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次世代エネルギー「核融合発電」の実現に挑む

太陽の仕組みを地球上で再現し電力を得る、核融合発電「フュージョンエネルギー」の開発が世界中で進められている。同領域のキープレイヤーとして注目を浴びる企業が、京都大学発のスタートアップ・京都フュージョニアリング(京都F)だ。その技術の社会実装に向けた道筋は見えたが、商用化までにはまだ10年単位の時間がかかる。同社の代表である小西哲之氏、投資家として同社を支える京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の楠美公氏、SMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)の池田一生氏が、フュージョンエネルギーの可能性と未来を語った。

  • 小西 哲之氏

    小西 哲之

    2019年に共同創業者として京都フュージョニアリングの設立に携わり、Chief Fusioneerとして技術、企画、戦略を担当。2023年10月よりCEO。40年にわたり、核融合工学、核融合炉設計、トリチウム工学、ITERプロジェクトに携わる一方、京都大学ではエネルギー理工学研究所教授として、人類の持続可能性問題に取り組む。2008年京大学生存基盤科学研ユニット長、2009年ITERテストブランケット計画委員会議長、2012年同日本代表委員。東京大学博士(工学)。

  • 楠美 公氏

    楠美 公

    三井住友銀行にてソリューション提案型業務(流動化等)、SMBCベンチャーキャピタルにてバイアウトファンド運営に携わる。2013年から京都大学の大学発スタートアップ支援スキームの制度設計を行い、京都大学イノベーションキャピタル株式会社設立を主導。2020年に同社代表取締役社長就任。1989年3月慶應義塾大学法学部政治学科卒業。

  • 池田 一生氏

    池田 一生

    関西投資営業部長
    1997年現三井住友銀行入行。2003年IPO準備会社にて支援出向の後、2006年以降 大和証券SMBC(現大和証券)、SMBC日興証券にてIPO営業、公開引受と上場支援業務に従事。2021年4月SMBCベンチャーキャピタル入社、2024年4月より現職。

京都フュージョニアリング株式会社

2019年に設立のフュージョンエネルギープラントのエンジニアリング企業。先端核融合工学分野において世界有数の技術力を有し、世界の核融合研究開発機関・企業を顧客に持つ。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社

2014年12月に京都大学100%出資で設立されたベンチャーキャピタル。京都大学を始めとする大学の研究成果を活用するスタートアップへの投資を通じて、研究成果の実用化を促進し、社会における新たな価値創造を目指す。

大学の研究を社会実装するため起業を志す

  • 小西フュージョンエネルギーの特長は二酸化炭素(CO2)が発生せず、水素をはじめとした地球にありふれた物質を利用して、持続的にエネルギーを取り出せることにあります。発電時に発生する放射性廃棄物が低レベルなことも特筆すべき点です。
  • 池田「核融合」と聞くと、遙か未来の技術のように思う人もいるかもしれません。しかし、実現が視野に入っているのですよね。
  • 小西おっしゃるとおりです。米国の核融合産業協会の調査によると、世界のフュージョンエネルギービジネスへの累積投資額は71億ドル(1兆1,000億円)を超えています。その資金が何に使われているのかというと、フュージョンエネルギーのための装置の開発です。そして私が研究していた分野が、まさにその領域だったのです。急成長するマーケットに大学で研究した技術を持ち込めば、大きな競争力を発揮できる。そう考えたことが京都フュージョニアリングを起業した理由です。
小西 哲之氏
  • 池田大学で研究と教育を行う教授が、経営にも携わるのはハードワークではないでしょうか。
  • 小西大学で研究だけをしていれば、成果を論文として発表し、研究者として評価されるかもしれません。しかし、社会実装に向けた研究開発のスピードは、圧倒的に下がります。それならば、起業し自分の手で社会実装しようと考えたのは自然な流れで、特別に困難だと感じたことはありません。
  • 楠美研究成果を提供することには積極的でも、事業の運営には消極的な研究者もいらっしゃいますが、小西先生は、ご自身の研究を社会実装するため、事業化にも情熱的に取り組んでおられました。
池田 一生氏

資金面のサポートで事業の継続的な運営・成長を支える

  • 池田実際に起業へと動き出したのは、京都iCAPとの出会いがきっかけだと聞いています。
  • 楠美京都iCAPには、大学の研究者と起業家を結びつける仕組「Entrepreneur Candidate Club(ECC-iCAP)」があり、大学での研究成果をECC-iCAP会員向けに発表していただくイベントを定期的に開催しています。
  • 小西そのイベントで私の研究に興味を持ち、事業化に向けてともに歩むことになったのが、当社の共同創業者の長尾昂でした。
    長尾と京都iCAPは、人事やマネジメントなどの制度を設計し、企業の形を整えてくれました。なにより感謝しているのは、事業を継続的に成長させていくために資金面での細かなケアをしてくれたことです。
小西 哲之氏 楠美 公氏
  • 池田フュージョンエネルギーの実現には大きなお金が必要ですが、一般にあまり知られていません。資金集めに苦労はなかったのでしょうか。
  • 楠美フュージョンエネルギーを実現するためには、莫大な人材と設備投資が必要です。それを調達するための道筋をつけるため、担当者が小西先生や長尾さんと綿密に話し合いました。
  • 楠美 公氏
  • 小西資金を集めるためには、まず投資家に事業を理解してもらわなければいけません。フュージョンエネルギーの説明で強調したことは、マーケットの将来性です。エネルギー業界の市場規模は、日本だけで年間20兆~30兆円に上るといわれています。さらに、CO2を排出しない再生可能エネルギーへの移行は世界的な課題になっています。フュージョンエネルギーは、巨大な市場へと成長する高い可能性を秘めているのです。当社の目指す事業が実現すれば、この市場の主導権を日本が握ることができる。こうした点を粘り強く説明していきました。
  • 楠美投資家の理解が十分ではない最初期の資金を京都iCAPが提供して事業を始めることでフュージョンエネルギーに対する認知を高めて行き、その後は民間投資家・事業会社からの大型資金調達で事業を一気に飛躍させる、そんな青写真を描きました。
楠美 公氏
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ディープテック企業へ投資し新たな産業創出を促進

  • 池田SMBCVCが京都フュージョニアリングに投資したのは2023年のことですが、それ以前からSMBCグループと同社の間では関係が築かれていました。
  • 楠美京都iCAPは、大学の研究成果を活用するディープテック系スタートアップを投資対象としています。「ディープテック」とは、フュージョンテクノロジーのように、革新的な技術で社会課題を解決するもので、その多くは事業として成立するまでに10年超の期間を要しますが、2015年当時、それほど長期間の投資を想定してファンドを組成している民間VCは殆ど皆無でした。そこで、京都iCAPは、大学の研究成果の社会実装を実現するには相応の期間が必要という前提で、期間15年(最長20年)でファンドの制度設計を行い、それに応えてくれたのがSMBCグループの三井住友銀行でした。そして、同行の支援を受けて、2016年に設立したのが京都iCAP1号ファンドで、それがあったからこそ、投資期間が非常に長くなることが想定される京都フュージョニアリングへの投資を実現することが出来ました。
  • 池田SMBCグループの重点課題の一つとして、金融機能を通じ新たな産業を創出することが掲げられています。ディープテックへの投資は、当グループの理念に合致するもので、それを実現する為に大学発のベンチャーキャピタルである京都iCAPと協業させていただいています。
楠美 公氏
  • 小西さらに創業から4年後、大きな設備投資のための資金調達が必要になったときに、SMBCVCが投資家として仲間に加わってくれました。
  • 池田京都iCAPとSMBCグループとの情報交換を通じて知った京都フュージョニアリングの取り組みを、SMBCVCでは高く評価していました。可能性をもっとも感じたのは、フュージョンエネルギーを生み出す装置を開発し、同産業の基盤を担うための戦略面です。技術が成熟し、いよいよ社会実装の実現を確信できる段階になり、出資へと踏み切りました。
    SMBCVCには技術の専門家はいません。しかし、SMBCグループの人材ネットワークがあり、例えば、銀行には産業や経済動向の調査を行う調査部があります。また、業界のキープレイヤーである顧客とのコミュニケーションを通じ、投資先候補の評価を聞き取ることもできます。ビジネスに関しては専門家ですので、ビジネスモデルが現実的であるかどうかを評価することができます。そうした総合的な判断から、京都フュージョニアリングの技術が実用化に十分に至ると判断しました。
小西 哲之氏

フュージョンエネルギーのイニシアチブを日本に

  • 小西SMBCVCから出資していただく大きな利点は、信用力が付くことです。先ほど池田さんがおっしゃったように、SMBCVCが投資をするということは、SMBCグループに関連する多数の人の評価をくぐりぬけてきた証拠です。それこそが、さらなる投資の呼び水となります。
  • 池田今後、実験棟やプラントなどの大きな工作物の建設、海外進出などの事業規模は大きくなっていきます。そのような場合には、SMBCグループのネットワークが役に立つと考えています。
  • 池田 一生氏
  • 小西ありがとうございます。イギリスやアメリカは、フュージョンエネルギーの覇権を取った国が、産油国に続いて次のエネルギー市場を握ると認識し開発を急いでいます。日本でも、私が会長を務める「フュージョンエネルギー産業協議会」が2024年3月に立ち上がり、新たな産業創出に向けた動きを加速しています。11月には、フュージョンエネルギーによる発電を実証するプロジェクト「FAST」も始動しました。同事業において日本がリーダーシップを握るためにも、オールジャパンで取り組むフェーズに突入したと考えています。
  • 池田事業規模の点でも株式評価的な点でも、京都フュージョニアリングは個社で支援をする域を超えた高い価値と使命を担っています。今後、SMBCグループはもちろんですが、日本全体を巻き込みながら、フュージョンエネルギーの実現に向けて支援したいと考えています。
池田 一生氏
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