加え、腕の良い料理人の採用も難しくなっているからだ」と指摘する。「三陸とれたて市場は和食店の裏方厨房(バックエンドキッチン)の機能を担い、冷凍パックの技術でリスクヘッジする存在になれる」と話した。

魚は豊漁期に最も美味しいにもかかわらず、供給過多になると価格が暴落し、時に廃棄すらされる。そんな「水産業のパラドクス」を打ち破りたいと同氏は意気込む。漁港のそばで最適な処置をして凍結保管できれば、慌てて売る必要がなくなる。その結果、単価を大幅に引き上げられるほか、雇用の創出にもつながる。実際、同じ魚種でも精密凍結によって収益性が20倍以上になったケースもあるという。

地球規模で人口が爆発的に拡大する中で、天然の魚介類は安価で良質なたんぱく源として今後さらに重要視されるだろう。八木氏は「魚介類をより丁寧に、より価値あるプレミアムな存在として扱えるようにしたい」と強調した。世界で日本食が広がり、生魚を味わう食文化が定着している中で、日本の水産業が果たすべき役割は一段と大きくなるはずだ。精密凍結という新たなビジネスを創り出し、地域の漁業に新たな地平線を切り開いた八木氏の挑戦は、最優秀賞・内閣総理大臣賞にふさわしい取り組みだといえそうだ。

「大船渡の漁港から日本の魚の良さを世界に伝えたい」と意気込む
「大船渡の漁港から日本の魚の良さを世界に伝えたい」と意気込む

日本青年会議所会頭特別賞にsolar crew
地域で仲間をつくり 空き家を防災拠点に

空き家を防災拠点にする取り組みで受賞した河原氏(右)
空き家を防災拠点にする取り組みで受賞した河原氏(右)

日本青年会議所会頭特別賞を受賞したのは、空き家を防災拠点に転換するsolar crew(東京・大田)だった。同社の最高執行責任者(COO)である河原勇輝氏は、「今回の受賞は地域の皆さんや企業、行政、さらに一緒に活動してくださる仲間たちが支えてくれたからだ。こうした取り組みが評価されて本当にうれしい」とし、「これからも増えて困る空き家を、少なくて困る防災拠点にするということを目指し、全国に広げていきたい」と語った。

河原氏は21年7月、空き家活用を主な業務とするsolar crewを立ち上げた。地域の課題を地域で解決することをモットーとし、全国で増加して深刻な社会課題となっている空き家を、地域住民が利用するコミュニティスペースとして活用できるようにしている。災害時には「分散型防災拠点」の機能を持たせることから、「地域レジリエンスモデル」として注目されている。空き家の家屋の2階部分は、企業や事業者を誘致して運営収益を確保している。

河原氏が評価されたのは、補助金に依存しない運営手法だ。空き家のリフォームに地域住民を巻き込み、地域交流の起点をつくる。それが、補助金がなくても続く防災拠点の土台になっている。

NIKKEI THE PITCH賞にKOO
独自の3次元データ技術で地域活性化に挑む

KOOの中村氏(右)はデジタル大臣賞とNIKKEI THE PITCH賞をダブルで受賞した
KOOの中村氏(右)はデジタル大臣賞とNIKKEI THE PITCH賞をダブルで受賞した

デジタル大臣賞とNIKKEI THE PITCH賞をダブル受賞したKOOの中村友・代表取締役。「2019年に起業してから、現実を3次元データ化する技術は必ず世の中で必要にされる時代になると思って研究してきた。この技術がもっと多くの人たちに認知され、利用されるようにしていきたい」と意気込んだ。

同社は、レーザースキャニングやドローン空撮などを活用し、空間や構造物を3次元データとして生成している。このデータは、インフラの建設・保守やバーチャル観光など様々な用途で利用することができるものだ。「最大の強みは現実の物体を軽量かつ高精細なデータに変換することだ。3次元データは発注元の自治体や企業が資産として活用できる。地域活性化や業務効率化につなげられ、社会的にもメリットがある」と話した。

コンテストを主催する日本JCの会員には各地で活躍するアトツギベンチャーの起業家も多く、NIKKEI THE PITCHにも数多くエントリーしてくれている。社会課題を解決するには起業家精神が必要との思いを共有する両団体は、今後も連携していく考えだ。