鼎談前は和気あいあいと軽口を交わす三人だが、本題のスタートアップ支援の話題となると、表情が一変し、熱い議論が始まった。20代でスタートアップを対象に投資するファンドを立ち上げたTHE SEEDの廣澤太紀氏と、若手研究者を支援するHERO Impact Capitalの渡邊拓氏。両社に出資したSMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)の担当者、渡辺雄太氏を交えてスタートアップへの投資にあたり大事にしていること、投資を通じて描く未来の姿を語り合った。
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廣澤 太紀氏
THE SEED 代表
1992年生まれ 大阪府出身。2015年シードVCに入社し新規投資先発掘や投資先支援に従事。2018年9月に独立し、シードファンド「THE SEED」を設立。2021年3月に2号ファンド、2024年3月に3号ファンドの設立を発表。現在、約40億円を運用。 -
渡邊 拓氏
HERO Impact Capital 代表
1992年、京都府生まれ。洛南高等学校卒業。慶應義塾大学退学。在学中にNPO法人AIESEC in Japan代表を務める。ソフトバンクグループにてAI特化型インキュベーター兼VCであるDEEPCOREヘ2017年に参画し、研究開発型スタートアップへの創業期投資を担当。2021年、地球課題解決に貢献する次世代研究者を支援する財団|ZERO Foundationを設立し、代表理事に就任。2022年、若手研究者と共同創業するベンチャーキャピタル|HERO Impact Capitalを設立、General Partnerに就任。2025年、東北大学「ZERO INSTITUTE」副インスティテュート長および東北大学客員教授に就任。 -
渡辺 雄太氏
SMBCベンチャーキャピタル 投資営業第一部 次長
2014年三井住友銀行入行。法人営業部にて中小企業から上場企業まで担当。2019年SMBCベンチャーキャピタルへ出向し、ベンチャー出資担当として、案件発掘に従事。一部のLP出資先も担当。産業DXやC向けサービスに数多く出資しており、主な出資先に、NOT A HOTEL、ROUTE06、Clear、KAKEAI、ColorSing、AGRI SMILE、ChillStackなどがある。
VCがVCに投資する理由
- ――今回は、連載企画「未来への扉」の初めての試みとして、スタートアップを支援するキャピタリストが集まってスタートアップ投資の未来をテーマに語り合います。
- 廣澤渡辺(雄太)さんとヒロ(渡邊拓)さんは、中学生時代にバレーボール部で先輩・後輩の関係だったんですよね。
- 渡邊(拓)そうなんです。業界では珍しいケースだと思います。
- 渡辺(雄)珍しいということで言えばSMBCVCにとっても、お二人との関係は非常に珍しいケースです。SMBCVCがLP(有限責任組合)出資者として、お二人のファンドに出資しています。本来、ベンチャーキャピタルが他ベンチャーキャピタルファンドに出資するケースは異例で、本来自分たちが投資すればいいのに、他ベンチャーキャピタルに一部お願いするようなものですから。
- ――異例のLP出資実行に踏み切った決め手を教えてください。
- 渡辺(雄)廣澤さんとヒロさんの印象は、投資家というよりもベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げた「起業家」。自ら起業するのと変わらない情熱を持ってスタートアップに向き合っていました。そんなお二人をLPとして支援することで、当社も創業期投資のエッセンスを学べるのではないか。そのような循環を期待し、LP出資を行う決断に至りました。
VCによるVCのための支援の形
- ――THE SEEDとHERO Impact Capitalがどのようなファンドか教えていただけますか。
- 廣澤THE SEEDは、創業期のスタートアップを対象にしたファンドです。特に、年齢が若いことによって才能が過小評価されているケースはまだまだあると感じており、若い起業家に出資させていただくことが多くあります。投資の判断基準は潜在能力。若くて才能のある起業家の原石を見いだし、起業家としての視座の高さや自己分析力などから判断し、可能性に賭けた投資を行っています。
- 渡邊(拓)HERO Impact Capitalは、ディープテック(世界的な課題解決に資する最先端科学技術)分野を中心に、若手研究者を支援するファンドです。当社では単純に資金を提供するだけでなく、研究者ネットワークの提供、研究開発体制の構築支援や助成金を獲得するための仕組みづくり、M&Aや上場支援まで事業のあらゆる段階での伴走を行っています。SMBCグループからは、パートナー企業の紹介やアドバイスをいただき、大変助かっています。
- 渡辺(雄)廣澤さんは、学生をはじめとした若い才能の原石を発見し、磨くことに長けています。ヒロさんは、学生の頃から自ら事業を立ち上げ、研究に対する寄付活動を通じ、若手研究者との強固なネットワークを築いています。そんなお二人にLPとして支援できることを誇らしく思っています。
- 廣澤SMBCVCには、ファンドに関わる様々なことで相談に乗っていただいています。例えば、SMBCVCからの出資を受けた直後に、投資先にてトラブルが発生したことがあります。VCとしての対処に悩む中、電話で相談したところ翌日にすぐ面談の場を設けてくれました。また、出資の判断に迷ったときにも金融の専門家の視点で助言をいただけます。
- 渡邊(拓)同感です。私たちが東北大学様と推進している、グローバルに活躍する若手研究者を支援する「ZERO INSTITUTE」というプラットフォームがあります。これは世界中から100人の研究者を集めて、産学共創の研究プロジェクトやスタートアップ創出を目指す取り組みです。構想段階から渡辺さんにアドバイスをもらっていました。人類を前に進める研究を行う、すべての研究者が起業するわけではありません。そうであるなら、「その研究を社会実装するための受け皿となるプラットフォームをつくってはどうか」という着想をもらい、現在のプロジェクト推進にも繋がっています。
- ――事業面での支援も受けているのでしょうか。
- 渡邊(拓)もちろんです。現在、当社はHEROのディープテックや研究者への投資戦略を地方銀行様に話す機会が増えているのですが、好感触を得ています。その背景には、渡辺さんから強力なバックアップをいただいていることがあります。
- 廣澤地銀といえば、当社主催の「BANK SUMMIT」もSMBCVCのご尽力で実現しました。銀行とスタートアップが集い、新たな事業創出を目指すトークセッションと交流の場です。初回は全国55行の銀行が参加するイベントになりましたが、起点は関西でのミートアップ。渡辺さん経由でSMBCVCの佐伯(友史)社長に参加をお願いしたところ、快くご対応いただき、手応えを得て全国展開へ踏み出しました。SMBCVCが運営パートナーを務めた第2回「BANK SUMMIT 2025」(25年11月12日開催)には、370名が来場し大盛況となりました。
- 渡辺(雄)トップが現場の声に耳を傾け、柔軟に支援する体制もSMBCVCの強みです。「BANK SUMMIT」への協力はその典型と言えます。
投資の先に見据える未来の姿
- 渡辺(雄)数十年先には廣澤さんもヒロさんも、もしかしたらベンチャー投資家ではなく別の仕事をしている可能性がありますよね。というのも、お二人は明確なビジョンを持ち、実現手段の一つとしてVCという手段をとっているように感じるからです。どんな未来を目指しているか、あらためて教えてください。
- 廣澤100年以上先にも価値を残せる起業家を発掘し、投資を通じて支援することが目標です。そのためには短期的なリターンにとらわれず、投資先企業が長期的に価値を伸ばし続けられる資本政策や会社の存在意義・起業家個人の人生観を互いに共有すること、その上で共感し、ともに時間を過ごせることが重要です。一方で、決められた期限で投資家にリターンをもたらす必要があるファンドには、短期的な経済的合理性も求められます。VCの枠組みを利用しながら、本質的な価値を後世に残すために適切な形を探っていきたいと考えます。
- 渡邊(拓)生成AIの発展によって、科学の未来とアカデミアの現場は激変しています。「AI for Science」という不可逆な変化に対して、科学の未来を仕組みで加速させ、地球的課題の解決や世界を変えるイノベーションを図るディープテック・スタートアップの創出を目指します。その主役こそが若手研究者です。21世紀の伝説となるようなヒーローたちを日本から生み出したいです。
- 渡辺(雄)お二人の共通点は、まだ見ぬ才能を自分たちで発見し、新たな価値を創出したいという思いです。一方で、スタートアップ支援に対するアプローチは異なります。廣澤さんは、「オペレーション」がベースですよね。
- 廣澤そうですね。経営者向けイベント「THE FUTURE X」をはじめ、年間40~50回のイベント開催やSNSによる情報発信、連携する大学からの紹介などによって起業家を集めています。投資と伴走を重ねて検証することで、直感に頼らず起業家を見極めて支援する体制を構築します。
- 渡辺(雄)ヒロさんは「戦略」を重視している印象です。
- 渡邊(拓)当社では、ファンドだけでなく前述の「ZERO INSTITUTE」に携わり、次世代の若手研究者への寄付を行う財団「ZERO Foundation」も運営しています。これらの仕組みを活用しながら、若手研究者およびディープテック・スタートアップへの新たな資金循環と創業前後を財団・研究所・VCの一気通貫で支援できるDeepTech Founders Communityを形成します。
- 渡辺(雄)お二人とも、ビジョンを実現するための仕組みづくりに全力を挙げています。そのような意志を持った運用者のもとには、新規事業に挑戦する起業家が自然と集まるのではないでしょうか。SMBCVCとして、意志あるVCの創業者に投資できたことは、志を一つに同じ船に乗ることができたという感覚です。今後ともSMBCグループ一丸となって、世界に新たな価値を届ける挑戦を支援していきます。
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