「女性ならでは」が視野を狭くする 起業はもっと自由に
スタートアップの資金調達や事業成長を支援するベンチャーキャピタル(VC)で女性のキャピタリストが少しずつ増えている。レオス・キャピタルパートナーズのシニア・ポートフォリオマネージャーである関英恵氏は女性が圧倒的に少ない時代にVC業界へ飛び込み、20年にわたり日本のスタートアップ業界を見続けてきた。女性起業家に向けて「『女性ならでは視点』に縛られることなく、自由な発想を大事にしてほしい」とエールを送る。
VCでの20年を経てクロスオーバーファンドへ
――VCでの経歴について教えてください
私は2003年にベンチャーキャピタルのJAFCO(ジャフコ)に新卒で入社し、初めは関西、次いで東京・埼玉地域でキャピタリストとして活動しました。結婚、出産を経て数年間は投資法務などに携わり、その後は自分から手を挙げて、IPO(新規株式公開)後の株式売却を行うトレーディング業務を担当しました。この業界では、投資と売却を両方やる人は少ないのですが、私はVCの入口から出口までを経験することができました。
――なぜ、クロスオーバーファンドを手がける現職に転じたのですか
2024年の制度改正で、公募投資信託に未上場株式を組み入れるクロスオーバーファンドの設立が可能になりました。その立ち上げに、「未上場も上場も分かる人材がほしい」とお話をいただいたのがきっかけです。私も、未上場の最終段階から上場後間もないところの投資家が日本では極端に少ないことを懸念しており、一般の方にもなじみのある「ひふみ」ブランドがここに参入することは非常に有効だと思い、2024年7月に当社にジョインしました。
上場後も株売らず 持続的な成長を支援
――クロスオーバーファンドで、スタートアップ支援はどのように変わりますか
既存のVCと違い上場後も株を売らず、その後の成長の果実を一緒に享受していくというコンセプトなので、より持続的に成長を支援できるようになります。上場株を見ているファンドマネージャーが未上場時代から投資家コミュニケーションに関するアドバイスを行うなど、垣根を取り払うことにより上場後の株価低迷や、流動性確保の問題にも早くから対応できるようになることは、日本のグロース市場にとっても価値のあることだと思います。
――スタートアップが成長できる環境が日本でも整ってきたと思いますか
私がVCに入社した20年前とは比較にならないほど、VCの規模が拡大し、大企業によるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も増えています。大きなベンチャーイベントも開催され、起業家を育てよう、産業を育てようという波が大きくなっていると感じます。実際に、企業評価額10億ドルを達成するユニコーン企業の数も増えました。それでも、誰もが経営者の顔を知っている、一世代前のソフトバンクや楽天のような存在感のある企業はここ10年出ていません。10億ドルも大変なことですが、その後、20億、30億、100億ドルといった成長軌道をたどる企業を見つけて伴走していくことが、私たちファンドに求められていると思いますが、まだハードルは高いですね。
次世代の女性を支援、起業家とは違う立場で壁打ち
――スタートアップ市場における女性起業家の活躍をどう捉えていますか
若い女性で起業を志す方、社会課題に向き合っていこうとする方が非常に増えていることを、心強く見ています。ただ、女性起業家というと「女性ならでは」の視点や感性が連想されがちですが、私はいろんなマーケットや業界について考えるとき、「女性だからそう考えたんですか」という見方はしていません。それって男性はあまり言われないことですよね。「男性ならでは」とか。本質的には個人がどう考えていくかという話であって、女性も「女性ならでは」に縛られると女性向けのビジネスに寄りすぎてしまうことがあります。女性向けの商材に絞ると、市場が半分になりますよね。起業するときには、「ならでは視点」で視野を狭めないで、自由な発想を大事にしてほしいと思います。
――女性起業家の困りごとをどのようにサポートできるでしょうか
私はキャリアがある程度でき上がった側の人間ですので、特に意識して次世代を担う女性を助けていかなければならない、と考えています。困ったことは女性として相談に乗りますし、事業についても起業家とは違う立場から壁打ちに応じます。若い女性起業家を見ていると、思いが強すぎて押しつぶされるのではないか、と危うさを感じることも多いので、話すことで少し緩んでもらえたらいいなと思っています。
「いい会社との出会い」こそがVCのやりがい
――VC側では、活躍する女性は増えていますか
実はまだ、女性は圧倒的に少ないです。例えば、私はJAFCOの新卒採用11人のうち唯一の女性でした。体力的にも精神的にもハードで簡単に人に勧められる仕事ではありませんが、女性も含めて、この業界に入る下の世代が定着するように、サポートや仕組みづくりをしていかなければならないと考えています。
――VCの仕事のやりがいはどんなところにありますか
やはり、「出会い」です。年に100社、200社と訪問する中で数回ですが、「本当にいい会社に出会えた」と思えることがあります。そういう会社で、初めて社長にお話を伺ったときのワクワクや興奮が、VCの仕事の魅力だと思っています。
(ライター 会田晶子)
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