サラヤの更家一徳副社長は日本経済新聞社が主催するソーシャル起業家を支援する「NIKKEI THE PITCH SOCIAL(NTPソーシャル)」で長く審査員を務める。サラヤは世界の「衛生・環境・健康」の向上に貢献することを基本理念に掲げ、創業以来、ビジネスを通じた社会課題解決に取り組んできた。サステナビリティ推進本部本部長でもある同氏は、NPO法人のZERI JAPAN(ゼリ・ジャパン)を通じて出展した大阪・関西万博でのパビリオン「BLUE OCEAN DOME(ブルーオーシャン・ドーム)」の館長も務め、海洋プラスチックごみ問題をはじめとした海洋資源に関わる社会課題を世界に発信して解決に取り組むことを宣言した。ポスト万博のレガシーを生かして地球規模の課題解決にビジネスとしてどのように取り組んでいくのか。一段と重要な役割を担うソーシャル起業家への期待とともに、その展望を聞いた。
素晴らしいプレゼンに感心 持続可能なビジネスこそ重要
近年、私はNTPソーシャルで審査員を務めさせていただいています。今年も皆さんの素晴らしいプレゼンに感心しました。グランプリに輝いたClassroom Adventure(クラスルームアドベンチャー)は、慶應義塾大学の学生たちが創業し、携帯アプリケーションでのゲームを使って闇バイトのリスクをはじめ、中高生のネット・SNSリテラシーを高めるビジネスモデルでした。アイデアとして非常にユニークで、ビジネスとしても実績が出ています。サラヤが取り組む海洋プラスチックごみ対策など様々な社会課題も、こうしたサービスを使ったら多くの人にもっと知ってもらえるかもしれないと思い、高く評価しました。
他にもファイナリストには、アフリカのタンザニアでバナナの葉から抽出した繊維を生理用ナプキンとして加工・販売したり、ミャンマーで糖尿病や高血圧の予防につながるハーブティーを事業化するようなプレゼンテーションもありました。非常に面白い試みだと感じる反面、アフリカや東南アジアでのソーシャルビジネス、特にBOPと呼ばれるビジネスは私も深く関わってきただけに、その難しさを肌で感じています。どれだけ素晴らしい理念があっても継続できなければ社会に与えるインパクトは限定的なものになってしまうため、根本的な考えとして、持続可能なビジネスに転換していくことの重要性を伝えました。
サラヤは企業理念として世界の「衛生・環境・健康」に貢献することを掲げていますが、そこではソーシャル起業家が果たすべき役割が本当に大きいのです。イノベーションを生み出す国内外のスタートアップを含めて多くの人たちと連携して取り組んでいきたいです。
海洋プラスチックごみ問題に挑む 対馬プロジェクトで着実な成果を
当社は昨年開催された大阪・関西万博で、海洋プラスチックごみ問題がいかに深刻な課題であるかを世界に発信すると同時に、様々な企業や自治体と連携し、解決に取り組む強い決意も表明しました。大きな構想を掲げた以上、その中身を着実に形にしていく必要があります。海外の投資家などからも関心を寄せられていますが、まずはパビリオンで紹介して注目された「対馬プロジェクト」などの既に実装が始まっている事業で着実に成果を出していきたいです。
対馬プロジェクトは、長崎県の対馬で、海流の影響で国内外から大量に漂着する廃棄物への対応です。地元の対馬市の自治体や、研究機関、大学、民間企業らとともにプロジェクトを進めており、海洋プラスチックごみを資源化する施設の建設も予定しています。
海洋プラスチックごみは塩分や有機物などが付着しており、都市部の回収ごみのように均一ではなく、熱回収で燃焼効率を高くするにも、溶かして使いやすい素材にリサイクルするにも技術的なハードルは高いと言われています。しかし、私がこうしてお話ししている今この瞬間も、大量のごみが流れ着いています。またこれは、対馬だけでなく、他の地域でも起きる課題です。私たちは夢物語を語るのではなく、現実の課題解決のスタートを切っており、「これをやりきるんだ」という思いで取り組んでいます。
ボルネオで生物多様性を保全 課題解決に取り組む先導者として存在感
サラヤという企業は決して大きな企業ではありません。それでも様々な社会課題について最初に行動してムーブメントを起こす「先導者」として世界に影響を与えてきた自負があります。例えば、マレーシアのボルネオ島での熱帯雨林や生物多様性の保全活動です。現地ではサラヤの主力製品「ヤシノミ洗剤」の原料のひとつであるパーム油のもととなるアブラヤシのプランテーション拡大により、熱帯雨林が大幅に減少し、ボルネオゾウなど固有の野生生物が絶滅の危機にあります。
そのような状況において、当社は、2004年に設立された非営利組織「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil=持続可能なパーム油のための円卓会議)」に、日本に籍を置く企業として初めて参加しました。RSPOには現在、世界で5000社、日本では350社・団体が加盟しています。2010年には、日本初となるRSPO認証を取得し、環境や人権に配慮したパーム油の普及活動を支援しています。
サラヤは2006年にマレーシア政府公認のNGO「ボルネオ保全トラスト」の設立に参加し、現地での調査活動や保護活動を先駆けて行い始めました。現在も国内の認定NPO「ボルネオ保全トラストジャパン」を通じて、対象商品の売上1%(メーカー出荷額)を環境保全活動に寄付し、様々な活動を行っています。
また、発展途上国での衛生向上にも取り組んでいます。アフリカのウガンダでは、2010年から「100万人の手洗いプロジェクト」も始め、国際NGOと連携しながら、現地での手洗い、手指消毒活動の啓発を行っています。近年の新型コロナウイルス感染症の対策や、エボラ出血熱などの予防でも効果を発揮したとの報告を受けています。
継続することが大切 環境や医療に貢献する新素材ソホロを実用化
私はよく言っているのですが、こうした社会課題を解決する企業の取り組みは、長く続けることが大切です。最初は「きれいごとだ」と言われたりもしますし、メディアから数多く取り上げられれば瞬間風速的に大きな注目を集めたりします。ただ、ボルネオでの生物多様性保全の活動にしても、アフリカ諸国の衛生環境改善にしても、様々な困難を乗り越え、長く続けてきたからこそ効果を生み、人々が協力してくれるようになりました。ウガンダではアルコール手指消毒剤の工場を稼働させましたが、現地の産業を創出し、雇用を生み出すことができています。
サラヤは1952年に創業しました。当時、流行していた赤痢を予防するためには手洗いが重要だと考え、殺菌・消毒ができる手洗い石鹸液と専用容器を作ることからビジネスを始めました。1970年代には、石油由来の洗剤を原因とする河川の汚染が社会問題になっていたため、生分解性が高く自然にやさしい植物由来原料を使ったヤシノミ洗剤を投入するなど、時代ごとに起きる課題の解決に取り組んできました。
また、サラヤには長期の研究開発によって実用化した天然由来の界面活性剤「SOFORO(ソホロ)」があります。これも長期的な視野での経営を大切にするサラヤらしい技術といえます。パーム油と糖を微生物で発酵させており、洗浄能力が高く、生分解性や安全性に優れ、環境にやさしい「未来の洗浄成分」と言われています。現在でも一部の商品で使用していますが、量産能力やコスト面に課題があり、普及はこれからです。ここでも旗振り役として先導者となり、世界で広く活用していただけるようにしたいと考えています。海洋汚染ではプラスチックごみの処理や再資源化だけでなく、日常生活で使用する洗浄にも、生分解性の高いものを使うことも非常に重要だからです。
サラヤの健康分野では、ラカントという大きな柱に加えて、SOFOROというサラヤらしい新素材でも貢献していきたいと考えています。中国・桂林が原産地の羅漢果(らかんか)というウリ科の植物を使用した甘味料「ラカント」シリーズの商品は、植物由来の甘味料として米国など海外でも販売が増えており、年間100億円規模の事業に育っています。また、先ほどご紹介したSOFOROも、再生医療に不可欠なiPS細胞の保存液のほか、不妊治療のための卵子や受精卵の凍結保存に使うことが可能であり、医療・衛生分野においても大きな可能性を持っています。
世界の「衛生・環境・健康」への貢献 挑戦する若者たちに期待
2032 年には、創業80周年を迎えます。2022年の70周年の記念事業で柱となったのが、昨年の大阪・関西万博のパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」の出展の決定でした。来たる80周年では、その先に迎える100周年も見据えて、長期的な視点で着実に収益も拡大しながら、世界の「衛生・環境・健康」により大きな貢献ができるようにしていきたいと考えています。
先日、5月7日にNGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の40周年記念の式典にも参加しました。サラヤとして最初に売上の一部を寄付した商品は無添加せっけん「アラウ.」シリーズなのですが、その寄付先が同団体でした。こうした支援活動を長年継続し、役立っていることを感じられるのを嬉しく感じます。
ソーシャル 起業家がこうした場を経験して、多くの方々とつながり様々なアドバイスを受けることは非常に重要なことだと考えています。私自身、2024年には一般社団法人大阪青年会議所の理事長を務めた経験もあり、その関係で、公益社団法人日本青年会議所の現役メンバーともいまだに様々なつながりがあります。NTPソーシャルのファイナリストの方々にもお声掛けを行い、何名かには、7月に開催される予定の青年会議所のアワードにもエントリーしてもらいました。今回の審査では、あくまでソーシャルビジネスとしての視点で評価が行われましたが、また別の評価軸でのアワードに挑戦することには意義があり、そこでもまた、多くの支援や繋がりを得ていただきたいと思います。
最後に、社会課題解決という理想を掲げ、挑戦する若者たちには、世界で活躍できるソーシャル起業家に育ってほしいと願っていますし、その支援もしていきたいと思います。これまでアフリカやアジアなど海外の現場で、数多くのソーシャルビジネスの取り組みを見てきましたが、持続可能な事業として長く続けることは決して簡単ではありません。だからこそ、一企業の事業にとどまらず、こうした挑戦をする若者たちを育て、より光が当たる存在にしたいと考えています。
-
飛び地を捨て、隣接を攻める——パナソニックCVC責任者が語る「大企業で育つ新規事業」の条件
-
失敗なんて存在しない。「勝つか、学ぶか」の打席に立とう~レオス・キャピタルワークス ファウンダー 藤野英人 氏
-
地域・グローバル 両輪で育てる スタートアップ支援の新戦略 ~経済産業省 課長 石川浩 氏
-
「動かない」を超える 共創が生み出す試行錯誤の力
-
小澤隆生×Copia×ANAが語る「事業創造・変革のリアル」~NIKKEI THE PITCH Challenger
-
SusHi Tech Tokyoがつなぐ出会い Oishii Farm創業者が語る東京の可能性
-
IPO依存からの転換 問われる「共創」のかたち
-
起業家との絆を大切に ともに未来をつくっていきたい
-
地域から世界を変える!地域とスタートアップによる地域共創サミット
-
スタートアップ支援を通じて 世界に新たな価値を届ける
-
「ビジコンAWARDS」最優秀賞にリコー 事業創出の本気度、社内外へ発信
-
AI時代のスタートアップはどう戦うべきか
-
日本の再成長のために求められる スタートアップの力
-
「女性ならでは」が視野を狭くする 起業はもっと自由に
-
スタートアップ連携で周回遅れになる企業とは?
-
子供の未来つくる家具 「MINORINO」志村氏の挑戦
-
起業家の問いを形に 「余白」が育む対話文化
-
光の反射や影を取り除く照明装置 「谷の時代」乗り越え世界に挑む
-
経済性と社会性の両立を目指す インパクト投資を新たなスタンダードへ
-
起業家と企業をつなぐ「Great Meeting」
-
AIテック勢が台頭 スタートアップ新時代の夜明け
-
次世代エネルギー「核融合発電」の実現に挑む
-
マッチングで社会インパクト創出 スタートアップの可能性を引き出す
-
暮らしを揺るがす「物流2024年問題」を解決する企業コラボレーションを後押し
-
「重症心不全の患者に希望を届けたい」大学発医療スタートアップを支援
-
金融包摂をはじめとした社会的インパクト創出のパートナーへ
-
事業でつながる起業家とVC、目線共有で社会課題解決へ
-
介護の未来を担うサービスを支えるパートナー
