スタートアップ投資の第一線に立ち、NIKKEI THE PITCHの立ち上げ当初から若い起業家たちと向き合ってきた藤野英人氏。2026-27シーズンの開幕を前に、日本のスタートアップの現在地と、挑戦者たちへのメッセージを聞いた。
起業が当たり前の選択肢に
私が投資の世界に入り、若い起業家たちと関わるようになって長い時間が経ちます。スタートアップの文化が本格的に出てきたのは、2000年ごろでした。当時は「ベンチャービジネス」という言葉を使っていました。今は「スタートアップ」という言葉に変わっています。言葉が変わるというのは、それだけ社会への浸透度が変化してきた証拠だと思います。
当時は、起業はかなり変わった人がすることだというイメージがありました。でも今はどうでしょうか。どんな田舎に行っても、「僕は起業したい」と言ったときに、「起業ってどういうこと?」と首をかしげる人はいなくなりました。学校の先生も、親も、世間の人たちも、起業という行為そのものを理解してくれるようになった。リスクは高いけれど、自分のあり方を追求する立派な生き方の一つとして認識されるようになってきたのは、大きな変化でしょう。
スタートアップの縦と横の広がり
日本のスタートアップの広がりは、「横」と「縦」の2軸で考えることができます。「横」というのは数の問題。「縦」というのは時価総額、つまりどれだけ大きな会社が生まれているかという高さの問題です。日本のスタートアップの数は着実に増えています。しかし「縦」、つまり高さがまだ出ていない。OpenAIやAnthropicやSpaceXと肩を並べるような、世界を揺るがす巨大なスタートアップはまだ生まれていません。ユニコーンをいかに創出するかという議論が、今まさに政府の中で行われています。
しかし、私はこの状況を悲観していません。スタートアップの裾野が広がれば、時間差でユニコーンも生まれてくる。若者たちが「会社を起こしたい」「新しい事業を作りたい」と相談に来る機会が、ここ数年で本当に増えました。そのことが、何より心強いです。
若者の「なぜ?」が、業界の常識を壊す
起業は、「穴を見つけて、穴を埋める」行為です。「穴を見つける」とは、社会課題を発見する力です。社会課題というと身構えてしまうかもしれませんが、「この穴がふさがれば、すごくうまくいくのになあ」という感覚のことです。その「穴を埋める」ことこそが、社会課題の解決です。
ここで重要なのは、「穴を見つける力」と「穴を埋める力」は、別の能力だということです。穴を見つけるのは、業界外の人や若者のほうが得意です。業界の中にいる人は「これが当たり前だ」と思っているから、おかしさに気づけない。でも外からやってきた若者は「なんでこんなことをしているんだろう」と素直に感じることができます。
一方、穴を埋めるためには、制度をよく理解していなければなりません。資金を調達しなければならない。人を動かし、組織を作らなければならない。これは経験と知識と資金力がものをいう世界です。
そのため、起業家には矛盾した二つの力が必要になります。どちらか一方しか持っていない場合、どちらかを補ってくれる存在が必要になる。若い人だからできるというわけでも、経験者だからできるというわけでもありません。それぞれの強みを理解し、補い合うことが大切です。
ぶつかり合える仲間が、人生を変える
2年前から、NIKKEI THE PITCH SOCIAL BUSINESS SCHOOLのスペシャルアドバイザーとして、10代〜20代の若者と交流しています。スクールの場に集まる若者たちは、まだ磨かれていない原石のように「ゴツゴツ」しています。まだ経験は少ないけれど、やりたいことがあって、でも整理しきれていない。スクールでは、そんな若者たちがアイデアを披露し、お互いのアイデアに容赦なく突っ込んでいきます。傷つくこともありますが、多くの気づきを得られます。切磋琢磨することで、社会課題の解像度が上がり、解決の道筋がより明確に見えるようになります。
沖縄での合宿は、特に印象に残っています。育ってきた環境は全く違うけれど、どこか似ているなと感じられる仲間や、生まれて初めて深く話せる相手に出会ったという体験をする人もいます。スクールの卒業生とは、プログラム終了後も集まって、近況や事業の進捗を報告し合っています。社会課題を解決したいという同じ思いを持つ仲間に出会えることは、一生の財産になるでしょう。
完璧を練るより、打席に立とう
起業を目指す若者には、「勝つか、負けるか」ではなく、「勝つか、学ぶか」だというエールを送りたいです。失敗したと思われることの中にこそ、成功のための種が多く眠っています。逆に、勝ってしまうとそこで安心してしまい、前に進めなくなることがある。勝つことと、いわゆる失敗することの繰り返しの中でこそ、人は成長していくのです。
「勝つか、学ぶか」だと思えば、何事もチャレンジしたほうがいいに決まっています。勝ったらうれしい。学ぶ体験を得たら、それもまたうれしい。どっちに転んだって、最高じゃないかということです。
だからこそ若者には、失敗を恐れずに打席に立ち、チャレンジしてほしいです。頭の中にあるアイデアを、まずやってみてほしい。たった一人でもいいから、お客さんを見つけて、その人のためにやってみる。完璧なアイデアを練り続けるよりも、トライの数を積み重ねるほうがずっと大切です。
私は現在、芸大の大学院のゼミ生として、学生たちと円卓を囲みながら学んでいます。今年の4月には、アニメスタジオのスタートアップも立ち上げました。起業家として、会社が潰れるかもしれないというリスクを背負いながら挑戦を続けています。だからこそ、若い起業家たちと「同じ仲間」として向き合うことができます。
私にとって、若い起業家たちと対話することは、「新しい成長の種がどこにあるのか」「社会課題がどこにあるのか」「今の若者が何を楽しみ、何に苦しんでいるのか」を知る、生きたリアリティそのものです。今年もNIKKEI THE PITCHを通して、多くの挑戦者に出会いたいと思っています。ぜひ、打席に立ちに来てください。
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