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なぜ“銀行のためのサミット”をつくったのか――THE SEEDが描く地域金融×スタートアップの未来

なぜ“銀行のためのサミット”をつくったのか

――THE SEEDが描く地域金融×スタートアップの未来

スタートアップ成長の担い手として、地域金融機関が改めて注目されている。地方銀行は地域企業との強固なネットワークを持つが、スタートアップとの協業・投資はまだ発展途上。一方でスタートアップ側も、銀行の意思決定プロセスや組織構造を十分に理解しているとは言い難い。その距離を埋める場として生まれたのが、独立系ベンチャーキャピタル・THE SEEDが立ち上げたBANK SUMMITだ。

BANK SUMMITは、金融機関とスタートアップが接点を持ち、互いの理解を深めるための試みだ。同イベントを立ち上げた THE SEED代表の廣澤太紀氏は、「関わる銀行員の方々から、横につながりにくく、スタートアップとの接点も人事異動などで引き継がれにくいという課題感を共有されたことが、企画の出発点にあった」と説明する。

同イベントはTHE SEEDが主催として運営している。しかし、実際の企画において主体となっているのは参加者である金融機関のメンバーだ。若手を中心にセッション、コンセプト、情報発信に至るまで協力を惜しまない。「それぞれ業務も忙しいのに、惜しむことなく協力いただいている。イベント継続は皆さんの貢献のたまものだ」(廣澤氏)。

2026年開催に向けては、日本経済新聞社のオープンイノベーション推進プロジェクトであるNIKKEI THE PITCHも関わる。日経が入ることで、地域金融とスタートアップをめぐる議論を、イベント当日に閉じず、記事や発信を通じてより広く届けていくことが期待される。

「売り込みの場ではない」という思想

「売り込みの場ではない」という思想

BANK SUMMITのイベントとしての特徴は、少し風変わりなものだ。「売り込みの場にしない」「展示会にしない」というものである。

背景にあるのは、地方銀行を中心とする金融機関とスタートアップの接点がまだ十分に体系化されていないという課題感だ。銀行員同士が組織や地域を越えて情報交換する機会は限られ、スタートアップとの関係づくりも個人の経験やネットワークに依存しやすい。とりわけ東京に駐在する地銀の担当者にとって、この課題は大きい。

BANK SUMMITで重視するのは、金融機関の担当者が互いの知見を持ち寄り、スタートアップとの向き合い方を実務的に考える場づくりだ。廣澤氏は「全国から参加する金融機関にとって最も効率的で、かつ参加しやすい形を目指した」と述べる。

「銀行側が本来、時間を使いたいのはスタートアップとの対話だ。ここにフォーカスしたいので、あえて参加者はスタートアップと金融機関に集中させてもらった」。

その結果、BANK SUMMITは「意思決定に必要な情報をフラットに共有する場」としての性格を強めていった。

VCとして見えた“銀行との接点”

なぜいちVCである廣澤氏が、このような試みを始めたのか。関西で生まれ育ち、現在も関西で多くの案件を抱える廣澤氏は、京都で起業した投資先FiTが成長する過程で、京都銀行をはじめとする銀行による融資だけでなく、銀行からの支援を通じて地域企業とのネットワークにつながったことが、急成長を後押ししたと実感したという。

スタートアップにとって、成長局面ではエクイティだけでなく、融資や地域企業との接点も重要になり得る。廣澤氏は、東京に集中するエクイティファイナンスだけでは、日本から大きな産業を生み出すには限界があると考えている。

こうした認識が、銀行との接点を意識的に作る動きへとつながった。

一方で、スタートアップと地銀の接続には構造的なギャップがあった。地銀にはスタートアップを担当する人材が限られ、拠点ごとに情報が分断される。スタートアップ側は、どの金融機関がどのような意図で投資や支援を行っているのかを把握しにくい。

この“見えない壁”を壊すための試みが、BANK SUMMITだった。

初回開催が示した「潜在需要」

初回開催が示した「潜在需要」

小規模なミートアップの開催を重ねる中で、BANK SUMMITの構想が形になってきた。後押ししたのは現場レベルの強いニーズだ。各地の金融機関では、スタートアップとの関係構築が個人の経験や人脈に依存しており、横断的に学び合う機会がほとんど存在しなかった。

さらに重要なのが主催者の「中立性」だ。特定の銀行が主催すると参加しづらい金融機関が出る可能性があるため、THE SEEDが主催する形が結果的に全国の銀行にとって集まりやすい状態につながったと見ている。

その結果、特定の金融機関やVCの色を強く出しすぎず、銀行、スタートアップ、VC、メディアが同じ場に集まるBANK SUMMITの形が整っていった。

進化するサミットと、見えてきた本質

回を重ねるごとに、BANK SUMMITは参加者や議論の幅を広げている。廣澤氏は「初回はスタートアップ投資や支援に関わる現場担当者が中心だったが、活動を組織の意思決定につなげるには銀行本体側の理解も欠かせないと考えるようになった」と語る。

その理由は明確だ。現場だけで得られた知見を組織内で実行に移すには、意思決定層の理解が不可欠だからである。廣澤氏は、若手行員の情報交換という起点を大切にしながらも、スタートアップ支援の活動が銀行本体の中で前向きに受け止められる場へ変えていく必要があると見ている。

この変化は、イベントの目的そのものを拡張している。単なる情報交換の場から、「組織として意思決定を前に進める場」へと進化しているのだ。

「イベント」を超えたインフラへ

「イベント」を超えたインフラへ

この先BANK SUMMITはどこへ向かうのか。

目指すのは、この場での出会いや議論が、将来的な協業や新しい産業創出につながることだ。廣澤氏は「日本の企業の成長には地域金融機関の力が重要だ」と述べ、「BANK SUMMITを通じて金融機関とスタートアップが出会い、エクイティ、融資、地域企業ネットワークが組み合わさることで、日本から新しい産業が生まれるきっかけを作りたい」と考えている。

もちろん、その成果は短期では測りにくい。実際に新しい産業が生まれたかどうかを確認するには、長い時間軸が必要になるだろう。

そのためにも重要なのは、イベントを超えた継続的な接点づくりだ。廣澤氏は「信用力のある媒体やパートナーが継続的に関わることで、同じ情報でも銀行本体の中での受け止められ方が変わる」と見ている。NIKKEI THE PITCHが加わることは、BANK SUMMITで交わされる議論をイベント当日だけで終わらせず、より多くの読者や関係者に届けるうえで意味を持つ。

日本のスタートアップ・エコシステムを拡張するために

東京に偏在するスタートアップ投資のリソースと、各地域に点在する企業・金融資源。この二つが結びついたとき、日本の産業はより大きく変わる可能性がある。大阪出身の廣澤氏は、関西にも学生や大学、技術力を持つ非上場企業が数多く存在する一方で、スタートアップの資金調達環境は東京に大きく偏っていると指摘する。

銀行はすでに地域に深く根差した「社会インフラ」である。廣澤氏は、地域金融機関が持つ信頼関係や企業ネットワークが、スタートアップにとって地域の企業や顧客につながる入口になり得ると考える。地域金融機関の意思決定が変われば、資金の流れも、企業の成長のあり方も変わるだろう。

BANK SUMMITは、地域金融とスタートアップの接点を広げるための“場”として位置づけられる。そしてNIKKEI THE PITCHとの連携によって、その議論をイベント会場の内側にとどめず、より広い読者や関係者へ届けていくことが期待される。

廣澤 太紀(ひろざわ・だいき)

廣澤 太紀(ひろざわ・だいき)

ザシードキャピタル株式会社 代表取締役

1992年大阪府生まれ。2018年9月、シードファンド「THE SEED」を設立。2021年に2号ファンド、2024年に3号ファンドを組成し、現在約40億円を運用する。
創業前の学生や社会人との接点づくりから始め、プレシード・シードステージにおいてリード投資家として出資する投資方針。
スマートコーヒースタンド「root C」、農業の構造課題にサイエンスで挑むAGRI SMILE、業界3位の規模に成長したジム「LifeFit」、海外渡航者向けeSIMアプリで国内No.1の「トリファ」など約70社へ創業投資を実行。2023年には投資先の建設DX企業Arent社がIPO。現在はAI領域およびリアルアセットが関わる領域を重点的に投資している。
大阪大学共創機構招へい研究員(2023〜2026年)。総務省・NICT(情報通信研究機構)による「全国アクセラレータ・プログラム」ICTメンター。