心筋梗塞や心筋炎などが原因で心臓の機能が大きく低下してしまう重症心不全。この病気に対する根本的な治療法は心臓移植しかない。その現状に一石を投じようとする企業が、慶應義塾大学名誉教授の福田惠一氏が代表を務めるHeartseedだ。同社はiPS細胞から心臓の細胞を作製し、移植することで重症心不全の根治を目指している。シード・アーリーステージのディープテック系企業に投資をするベンチャーキャピタル・Angel Bridgeの河西佑太郎氏とSMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)の駒橋政和氏は、そんな同社を支援してきた。大学での再生医療の研究から生まれたスタートアップの軌跡を三者が語り合った。
-
福田 恵一氏
1983年慶應義塾大学医学部卒業。循環器内科に所属し心筋再生による心不全治療法開発に従事。2005年同再生医学教授、2010年同循環器内科教授、2015年Heartseed株式会社(証券コード:219A)を設立し代表取締役社長に就任。現在、心筋再生医療の企業治験を実施中。
-
河西 佑太郎氏
Angel Bridge代表パートナー。ゴールドマン・サックス、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て2015年にAngel Bridgeを設立。創業期の2年間社長を担うなどHeartseedを立上げから支援し、9年で上場に導く。東京大学修士(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA。
-
駒橋 政和氏
2007年三井住友銀行入行。約10年間、中小~大企業向けの法人営業や再建支援業務に従事。「金融で培った経験を活かし、社会変革を担うベンチャーを支援したい」という思いから、2019年SMBCベンチャーキャピタルに出向。ライフサイエンスセクター担当。
Heartseed株式会社
Heartseed株式会社は、iPS細胞から心筋細胞を作り、心不全患者の心臓に移植する「心筋補填療法」の開発と社会実装に取り組むバイオベンチャー。現在企業治験を進めているほか、大手製薬会社であるデンマークのノボノルディスクとライセンス契約を締結。海外での開発や製造販売も視野に提携している。2024年7月に東証グロース市場に上場。
AngelBridge株式会社
Angel Bridge株式会社は、ハンズオン支援をモットーとする「起業家のサポーター」として、日本発の世界に誇れるメガベンチャーの創出を目指す独立系ベンチャーキャピタル。シードからアーリーステージに投資を行い、世界トップクラスのプロファーム出身者のチームが、独創的で革新性のある事業の成長を全力で支援。
患者本位の治療法を確立するため起業を決意
- 駒橋福田先生は、大学病院で臨床・研究・教育を行うとともに、経営者としてもエネルギッシュに最前線に立っています。その熱意の源はどこにあるのでしょうか?
- 福田現在開発している重症心不全に対する再生医療を、確実に社会実装に導くという目標がエネルギーとなっています。心臓や血管などの病気を治療する循環器医になったばかりの頃、歳が近くて重症心不全を患う患者を担当しました。志半ばで死の病に苦しむ姿を見て心が痛んだことをよく覚えています。その後、心臓移植が実用化されましたが、ドナー(臓器の提供者)が必要であるため、国内で移植を受けられる患者は年間100人にも届きません。
- 駒橋重症心不全は、まさに死の病であるわけですね。
- 福田希望を見いだしたのが、1990年初頭にがんの分野から始まった遺伝子レベルの治療法の研究です。「これを応用すれば心不全の治療法を確立できるかもしれない」そう考え、1991年に国立がん研究センターの門を叩き、その翌年には米国の大学へと留学しました。帰国後も研究を続け、1999年、骨髄間葉系の幹細胞から心筋細胞を作ることに成功し、論文として発表することができました。
- 駒橋その成果を社会実装するために、さらに研究を進められたのですね。
- 福田起業するまでにも、いくつかの企業から共同研究の申し出を受けたことが何度もありました。しかし、研究中の技術が未成熟であると思い、応じませんでした。社会実装に至る道筋がしっかりと見えていなければ、失敗は明らかです。「大手製薬会社との共同研究」という手段もありましたが、過去の経験から経営方針次第で、特定の疾病領域への投資が打ち切られてしまうこともあることを知っていました。
- 駒橋自ら起業する道を選んだきっかけはあったのでしょうか?
- 福田2010年、ある製薬企業に招かれてスイスで講演をしました。その企業の創業経営者が、別の製薬企業の研究者から自ら起業された方でした。講演後に会食していると、彼は自身を引き合いにしながら「君の研究は社会的にも非常に価値が高い。研究が社会実装できる段階になったら、起業すべきだ」と勧めてきました。
- 駒橋事業化のため、共同創業者として尽力されたのが河西さんですね。
- 河西事業プランを提案する際に、福田先生にお聞きしたことがあります。「製薬会社と協同で研究すれば人や資金を出してもらえますが、ご自身で起業することは茨の道です。それでも、自ら経営することを選びますか」と。先生はご自身で経営されると即断しました。一切の迷いはなく、事業にかける熱い思いが伝わりました。
キャピタリストが共同創業者となり事業サポート
- 河西私がAngel Bridgeを起業した動機は、スタートアップ支援などを通じて、日本の経済成長に貢献するためです。注力分野の一つとして、大学発スタートアップの支援を掲げています。学生時代に農学部で研究をしていたので実感していますが、日本の大学の科学技術は高いにもかかわらず、社会実装への具体的なイメージを描くことは得意ではありません。ですからその手助けをしたいと考えています。
- 駒橋SMBCグループとしても、日本の競争力強化のため、産学連携の推進に力を入れています。福田先生とは、どのようなきっかけで出会ったのでしょうか。
- 河西起業当時のことです。「日本がグローバル市場で競争力を発揮できる領域に投資をしよう」と考え、思い当たったのが再生医療でした。そこで高校時代の友人を通じ、福田先生をご紹介いただきました。先生にお話を聞くと、再生医療実現のための大きな障壁である「万能細胞の腫瘍化(がん化)」を効率的に防ぐ手法を研究されており、実用化の可能性を感じました。それと同時に、重症心不全を根治したいという先生の熱意に打たれ、支援させていただきたいと思いました。
- 駒橋Angel Bridgeは、資金だけでなく組織作りや事業展開についてもサポートする「ハンズオン支援」を大きな特徴としていますよね。
- 河西そのとおりです。Heartseedに関しては、特に手厚くハンズオンで伴走させてもらいました。成功する大学発スタートアップには、3つの特徴があると考えています。一つめは、世界的に競争力を発揮できる高い技術があること。福田先生の研究は、この条件を十分に満たしています。二つめは、研究を主導する先生が中心となって事業にコミットすること。これは、先ほどのお話のとおりです。最後の一つが、技術について詳しい経営者です。Heartseedの創業から2年間は、その役割を私が担い、資金面だけでなく事業面でも支援を行いました。
- 駒橋Angel Bridgeでは、投資先の創業社長として参画し事業を推進することがよくあるのでしょうか。
- 河西いえ、後にも先にもHeartseedだけとなるでしょう(笑)。当社の設立は、Heartseedと同じ2015年。創業期であったため大変な苦労をしましたが、現在に比べると自社以外の業務を担う余裕があり、同時進行でハンズオンすることができました。
- 福田その意味でもHeartseed設立のタイミングはとても良かったと思います(笑)。河西さんには、資金面はもちろん、事業プランの策定から社内外のパートナー集め、制度の設計まで、企業としての体制を整えてもらうことができました。
「スピード」がSMBCVCの提供価値
- 福田SMBCVCの出資を受けたのは、ちょうど河西さんが代表取締役から退任し、社外取締役に就任した頃でした。
- 河西何よりありがたかったのがスピード感です。お声がけしたベンチャーキャピタルの中で、どこよりも早く投資の意思決定をしたのがSMBCVCでした。ベンチャー投資においては、技術やビジョンが評価されたとしても、実際に資金提供の段階となると迷いやタイムラグが生まれがちです。その中で、一社が投資に踏み切ることが、他社の意思決定の後押しとなるので助かりました。
- 駒橋早急な決断ができたのは、SMBCグループの文化として「スピード」を重視しているためです。また、成長を後押しするキャピタリストとして、SMBCVCが提供できる最大の価値は、スピードであるとも考えています。私たちの早期の意思決定が、Heartseedの資金調達に一役買えたことがうれしく思います。
- 河西SMBCVCでは、バイオサイエンスに対する知見を豊富に持っているのでしょうか。
- 駒橋私たちのメンバーは多くが銀行出身ですので、技術に対する知見を持ち合わせてはいません。あるとすれば、多数の成功した企業とのお付き合いの中で培った、「人」を見極める力です。事業のビジョンや可能性について経営陣と対話をする中で、成功に導けるかどうかは肌感覚で分かります。上層部にも、担当者の判断を尊重し決裁する風土があります。
- 福田資金面以外にも、金融業界の最新事情や、強固な組織としてのスタートアップの在り方などをお話いただきました。
- 河西多数の企業と取引があるSMBCグループのネットワークを生かし、事業連携のパートナーを紹介いただけたことも、とても助かりました。
グループのリソースを活用し総合的な支援
- 駒橋治療の実用化に向け、治験は順調に進んでいるかと思います。これまでどのような困難を乗り越えてきたのでしょうか。
- 福田心臓、特に重症心不全の患者に対する再生医療の治験を実施するためには、多くの資金が必要となります。なぜなら、必要な細胞の数が多いからです。例えば、パーキンソン病の再生医療の場合、移植する細胞数は500万個と言われています。一方、私たちがこれから進めようとしている治験では1億5000万個もの細胞を移植する必要があります。その製造にコストがかかりますし、治験期間が長期にわたるので、治験委託機関への支払いもかさみます。
- 河西資金調達のため、Heartseedでは様々な取り組みを行っていますね。
- 福田2021年には、デンマークの製薬会社ノボ ノルディスクと技術提携および、ライセンス契約を締結しました。この契約によって、開発に進捗があるごとに「マイルストーン収入」が入ることになります。
- 河西2024年には、Heartseedは東証グロース市場へと上場を果たしました。
- 福田上場の際には、SMBC日興証券に主幹事証券を担ってもらいました。難しい市況環境でありながら当社の価値実現に奮闘いただき、上場までサポートしていただいたことに感謝しています。こうして得た資金を活用して、治験を速やかに推し進めていきたいと考えています。また、現在は胸を開く開胸手術で細胞を移植していますが、特殊な細い管状の器具を血管内に挿入して行うカテーテル手術で負担を軽減する治療法も開発中です。一日でも早く重症心不全に対する治療法を実用化し、病に苦しんでいる患者に希望を届けていきたいと考えています。
- 駒橋SMBCグループには、銀行や証券、コンサルティングサービスなど、様々な機能があります。今後とも、再生医療で重症心不全を根治するという目標実現のために、全力で支援をさせていただきます。
本記事広告は、日本経済新聞社が取材をして制作したものです。当社はその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。本記事広告は株式など金融商品の価値についての判断の基準を示す目的で提供したものではなく、株式など金融商品の購入、売却、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。本情報に含まれる過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
本情報は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。
当社は本情報の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。