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小澤隆生×Copia×ANAが語る「事業創造・変革のリアル」~NIKKEI THE PITCH Challenger

組織・スピード・失敗から見えた、新規事業の共通項

スタートアップから大企業まで、事業創造の現場では必ず「組織」という課題に突き当たる。 本セッションでは、ヤフー代表取締役社長を経てVCのBoost Capitalを創業した小澤隆生氏、急成長スタートアップ・Copia代表の石川正和氏、ANAホールディングスで新規事業「ANA Study Fly」を率いる渡海朝子氏が登壇。スタートアップの創業、大企業への売却、楽天イーグルスやPayPayといった大企業内での事業立ち上げ、さらにはヤフーの社長と新規事業であらゆる立場を経験した小澤氏を中心に、立場の異なる3者が、事業づくりの実体験をもとに率直な議論を交わした。 モデレーターはNIKKEI THE PITCH編集長の古山和弘がつとめた。

組織はなぜ難しくなるのか。100人、300人という分岐点

議論の起点となったのは、石川氏の持つ課題だった。Copiaは過去に急成長で組織崩壊しかけた経験があり、「組織づくりの難しさを、理念ではなく実体験に基づいた問題として伺いたい」と提起した。

これに対し小澤氏は、楽天イーグルズやPayPayなど、短期間で急成長した組織を率いてきた経験から、組織規模によってマネジメントの質が大きく変わることを指摘する。

「名前と顔が一致する100人規模までは、まだマネジメントは比較的やりやすい。少人数の組織であれば、リーダーや組織の志への共感が働く動機づけになる。しかし300人を超えると、一気に難易度が上がる。価値観も考え方も多様になり、志や想いだけでは束ねきれなくなる」

大企業や急成長フェーズでは、組織はもはや社長の思い通りになる手足のような存在ではない。個々に意志を持ち、動く集合体であり、そこには必ずズレや摩擦が生じる。この現実を前提にしなければ、組織論は機能しないというメッセージが、随所ににじんだ。

小澤氏が繰り返し強調したのは、リーダーシップとマネジメントの切り分けだ。社長が細部まで管理しようとするほど、組織は動かなくなる。重要なのは、ビジョンを明確に示し、それを数字とプロセスに落とし込むことだという。

「ビジョンはイメージできることが大事。だから金額目標は最後に置く。ただし、最終的には必ず数字に落とす。ビジョンと数字、そしてそこに至るプロセスを可視化することで、今日何をやるか、明日何をやるかが明確になる」

個々の社員に向き合うことは重要だが、まず全体構造を整える。この考え方は、スタートアップにも大企業にも共通するものだという。

ローパフォーマーを前提に組織を設計するという現実

組織論は、人事制度という、より踏み込んだテーマへと進んだ。「組織の拡大にともなって、様々なマインド、スキルの人が増える。運営は簡単ではない」と石川氏が急成長フェーズゆえの課題を投げかけると、小澤氏は多様な能力を前提とした仕組みづくりの重要性を語った。

過去に人事制度を変更した際の経験として、小澤氏は「ローパフォーマーが出ることを想定しない組織設計は、現実的ではない」と語る。重要なのは活躍の可能性を最大化する仕組みをつくることだという。営業など数値で成果が測れる役割にコミットさせ、明確な目標と競争環境を置く。こうした仕組みを用意すれば、ローパフォーマーと目されていた人でも、2割は必ず機能し始める。志への共感がなくても、インセンティブによって動機づけることはできる。理想論ではなく、現実に組織を動かしてきた経験から導かれた考え方だ。

「せっかく組織にいる人たちには、活躍してもらいたい。そのために制度がある」

組織づくりとは、個々人の善意や情熱に基づくものではなく、構造をつくり、メンバーを支えることだという視点が浮かび上がった。

新規事業は「正解を探すプロセス」であり、「逆上がり」だ

後半では、新規事業のつくり方に話題が移った。現役ANAグループ社員が講師となるスキルシェア「Study Fly」事業を率いる渡海氏からは、ゴール設定やセンターピンの見極め方、思考力の磨き方について質問が投げかけられた。

小澤氏はStudy Flyを、ANAのコアコンピタンスを生かした妥当性の高い事業だと評価した上で、教育事業における本質を整理する。

「センターピンは権威性と講師のケイパビリティ。教育は『誰に教わるか』が極めて重要で、さらに結果が出なければ意味がない」

Study Flyの場合は誰が、何人に、何を教え、どんな成果が出るのか。このセットを設計できているかどうかが、事業の成否を分けるという。

ではセンターピンを見抜く力はどのように身につけるのか。小澤氏は「投資家の視点を持つこと」と説く。投資家は案件ごとに成功の要件を考える。どのようにお金を稼ぎ、使い、利益を出すか。収益構造が分かれば、今度は産業ごと、国別などの大きな視点で物事を理解していく。

実行段階では失敗が重要だという。多くの事業が失敗する理由は、「最初からうまくいくと決めつけてしまうこと」にある。新規事業は失敗し、変わっていくもの。計画を立てることは重要だが、計画に縛られる必要はない。初志貫徹と、仮説検証をやめない姿勢は別物だ。

PayPay立ち上げの時は、「使える場所が多い」「ポイント還元率が高い」という決済サービスのセンターピンを定め、まずは小規模に実験を行い、仮説を検証した。福岡での飛び込み営業で100件を回り、5店舗を獲得する中で感触を得て、あとは実行フェーズに。店舗側に響く訴求点をまとめ、セールストークの台本をつくり、大量の営業チームを組織して「使える場所が多い」状態を作った。さらに大規模なマーケティング費用を投じ「高いポイント還元率」を実現した。

「新規事業は逆上がり。放っておいてもできるようにはならない。でも、コツをつかめば何度でもできる」

そのコツとは、失敗を前提にした組織文化を持ち、高速で試し、学び続けること。スタートアップでも大企業でも、新規事業に求められる本質は変わらないというメッセージで、セッションは締めくくられた。

小澤 隆生 氏

Boost Capital株式会社 代表取締役

小澤 隆生

1995年、CSK(現SCSK)入社後、1999年にビズシークを設立し、2001年に楽天に売却。2003年のビズシークの吸収合併により楽天に入社。オークション担当役員に就任。2005年に楽天野球団取締役事業本部長。2006年に退社後は個人としてスタートアップベンチャーへの投資やコンサルティングを展開。2009年から2012年までは楽天顧問。2011年に設立したクロコスをヤフー(現LINEヤフー株式会社)に売却し2012年にヤフーへ入社。2013年よりヤフー執行役員としてヤフーショッピングを担当、2018年4月より常務執行役員コマースカンパニー長に就任し、eコマース、トラベル事業、金融事業を管轄。2019年6月にヤフー取締役 専務執行役員COOに就任し、コマースとメディアの全事業を管掌し、2022年4月にヤフー取締役 代表取締役社長 社長執行役員CEOに就任。2023年9月退任。2024年1月、ベンチャーキャピタル運営会社BoostCapital株式会社を設立し、代表取締役に就任。

石川 正和 氏

株式会社Copia 代表取締役CEO

石川 正和

BCGを経て2023年8月にCopiaに参画し2024年1月から代表取締役CEO。「停滞する日本を復活させる」をパーパスに、主に金融リテラシー向上の為に金融教育スクール「GFS」やAI時代のキャリアスクール「シゴトAI」、動画制作サービス、オフショア開発サービスなどを展開。BCGではメディア業界やヘルスケア業界、パブリックセクターを中心に事業戦略立案やコスト削減、PMIなど幅広いコンサルティング業務に4年弱従事。それ以前は、サイバーエージェントにてエンジニア業務・新規事業立ち立ち上げ業務、そしてデロイトトーマツコンサルティングにてメディア業界や製造業界などへの事業戦略立案や新規事業立案、業務支援などのコンサルティング業務に従事。京都大学大学院情報学研究科修了。

渡海 朝子 氏

ANAホールディングス株式会社 未来創造室 デジタル・デザイン・ラボ
ANA Study Fly 事業責任者

渡海 朝子

全日本空輸(株)にて約20年間客室乗務員として乗務にあたる(国内線/国際線チーフパーサー資格、ファーストクラス資格、チームリーダーなど)。2021年度社員提案制度において提案した、社員のタレントマネジメントによる人材活用最大化案が最終審査通過、2022年6月ANAホールディングス株式会社 未来創造室に出向し、現在は『ANA Study Fly』スキルシェア事業化推進プロジェクトリーダーを務めている。客室乗務職掌を兼務。