現在、エネルギー安全保障を巡る意思決定が一段と重みを増しています。中東情勢の影響から、短期的な供給確保が求められる一方で、米国との連携による設備投資のように、長期的な産業基盤をどのように築いていくのかという問いも同時に立ち上がっています。分野や規模は異なりますが、私は日々、スタートアップエコシステムの中で、このように同時に立ち上がる複数の問いに似た構造を肌で感じています。
短期的な成果と長期的な価値をどのように解釈し、評価し、次のアクションへつなげるのか。こうした問い自体は、既に多くの現場で共有されている前提でもあると思います。しかし、それでもなお、実際の意思決定の場面では立ち止まってしまう瞬間があると感じています。
意思決定が止まる瞬間
先日、都内でコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)や新規事業を担う方々と、「事業の現場と経営層の間でどのようにスタートアップとの共創事業を円滑に推進できるか」という問いについて議論する機会がありました。多くの示唆が共有されましたが、明確な答えが出ないまま、会話が途切れる瞬間もありました。私は、この沈黙が誰も次の一手を引き受けられずに立ち止まってしまう状況と似ていると思いました。
同じ問いに向き合っていても、それぞれが異なる前提や時間軸で考えている。しかし、この構造は理解しているはずなのに、それでも動けない。その瞬間にこそ、本質的な難しさがあるのではないかと思うのです。答えを間違えたくない、誰かに否定されたくない。そうした思いが重なったとき、正解を探すことに意識を奪われ、動けなくなることがあります。
試行錯誤が次につながる動きを生む
株価の下落や地政学リスクの高まりといった市場環境の変化も、企業の投資判断を慎重にさせ、「いまは動かない」という判断を導くこともあります。それ自体は合理的な選択です。しかし同時に、「本当に止まるしか選択肢がないのか?」という問いを持ち続けることも重要なのではないでしょうか。
私は、そうした試行錯誤を止めないための関わり方を、日々の現場の中で意識しています。誰かの考えを整理し、異なる視点をつなぎ、次に何を試すかを一緒に考える。そうすると、明確な正解が見えているわけではなくても、意思決定に向けて再び動き出す瞬間があります。振り返ると、立ち止まりそうになる場面で、自分一人で答えを出そうとしていたときほど、前に進めなくなっていたように思います。
一方で、誰かに問いを投げかけ、考えを聞き、別の視点を受け取ったときには、次の一歩が見えてくることがありました。スタートアップエコシステムの中には、そうした問いに対して自分の時間や経験を持ち寄り、惜しみなく意見を返してくれる人たちがいます。必ずしも正解を与えてくれるわけではありませんが、その対話を通じて思考が動き、止まっていた意思決定に向けた歩みが再び進み始める。私は、そのような関係の連鎖こそが、エコシステムの強さなのではないかと感じています。
共創コミュニティーという土壌
米国のベンチャーキャピタルや大学のエコシステムに関わる中で、実際に、仮説をぶつけ一度この人に話してみようと相談をすると、その場で新たな視点が返ってきたり、さらに別の専門家へとつながっていったりしていきました。その後も自然に紹介が広がり、次の一歩が決まっていく瞬間に何度も立ち会ってきました。そこでは、完全に前提がそろっているわけではありません。それでも、まずは試してみようと行動を取り、その結果をもとに修正されていく。その繰り返しの中で、後から共通認識が形づくられていきます。そして、この動きながら合意をつくっていくことが、事業スピードの違いの要因だと考えるようになりました。 この試行錯誤の積み重ねが、コミュニティーの文化を形づくっていくのだと思います。
共創の渦中にいる私たちは、いま、このエコシステムコミュニティーの中で何を引き受けているでしょうか。誰の視点を補い、どの関係をつなごうとしているのでしょうか。その小さな自覚が、次の一歩を確かなものにすると信じています。私は、この共創という営みの中で、試行錯誤を重ねながら、挑戦が続いていく土壌と文化を育てていきたいと思います。
最後に、この執筆を通じて自分の立ち位置を見つめる時間をいただきました。読んでくださった皆さま、そしてこの機会を与えてくださったNIKKEI THE PITCH編集部の皆さまに、心より感謝申し上げます。本稿をもって一つの区切りとはなりますが、問いに向き合い続ける歩みはこれからも続いていきます。数年後に振り返ったとき、「あの時、あの問いを共有できたからこそ、この仲間と共に新しい事業が生まれている」と確信できる歩みを、これからも続けていきたいと思います。
(SOZO VENTURES プリンシパル 野村哲)
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