
トラック運転手の時間外労働の制限による物流の「2024年問題」。暮らしの根幹ともいえる物流を持続可能なものとするため、アナログベースで業務が進められる物流業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急ピッチで進んでいる。データによる物流の課題解決を目指すスタートアップHacobuは、アイリスオーヤマと協業し企業間物流の最適化に取り組んでいる。その縁を取り結んだのがSMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)だ。社会全体で解決すべき課題について、各社が行ってきた取り組みと未来を語る。
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佐藤 健次氏
Hacobu 執行役員CSO 2008年アクセンチュアにおいて、サプライチェーングループのマネージングディレクター就任。2012年よりウォルマートジャパン/⻄友にて、eCommerce SCM、補充事業、物流・輸送事業の責任者を歴任。ウォルマートジャパン/⻄友の物流責任者として、各国のリーダーおよびパートナーと物流革新を推進。2019年株式会社Hacobuに参画。
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勝間 浩之氏
アイリスオーヤマ株式会社 執行役員 2012年に入社し、リテール営業として従事した後、事業部門にて商品企画やマーケティングを担当。その後、家電事業の事業本部長に就任し、新規事業企画の強化・実行により2021年には家電売上過去最高を達成。現在は、同年に新設した事業企画室にて、データ分析による事業活動の高度化やDXによる企業価値向上に従事。
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森田 諒氏
三井住友銀行にて法人営業、ベンチャー支援業務に従事。2015年SMBCベンチャーキャピタルへ出向。デューデリジェンス担当として50件以上の投資実行に携わった後、2018年より新規案件発掘を担当。主な投資先に、Hacobu、ラクサス・テクノロジーズ、カイテク、レンティオなど。
ミッションに共感して前例の少ないシード投資を実施
- 佐藤当社は「『運ぶ』を最適化する」をミッションとして、物流における課題の解決を目指しています。企業間物流は、ブラックボックス化した業務プロセスにより、まだ改善の余地が大きいです。
- 森田原因はなんでしょうか。
- 佐藤物流はメーカーや小売、卸売、さらにはそれぞれの下請けなど、多様なプレイヤーが関わっています。実は、この情報のやりとりにはまだ、紙をベースとしたアナログなものが多く残っているのです。これではデータが個別の企業に留まり、全体を最適化することが難しいのです。例えば物流施設では限られたバース(荷物の積み下ろしをする駐車スペース)をフル活用するため、トラックには最適な時間に来て欲しい。しかし、施設側とトラック側の情報がバラバラに管理されているため、トラックは施設の外で長時間待機する「荷待ち」が発生しています。これがドライバーの勤務長時間化や労働力不足、積載率低下などの問題につながっています。

- 森田その解決を目指すソリューションが、Hacobuの「MOVO」ですね。
- 佐藤その通りです。物流施設のバースを管理し、待機時間を減らして生産性を向上する「MOVO Berth」や、物流のDXを一気通貫で支援する「Hacobu Strategy」などを通じ、データによる物流業界の可視化および最適化に取り組んでいます。
- 森田そんなHacobuに投資をさせていただいたのは、設立2期目となる2016年のこと。ごく初期のいわゆる「シードラウンド」です。
- 勝間銀行系のベンチャーキャピタルとしては、異例ともいえる初期の投資ではないでしょうか。
- 森田おっしゃるとおりです。大手住宅メーカーを訪問した際に、同社に営業をかけていたHacobu創業者の佐々木太郎さんを紹介いただいたのがきっかけでした。佐々木さんは経営コンサルタントとして活躍した経験があり、起業家としても既に2社を経営しHacobuが3社目であるという実績と、ミッションへの共感が大きいです。出資を検討した2015年当時から、ドライバーの労働環境が社会課題として取り上げられ、政府も法改正に向けて動き始めていました。人々の暮らしを支える物流の問題を、テクノロジーで抜本的に解決しようとする同社を支援したいと思い、出資を決めました。



投資先のビジョンと戦略をくみ取り協業先を紹介
- 佐藤SMBCVCには多数の企業を紹介してもらいました。人選の慧眼(けいがん)には常に驚いています。Hacobuの使命を理解していただくためには、単純に物流をいち業務としてでなく、経営課題として捉え社内を改革しようとする意志が必要です。
- 森田私たちは、投資先のビジョンと戦略に沿って連携先を紹介しています。今回の課題である企業間物流では、荷主や倉庫業者、運送事業者などのステークホルダーが多数存在し、下請け構造も非常に複雑です。そんな物流業界を変えるためのHacobuの戦略が、物流サプライチェーン上流である荷主を起点とすることです。そこで、SMBCグループ全体の人的資産を活用しながら、非効率的な物流を変えようという志のある企業をあたり、キーパーソンをHacobuに紹介していきました。
- 佐藤勝間さんもそのお一人でした。

- 勝間アイリスオーヤマは家電から食品まで幅広い商品を製造しています。また、私たちはメーカー機能と問屋機能をあわせもった「メーカーベンダー」であると自負しています。さらにECサイト「アイリスプラザ」などで小売業も営んでいます。
- 森田サプライチェーンを自ら完結されるほど、幅広くビジネスを手掛けていますね。
- 勝間Hacobuと出会った当時、ちょうどバース管理の効率化をはじめ、企業の壁を越えた共同配送や(目的地への配送を終えたトラックの)帰り便の空荷台活用など、物流に関わる課題解決に向けた検討を始めていました。
- 佐藤その課題を解決すべく、Hacobuと提携していただきました。
- 勝間当社は、全てを自前で行おうとするチャレンジングな社風であると自負しています。その結果として煩雑化する物流網の最適化は、喫緊の課題でした。スピード感を持って変革を成し遂げるためには、Hacobuのソリューションを組み合わせることが早道だと判断し、Hacobuとの協業を決断しました。

SMBCVCのマッチングから生まれた新たな価値
- 森田両社は、物流が滞留する原因である荷物の積み下ろしなどの待機時間を削減するソリューションを開発しています。
- 佐藤当社が提供するサービスが前述の「MOVO Berth」です。トラックのドライバーに適切なタイミングでの来場を案内することによって、物流センターの待機時間を減らします。
- 勝間今回の取り組みにより、「MOVO Berth」に当社のAIカメラやLED表示板を組み合わせ、さらなる省人化と自動化を実現する共同開発の検討を開始しました。具体的には、入場してきたトラックのナンバープレートをAIカメラが読み取り、LED表示板と連携して適切なバースを自動案内するのです。従来は守衛所において紙で管理していた情報を電子化することにより、スムーズな倉庫・工場運営を可能とします。
- 森田ソフトで強みを持つHacobuに、アイリスオーヤマの持つハードが組み合わさっていますね。

- 勝間スピード感や柔軟に変化に対応するカルチャーがうまく作用しました。「MOVO Berth」においてもソリューションに出会ってからアイリスオーヤマ埼玉工場(埼玉県深谷市)で実装に至るまではおよそ2カ月でした。その6カ月後には全工場に導入することを決めました。さらに平行して、前述の共同開発をも開始したということです。
- 佐藤こうした決断を迅速にできるのが御社の強みですね。私たちのようなスタートアップとも通じるところがあり、良い関係性を築けたのだと思います。これからも一緒に、物流問題の解決に向けて協業させて下さい。
- 森田両社のハブとなってコラボレーションを実現し、新たな価値を創出できたことは、ベンチャーキャピタルとして冥利に尽きます。


ビジョン実現を目指しコミュニケーションを取り柔軟に支援
- 佐藤私たちスタートアップは事業展開において、戦略の転換を迫られる場合が多々あります。当社は「MOVO Berth」をコアプロダクトとして事業を進めていますが、ここに辿り着くまでには試行錯誤がありました。
- 森田しっかりとした成長を遂げるスタートアップは、時流を的確に捉えて、小さな事業転換を繰り返す特徴があります。Hacobuに関しても、「物流の最適化」をぶれない軸としながら、機を敏感に察知して戦略を変えてきました。当社の役割は、その戦略を通じてビジョンを実現するため、資金や顧客、パートナー開拓の支援をすることにあります。
- 勝間スタートアップとの協業に際して、SMBCVCが間に入っていると大きな安心感があります。投資先がSMBCグループのリスクマネーを投じるにふさわしいビジョンやケイパビリティを有しているかを、適正に評価しているはずですから。また、紹介を受ける前に、SMBCVC側とは綿密に打ち合わせをしていただき、意識を共有できました。

- 佐藤SMBCVCは、日頃からディスカッションの機会を頻繁に設け、事業拡大の提案をしてくれます。きめ細やかなサポートをしてくれるベンチャーキャピタルです。
- 森田企業間の連携を取り持つ際に大事にしているのは、事前に課題を共有することです。そのため、当社では「投資戦略部」を設け、経験を積んだスタッフが丁寧に投資先と協業すべき大企業をマッチングしています。マッチングがビジネスでの成長をもたらすのはもちろん、その出会いが社会課題の解決につながる。そんな支援を、今後とも行っていきたいと考えています。
