IPOだけではない出口戦略
日本のスタートアップを取り巻く環境は、ここ数年で重層的に整い、デットファイナンスに代表される資金調達の選択肢が広がっています。また、セカンダリー市場の整備は、投資家に限らず、スタートアップにとっても出口戦略の選択肢を広げることになり、挑戦を支える厚みは増しています。
2025年上半期の国内スタートアップの新規株式公開(IPO)件数は前年同期比で減少していますが、これはスタートアップのさらなる成長の道筋が閉ざされたというよりも、「IPO」という単一の出口に依存せず、他の選択肢を選ぶという判断が増えたという見方もできると思います。M&A(合併・買収)という形での出口や、当面は上場や売却を選ばず、プライベート市場で中長期の成長を続けるといった決断のもと、事業の進め方を考えるという選択肢が広がったのではないでしょうか。
広がる選択肢 スタートアップエコシステムに前向きな兆し
こうした選択肢が増えていることは、スタートアップエコシステムにとって前向きな兆しだと感じます。それは、共創のあり方にも、複数の筋道が生まれているということでもあるからです。
例えば、スタートアップと事業会社が事業計画を検討する場面では、「共創して事業を成長させる」という言葉で方向性が共有されることが多くあります。しかし、その言葉を実際の現場に落とし込もうとすると「どの状態になれば前に進んだと言えるのか」「いつまでに何が実現できていれば十分なのか」という前提は立場によって異なっていることが少なくありません。
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)や投資家の観点では、株主や有限責任組合員(LP)に対する説明責任として、四半期ごとの進捗が可視化され、できる限り報告書の確実性を高めるためにリスクがある程度管理されている状態が、十分とされることがあるかもしれません。
一方で、起業家の観点では、新しい技術やビジネスモデルを社会に根付かせるために、短いサイクルで仮説検証を繰り返し、市場の可能性を広げていくことが合理的だと捉えられています。どちらもスタートアップの成長を目指す立場から見れば、合理的な考え方です。
そこに対立があるわけではありません。しかし、同じ目標を掲げ、それぞれの立場で合理的に考えているにもかかわらず、評価軸や時間軸がそろっていない場面では、その違いを前提として、どの判断を、誰が、どの責任のもとで引き受けるのか立ち止まって向き合う必要があると感じています。
そして、いま日本のスタートアップに多様な選択肢があるということは、こうした場面に限らず、スタートアップと向き合ってきた人たちが、「どうすれば次に進めるか」を模索してきた積み重ねの結果なのだと思います。
判断の前提がそろわない時代の意思決定
米国のOpenAIを巡る一連の報道も、同じ構図を示しているように見えます。OpenAIは、企業が成長する過程で、株主利益と公益の両立を目指すために法人格そのものを見直す選択をしています。報道を追っていると、この組織は理念で何を守るのか、事業成長の過程で何を優先して判断するのか、どこまで責任を受け入れるのか、このような問いが時間の経過とともに変化している様子が浮かび上がってきます。
この変化では、理念が失われたというよりも、企業とステークホルダー間における評価軸や時間軸の前提がかみ合わなくなったときに、それを対立として処理するのではなく、どうすれば次に進めるかを模索する動きが立ち上がっている、という点が印象に残ります。
非営利か営利か、理念か資本か、どちらかを選ぶという単純な対立構図ではなく、複数の役割を同時に引き受けるために、組織の形や制度そのものを問い直そうとする。そうした姿勢が、結果として表れているように見えます。
共創の対話も、私は同じ構造だと捉えています。評価の軸や時間の軸が合っていない場合、そこに問題があるというよりも、まだ言語化されていない前提や選択肢が残っている。その「空白地」をどう扱うかを考え、関係者が集まり、形にしていく行為そのものが、共創と呼ばれるものなのではないでしょうか。
私自身、米国と日本のメンバーが関わるSOZO Venturesの現場に身を置きながら、異なる時間軸や物差しを持つ人たちが、その違いを抱えたまま余白を埋めようとする姿に接しています。選択肢が広がっているからこそ、どちらが正しいかを決めることよりも、その違いを前提として、自分たちがどのような価値を社会の変化の中で形づくっていくのかを考え、選び、行動していくことが求められていると感じています。
(SOZO VENTURES プリンシパル 野村哲)
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