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地域・グローバル 両輪で育てる スタートアップ支援の新戦略 ~経済産業省 課長 石川浩 氏

政府は2026年5月、「スタートアップ総力創出パッケージ」を公表した。大学や高専と連携した起業家人材の育成や、ディープテック領域の有望なスタートアップに対する政府調達の仕組みを強化する。前回のNIKKEI THE PITCH GROWTH決勝大会の審査員も務めた経済産業省の石川浩イノベーション創出新事業推進課長に、新戦略の全容と今シーズンのNIKKEI THE PITCHへの期待を聞いた。

決勝大会 多種多様な挑戦者との出会いに

――昨年度のNIKKEI THE PITCH GROWTHには審査員として参加されました。

NIKKEI THE PITCH GROWTHは、全国津々浦々のスタートアップ・アトツギベンチャーが一堂に会する特色あるピッチ大会だ。大会参加者の多様な「チャレンジ」を知ることができ、私自身も大いに勉強になった。事業はどれも素晴らしく審査は難しかったが、審査基準を軸に審査員の方々と議論を深め、受賞企業を選出した。

昨年のNIKKEI THE PITCH GROWTH 決勝大会の様子
昨年のNIKKEI THE PITCH GROWTH 決勝大会の様子

起業家人材の育成 スタートアップの裾野広げる

――全国・地方のスタートアップエコシステムを広げるために、どのような施策を進めているのか。

自治体や地域の企業に対してスタートアップの商品・サービスの導入・購入を促すことで、マーケットの形成を支援していく。人材育成にも力を入れる。大学発スタートアップはここ数年で増加しているが、その半数が実は地方大学発スタートアップだ。各地域の大学がそれぞれ特色ある技術と人材を有しており、「大学は研究のみ」という考え方に変化が生じている。文部科学省と連携して、企業と大学が組んで新しい学部・学科を創出するような支援にも、今年度から本格的に取り組み、産学連携を促していく。

高専人材にも注目している。ソフトウェア開発の領域は、AI(人工知能)が多くの作業を代替・補完できるようになったことで、かつてのような差別化が難しくなっている。一方で、実際に手を動かして設計・制作・実装できるエンジニアリング力の重要性が、スタートアップを含む産業界で高まっている。高専生発スタートアップ支援を加速させ、若者世代の起業を後押ししていく。

ディーブテック領域の市場開拓 省庁横断でニーズ探る

――ユニコーンを生み出すための施策は。

海外の資金や投資家を呼び込む、あるいは海外のスタートアップを日本に誘致するといった取り組みを複合的に進めていく。

注力するのはディープテック・スタートアップの支援だ。宇宙・AI・半導体といった技術的に高度な領域は、グローバルなユニコーンが生まれやすい一方で、事業化までに時間がかかり、大規模な資金が必要となる。一番の課題は「最初の顧客」が見つからないことだ。顧客がいないとファイナンスもつかない、ファイナンスがなければ量産もできない、量産できなければさらなる顧客もつかない。いわゆる「死の谷」と呼ばれる悪循環が起きてしまう。ここをどう突破するかが、政策上の最大の課題だ。

――ディープテック・スタートアップが「死の谷」を乗り越えるための支援策は。

既存のSBIR(Small/Startup Business Innovation Research)制度を強化する。政府が「こういうものが欲しい」というニーズをあらかじめ示し、その研究開発をスタートアップに助成する。一定の基準(ステージゲート)をクリアしたものについては、政府が実際に調達する。政府自身が先端技術の最初の顧客になることで、研究支援から購入までの一貫した流れを作ることを目指す。

政府の調達が呼び水になって、民間市場が立ち上がっていくイメージだ。リスクが高くて民間だけでは最初の一歩が踏み出しにくいディープテックの領域では、このアプローチが有効だと考えている。

――省庁をまたいだニーズの把握はどのように進めているのか。

内閣府と経済産業省で、各省庁にどんなニーズがあるかをヒアリングしながら整理している。消防庁であれば、ドローンを使った山火事の検知や消火、警察は監視・捜査への活用、海上保安庁は水上ドローンによる海洋モニタリングといったニーズがあるだろう。中でも防衛省は、新しい技術を積極的に取り入れなければならないという意識が強い。同省とはスタートアップの力をもっと活用できないか頻繁に議論を交わしている。

「わからない」を一手に引き受ける 相談窓口機能を強化

――スタートアップが新しい技術で事業をしようとする際に、法規制の壁にぶつかるケースも多い。どのような対応策があるか。

仕組みとしては、これまでもいろいろ整えてきた。地域単位で実証するなら国家戦略特区、企業単位なら新事業特例制度、複数事業者で取り組むならサンドボックス制度、法令への抵触の有無を事前に確認するならグレーゾーン解消制度といった選択肢がある。ただ問題は、スタートアップにはそれらを自力で調べて活用するリソースがないことだ。

そこで今回検討しているのが、規制相談を一手に引き受ける伴走チームの拡充だ。「こんなことをやりたいが、そもそも法律に当たるかどうかも分からない」という段階から相談を受け付け、どの省庁に話を持っていくべきか、どの制度を使うべきかを一緒に考えて提案していく取り組みを進めたいと考えている。弁護士にも参加してもらいながら、規制を共に解消していくような体制を作りたい。

社会課題への挑戦が日本の未来をつくる

――今シーズンのNIKKEI THE PITCHへの期待を。

2026年5月に政府は「スタートアップ総力創出パッケージ」を公表した。地域の経済社会を担うスタートアップの創出と育成、スタートアップのスケールアップ、ディープテック・スタートアップの支援の3本柱を掲げ、スタートアップの社数・投資額の向上につながる施策を展開していく。

地域の課題に向き合うこと、グローバルな課題に挑むこと、どちらも日本の未来にとって不可欠な挑戦であり、価値があるものだ。今シーズンのNIKKEI THE PITCHが、全国のスタートアップ・アトツギにとって飛躍の舞台となることを期待している。