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飛び地を捨て、隣接を攻める——パナソニックCVC責任者が語る「大企業で育つ新規事業」の条件
郷原邦男 パナソニック株式会社 新規事業・CVC 総括

飛び地を捨て、隣接を攻める

——パナソニックCVC責任者が語る「大企業で育つ新規事業」の条件

NIKKEI THE PITCHは6月30日に京都で「IVS前夜祭|IVS攻略トーク×CVCリバースピッチ by SBI × NIKKEI THE PITCH」を開催する。日本最大のスタートアップカンファレンス・IVSの本会期前日の京都で、IVSの歩き方をつかむトークに加えて、大企業やCVCが注目テーマや会いたいスタートアップ像を語るリバースピッチ、参加者同士の交流の場も用意する。

今回、事業会社のベンチャーキャピタル、CVCを代表して登壇いただくパナソニックの郷原邦男氏の活動、CVCを「投資する組織」で終わらせず、どうすれば事業を前に進める力にできるのかを考えるうえで興味深い。

スタートアップへの資金の出し手として、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の存在感は高まっている。だが、単に出資をするだけでなく、「事業会社の投資家」という立場を生かして事業連携や成長支援につなげることは簡単ではない。出資はしても協業が進まない、PoCで止まる、事業部が引き取れない――。そうした難しさが各所で露呈するなかで、パナソニックで新規事業とCVCを統括する郷原邦男氏は、あえて「飛び地はやらない」と言い切る。大企業の新規事業はどこでつまずき、どこなら伸ばせるのか。その答えは、非連続な成長を追うことよりも、既存事業との接続をどう設計するかにあった。

大企業の新規事業は、飛び地でつまずく

「飛び地は基本的にやらない。やっても、大企業ではなかなか伸びないんです」。郷原氏はそう言い切る。飛び地領域では既存事業との接点が薄く、社内の支援を得にくい。大企業では人材も投資も、既存事業に吸収されやすい。新規事業に筋があったとしても、組織として育て切ることができないのだ。実際、新規事業は数億円規模までは到達しても、その先で失速するケースが少なくないという。「飛び地に張れる人には限りがあるし、事業ができあがる前に赤字圧縮を求められる。結局、事業として注力すべき本業からのリソースシフトが困難になっていく」これは個別案件の失敗談というより、大企業に共通する構造的な限界だろう。

だからこそ、郷原氏が重視するのは隣接領域への集中である。自社の既存アセットや事業部の知見が活用できる範囲に狙いを定めることで、初めて成長の再現性が生まれるという考え方だ。何が面白いか、どこが新しいかではなく、どの事業部を本気で動かせるか。そこが起点になる。CVCを投資機能として独立的に動かすのではなく、事業部を動かすための装置として位置づける発想だ。

この考え方は、そのまま組織設計にもつながる。郷原氏が繰り返し強調するのは、投資の前段階から事業部を巻き込むことの重要性だ。領域設定はCVCだけで決めるのではなく、経営企画や事業責任者と議論し、中期計画と接続したテーマとして定義する。さらに、CVC側には事業部経験者を入れ、社内の論理と事業の論理を両方理解できる体制をつくる。「中計を読みこんでおかないと、事業部とは話が合わないんです」。重要なのは投資そのものよりも、投資先を事業に接続できるかどうかだ。既存事業の戦略に沿うことなく、案件を持ち込む形では、どうしてもPoC止まりになりやすい。社内発でも同様だ。過去には社内公募型の新規事業制度もあったが、「結局、事業部の引き取り手が見つからず、伸びない」という結論に行き着いたという。

郷原氏のCVCの仕事は、華やかな投資判断よりも社内調整が重きをなす。事業部にとって何が本当に必要なのかを聞き出し、経営企画にその意味を説明し、時には慎重な部門を一つひとつ説得していく。郷原氏は、CVCの役割を「外のスタートアップを見つけてくること」だけではなく、「社内で受け止められる形に翻訳すること」だと捉えているように見える。案件を前に進めるには、事業部の温度感を確かめながら、誰が意思決定者で、どこで止まりやすいのかを把握し、先回りして調整しておく必要がある。「結局、最後は人を動かさないといけない」。その言葉には、制度や看板だけでは協業は進まず、現場の納得を積み上げる泥臭い仕事こそが成否を分けるという実感がにじむ。

市場の空白より、社内の未充足に目を向ける

では、攻めるべきホワイトスペースはどう見つけるのか。郷原氏は、事業部の中期計画を読み込み、「やりたいと言っているのに、たぶん自前では実現しきれない領域を見極めることが重要だ」と話す。言い換えれば、企業が攻めるべきホワイトスペースは市場に空白があるだけでは十分ではない。事業部の意志と実行力の間に生じているギャップがある場合には、そこで活躍しているスタートアップを探し、早い段階から関係を築く必要がある。そのプロセスを通じて、参入できるホワイトスペースが生まれるのだ。投資はそのための入口であり、目的ではない。「中計の新規領域って、そのままでは達成できないことが多い。だったら外で伸びているところに乗ったほうがいい」。この発想は、大企業側の計画にスタートアップを合わせるのではなく、成長しているスタートアップに事業部側が寄っていくという、従来とは逆向きの姿勢を求めるものだ。

こうした構想を実現するには、スタートアップから見て「組む価値のある大企業」にならなければならない。郷原氏はこの点も現実的だ。「大企業って、やっぱり遅いと思われているんです」。意思決定に時間がかかる、NDA締結に時間を要する、担当者が社内で止まる――。そうした印象は、スタートアップ側にとって大きな障壁になる。だからこそ必要なのは、スピードと機動性をどう担保するかだ。専任窓口を置き、意思決定の流れを明確にし、実際に協業を進めた実績を外に見せていく。「ちゃんと動ける会社だと分かってもらわないと、そもそも選ばれない」。ネームバリューや資本力だけではなく、動ける組織であること自体が競争力になっている。

そして最終的に問われるのは、協業の先にどんな出口を描くのかである。単なる連携や実証実験にとどまるのではなく、必要であればM&Aなど傘下入りまで見据えて事業として取り込めるかどうか。郷原氏は「年1社くらいは、最終的にグループに入れていくくらいのイメージが必要」と話す。もちろん最終判断は経営層が担うが、CVCの役割はそこに至るまでの接続可能性を高めることにある。投資して終わるのではなく、外部の成長を社内に取り込み、事業を変えていく。その意味でCVCは、もはや単なる投資部門ではない。大企業の変革を現実に進めるための実装装置へと、その役割を変えつつある。

NIKKEI THE PITCHは6月30日に京都で「IVS前夜祭|IVS攻略トーク×CVCリバースピッチ by SBI × NIKKEI THE PITCH」を開催する。日本最大のスタートアップカンファレンス・IVSの本会期前日の京都で、IVSの歩き方をつかむトークに加えて、大企業やCVCが注目テーマや会いたいスタートアップ像を語るリバースピッチ、参加者同士の交流の場も用意する。

IVS前夜祭|IVS攻略トーク×CVCリバースピッチ by SBI × NIKKEI THE PITCHについて詳しくはこちらをご覧ください。

郷原 邦男

郷原 邦男

パナソニック株式会社 新規事業・CVC 総括

2003年 松下電器産業株式会社に入社。ネットワークエンジニアとしてテレビや録画機を中心としたクラウドシステム開発に従事し、家電と連携するサービス開発や新規事業立ち上げを推進。シリコンバレーにて、AppleやGoogleのサービス開発経験者と共に、先駆的なデジタル技術開発と新たなサービス開発を手掛ける。2022年 パナソニックくらしビジョナリーファンド(CVC)立ち上げ、日本、東南アジア、中国、インドでのオープンイノベーションによる事業開発を推進。