日本全国のスタートアップや社会起業家を支援する「NIKKEI THE PITCH」。2024年より開始された同プロジェクトの初年度プラチナパートナーとして手を上げたのが、SMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)だ。投資、融資、証券――様々な機能を有するSMBCグループの総合力を生かしたスタートアップ支援と、日本のスタートアップが目指すべき姿とは。SMBCVCの佐伯友史社長と三井住友銀行の福留朗裕頭取、日本経済新聞社の常務取締役メディアビジネス統括・牧江邦幸が語った。
新たな価値創造にはスタートアップの活躍が不可欠
- 牧江日本経済新聞社では、2019年からスタートアップを対象にしたピッチコンテストを開催してきました。しかし、メディア企業として当社に求められているのは、その外部に対する発信力や、より総合的な支援ではないのか。そのような思いから24年の春に「NIKKEI THE PITCH」プロジェクトを立ち上げ、活動の枠組みを拡大。今年度からは新たなメニューとして、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)事業の支援プログラムの提供を開始しました。SMBCVCとは二人三脚で様々なコンテンツや施策を行っており、お力添えにとても感謝しています。
- 佐伯実際に1年間ご一緒し、日本経済新聞と銀行系VCが協力したスタートアップ支援は大きな意義のある活動だと実感しています。
- 福留私自身も、トヨタ自動車およびトヨタファイナンシャルサービスに在籍した18年からの3年間で、スタートアップと深く関わる経験を得ました。自動車のサブスクサービスや決済アプリ、ブロックチェーン事業――。そうした新規事業を立ち上げるため、多くのスタートアップと接点を持ったのです。その中で、社会や経済に新たな価値を生み出し、日本が再び成長していくためには、スタートアップの活躍が不可欠であると確信しました。この思いは今も変わりません。SMBCグループの中期経営計画では「日本の再成長」をマテリアリティ(重点課題)の一つとして掲げ、2023年度・2024年度合計投融資額は1,771億円の実績となりました。次期以降の中期経営計画でも、腰を据えてスタートアップ支援に取り組んでいく予定です。
SMBCグループの総合力で一気通貫の支援
- 福留スタートアップというと、事業をゼロからイチへと立ち上げる創造性に注目が集まります。一方で、創出した事業を大きく成長させるためには、別の能力が求められ、そこでつまずくことが少なくありません。スケールアップの壁を乗り越えるため、SMBCグループの様々なソリューションやネットワークを組み合わせ、一気通貫でサポートできるのが銀行グループならではのスタートアップ支援であると考えています。
- 牧江スタートアップ支援の現況については、どう見られていますか。
- 福留スタートアップへの資金の供給源として、ベンチャーファンド、CVC、そして、スタートアップ向け融資などが揃ってきました。政府も支援の力を強め、22年11月に閣議決定された「スタートアップ育成5カ年計画」では、27年度までに投資額10兆円の規模を目標として掲げています。しかし、その実効性を高めるために必要なエコシステムの構築は道半ばの状況だと見ています。
- 牧江課題解決のために必要な取り組みや施策について教えてください。
- 福留SMBCグループによるスタートアップエコシステムの一例を取り上げます。当グループで起点となるのはSMBCVCです。幅広い業種・業態を対象に、社会変革の担い手と期待されるスタートアップにエクイティ投資を行っています。加えて、投資マーケットの活性化を目的として、様々な特性を持つ独立系のベンチャーキャピタルへ出資しています。三井住友銀行として注力しているのは、スタートアップが大きく成長する過程において欠かせない資金をスタートアップ向け融資で支援することです。この機運は他行においても同様で、25年2月には全国銀行協会が「スタートアップ融資実務ハンドブック」を作成しました。
また、2025年5月、SMBCグループは法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk」をリリースしました。このサービスは、従来の枠を超えた圧倒的な利便性を追求し新たな体験を提供するプラットフォームです。本格的なお取引には各支店のお口座が必要になるものの、まずはお取引のきっかけとして、スタートアップや創業間もない企業の挑戦を支えるSMBCグループの強い想いを加速するための具体的な施策の一つです。
グローバルエコシステムから巨大スタートアップを輩出
- 牧江政府は「ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)100社輩出」を目標としています。しかし、投資家への聞き取りでは実現までに20年以上はかかるという声が半数を超えていました。何が問題なのでしょうか。
- 福留日本の再成長のためには、最先端領域で世界と戦える巨大スタートアップの輩出が求められます。改善のために必要なのは、エコシステムのグローバル化です。日本はある程度マーケットが大きいため、スタートアップ経営者の多くは基本的に日本のマーケットでの成功を目指しています。しかし、それでは世界と戦えません。なぜなら、海外投資家は他国の成功事例と比較して投資を検討するからです。企業価値評価の手法や投資契約において、グローバルスタンダードを踏まえないことには、海外投資の誘引や海外企業との協業は難しいでしょう。現在、日本のスタートアップのガラパゴス化を懸念しています。
- 牧江当然、経営者にもグローバルへの意識が求められますね。
- 福留そのとおりです。当社では、スタートアップの経営者に、銀行の取引先企業との出会いの場や、ニーズにマッチする企業同士のディスカッションの機会を設けています。その中にはグローバル市場へのご案内など、非金融面での支援が含まれています。今後、こうしたパートナーシップを広げる機能を高度化していきたいと考えます。スタートアップの出口戦略の多様化などについて、提供できること、すべきことを議論しています。
取引先との「絆」大切に、社会実装を一つでも多く
- 牧江パートナーシップといえば、本連載「未来への扉」でも、SMBCVCによる企業同士のマッチングについて、起業家が高い評価をしていたことが印象的でした。
- 佐伯当社が企業同士を引き合わせるときは、スタートアップと相手先の双方の要望を丹念に読み解き、論点を明確にして、有効な出会いの場を提供するように努めています。これは、取引先との「絆」を大切にするSMBCグループの一員であるSMBCVCだからこそできる活動であると自負しています。ともにスタートアップを支援する福留頭取ともコミュニケーションを取りながら、外部関係者との協働も視野に入れ、より有効な枠組み作りに取り組んでいます。
- 牧江そんな丁寧な伴走の原動力とはなんでしょうか。
- 佐伯SMBCグループで、最初にスタートアップの経営者と接点を持つことの責任です。SMBCVCの投資理念は「人生を賭けた起業家と、明るい未来を築く」。その理念に基づき、人々の生活向上や社会的課題の解決を目指す起業家の皆さんに、エクイティ支援を通じてともに目標達成を目指しています。そのため投資のみに留まることなく、経営支援にも積極的に取り組み、一体となって企業価値の向上を図ります。
- 牧江SMBCVCとして、特に注力している分野や業種はありますか。
- 佐伯結論から言えば、特定分野への注力は「ない」が答えとなります。25年3月末現在の投資件数は474件で、投資残高は423億円です。また24年度には、追加投資を含め88件の投資を行い、多い年には100件を超える積極的な投資を行っています。この実績が意味するところは、幅広い分野や業種において「未来の扉」を開く可能性を有するスタートアップにチャンスを届けたいということです。当社の伴走により、社会をよくする技術やアイデアの社会実装を一つでも多く実現していくことが目標です。IPOなどによりSMBCVCを卒業しても、SMBCグループとの「絆」を引き続き大切にしていただければと考えています。
- 福留経営者の事業にかける情熱や、社会を少しでもよくという大義は、SMBCグループとしても非常に大事にしています。
- 牧江今回、福留頭取と佐伯社長から大変示唆に富むお話を拝聴し、「NIKKEI THE PITCH」の社会的な意義を改めて実感できました。2年目の今年以降もより一層、SMBCグループと強固に連携し、業界の発展に貢献できるようにチーム一丸となって取り組む所存です。
- 福留今後とも「NIKKEI THE PITCH」プロジェクトを通じて、日本経済の活性化実現のために力を合わせていきましょう。
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